鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第九十九話──悪夢の記憶:弐

 四谷に到着したのは、まだ夜明け前。

 要の案内で向かったのは一軒の宿で、そこで数人の隊士が眠っているという。

 

「夢乃、君は近くで待っていてくれ。力を借りなければならないかもしれないから」

 

 夢乃が無言で頷くのを見ると、杏寿郎は宿へと入った。

 二階の一室に、布団に寝かせられた三人の隊士と、その三人を不安そうに見つめる隊士がひとりいた。

 

「え、炎柱さま!? 来てくださったのですね」

「状況は?」

「は、はい。自分は三人より遅れて到着しました」

 

 急いで鬼の気配のする方へ駆けると、三人が鬼と対峙しているところだった。

 そして加勢しようと飛び出すと──

 

「突然、この三人が倒れてしまいまして」

「突然? 攻撃を受けたのか?」

「いいえ。いいえ……無傷なんです。ここに運んでから確認もしました!」

 

 だが三人には傷一つついていない。

 しかし目覚めもしない。

 既に眠った状態で五日も経過しているという。

 

「血鬼術か。それで、その鬼は」

「五日間、ずっと姿を見せていません」

「そうか……分かった」

 

 そういって杏寿郎は隊士の後ろに立つ。

 

「では君も少し休みたまえ」

「え?」

 

 隊士はそれだけ言うと、強制的に意識を刈り取られた。

 杏寿郎が手刀を見舞ったのだ。

 

 障子を開け、杏寿郎は辺りを見渡す。

 

「夢乃、いるか?」

「上だ」

 

 返事があると、屋根の上から夢乃が姿を見せる。

 瓦の上を歩いているはずなのに、音は一切しない。

 

「頼む」

 

 杏寿郎の言葉にこくんと頷くと、夢乃はそのまま部屋の中へと入った。

 ご丁寧に草履を脱いでから、眠っている三人の首元に触れる。

 

「脈がやや速いな」

「速いと何か問題があるだろうか?」

「速くていいことなんてないぞ。まぁ常中を維持し続けると、体温が少し上昇して脈も僅かに早くなるが」

 

 だが眠っている三人は、常中の呼吸法を使っていない。

 普通に眠っているだけだ。

 いや、苦悩の表情を浮かべているあたり、悪夢を見ているのだろう。

 

「血鬼術に掛かっているようではあるが……悪夢を見せているのか?」

「悪夢を見せる血鬼術か。しかし眠らせるだけで、どうしようというのだろうか」

「眠らせるだけでも、相手を殺すことは出来るぞ。眠ていては、食事も摂れないからな」

「なんと恐ろしい血鬼術だ! 餓死させることが目的とは……ん? 喰らわずに、ただ殺すだけなのか?」

 

 鬼が人を殺す目的は、主に食事だ。

 夢を見させて餓死させてしまえば、喰うことは出来なくなる。

 いや、死んだ後に死体を貪るというのであれば話は別ではあるが。

 

「殺すことは出来るが、それが目的ではないだろう。死肉を貪るほど、鬼は優しくないぞ」

 

 死肉で飢えが癒せるなら、そんな平和なことはない。

 夢乃はそう言っているのだ。

 杏寿郎もそれが分かっているだけに、頷き、そして頭を悩ませた。

 

 だが考えたところで答えが見つかる訳もなく。

 

「そろそろ夜が明けるな。うむ、夢乃、少し待っていてくれ」

「え、おい、煉獄?」

 

 すたすたと部屋を出て行き、階下へと向かう。

 既に起きている宿の者に話をし、杏寿郎は空いている部屋を取った。

 出来るだけ陽の当たらない、暗い部屋を指定して。

 そうして二階へと戻ると、夢乃に向かってこう言った。

 

「部屋を取った。君はそこで休んでくれ」

「は? いや、それはマズいだろう」

「心配ない。夜通し歩き疲れて、今日はぐっすり眠るからと伝えてある」

「伝えてって……いや待て。その部屋で休むのは誰だ?」

 

 杏寿郎は夢乃を指差した。

 そして自分も指差した。

 

