咲-Saki- 天元の雀士 (改稿版)   作:古葉鍵

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長らくお待たせしました
連載再開……と行きたいところですが、その前に全面改稿する事にしました
大筋の展開はあまり変わりませんが細かい部分や描写がかなり変更されてます

とりあえず少しずつ掲載していきます
別の新作と並行しつつの改稿作業なので更新速度はあまり期待しないで下さい


人生の終局

 

 

「ツモっ、大三元! ――やったぁ、役満っ、役満だよ! おじーちゃん!」

 

 走馬灯というのは本当にあるんだな。

 今際に見えた光景は、麻雀を覚えたばかりの俺が、初めて役満をあがったときの記憶。

 麻雀を教えてくれた、大好きだった祖父や他の家族と卓を囲んだ幼き日の思い出だ。

 

 ――どうしてこんなことになったんだろう。

 

 麻雀と出会ってから、俺は人生の大半を麻雀に費やしてきた。

 好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったもので。

 幸い、頭の出来がそれなりに良かった事もあり、俺の雀力はメキメキと上がっていった。

 そして大学生の頃にプロ雀士として公認されて以来、これまでに数多の大会で優勝し、活躍してきた。

 自慢じゃないが、現在は自他共に認めるトッププロ雀士だという自負がある。

 

 とはいえ、悲しいかな。トッププロであっても、それだけで食っていくのは厳しい。

 囲碁や将棋のプロ棋士に較べ、プロ雀士は不遇なのだ。

 具体的には、平均収入や知名度、職業の社会的地位とかが。

 ちなみにタイトル戦の優勝賞金額平均で比較すると、囲碁将棋が一千万円を軽く超えるのに対し、麻雀はいいとこ二百万程度。

 その歴然とした格差に涙が出てしまう。

 

 仕方なく俺は生活のために弁護士となり、プロ雀士の方は副業という形で活動していた。

 まあ、俺の中では弁護士の方が副業だったのだが……

 

 そんな俺がある日、というか今日。友人と飲みに行った帰りに雀荘へ寄ったのが事の発端だった。

 

 多分に酩酊していたせいか、素人並にひどい麻雀を打ってしまったのだ。

 まあ金を賭けてたわけでもなし、それだけなら別に何の問題もなかった。

 問題だったのは、それが原因で他人に絡まれてしまった事だ。

 

 絡んできたのは、強面で粗野な雰囲気を纏った数人のおっさん。外見から判断するなら、恐らくヤのつく職業の人だ。

 そのおっさんたちは、俺が雀士だと知っていた。そして、「プロ雀士っつってもこの程度か」「トーシロに負けて恥ずかしくないのアンちゃん?」などと挑発してきたのだ。

 もし俺がシラフであったなら、相手を見て冷静な対応をしただろう。

 だがアルコールによって自制心が鈍っていた俺はあっさり激昂。売り言葉に買い言葉で、ついにはおっさんたちと賭け麻雀を打つことになってしまった。

 

 後にして思えば、それが連中の手口だったのだろう。

 弱そう、勝てそうな相手を見つけては因縁をつけ、賭け麻雀をもちかけて金をかっぱぐという寸法だ。

 賭け麻雀は違法行為であるため、被害者が警察に訴えるなどして事が発覚する可能性は低い。

 ローリスクローリターンの小金稼ぎにはちょうど良いというわけだ。

 まがりなりにもプロである俺が狙われたのは、泥酔していてまともに打てまいという判断か。

 

 しかし、おっさんたちにとって誤算だったのは、俺の本気具合を見誤った事だ。

 友人相手のお遊び対局を俺の実力と思ってもらっては困る。

 酔いで鈍った頭でも、アマチュアの強者程度なら軽くあしらう事ができた。

 結果、金を巻き上げられたのは、俺ではなくおっさん側だった。金額にして20万円以上。

 連中にとっては手痛いしっぺ返し、プロとアマの差を知る高い授業料となったに違いない。

 

 それでその件が終わっていれば、俺的にめでたしめでたしだったのだが。

 相手の本気度を見誤っていたのは、俺も同じだった。

 

 雀荘から自宅へ戻る途中。人気のない裏路地の曲がり角にさしかかったとき。

 曲がり角の死角から、誰かが勢いよく俺にぶつかってきたのだ。

 

 それは通行人同士の出会い頭の衝突、などというありふれた事故ではなかった。

 

 衝突で体勢を崩し、尻もちをついた俺を、複数の人影が取り囲む。

 ろくに状況を把握できないまま、俺は殴る蹴るの暴行を加えられてしまう。

 袋叩きにされながら必死に考え、俺はようやく気がついた。

 こいつらは先ほど賭け麻雀で俺に大負けしたおっさんたちだと。

 という事は、この狼藉行為の動機は報復であり、ついでに金品の強奪を狙っているのだろうと。

 

 しかし、犯人や事の因果を知ったところで、現状を打開する何の助けにもならなかった。

 暴力に慣れた複数人相手に、荒事などからっきしの俺が抵抗できるはずもなく。

 

 暴虐の嵐が過ぎ去った後、俺はボロ雑巾のようになって冷たいアスファルトの上に倒れ伏していた。

 暴行者たちは、そんな俺の懐から何か(恐らく財布だろう)を抜き取った。そして「いい社会勉強になったろ? アンちゃん」「次はナメた真似すんじゃねーぞ」などと好き勝手いいながら去っていった。

 

 離れていく彼らの声や足音は、俺にはもう聞こえていなかった。

 視界が暗くなり、気が遠くなる。

 ついに意識が途切れたとき、俺は夢を見た。

 

 それは、今はもういない家族たちと雀卓を囲んでいる夢。無垢で、希望に溢れてて、幸せだった幼少の頃の記憶。

 

 そう、これはきっと――走馬灯、なのだろう。

 

 嗚呼……目が覚めたらまた……家族と一緒に麻雀を……うち……たい……な……

 

 

 




当然ながら主人公(前世)を殺してしまったヤのつく方々は後に刑務所にぶちこまれました
インガオホー!
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