大型巡洋艦<ダスト・オーシャン>に命中した、航空自衛隊飛行開発実験団所属のF-2が放ったASM-3は一発だけであった。
これは超音速対艦誘導弾を一発使用した際、どの程度まで装甲化された艦船に被害を与えられるかを測るためでもあったからだ。
「イテテ……くそ、何が起きた?」
「報告!」
短い間、着弾の衝撃で気を失っていたゼムは、起きるなり士官から艦隊の被害報告を受けた。
そして、それを聞いて愕然とした。
「全ての大型巡洋艦が中破以上だと!?」
「航空巡洋艦も数隻が撃沈されたようです」
「なお、巡洋艦<ダニエル・オーシャン>においては……」
ゼムは自艦隊が攻撃を受けたことは何となく悟っていたが、その報告は想定外だった。
大型巡洋艦、つまりこの第44任務部隊の主力をなす巡洋戦艦3隻が全て中破以上の損害を被ってしまったというのだ。
彼の乗る<ダスト・オーシャン>も二番主砲塔の右の甲板に大きな破孔が生まれ、そこから活火山のように炎を噴き出している。
同型艦<ダニエル・オーシャン>の状態はさらに酷く、この艦は弾薬庫誘爆を起こし、船尾を海面から突き出しながら絶賛海底へ進撃中である。
「攻撃だな?」
「はい、おそらくは……」
「敵はどこだ? 何の攻撃を受けた?」
「……不明です」
「不明だと?」
誰一人として、自分たちが攻撃される瞬間を見た者はいなかった。
マッハ3もの高速になるASM-3を目視しろという方が無理な話ではあったが、それもあって彼らは自分達が何に攻撃を受けたのか分からなかった。
「とりあえず消火活動だ。それと、無事な航空巡洋艦から水上機を出し捜索に当たらせろ」
「無線封鎖はどうしますか?」
「解除だ。攻撃を受けたとすれば、無線封鎖をする必要もないだろう。レーダーも発振自由。各艦に急いで伝えろ」
「はっ!」
ゼムは次々に指示を出していく。
被害を受けたが、まだ彼らは戦闘を行える状態にあったし、何より自分達の敵わない相手と戦闘していることなどまだ知らなかった。
だが心配は無用である、彼らはそれをすぐに身をもって知ることとなるのだから。
「ほ、報告! 無線が繋がりません! レーダースクリーンも使用不能!」
ー
グラ・バルカス帝国海軍第44任務部隊の上空、航空自衛隊のRF-4E偵察機は艦隊に見つからないような遠方から艦隊を偵察していた。
相手のレーダーにも見つからないよう、翼下の自衛用ECMポッドも全力で稼働させている。
「戦果確認中……」
RF-4E後席に座るオペレーターが戦果を確認する。
「……戦艦クラス、撃沈1、他2隻は炎上中。巡洋艦クラス、撃沈3」
RF-4Eは、ASM-3がグラ・バルカス艦隊に与えた被害を確認したのちも、離脱することなく現場空域を旋回しながら待機する。
ASM-3による装甲艦への対艦攻撃は、巡洋艦クラスには充分に有効なものの、戦艦クラスの大型艦には一発だけでは不充分な場合もあるようだ。
今回の攻撃による成果を見て、ASM-3の改良を行えばそれで良いのだろう。
「空対艦攻撃、第二波攻撃準備」
だが、今の攻撃で沈められなかった分は今から沈めてしまえば良い。
再出撃したASM-1、ASM-2搭載のF-4EJ改と、飛行開発実験団所属だがASM-2を搭載してきたF-2による空対艦攻撃が始まろうとしていた。
「……第二波、攻撃開始!」
80発以上の空対艦誘導弾が一斉に射出され、グラ・バルカス帝国海軍第44任務部隊の艦艇を今度こそすべて沈めるべく対艦誘導弾は向かった。
ー
突然、レーダーと無線が使えなくなった第44任務部隊の各艦は、司令ゼムの命令により目視による強化と発光信号による連絡強化を行った。