 夢乃は眉間に皺を寄せ、片手で顔を覆う。

 

 気絶させた隊士を、杏寿郎が布団に寝かせると部屋を出る。

 くるりと振り向き、手招きをしてまた歩き出す。

 

 夢乃はその後ろを、大きなため息を吐きながら追いかけた。

 部屋は隊士が眠る部屋から三つ隣。確かに暗い。そのせいもあって、満室にでもならない限りこの部屋が埋まることはない──と宿の者も言っていた。

 

 部屋に入るや否や、杏寿郎はつい立で部屋を仕切った。

 

「こっちは俺が。そっちは君が使ってくれ」

「使ってって……いやいや、何故布団を敷く?」

「休むだろう、君も?」

 

 夢乃は呆れたような目で杏寿郎を見る。

 鬼は眠らない。

 鬼殺隊の者なら知っていて当然だ。

 

「私は眠らないから、自分の分だけにしろ」

「眠らなくていいのか?」

「いい。私が寝るのは血鬼術で血を多少多めに流した時だけだ」

「ぁ……そうだったな。すっかり忘れていた。では俺だけ眠ることになるのか。それはなんだか申し訳ないな。では俺も起きて──」

「寝ろ。昼になったら起こす」

 

 そう言うと夢乃は刀を下ろし、押し入れから座布団を出して部屋の隅へと置いた。

 

「出来れば朝餉の時間には一度起こして貰いたい」

「分かったわかった。さっさと寝ろ」

「うむ。ではおやすみ」

 

 つい立越しに杏寿郎が布団に入る音がして、しかし直後には寝息が聞こえてきた。

 

「は?」

 

 思わずつい立の脇から顔を覗かせると、確かに杏寿郎は眠っているように見える。

 そんの一瞬前まで会話を交わしていたというのに、狸寝入りだろうか?

 そう思って彼女は名前を呼んでみた。

 

「煉獄?」

 

 返事はない。聞こえてくるのは杏寿郎の寝息のみ。

 鬼殺隊の隊士は、いつどこででも休める方がよいとはされている。

 されてはいるが、

 

(寝付くの早すぎ)

 

 まったく呆れるほどの速さに、夢乃はくすりと笑った。

 眠っているのを邪魔しないようにとつい立の奥に引っ込み、それから目を閉じて集中する。

 

 呼吸を沈め、そしてより深く精度を上げていく。

 羅刹の鍛錬のつもりで始めたのだが、そこで夢乃は妙な気配を感じ取った。

 

 気配は隊士が眠る方角からあって、宿の外へと向かっている。

 まるで糸のように伸びたソレは、血鬼術の痕跡があった。

 

(もしかして、夢を見させている鬼か?)

 

 血鬼術にはさまざまなものがある。どれ一つとして同じものはないと言うほどに、鬼ごとにまったく違うものだ。

 だから「これ」という法則がまったくない。

 

(どうやらこの鬼は、血鬼術で対象と繋がっているようだな)

 

 それ故に気配を辿ることが出来る。

 だが気配は宿の外へと繋がっており、鬼である夢乃が追うことはもうできない。

 部屋は暗いが、そろそろ東の空が白み始める頃。

 

(朝餉の時間になったら煉獄に知らせよう)

 

 ただ知らせたところで、血鬼術の痕跡を杏寿郎が感じ取れるかどうかは分からない。

 出来なかった場合、自分が案内する訳も出来ないし、ここからでは痕跡の元まで察知する事も出来なかった。

 

 出来るだけ痕跡を辿ろうと、再び呼吸を深く沈める。

 糸のように伸びるそれは、宿を出て東側へと伸びていた。

 そこまでは分かるが、距離にして一町半(約一六〇m)ほどで気配が消えてしまっている。

 それより先は離れていて辿れないのだろう。

 

 耳を澄ませば杏寿郎の寝息が聞こえてくる。

 

(暫く寝かせてやろう。どうせ日中は向こうも身動きが取れないのだし)

 

 そう決めた夢乃は、再び集中して血鬼術の痕跡を監視することにした。

 動けばかならず分かるはずだと考えて。

 

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