鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第十一話:ただいまもどりました

 湯治場での任務を終え、貧血気味の仲間の隊士の歩みに合わせゆっくりと鬼殺隊本部へと戻る杏寿郎。

 その傍らには少年の姿もある。

 

 鬼退治の翌朝、雲が晴れ、太陽が出る頃には隠の者たちが素早く事後処理に当たる。

 今回は猟奇殺人者によって、これまで行方不明になっていた者たちも含めて惨殺された──ということになっている。

 もちろん事件は既に解決し、何も心配することはないと町の者には触れ回られていた。

 

 それから二日して、彼らは湯治場を後にしている。

 

「あの、杏寿郎さん」

「ん? なんだ愁蔵少年!」

「あ、あの……俺は、どうなるんですか?」

 

 愁蔵──それが飯屋の少年の名であった。

 身寄りはいるらしいが、一度もあったことがないので名前も顔すらも分からない。どこに住んでいるのかすら。

 十歳の少年がひとり投げ出され、生きていけるほどこの世は優しくはない。

 杏寿郎もそれはよく分かっている。

 自分は恵まれた家の者であることも。

 

 それに愁蔵は弟の千寿郎と歳も近く、だからなのか放っておけなかったのだ。

 

「うむ! 分からん!! ふ、はっはっはっはっは!!」

「え……わ、分からないのに、俺を連れていくんですか?」

「うむ!!」

 

 これには一緒に歩いていた鬼殺隊の仲間も、愁蔵少年に同情を感じざるを得なかった。

 

 そして三人はとぼとぼとゆっくりとした歩みで産屋敷邸へと到着。

 報告は本来、特に産屋敷へ直接する必要はなかった。報告は鎹鴉によってなされるので、隊士が屋敷を訪れることは滅多にない。

 だが愁蔵のこともあって、杏寿郎は屋敷に──耀哉を尋ねた。

 

「ご苦労だったね、杏寿郎。それに玖儀李(くぎり)、よく無事に戻ってきてくれた」

「お館様もご壮健でなによりです!」

「あ、あり、ありあり、がとうございます、おお、お、お館様」

 

 隊士の中では唯一の生き残りである玖儀李は、耀哉に会うのはこれが初めてである。

 にも関わらず自分の名を知っていることに驚くと同時に、その独特な口調によって大きな何かに包まれるような、そんな気がした。

 おかげで緊張のあまり、呂律が回っていない。

 

「それで、鎹鴉の報告にあった子供というのが、その子だね?」

「はい! 身寄りらしい身寄りもなく、子供ひとりでは何かと不自由だろうと思いまして! なにとぞ、お館様にご尽力いただきたく、連れてまいりました! さ、愁蔵、お館様にご挨拶を」

「え? あ? あの……」

 

 愁蔵は驚いていた。

 お館様と呼ばれるのだから、三十路、いや四十を過ぎた男だろうと思っていたからだ。

 だが今彼の目の前にいるのは、どこか儚げで風が吹けば飛びそうな風貌の若い男だからだ。

 隣でかしずく杏寿郎よりはもちろん年上だが、二十歳かそこらの若者のように見える。

 

「愁蔵少年、この方が俺たち鬼殺隊をまとめる、産屋敷家ご当主だぞ」

「あ……は、はい。お、俺、愁蔵といいます。あの……なんでもしますっ。だから、だから姉ちゃんに会わせてください!」

「姉に? 杏寿郎……」

 

 耀哉は勘違いをした。

 愁蔵の姉は鬼に喰われて死んでいる。

 もしかしてその事実を、杏寿郎が話していないのだろうかと。

 

 名を呼ばれた本人は、愁蔵の言葉の意味を察する。

 今愁蔵少年が姉を呼んだのは、おそらく夢乃のことだろうと。

 

「愁蔵少年。それはお館様にも無理な願いだ。だが運が良ければまた会える。うん! 会えるさきっと!!」

「ほ、本当ですか杏寿郎さん!?」

「うむ! 次に会った時には引きずってでもお前に合わせよう! 心配するな、任せておけ!」

 

 どんっと胸を叩き、杏寿郎は快活に笑った。

 その笑顔を見て、ようやく耀哉も少年の言葉の意味を知る。

 

「分かった。では愁蔵には蝶屋敷で働いて貰おうか」

「よろしいのですか!? しかし蝶屋敷には女人しかいないのでは?」

「ふふ、そんなことはないよ。ただ怪我人の手当てに当たっているのは女子ばかりだから、そう思うだけだろうね」

「なるほど! ではお館様にお任せいたします!! よかったな、愁蔵少年」

「はいっ、はいっ。ありがとうございますお館様。ありがとうございます、杏寿郎さん」

 

