鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第九話:ピリピリとした感覚

 うとうととする微睡の中、何かを感じて杏寿郎は目を覚ました。

 目覚めてすぐ、彼は愛刀を手に立ち上がる。

 

 つい今までうたた寝をしていたとは思えないほど、その足取りはしっかりとしていた。

 音を立てずそっと格子を開ける。一階に下りたところで戸口は閉め切っているだろう。そう思って杏寿郎は二階から直接外へと飛び出した。

 

 二階の屋根から軽やかに飛び降り、その足で駆け出す。

 雨は止んでいるものの、夜空には星一つない。

 月明かりすらない中を杏寿郎は駆けた。点々とある提灯だけが辛うじて彼の足元を照らす。

 

「出たか」

 

 鬼の気配は二つ。もしかして兄弟鬼だろうか?

 その気配は町の中にあった。

 気配のする場所まで来たものの、鬼の姿はない。

 ではどこか?

 

 ただ真っ直ぐ前を見据え、杏寿郎は深く、そして静かに呼吸をする。

 腹の底から気を探るように、そして──

 

 眼を微動だにせず、地面から飛び出して来た何かを僅かに仰け反って躱す。

 

「ちっ。気づいていやがったのか!」

「気づかぬ訳なかろう!」

 

 チャキっと刀が鳴る。

 体勢を戻すと同時に抜刀。そして一閃。

 だがこれには鬼も素早く反応し、刃を躱すと地面へと消えた。

 

「む?」

 

 気配はすれど、土の中に潜られたのでは手の出しようもない──とはいかず、杏寿郎は刀を構えて呼吸を整えた。

 

「炎の呼吸、弐ノ型──昇り炎天!」

 

 地面に潜った鬼に対し、杏寿郎は下から上へと刀を振り上げる弐ノ型を放つ。

 本能ともいうべき判断で、地面ではなく壁から鬼が飛び出してくることを察したのだ。

 

「ぎゃあっ」

「──ふっ」

 

 袈裟懸きに斬られた鬼は、それでも生きている。

 だがそれも一瞬のことだった。

 

 返す刀で杏寿郎は、鬼の首を確実に跳ねる。

 

「一つ!」

「あぁ、あぁぁ。兄ちゃん、兄ちゃん……やられたよ。仇を……おらの……かた……」

「……弟のほうであったか」

 

 鬼を斬るのに罪悪感はない。

 だが弟のいる身としては、なんとも後味の悪さを感じる。

 

「兄とやら、とっとと出てくるがいい!」

「っしゃあぁーっ!」

 

 呼ばれて建屋の屋根から飛び降りて来たのは、今しがた杏寿郎が切った鬼によく似た風貌の男。

 もちろん鬼だ。

 弟が十八ぐらいであるなら、こちらは二十歳といったところだろうか。

 もちろん鬼の年齢を外見で判断してはいけない。

 殺されるまで生き続ける、寿命のない生き物なのだから。

 

 鬼は腕を伸ばし、その爪で杏寿郎の首を取ろうとする。

 だが杏寿郎もまた、鬼の首を狙っていた。

 

 爪と赫き刃が交わって火花が散る。

 武があったのは言わずもがな杏寿郎のほう。

 

 鬼は咄嗟に飛び退いた。飛び退いて、地面に落ちていた弟の、まだ塵と化しきっていない骸を手に取った。

 そして食う。

 

「に……ぃちゃ……ん」

「これからは一緒だ愚庵(ぐあん)」

 

 ごき、ばきと骨を貪る音が聞こえる。

 兄が自ら弟を喰らうその姿に、さすがの杏寿郎も眉をしかめた。

 

「よくも弟を殺してくれただな」

「兄弟で鬼になるとは……いや、家族か」

「ケッ! 奴が家族なものか!! 俺たちは奴に頼んで鬼にして貰っただけだっ。俺の家族は弟だけだ!!」

「ではその弟と共に、死して罪を償え!!」

 

 赫き刃が光る。

 鬼との激しいぶつかり合い。

 

 一合──

 二合──

 三合──

 

 撃ち合う刃と鬼の爪。

 だが四合目はなかった。

 

 最初の一合目で杏寿郎は鬼の力量がいかほどのものか、完全に把握した。

 二合目でそれは確信となり、三合目で鬼の首を刎ねたのだ。

 

「がっ──ぐ……き、きさ……ま……柱、か」

 

 終わったとばかりに杏寿郎は刀を鞘にしまう。

 地に倒れた鬼を見下ろし、彼は首を横に振った。

 

「いや。俺の階級は戊……と言っても、お前たち鬼には分からぬか。とにかく俺は柱ではない。今は……な」

 

 いつかは自分が継ぐことになるだろう、炎柱。

 だがそれまでに実戦を積み、今よりももっと、もっと強くならねばならない。

 それを思えば、今回の任務で討伐した鬼では自らを高めることが出来ないように思えた。

 

「確かに鬼三体は想定外だろうが、本当にこいつらが隊士たちを?」

 

 辛は階級で言えば下から三番目に当たる。だが決して弱くはない。

 鬼殺隊に正式に入隊しようと、最初の任務で命を落とす隊士は少なくなかった。

 それ故、階級が上がっているということは生存したという証拠にもなる。

 その階級は二つも上がっているのなら、立派なほうだ。

 

「残りの一体が……」

 

 強敵なのか?

 そう思った瞬間、ピリピリとした感覚に襲われた。

 

「やはりなのかっ」

 

 杏寿郎は駆け出す。

 左手は腰の下げた刀の鍔に添えて。

 

 たどり着いたのは、昼間に訪れた飯屋だった。

 

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