鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第十八話:馬鹿なのか?

 鎹鴉の指示で任務を遂行して鬼を斬る。

 それが三度終わる頃、本格的な冬を迎えることとなった。

 

「今年の冬は少し早いな」

「そうですね、兄上。まだ十二月半ばだというのに、雪が降るなんて」

 

 杏寿郎と千寿郎は、納屋から出したばかりの火鉢に炭を入れ暖をとっていた。

 雪は今朝から降ってはいるが、どうやら積もるほどではないらしい。

 

「お山の方は積もりますかね?」

「そうだな。平野部では積もりはせんだろうが、山間部では積もるやもしれん」

「こんな時に任務がこなければいいのですが」

「はははは。そうだな」

 

 豪快に笑う杏寿郎だったが、その目は空を飛ぶ一羽の鴉を捉えていた。

 

「カァーッ! 煉獄杏寿郎、鬼殺ノ任務ダ。北ノ山間ノ村デ鬼ガデタ。鬼ヲ滅セヨ。鬼ヲ滅セヨ!」

「そんなっ」

 

 思わず千寿郎が本音を漏らす。

 そんな彼の頭に、兄の杏寿郎はぽんっと手を置いた。

 

「すぐに終わらせて帰って来る。なに、心配するな千寿郎。兄は雪になど負けはせぬ! ははははははは」

「兄上……」

 

 心配なのは雪だけではない。

 今しがた兄は「山間部では積もるかも」と言った。これから出立しても、目的地まで何時間、何日掛かるか分からないのだ。

 到着した頃にはだいぶ積もっているかもしれない。

 そんな雪の中での鬼との戦いは、さぞ厳しいことだろうというのは幼い千寿郎にも分かる。

 

 それが心配なのだ。

 

「では支度をしてくる。千寿郎、すまないが握り飯を用意してくれるか?」

「は、はいっ。すぐに作ります」

「うむ、頼むぞ」

 

 満面の笑みを浮かべ、杏寿郎は弟を見送った。それからすぐさま自分の支度にとりかかる。

 

 黒い鬼殺の隊服に袖を通し、寒さ対策に綿入れの羽織を着こむ。

 綿入りの羽織は動きを阻害して好きではないが、この季節の山に登るというのにそうも言っていられない。

 

(もしもの時は脱ぎ捨てればいい)

 

 そんなことを思いつつ、着替えを済ませ、刀を腰に差す。

 襟巻を手に取り、それから部屋を出る。

 杏寿郎の支度が整う頃、千寿郎の握り飯も出来上がった。

 

「兄上はたくさん食べるから、五つ握っておきました」

「おぉ、それは食べ応えがありそうだ!」

 

 しかもデカい。

 小さな手の千寿郎が、いったいどうやって握ったのかというほどにデカい。

 握り飯を笹で包み、それを更に風呂敷で包んで背負う。

 

「兄上、お気をつけて……」

「あぁ。戸締りをしっかりするのだぞ? 寒くないよう、火を入れておけ。だが寝るときには火の始末をちゃんとするように」

「はい……大丈夫です、兄上! だから兄上も安心して任務にお出かけください」

 

 本当は行って欲しくはないが、それを言えば兄を困らせてしまう。

 まだ幼い千寿郎は気丈に振舞って応える。

 

 だがその心情は兄の察するところにあった。

 一度優しく抱き寄せると、杏寿郎は弟の頭を二度撫でた。

 

「必ず帰って来る」

「はい。帰って来たら、お鍋にしましょう」

「え……」

「え?」

 

 杏寿郎はガバっと弟を離し、それから眉尻を下げて「さつま芋の味噌汁がいい」と目で訴えた。

 

「……さつま芋の味噌汁にします」

「うむ! では行ってくるぞ千寿郎」

「い、いってらっしゃいっ」

 

 上機嫌になった杏寿郎が屋敷を出て行った。千寿郎はその後姿を追って門の外まで見送った。

 

 

 

 

 

 山を登る前に、杏寿郎は弟がこしらえた握り飯を食べた。

 家を出て四時間ほど経っての事だった。

 傍らに鎹鴉の要が舞い降りる。

 

「杏寿郎ッ、杏寿郎ォー」

「む、なんだ?」

「山間ノ村ハ、全滅シタ」

「なっ!? 村人全員を喰ったというのか、その鬼は」

「元々、数エル程シカ住民ハイナカッタガナー」

 