 涙を流し礼を口にする愁蔵の頭に、杏寿郎はぽんっと手を置く。

 それは弟にいつもするのと同じように、優しく撫でてやるのだった。

 

 

 

 

 

 愁蔵は一時的に産屋敷邸に預けられることになった。

 鬼殺隊がどういったものなのかを学ぶために。その後、隠の者たちが蝶屋敷へと案内してくれるらしい。

 それを聞いて杏寿郎は安堵し、数日ぶりとなる生家へと戻ることにした。

 

 道中で玖儀李と別れるとき、何度も何度もお礼を言われて頭を掻く。

 なにせ彼の腹の傷のことは夢か幻にしてしまっているし、嘘を言ったことに対して後ろめたさがあるのだ。

 それに、彼の命を救ったのは自分ではなく夢乃だ。

 自分ではない、という思いのほうが優先して礼に対する返事が出来ずじまいだった。

 

「はぁ……」

 

 柄にもなくため息を吐き捨て、それは何度も繰り返した。

 嘘をつくことが苦手な男である。

 そんな男の嘘を見抜けず、鵜呑みにする玖儀李という隊士も大概だろう。

 

 何度目かのため息を吐いた時──

 

「あ、兄上!」

 

 跳ねるような声が聞こえた。

 俯き加減だった杏寿郎の顔が正面を見据える。

 そこには箒を手に走って来る弟の姿があった。

 

「兄上兄上! おかえりなさい兄上!」

 

 自分と同じ焔を思わせる髪色の、だがその眉は垂れ下がって幼さを強調させる風貌の弟、千寿郎が駆けて来た。

 久々の帰宅というのもあってか、千寿郎はピョンピョンと杏寿郎の周りを跳ねまわる。

 その姿に先ほどまでの後ろめたさも吹き飛び、杏寿郎は満面の笑顔を見せた。

 それから跳ねまわる弟を捕まえ持ち上げた。

 

「ただいまだ、千寿郎!」

「はい、おかえりなさい兄上!」

「はははははは。少し見ないうちに大きくなったか?」

「気のせいです兄上。だって兄上が任務に出られから、十日と少ししか経っていませんから」

「はっはっは。そうか! だが千寿郎は毎日少しずつ大きくなっているのだぞ。だから出立前より大きくなって、当たり前なのだ!」

 

 そう言って杏寿郎は弟を高い高いしたままぐるぐると回転した。

 きゃっきゃと喜ぶ弟が愛おしい。

 大切な家族だ。失いたくはない弟だ。

 

 もし──

 もしも千寿郎が鬼になったならば、自分はどうするだろう。

 ふとそんな疑問が頭に過る。

 それは恐らく、湯治場で倒した兄弟鬼のせいなのだろう。

 

(俺は千寿郎を斬れるだろうか? それとも……千寿郎共に鬼となって生きながらえるのだろうか)

 

 その答えは見つからない。

 それは現実ではなく、自分を見下ろす弟は人間なのだから。

 

(ならばこの現実を守るのみ! 俺はそのためにも、もっともっと強くなる!!)

 

「よし、千寿郎。兄と競争だ!」

「え? 競争? 競争なのですか兄上?」

「そうだ、競争だ! それっ」

 

 そう言いつつ、杏寿郎は弟を肩車して走り出した。

 これのどこか競争なのか、千寿郎には分からない。

 分からないが、兄に肩車をされて嬉しくないはずもない。

 

「わぁーっ、兄上速い、速いです!」

「うむ! どっちが先に家の門を潜れるか、競争だからな!」

「はい!」

 

 返事をして千寿郎は手を伸ばした。自分を担ぐ兄より、少しでも前に出ようとして必死に伸ばした。

 杏寿郎は弟の足を掴んで落ちないようにしているため、腕は伸ばせない。

 ならば門の直前で足を伸ばそう。そんなことを考えていた。

 

 そして結果は──

 

「僕の勝ちです兄上ぇー」

「よもや! まさか箒を伸ばそうとは……やるな千寿郎!」

「きっと兄上は最後の足を出すと思ったのです。僕の手の長さじゃ兄上の足の長さには勝てないから」

 

 肩車から下ろされた千寿郎は、そう言って頬を染めながら兄を見た。

 そんな弟を満面の笑みを浮かべ見下ろす。

 

 それから二人は手を繋ぎ、屋敷の戸を潜った。

 

「「ただいまもどりました」」

 

 二人の声が重なり、それに応える者はなかった。

 

 




*千寿郎の人称について・・・
彼の年齢がハッキリと明かされていないのもあって、私の中では杏寿郎より八歳下かな~と。

こちらの作品は杏寿郎16歳スタート=千寿郎8歳。
そんな訳で、今現在は千寿郎くんは「僕」にしております。

ただ煉獄さんが柱になった時には「俺」になっていますので・・・
そこの成長も書ければなぁと。
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