グラ・バルカス帝国特殊殲滅作戦部作戦部長のアーリ・トリガーは現場指揮のために<グティーマウン>の一機に便乗していた。
高度一万メートルを、約200機もの爆撃機が編隊を組み飛行する姿は圧倒的な威圧感を持ち、それを指揮するトリガーは見惚れる。
この部隊が決して負けるわけが無い、とすら彼は思ってる。少なくとも彼の常識ではそれは間違っていなかった。
「ん?」
彼は、遠くの空にいくつもの小さな黒い点を見つけた――瞬間、その点が前方を飛行している僚機の中ほどに突っ込んで爆発が起こり、直後に僚機は爆発四散した。
「何だ!?」
遅れて他の僚機も次々と爆発を起こす。次から次へと友軍機が爆発を始めるその光景に、トリガーは釘付けとなる。
ある機は主翼が爆散してへし折れ、きり揉み状に落下していく。またある機はエンジンが爆発し、燃料に引火して大爆発した。
またある機は胴体が爆発、機体が真っ二つにへし折れ、またある機はコックピットが爆散、原型を留めたまま機首を下げた。
「まさか攻撃か!? 銃座員、敵はどこだ!」
「見当たりません!」
「こっちも何も見てません!」
トリガーは敵の攻撃と判断するが、銃座員らは敵機の姿を見てない。強いて言えばトリガーが先ほど見た点のように小さなものだけ。
もしかしたら超長射程の対空砲が、海上から高空を行く爆撃機を攻撃しているのかもしれない。だが、その砲を搭載しているはずの艦船すら見当たらない。
「無線封鎖解除! 通信士、僚機に敵はどこにいるかと伝えろ!」
「ダメです! 無線機が先ほどからノイズだらけで繋がりません!」
「何ぃ……!」
トリガーは通信士に詰め寄るが、無線機は何故かノイズばかり発していた。こんな時に限って故障かとトリガーは歯軋りする。
そうこうしてる間にも次々と爆発で大きな黒い花が空中に咲く。いくつもの機体がまるで流星が如く真っ逆さまに落ちていった。
「発光信号だ! 無線が使えないなら発光信号で僚機と連絡を取れ! ――ああっ、クソッ!」
黒煙と炎を吹き上げながら落下していく僚機を見ながらトリガーは悪態をついた。彼の身体は恐怖で小刻みに震える。
しばしして爆発は一時的に止んだが、恐慌状態に陥った編隊は完全に乱れていた。編隊を組み直そうにも無線が使えなくては難しい。
それでも無断撤退する機が一機も見当たらないのはよろしいことたが、一体何が自分たちを攻撃したのか、敵の正体すら分からない。
(まさか、日本軍の攻撃……)
彼がそう考えたところで爆発が再開し、真横を飛んでた僚機が爆散した。それと同時に銃座員の一人が声を張り上げた。
「前方より機影! 高速で近づいてくる!」
次の瞬間、空気を切り裂くような甲高い金属音が響いてきた。
トリガーは、赤い丸を描いたプロペラの無い鏃のような機体がとてつもない速さで通過するのを目にした。
ー
空自の戦闘機隊は多数のAIM-7スパローと少数のAAM-4の中距離ミサイルを猛射した後、瞬く間に彼我の距離を詰めた。
直後に始まったのは近接格闘戦だ。戦闘機から放たれた短距離ミサイルと機関砲の曳光弾がそこら中に吹き荒れる。
「FOX2! FOX2!」
「スプラッシュワン!」
「FOX3ーッ!」
F-4EJ改とF-15Jの発射したAAM-3短距離ミサイルと曳光弾を交えた20mm機関砲弾が吹き荒れ、直撃した爆撃機が爆散する。
爆撃機<グティーマウン>は12.7mm機銃弾に耐えるだけの防弾装甲を有しており、部分によっては20mm機銃弾すら防げる。
だが、毎分6,000発という凄まじい勢いで放たれる現代の高初速20mm機関砲弾の直撃を耐えられるだけの装甲なんて当然持ってない。
マッハ4の高速で突っ込んでくる、kg単位の爆風破片弾頭を持ったミサイルに至っては、当然防ぎきれるものではない。
つまり狙われた<グティーマウン>は一瞬で蜂の巣かスクラップとなるのだ。
「敵の防御機銃に気を付けろ!」
もちろん、<グティーマウン>も敵機(空自機)の姿を見つけたことから、防御機銃の12.7mm機銃による反撃を始める。
しかし亜音速~超音速機の迎撃を想定してない機銃の射撃が空自機を捉えられることもなく、全く当たらない。
ごく一部の機体が被弾したものの、流れ弾が当たったか完全なるまぐれ当たりであり、第一12.7mm弾では全然ダメージにならなかった。
「アフターバーナー点火!」
「空中衝突に注意!」
さらにミサイルも機関砲弾も撃ち尽くしてしまった戦闘機の中には、とんでもない行動に打って出る機もあった。
アフターバーナーを噴かしてマッハ2以上に加速すると、敵機の真正面から突っ込み双方が接触するギリギリの距離を超音速ですれ違うのだ。
超音速飛行する戦闘機のソニックブーム(衝撃波)をもろに喰らった爆撃機は衝撃に耐えきれず空中分解を起こした。
その光景は派手なもので、日本海の空には多数の飛行機雲、黒煙、燃える残骸、軍用機、脱出者のパラシュートが広がった。
ただし戦闘は空自側の一方的優勢だった。