 それでも、その数える程度の人間を喰ったというならおおごとだ。

 鬼は喰った人の数だけ強くなる。または無惨の血がどれだけ濃いか。

 数十人喰った鬼であれば、それだけで並の鬼殺隊士では倒せない強さになる。

 

「俺のほかに鬼殺隊の者は?」

「イルゾ! 先日ノ最終選抜デ鬼殺隊ニナッタバカリの伊黒小芭内ダ!!」

「おぉ! 小芭内か」

 

 杏寿郎より一つ年上の伊黒は、父の槇寿郎が保護して一時期煉獄家で預かっていた少年だ。

 最初こそひ弱で、幼子の千寿郎の相手がやっとだった小芭内だったが、杏寿郎と共に鍛錬を住むことで少しずつ体力もつき、彼から遅れること一年目にして鬼殺隊へと加わった。

 

 もっとも彼が煉獄家にいたのは一年ほどの間。

 槇寿郎が柱として、鬼殺隊としての職務を怠るようになり、酒浸りになる頃には新しい育ての下へと旅立っている。

 久方ぶりに聞いた名に、杏寿郎の心は浮足立った。

 

 握り飯を食べ終え、暗くなる前に村へと向かう杏寿郎。

 しかしほどなくして後悔することになる。

 

「よもやよもや……ここまで積もっていようとは」

 

 山に入って一時間もしないうちに、雪の深さは杏寿郎の膝下にまでに。

 そのせいで歩みも遅れ、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「むぅ。このままでは小芭内と合流できそうにもないな」

 

 小芭内は既に村に到着しただろうか?

 待たせては申し訳ない。

 そう思って杏寿郎は歩みを止めなかった。

 

 ざくざくと雪を掻き分け、一歩一歩確実に前進する。

 

「おい、要。村への道はこっちで合っているのだろうな?」

「……キットソウ!」

 

 要は寒さに震え、杏寿郎の襟巻に巻き付いている。

 

「きっととは、つまり正確には分からないということか」

 

 明後日の方角を見る鴉の顔を掴んで自分へと向かせると、そのまま脅迫気味に問う。

 

「ク、暗クテ道ガ見エナイナァ。鳥目ダカラナァ」

「……行くしかないか」

 

 月明かりもない。松明もない。

 暗闇の中で一歩一歩確実に進みながら、こんなことなら握り飯は十個握って貰うのだったと杏寿郎が思った。

 

 やがて腹の虫が鳴り始めた頃──

 

「ぎゃああぁぁぁぁっ」

 

 断末魔の叫びにも似た声が聞こえて来た。

 

 それが人のものでないことは杏寿郎にはすぐに分かる。

 だからといって放っておくことはできない。

 

「小芭内か?」

 

 自分の到着が遅れたことで、彼ひとりで鬼の討伐をさせたのではないかと思い急いだ。

 もし伊黒が怪我をしていようものなら、どう責任を取るべきか。

 そんなことを考えながら向かった先には、人の形に凹んだ雪の層があった。

 更に森の奥へと向かう人の足跡もある。

 

「しまった。間に合わなかったか」

 

 雪の凹みは恐らく頸を斬られた鬼が倒れた跡だろう。

 森の奥に続く足跡は伊黒のものかもしれない。

 慌てて追おうとして駆け出すと、雪に足を取られ転倒する。

 

「つめっ」

 

 冷たい。そして空腹で体力の限界も近い。

 見つめる先に人影は見えないし、本当に伊黒がいるのかも分からなかった。

 

「小芭内! 小芭内なのか!? おい、おい! 小芭内がいるのか!?」

 

 立ち上がって再び歩き出す。

 だが先ほどとは比べ物にならないぐらい足が重く、しかも感覚がなくなって来ている。

 

「くっ。この程度の雪で……く、そ」

 

 木に手を突き、呼吸を整える。

 

「ふっ──ふっ──よし!」

 

 と、大きな声を出したのがいけなかった。

 声の振動によって、杏寿郎が手を突く木に積もった雪がどさっと落ちて来た。

 

「うぷっ」

 

 再び転倒した杏寿郎は、今度は全身が雪に埋もれた。

 普段であれば大した重さでもないはずなのに、長い時間雪の中に身を置いていた杏寿郎にはこの程度すら跳ねのけることもできず──

 

「お前は、馬鹿なのか?」

 

 そんな声が聞こえたかと思うと、雪から杏寿郎を引きずり出そうとする者が現れた。

 

 

 

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