グラ・バルカス帝国陸軍航空隊の<アンタレス>戦闘機を基幹とする345機の編隊は、日本列島を目指して飛行していた。
彼らの目的は、高空を行く<グティーマウン>型爆撃機203機に先行して日本本土を攻撃し、日本軍の迎撃戦力分散を図ることである。
「間もなく日本本土です」
「分かった。いよいよだな」
航空隊の空中指揮官は、機内後部の席に座る航法士兼通信士からの報告を聞いて、機内中央の狭い座席の中で伸びる。
指揮官の乗る機は、旧日本軍の一〇〇式司令部偵察機に酷似しており(ただし三座機)、指揮官機として使われてる。
「ようやく攻撃開始だ。しかし……数時間も飛んでると流石に気がめいるものだな」
「しょうがないですよ。リームと日本、それなりに離れてますもの。それに今からが
「勿論だとも」
指揮官は周囲を見渡す。戦闘機345機が編隊を組みながら、レーダーに探知されるのを避けるべく海面上を這うように低空飛行する。
千数百キロの距離をずっとこの状態で飛行してきたのは、陸軍航空隊の練度と士気の高さを物語ってると言えるだろう。
パイロットらがこの日本焦土作戦に本気で挑もうとしているのが充分に伝わった。
(もっとも、俺たちの仕事は「アワラ市」とかいう街を攻撃して爆撃隊の囮になるだけだがな)
指揮官はそんな事を脳裏に浮かべた。
攻撃隊の<アンタレス>戦闘機は、俗に爆戦、戦闘爆撃機型と呼ばれる派生型タイプがその大半を占めていた。
これは<アンタレス>戦闘機に250キロ爆弾一発を携行できるようにして、戦闘機と急降下爆撃機を兼ねる機体だ。
航続距離の延長と爆弾の命中率向上のため、機体は複座化と燃料タンクの増設が図られ、通常型よりも機体が大きくなり、当然攻撃力も増した。
だがそれでも、こと爆弾の投射力に関しては<グティーマウン>型爆撃機の編隊には完全に劣っていると認めざるをえないだろう。
爆撃機<グティーマウン>は一機あたり80発の250キロ爆弾を搭載できるので、それが約200機で約1万6千発程度。
対して爆戦型<アンタレス>は一機あたり一発だけしか250キロ爆弾を載せられないので、約340機合計で340発、45倍も差がある。
今回の作戦では<グティーマウン>は焼夷弾を搭載するので少し異なるだろうが、それでも戦闘機隊が投射力で劣るのは間違いない。
それを勘定すれば、<グティーマウン>爆撃隊を主力として爆戦型<アンタレス>隊が囮役を担うのも仕方がなかった。
それでも彼が直接指揮するパイロットらの本気が伝わるのは良いことだった。
ただ、すでに本隊たる爆撃隊が消滅してること、そして彼らの本気がこの後、瞬く間に瓦解してしまうことになるなど、この指揮官にはまだ知る由もなかった。
ー
防衛省では、レーダーサイトと早期警戒機による敵編隊の常時監視により、ようやく敵の通過地点が判明しようとしていた。
「敵編隊は福井ー石川県境の上空を通過する模様です」
「間違いないんだな?」
「このまま直進を続けてくれれば、間違いありません。変針しない限り加賀市、またはあわら市上空を航過します」
「ラッキーだが、アンラッキーでもあるな」
この報告に、防衛省に詰めかけていたた防衛関係者の口からは、安堵と緊張の息が同時に漏れることとなった。
福井県と石川県には原発が集中しているため、万が一に備え陸自と空自の高射部隊、さらに舞鶴港を出た地方隊の護衛艦数隻が集結している。
すでに部隊が展開しているので効果的な迎撃が出来るのは間違いないだろう。
ただ問題は、先述の通り福井県と石川県には原発が集中しており、本当に
「原発を叩かれたら大変なことになる。絶対に追い返さんといかんぞ」
「原発だけじゃない。近くには空自の小松基地もある。こっちも攻撃されかねん」
「迎撃準備はどうだ?」
「志賀原発、敦賀原発、高浜原発の付近に展開中のペトリオット、発射準備中」
「関山演習場で待機中の高射教導隊、石川ー福井県境に移動開始しました」
「第12、14旅団が移動準備完了、第10高射特科大隊は展開完了済みです」
「空自第305飛行隊、出撃準備完了」
「日本海側の都市には携帯SAMで武装した普通科部隊を配置させてます」
「何としても敵を撃退しろ。一機でも敵を見逃したら
自衛隊に国内の現有戦力だけでの対処を求められた日本本土防空戦、その中盤戦が間もなく始まろうとしていた。
ー
グラ・バルカス陸軍航空隊の戦闘機編隊が最初の攻撃を受けたのは、日本の200海里EEZ内上空に侵入してしばらく経った頃だった。
指揮官機の空中指揮官が爆戦型<アンタレス>隊に警戒の強化を発光信号にて命じようとしたそのとき、突然編隊の何機かが爆散した。
「何事だ!?」
指揮官が叫ぶ間にも、次から次へと友軍機が爆発を始め、コントロールを失った機体が海面に叩き付けられる。
敵の攻撃を受けたと判断した指揮官は全機に無線封鎖の解除を命じる。
「攻撃か、敵はどこだ!」
「確認中……分かりません! 各編隊長とも敵影を確認していないとの事!」
「そんな馬鹿な話があるか! 前衛の編隊は爆弾を投棄し、高度を上げて敵を捜索しろ!」
何機かの爆戦型<アンタレス>が爆弾を海上に投棄する。この世界ではまともな航空戦力が存在しないため、直掩機がないのだ。
それが裏目に出たのだろう、しかし爆弾無しの爆戦は通常型と遜色ない。今度こそ敵を見つけて墜としてやる――指揮官はそう思った。
だが彼らがいくら周囲を探したとしても敵を見つけることは敵わず、その間にも次々に友軍機が喰われた。
まさか目に見えないほど遠くから、自分たちが日本の攻撃を受けているなど、彼らの想像の埒外でしかなかった。