ゼムは自分達の身に何が起きてるのかさっぱり分からなかったが、そんな中、<ダスト・オーシャン>の見張員が叫んだ。
「艦隊右前方より発光する飛翔体! 低空より迫ってきます!」
ようやく敵――日本軍のお出ましか、と思ったゼムもまた、艦橋の窓から外を睨んだ。
そしてその顔を困惑一色に染め上げた。
「何だありゃ?」
夜闇の中、低空にいくつもの小さな光が広範囲に渡ってちらついている。
対艦ミサイルのエンジンから噴き出している燃焼炎が、夜闇の中で発光しているものだということを彼は知らなかった。
燃焼炎だけしか見えないそれは、艦隊前方に迫ると急上昇、そこから反転急降下に転じ艦隊に向けて突っ込んできた。
「い、いかん! 回避!」
嫌な予感をおぼえたゼムは咄嗟に命じたが、もはや遅かった。
次々にASM-1、ASM-2対艦誘導弾が艦隊に飛来、まず最初に襲われたのは、艦隊の右前方を航行していた駆逐艦<ストーン>だった。
旧日本海軍の松型駆逐艦に酷似した小柄なこの駆逐艦は、魚雷発射管の付近に被弾したことで魚雷が誘爆、爆炎を煌めかせながら爆沈した。
「駆逐艦<ストーン>、轟沈!」
「何てこった!」
ゼムが驚愕して叫んでいる間にも、次々と艦隊内で爆発が発生した。
未知の物体――もはや敵と認識された――は次々に艦隊へと突っ込み、艦隊を構成する友軍艦が続々と爆発を起こす。
駆逐艦や軽巡洋艦、重巡洋艦、航空巡洋艦といった艦船が数発の被弾で爆発炎上、第44任務部隊所属艦が海中に没していく。
巡洋艦<ダスト・オーシャン>の横を航行する同型の大型巡洋艦も、次々と飛来する対艦誘導弾により炎上し、上部構造物がスクラップと化した。
「百発百中だと!? こんなバカげた事があり得てたまるか!」
ゼムの叫びも爆発音に虚しくかき消される。海上が噴火してるかのような光景だ。駆逐艦も巡洋艦も皆等しく一撃で轟沈していく。
中には、銃座員が勝手に40mm対空機銃を打ち上げて迎撃を試みている艦もあったが、機銃弾は亜音速飛行する敵を全く捉えられない。
逆に被弾してしまい、艦ごとその機銃は無力化されてしまう。
恐ろしい勢いで艦が沈んでいた。
「バカな……こんなバカな事が! ぐわっ!」
直後、大型巡洋艦<ダスト・オーシャン>も複数発の対艦誘導弾の直撃を受けた。
やはり轟沈こそしなかったが、連続して着弾する対艦誘導弾を前に上部構造物は瞬く間に爆発で叩き潰されていく。
また、射程に余裕のあった一部のASM-1の固体燃料が着弾と同時に引火しながら甲板上に撒き散らされたことで艦全体が炎上。
これに舷側の副砲と対空砲の弾薬が引火したことで火災が拡大、さらに火の手が艦内にも回り、手の付けられないものと化した。
第44任務部隊司令のゼムは、その過程で艦橋内にて焼死した。
艦橋にも、割れた窓からASM-1の引火した固体燃料が大量に飛び込んできたことで、艦橋内部は火の海と化したからだ。
ゼムは中途半端に生き残ることも、地獄の業火に焼かれ続けることもなく、火災による一酸化炭素中毒で昏倒した後に苦しむことなく焼け死んだ。
海上を5時間以上も漂流したのち、<ダスト・オーシャン>は火災が主砲弾薬庫に回ったことで大爆発を起こし、直後に海中へ没した。
彼女が軍艦としての機能を喪失した後も海面に浮くことを許されていた理由は、雷撃処分をすべき僚艦が皆全て先立っていたからだった。
彼女は第44任務部隊の中で最後に沈んだ。
航空自衛隊による第44任務部隊への空対艦攻撃は成功裏に終わり、これで日本本土を攻撃する直接的な脅威はなくなった。
もっとも、戦闘は終わっていない。
まだ裏切り者――リームの後始末が残っていた。