鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第壱〇〇話──悪夢の記憶:参

「煉獄。起きろ」

 

 陽が昇り、暫くしてから部屋の前に女中がやって来た。

 朝餉の支度が出来た、とのことだった。

 

 杏寿郎はまだ眠っているため、夢乃が起こそうと声を掛ける。

 

「ん……ゆめ……の」

 

 寝言なのか、それとも起きているのか。

 その口から自分の名が出てきたことで、夢乃の胸が熱くなる。

 

 手を伸ばし、杏寿郎の頬に触れた。

 温かい。

 

「煉獄」

 

 再び名を呼ぶ。

 

「んん」

 

 すると杏寿郎は、自身の頬に触れる夢乃の手に縋った。

 なのにまだ眠っている。

 

「おい、煉獄」

 

 頬ずりする杏寿郎の顔を押しのける事も出来ず。

 だが──

 

 ぐぎゅるるるるるるるる。

 

 目の前で眠る男の腹からは、異様な音が響いている。

 

 はぁ──と深くため息を吐き捨て、夢乃がそっと杏寿郎の顔に近づいた。

 その耳元で「朝餉」と呟く。

 

 すると杏寿郎の瞳がパっと見開かれた。

 

「朝餉!」

「お前……寝つきも良ければ寝起きもいいな」

「うむ! 起きようっ。ところで夢乃、俺はいつから君の手を握っていただろうか!?」

「……つい今しがただ。いいから離せ。そして隊士の部屋に行け。そろそろお前が気絶させた隊士も目覚めるだろう」

「分かった。では君の分はこちらの部屋に届けてもらうように頼もう」

 

 布団の脇に置いた日輪刀を手に持ち、すっくと立ち上がると杏寿郎は部屋を出て行った。

 

 杏寿郎が部屋を出て暫くすると、女中のひとりがお膳を持ってやってくる。

 朝餉に手を付けながら、夢乃は杏寿郎が向かった隊士部屋の気配を探った。

 

 まだ血鬼術の痕跡は残ったまま。薄れた様子も、そして動いた様子もない。

 

 暫くして朝餉を食べ終わった杏寿郎が戻ってきた。

 

「俺が眠っている間に、何か動きはあっただろうか?」

 

 その問いに夢乃は答えることなく、杏寿郎に座るよう勧めた。

 

「動きはない。だが眠っている隊士らから血鬼術の痕跡が出ているのが分かった」

「血鬼術の? いったいどうやって」

「羅刹の状態で集中してみろ。もしかすると鬼である私だから気づいたかもしれないが、念のため」

 

 言われて杏寿郎は目を閉じ、神経を集中させた。

 呼吸は深く、常中から羅刹へと移行する。

 暫くして、杏寿郎は目を開けると首を振った。

 

「俺には分からないな」

「そう……。痕跡は宿の東側に続いている。まるで糸のように」

「どこまで?」

「残念ながら、そう遠くはない所で気配が薄まってその先は分からない」

「そうか……念のため、俺が様子を見てこよう。見つけられるようならいいが、ダメなら夜を待つ」

 

 夢乃は頷き、それから杏寿郎は出て行った。

 

 杏寿郎が宿を出て二時間ほどすると、彼は戻ってきて鬼の気配は見つからなかったと答える。

 

「なら夜だな」

「うむ。昼餉まで眠るので、また起こしてくれるか?」

 

 夢乃が頷くと、杏寿郎はふいに手を差し出した。

 

「なんだ?」

「うむ。よかったら手を握っていてくれ「断る」よもや……」

 

 夢乃はどんっとつい立を置くと、杏寿郎の視線に入らない場所に行ってしまった。

 寂しさを感じながらも、杏寿郎は目を閉じると次の瞬間には──

 

(ほんっとに……この男の寝つきの良さは異様だろう)

 

 夢乃にすらそう思われるほど、彼の寝つきは最高に良かった。

 

 

 

 

 

 陽が沈み、杏寿郎と夢乃は宿を出た。

 隊士には眠っている者たちの様子を見るよう伝えてある。

 

 宿を出て真っ直ぐ東へ向かい、ときおり夢乃が立ち止まって血鬼術の痕跡を探った。

 

 痕跡は真っ直ぐ東に伸びており、やがてそれは一軒の屋敷へと続いた。

 

「ここか?」

「あぁ。元の武家屋敷のようだな」

 

 武家屋敷の多くは、明治になって政府に接収されている。

 取り壊されず、庭園などが一般公開され観光名所と化しているところも多い。

 だがこの屋敷は観光名所という感じではない。

 とはいえ、誰かが暮らしている形跡もなかった。

 

 大きな門扉は当然というか、内側から閂(かんぬき)がされており開くことは出来ない。

 

 塀を飛び越え、中に入ると途端に杏寿郎にも鬼の気配が感じられた。

 

「巧妙に気配を隠したものだな」

「中に入るまで気づかなかった。十二鬼月かもしれない」

 

 上弦ではないが、と夢乃は付け加える。

 

「君は、十二鬼月が相手では困るのではないか?」

「そうだな。十二鬼月は常に無惨と繋がっているから、見つかる心配がある」

「あとは俺がやるから、君は隠れていてくれ」

「お前がひとりで?」

 

 心配してくれるのか? と杏寿郎が笑みを浮かべて尋ねてくる。

 十二鬼月、特に下弦の鬼であれば心配などしない。

 杏寿郎は既に下弦の弐を倒せる実力を持っており、あの時からまた実力をつけている。

 今なら下弦の壱が相手でも心配ないだろう。

 

 ただ眠っている隊士のことが気になる。

 血鬼術に抗えず眠りについてしまったら、いくら実力があろうと関係ない。

 

「寝るなよ」

「うむ! しっかり寝たので大丈夫だろう」

「いや、睡魔とかそういうのじゃなくて、血鬼術」

 

 やはり心配だ。

 気づかれない程度に近づいて様子を見ようと夢乃は決めた。

 

 杏寿郎がひとり屋敷の中へと足を踏み入れる。

 実家の煉獄家と比べても、かなり広い屋敷だ。

 いくつかの部屋の前を過ぎると、むっとするような異臭が鼻を突く。

 

「死臭……既に犠牲者が出ているのか」

 

 強く臭う方へと進み、襖を開けた。

 薄暗い室内では、中の様子はハッキリとは分からない。

 暫くして暗闇に目が慣れてくると、そこで見えてきたものは大きなガラスの容器。

 金魚鉢を人の大きさにしたその中には、切り刻まれた遺体が詰め込まれていた。

 

「酷いことを……許せん、鬼め!」

 

 鬼の気配を辿って奥へと進む。

 切り刻まれた遺体の量からして、決してひとり分ではない。

 ただ遺体に頭部が一切見当たらず、ここの鬼が偏食家だることを裏付けていた。

 

 自らの気配を隠そうともせず、杏寿郎は正面から鬼の下へと向かう。

 いくつもの襖を開いた先に、鬼はいた。

 その瞳には確かに文字が浮かんでいる。

 

 下弦──壱、と。

 

「騒々しい。麻呂の屋敷に土足で踏み入れるとは、なんたる無礼でおじゃるか」

「すまぬな。鬼相手に礼節を重んじるほど、俺も出来た人間ではないのでな」

 

 鬼はその手に、人の頭蓋を持っていた。

 ガラス容器内に頭部がなかった理由が、ここにあった。

 

 食っているのだ。

 頭蓋の中にあるソレを。

 ソレだけを食し、残りはその場に捨てられていた。

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