「そっちこそやるな。ナイスパンチ」
「キックだじぇ」
この小娘……できる!
狭い踊り場とはいえ、俺に回避を許さないほどの飛び蹴りを放ち、防御されたと見るや三角飛びの要領で即座に飛び退る身体能力といい、俺のさりげないボケに的確に突っ込む冷静さといい……
なんてアホなこと考えてる場合じゃなかった。
座り込んでいるおっぱいちゃんを間に挟んで突然の乱入者と対峙した俺は、戦意旺盛な表情でファイティングポーズを取っている目の前の人物を観察する。
スカーフの色からすると1年生の女生徒だ。
体格はかなり小柄で、制服を着てなければ小学生でも通用しそうな外見である。
顔もまた童顔で、今は怒りの表情でこちらを睨みつけているが、笑えばかなり可愛い子なんじゃないかと思う。
髪は肩にかからない程度の長さで、頭部の両脇を珠型アクセサリ付きシュシュで結んでいる。
察するに、この女生徒も麻雀部の部員なのだろう。
部室に向かう途中で悲鳴を聞きつけ、慌てて階段を駆け上がって来た、といったところか。
ついでに言えば、俺を暴漢か何かと勘違いしているに違いない。
「誰だか知らんがちょっと待て、誤解だ誤解!」
「のどちゃんに悲鳴をあげさせた現行犯で誤解も豪快もないじぇ。大人しく我が正義の鉄拳を受けて己の罪を悔いるといいじょ!」
四肢に力を漲らせ、再びこちらへと飛びかかろうとする気配を見せる女生徒。
興奮すると人の話を聞かないタイプだなこいつ。しかもこんな狭い場所で暴れたらおっぱいちゃんも巻き込みかねないというのに、分別もないのか。
まあ多少身体能力が高かろうが無力化するのは容易だ。
けど、女の子に暴力を振るうのはなぁ……
座り込んでいるおっぱいちゃんをちらっと一瞥する。
被害者だと思われてる彼女が説明してくれれば誤解も解けるはずだ。
そう考えたところでタイミング良くおっぱいちゃんが女生徒へ話しかける。
「ゆーき、ちょっと落ちつ……きゃ!?」
「じぇい!」
対応を決めかねて逡巡する俺を見て、好機だと判断したのか。女生徒は床を蹴り、手すりに足をかけて高々と跳躍した。
そして俺の頭めがけて横蹴りをかましてくる。
助走もないのにかなりの瞬発力、まるで猫のようだ。
並の人間なら直撃か防御が精一杯の見事な奇襲。
しかし俺にとっては想定の範囲内、余裕をもって対処できる攻撃だ。
狭いスペースとはいえ避けることもできたが、敢えて迎撃する。
「じょ!?」
左手で女生徒の蹴り足を上へ跳ね上げるようにパシッと払い、空中のバランスを崩してやった。合気道の応用技である。
結果どうなったかというと、足が天井めがけて虚空を蹴り上げ、頭は振り子の軌道で下方へと向かう。1秒後には頭から床に激突だ。
自衛はしたが、女生徒に怪我をさせるつもりはない。
俺は素早く右手で女生徒の脚を掴み、床に頭がぶつからないよう吊り上げた。
「な、なんとっ!?」
奇襲をあっさり迎撃され、捕獲されたことに驚愕の声を漏らす女生徒。
「ふむ……白か」
俺の目の前でふらふらと揺れる、純白の布地に包まれた小ぶりなお尻。
女生徒の制服はスカートだから、逆立ち状態になれば当然、重力に負けてその役割を放棄することとなる。
もちろん、これを狙ってやったわけじゃない。
抵抗できない形での捕獲が目的だ。
……ウソジャナイヨ?
「い……いやぁぁぁああ! 離して! 離してぇぇー!」
自らの状況を把握した女生徒が、悲鳴を上げながら身をよじって暴れる。
「俺の話を大人しく聞いてくれるなら離してあげるよ?」
「聞く! 聞きます! だから降ろして!」
必死で懇願する女生徒。
なんかやってることがほんとの暴漢みたいだよなぁ。
紳士を自認する俺としては大変遺憾に思わざるを得ない。
「了解」
そのまま手を放すと受身が取れなかった場合に危険なので、女生徒の左腕を掴んで持ち上げる。
同時に右手で掴んだ足を時計回りに下ろす事で、頭と足の上下を正しく戻してやり、手を放す。
ようやく床に足がついた女生徒は腰が抜けたようにへたりこむと、
「酷い目に遭ったじぇ……」
俯き、疲れきった口調で呟いた。
「人の話を聞こうとしないからだ」
「うぅ……私と同じようにしてのどちゃんも辱めたって話なら、もう聞かなくてもわかったじぇ……」
全然わかってなかった。
「人聞きの悪い誤解をするな、俺は無罪だ」
「私ものどちゃんもあんな辱めを受けたらもうお嫁にいけないじぇ……」
どうやら何が何でも俺を犯罪者にしたいらしい。
だんだん相手をするのが疲れてきた。
後はおっぱいちゃんに任せよう。
「頼む。君も誤解だってこの子に説明してくれ……」
声をかけると、呆然としていたおっぱいちゃんがハッと表情を変える。
「あ……っ、ご、ごめんなさい、あまりのことに気が動転してしまって……ほら、ゆーきも立ってください」
「う、うむ……」
我に返ったおっぱいちゃんは慌てて立ち上がり、へたりこんでいる女生徒に手を差し出して引っ張り立たせた。
そこで俺たち3人とは別の、第三者の声が階下から届く。
「おーい、優希ーのどかー、大丈夫かー!?」
「何があったんじゃー?」
どうやらこの女生徒以外にも麻雀部員たちがやってきたらしい。
やれやれ、この状況をなんて説明しようか。
体験入部の初日から見舞われたトラブルに、俺は頭を抱えたのだった。
かなり短いんで前話と合わせて一話分にすべきかなとも思ったんですが、旧版との兼ね合いを考慮してそのままにしました。