鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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*12/12:愈史郎の年齢を知り、この時点ではまだいないことが判明したので修正しました。



序章

「失敗か」

 

 男は興味無さそうにそう吐き捨てると、踵を返してその場を立ち去った。

 その男の後を追うように、もう一人の別の男も踵を返す。癖のある長い黒髪に、複眼というおぞましい姿の男が──

 

 二人がそれまでいた場所には、刀を手にしたまま倒れる女の姿があった。

 手足はあらぬ方向に曲がり、その地面には血溜まりが出来ている。

 

 女はピクリとも動かない。

 

 

 

 

 

 時は江戸の後期。

 夜の闇に紛れ、人を貪り喰う鬼がいた。

 そんな鬼を狩る人の集団もまた存在する。

 

 その名を──鬼殺隊。

 

 古の時代より存在するこの組織は、政府にも認められぬ存在だった。

 その多くは鬼に家族を奪われ、復讐のために鬼殺となった者たちだ。

 

 二人の男──鬼に無惨にも破れ、倒れて動かぬ女もまた、家族を鬼に食われた者だった。

 

 鬼殺隊に入って二年。

 一度は十二鬼月、下弦の鬼を屠ることにも成功した実力の持ち主。

 だがそれが彼女の限界であった。

 

 上弦の鬼の前では赤子同然。

 傷一つ負わせることなく、彼女は一瞬にしてその命を散らした。

 

 

 

 

 

 ──かと思われた。

 上弦の鬼と、そして鬼の始祖、鬼舞辻無惨が立ち去って半時ほどが過ぎたころ。

 

 血溜まりに横たわる女が掴む刀が……鳴った。

 

 カタカタと小刻みに震え、乾き始めた女の血が刀へと吸い込まれてゆく。まるで血を啜っているかのように。

 真っ白な刀身が真っ赤に染まり、そしてまた純白へと戻る。

 それと同時に、刀を握る女の指先が動いた。

 

 間もなく夜が明ける。

 

 息を吹き返したのか、そうでないのか。

 一度指先が動いたっきり、その後はぴくりともしなくなった。

 

 そんな女の下へひとりの女性が現れる。

 文字通り、突然現れたのだ。

 

「……もし?」

 

 女は膝をつき、倒れた剣士の首元に手をやる。

 

(脈はないにも等しいけれど……でも)

 

 まだ死んではいない。

 そう確信して、女は剣士の腕を取る。

 その手に握る日輪刀を恐れ、手から放そうとするが、 

 

「こんな状態になっても、その手から鬼殺の刀を離そうとしないなんて」

 

 剣士は刀を握ったままだった。

 仕方ないというように女はため息を吐き、剣士の体を支えて立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 鬼殺の女を背負った女──珠世は日の当たらぬ山奥の小屋へとやって来た。

 

 珠世は背負った女剣士をそっと下ろすと、床の用意をして彼女を寝かせた。

 その瞳には慈愛と、そして悲しみが滲む。

 

「鬼殺の身として、自らが鬼となったこと……不本意でしょうね。けれど、貴女は戻ってこなければなりません。戻って来て、そして……鬼舞辻無惨を」

 

 そこまで言って珠世は口を閉ざす。

 上弦の鬼に手も足も出なかった彼女が、鬼舞辻に一矢報いることなど出来ようはずもない。

 だが、鬼舞辻を倒すためには協力者が珠世には必要だった。

 

(けれど、この方に与えられた鬼舞辻無惨の血が、あまりにも少なすぎる。鬼としての気もほとんど感じられないのに、人ではない……どうなってしまうのかしら)

 

 ピクリとも動かない剣士の頭を撫で、珠世はほぉっとため息をつく。

 

「分け与える血の量を調整し、太陽を克服する鬼が誕生するのを待っているのでしょうね」

 

 可哀そうな子──そう言って珠世は、手拭いを濡らして血で汚れた剣士の体を拭いてやる。

 

 それから半月が過ぎた満月の夜。

 

 女は──目覚めた。

 

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