ガギィン!!
「なっ?」
びりびりと反動が腕に帰ってくる。
目の前にいるのは、両手が巨大な金槌になっている巨大な鬼だ。背丈だけで言えば七尺はあるだろう。
「オレの子分に何してくれてんだ?」
裂けた口からぎらりとギザギザの歯が光る。そこには血が付いていた。こちらが強い鬼だろう。
しかし不思議だ。鬼は基本群れない。共食いもする野性的な存在だ。何か人間だった頃の情でもあるんだろうか・・・まぁ、今の私には関係ないことだ。
「あと少しで楽に狩れるのに。邪魔するなよ」
「あぁ? って、何処だ?」
私の姿はもう鬼の視界にない。一撃撤退を心がけるように菫から言われているのだ。一撃で仕留められなければすぐに紛れるべし。
「お、親分!お、俺はどうしたらいいですか?」
「お前は俺の目になれ!後ろを見張っていろ!」
なるほど。極力視界を広げようというわけか。よく菫も考案している最中に困ったらしい。こうされると最初は何もできなかった、と喚いていた。
だが、今は違う。
雪の上で足跡を残さないというのは非常に難しい。難しいというより不可能だ。
「親分! こっちに足跡が!」
「あぁ!?何言ってんだこっちにもあるぞ!」
木を隠すなら森の中。足跡を隠すなら足跡の中というのが簡単な方法だ。だが、それには足音を消す必要がある。どこを歩いてるかバレたら元も子もないからだ。
強く地面を踏まず、速度を殺しても構わないからゆっくりと、極力風の力に逆らわず・・・そこまで考えずに自然に当たり前のようにやる。この歩き方は雪の呼吸にとって名前すらない基本的なものだ。
私の足跡はある程度鬼を中心に回った後、山の上へ進むように続いている。
「こっちです!こっちに足跡が続いています!」
「おう!よく見つけたな!」
引っかかった。
私の足跡を追うように鬼たちは下を向きながら歩く。慎重にならないと不幸になるというのに。
「途切れてる・・・木の上か!?」
嗚呼、笑いをこらえろ、私。そこで止まってしまったら私の想像通りすぎてしまう。こんなに簡単に行っていいものなのか・・・?何より馬鹿でよかった。
私は足跡の終わり際より少し後ろにある木の影に隠れている。足跡を変にしないように後退しながら歩いたのでさして変には見えないだろう。
先程と同様に、二体が背中を合わせて、周囲の木々の上に警戒心を向けている。
先程も言ったが、歩く時に音を最小限にするのは当たり前のことだ。そこに追加して、気配の消し方というのも基本的なものの一つにある。
匂いを消すために自然のものに擦り付けておく。風と反対の方向へ移動しない。など色々とあるが、その全てを菫は最初に覚えさせた。一年も経てば、それも自然と出来るようになる。
この技は未完成だが、この場にはもってこいだろう。
雪の呼吸、二の型。急霰。
今度は大きく床を蹴り、大型の鬼の首元へ急接近。すれ違う瞬間に体を一回転させ、スパンと音を立てて首を刈り取る。
だが、再び木陰に戻ることは叶わなかった。