鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第二十一話:やっぱりさつま芋

「……え。まさか煉獄、この雪の中を夜のうちに歩いてやってきたのか?」

「うむ! もし君が先に到着していれば、申し訳ないと思ってな!!」

 

 伊黒が村に到着したのは昼を少し回ってから。

 そしてその時には村に巣食った鬼を退治したあとであった。

 

「じゃあお前は、俺が遅れて到着したことに対し、俺が申し訳ないと思うかもしれない……とは考えなかったのか」

「む? ……なんと!? そういう考え方もあったとは」

 

 伊黒は頭を押さえる。

 分かってはいるのだ。煉獄杏寿郎がこういう男であることは。

 自分のことより他人のこと。それを最優先にする男なのだ。

 

「はぁ……で、鬼は一体だったのか?」

「うむ! 一体であった。ただ随分と人を喰らっていたようでな」

 

 強かったのか──と伊黒は察した。

 民家の軒先に腰掛ける杏寿郎には、細かな生傷がいくつもあった。

 着ている綿入れはあちこち裂け、中の綿が出ている。

 後ろで結った髪もほどけ、いつも以上にもっさりとしていた。

 

「悪かった。遅くなって」

「いやいや、小芭内に何もなければそれでよし!」

 

 杏寿郎は伊黒を見ておらず、大きな声でそう言う。

 

「怪我、深いのか?」

「なんの! かすり傷ばかりだ!!」

 

 その割に伊黒がここで杏寿郎を見つけた時、項垂れているように見えて心配になる。

 だが杏寿郎はその言葉が正しいと言わんばかりにすっくと立ち上がり、

 

「では帰ろうか!」

「あ、ああ」

 

 いつものように元気に歩き出す。そして立ち止まり、

 

「ちなみに帰り道は、分からん!」

 

 と胸を張って言う。

 

「いやいや、お前。それは威張って言うことじゃない」

「ふははははははは。なんせ暗がりを歩いてきてだな。どこをどう歩いたのかさっぱりなのだ」

「よく辿りつけたな……まぁいい。帰りはこっちだ」

「うむ!」

 

 伊黒が案内しようと歩き出すと、背後でまさかというものが聞こえた。

 

「ふぅ……」

 

 ため息だ。

 それが杏寿郎から聞こえてきたのだ。

 そんなものとは無縁な生き物だと伊黒は思っていた。だから思わず振り返った。

 

 が、そこにいたのは

 

「どうした!」

「え、いや……」

 

 いつもの元気な杏寿郎の姿だった。

 

(気のせい? そうだな、気のせいだ。煉獄がため息なんて吐き出すわけがない)

 

「そうだ小芭内! 知らない間に階級が上がっていたのだ!」

「……そりゃそうだろう。お前の噂はよく耳にする。湯治場では四体の鬼を倒したのだろう? そろそろ炎柱も近いんじゃないか?」

「む。柱……か」

 

 そこで杏寿郎の表情が陰る。

 これには伊黒も思う所があるので、別段不審には思わなかった。

 

「槇寿郎様のことを考えたのか?」

「むむぅ……。父上のことは考えない訳ではないが、そうではないのだ」

「じゃあ何を考えている? 今炎柱は不在も同然。お前以外の炎の呼吸の使い手も、誰一人柱に届きそうな者はいないと聞く」

 

 お前の他に誰がいる。

 伊黒はそう付け足す。

 

「それは俺が、煉獄杏寿郎だからか?」

「何を訳の分からないことを言っているんだ。お前には柱になれるだけの力があるだろう」

「いや。俺はまだまだだ」

「下弦の鬼ですら打ち取れるんじゃないのか?」

「──分からない! 下弦の鬼には出会ったことがないからな!!」

 

 いつか柱にはなる。ならなければならない。煉獄の者に課せられた使命だから。

 とは思うものの、煉獄だから柱になれるというのは、杏寿郎にとって屈辱でもあった。

 

 ひとりの人間として、実力でその座に就きたい。

 そう考えているから。

 

 その為にも鬼殺隊の階級で最上位である甲まで上り詰めなければ。

 

「小芭内はどうだ? 鬼殺隊の任務には慣れて来たか?」

「……経験を積まなきゃならないのに、どこかの誰かさんがひとりでさっさと終わらせてくれたからね」

「よ、よもや……それは俺のことだろうか?」

「ほぉ。君にも気づくということが出来るようになったのか。めでたい」

「めでたい……おぉ! わっしょ──いつつ」

 

 かすり傷ばかりとはいえ、はしゃげば痛む。

 戦いの最中であれば集中することで痛みを感じさせはしないが、今はその必要もない。

 あちこちチクチクと痛む。

 

 山を下りて麓の村に到着したのは日が暮れる頃。

 旅籠で怪我の治療をし、翌朝早くには出立した。

 

「どうだ小芭内。久方ぶりに千寿郎に会っていくか?」

「弟自慢をしたいだけだろう」

「ははははははは。当たり前だろう!」

 

 伊黒にしても会いたくない訳ではない。

 煉獄家で世話になっていたのは一年ほど。

 年下のはずの杏寿郎は最初、まるで兄のようであったし、弟の千寿郎はよく懐いて伊黒の病んだ心を癒してくれた。

 

「そうだな。特に次の任務の指示もないし……行ってみるか」

「うむ! 千寿郎もきっと喜ぶ」

 

 こうして伊黒と共に我が家へと戻って来ると、雪かきをしていた千寿郎が大喜びで二人を出迎える。

 

「小芭内さん、お久しぶりです!」

「千、元気にしていたか?」

「はい!」

「兄貴に苦労はしていないか?」

「……はい!」

 

 間があった。その間で伊黒は察した。

 

「こんなところでなんですから、小芭内さんも中へお入りください」

「ん、そうだな」

「うむ! どうせなら泊まっていくといい。今から戻ったのでは、夜中になってしまうだろう?」

 

 伊黒は空を見上げる。

 確かに西の空が赤みを帯びて、今にも日が暮れそうだ。

 

「どうぞ、泊まっていってください小芭内さん」

「そうか。千がそう言うなら」

「おいおい、小芭内。俺が誘ってもすぐには返事をしなかったくせに、千寿郎なら即答か?」

「当たり前だろう。可愛くもないお前に誘われたって、うれしくもなんともない」

「ぐぬぬぅ」

 

 そうやって三人は煉獄家の門を潜る。

 

「兄上、お怪我をされているようですが?」

「う、うむ! かすり傷だ。かすり傷!」

 

 千寿郎はすぐに伊黒を見た。

 彼は頷き、それを見て千寿郎はようやく安堵する。

 

「せ、千寿郎。兄の言葉を信用していないのか?」

「そうではありません。兄上は深い傷を負っても、仰ってくださいませんから」

「ぐぬぅ」

「でも本当にかすり傷でしたら、よかったです」

 

 そう言って千寿郎はほがらかな笑みを浮かべた。

 

「兄上の怪我が大したことないのでしたら、お風呂掃除をお願いできますか? 僕は夕餉の支度をしますので」

「心得た!」

「いや、ここは俺がやろう」

「いやいや、客人にそんなことはさせられない!」

「怪我人は黙っていろ」

「いやいやいやいや」

 

 俺が俺がと言い合いながら、二人は風呂場へと向かう。

 それを見送って、千寿郎も土間へと向かう。

 

 

 

 

 

 ──その晩の夕餉の席にて。

 

 伊黒は思った。

 

(やっぱりさつま芋の味噌汁だ)

 

 ──と。

 

 

 

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