鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第二十二話:兄の影に隠れる

 夜中に目覚めた千寿郎は、厠のために起きだした。

 部屋を出て長い廊下を渡り、そして兄がいた。

 

 縁側に座り込んだ杏寿郎は、ただじっと星を眺めている。

 

「あに──」

 

 兄上と呼ぼうとして、その時杏寿郎の口からため息が吐き出されるのが見えた。

 

(え!? あ、兄上がため息をっ)

 

 見間違いかと思って千寿郎は息をひそめ、じっと観察した。

 だがここではたと気づく。

 兄が自分の気配に気づいていない。

 この距離であれば見つかることの方が当たり前。

 

(あ、兄上!? いい、いったい何があったというのですか??)

 

 軽く混乱する千寿郎だったが、その時になって厠の事を思い出す。

 

「はわっ」

「ん? 千寿郎?」

「ああ、あに、兄上……ごめんなさぁい」

 

 だだだっと走り抜け、千寿郎は厠へと駆けこむ。

 それを見て杏寿郎は首を傾げた。

 

「いや、厠に行くのに、何故俺に謝る?」

 

 自分も厠へ行こうとしていたのだと勘違いさせてしまったのだろうかと、兄は悩む。

 悩んで、そして考えるのを止めることにした。

 

 山間部では雪がまだ積もってはいるが、こちらでは既に溶け始めている。

 今夜は星も出ており、この分なら明日には完全に溶け切るだろうと杏寿郎は思った。

 

 そして、

 

 この星空を、あの鬼の女も見ているのかと。

 

 一方その頃、弟の千寿郎は厠の扉からそっと兄の様子を見ていた。

 

(やっぱり、ため息をついておられる……兄上、何かあったのだろうか)

 

 兄を心配する千寿郎であったが、ただこの状況はよろしくなかった。

 厠から出て行こうにも、出ていきにくい状況が出来上がってしまっていた。

 

(うぅ、寒いよぉ)

「どうした、千寿郎」

「え?」

 

 空を見上げたまま、杏寿郎が弟の名を呼ぶ。

 

「いつまでも厠にいては、風邪を引くぞ。それともひとりでは怖くて部屋まで戻れぬか?」

「そっ、そんなことありませぬっ」

 

 ぱっと出て来た千寿郎は、手を洗うとすたすたと部屋に向かって歩き出す。

 兄とすれ違いざま「おやすみなさい、兄上」と声を掛けて。

 

「うむ! よく眠るのだぞ、千寿郎」

「は、い……兄上はお休みになられないのですか?」

「俺、か……。そうだな。せっかくだし、もう少し星を眺めていようと思ってな」

「星を? わぁ、綺麗ですね」

 

 千寿郎も夜空を見上げると、淀みのない、冷たく澄んだ空気によって星々の輝きがいつも以上に美しかった。

 

「風邪を引く。星を眺めるのであれば、ここに座るといい」

「はい」

 

 千寿郎が兄の横にちょこんと座る。

 杏寿郎は自分の綿入り羽織りで千寿郎を包んだ。

 

「寒くはないか?」

「はい。暖かいです」

「そうか」

 

 笑みを浮かべ、兄弟二人で夜空を見上げた。

 

「兄上、何か心配ごとでもあるのですか?」

 

 千寿郎がぽつりと呟く。その問いに兄はやや間があって「ない」と答えた。

 その返事はいつのもような元気さはなく、千寿郎にはそれが嘘だとすぐに分かった。

 

 が、その先に踏み込むことができず「ならよかったです」と返しただけ。

 

「いつもお前には心配をかけてばかりだな。だがこの兄は何人にも負けはしない。大丈夫だ、千寿郎」

「は……い」

 

 千寿郎は羽織をきゅっと掴み、喉から出かかった言葉を飲み込む。

 ──心配事があれば、お聞かせください。

 そう、兄に言いたかった。

 

 

 

 

 

「伊黒ォー。西ダ。西ニ鬼ガデタ。カァーッ」

 

 翌日の昼過ぎに、伊黒の鎹鴉がやって来た。

 

「任務か。千、慌ただしくてすまなかったな」

「いえ。小芭内さん、お気をつけて」

「あぁ。じゃあな、煉獄。お前には任務が与えられていないようだし、邪魔をするなよ」

「いや、俺は君の邪魔などしていないのだが」

 

 ひとりで任務を終わらせたことを、若干根に持っているようだ。

 伊黒が鎹鴉を追って煉獄家をあとにする。

 

 そして──

 

「よもや!!!!」

「あ、兄上!?」

「いかん……すっかり忘れていた」

「忘れてって、何をですか?」

 

 鎹鴉だ。

 夢乃がいた小屋に置いて来たまま、すっかり忘れているのだ。

 迎えに行くべきか。

 そんなことを考えていると、遠くの空から恨みがましい鴉の声が聞こえて来た。

 

「酷イィーッ。酷過リィーッ。煉獄杏寿郎ノ人デナシィーッ」

「はははははは。ちゃんと戻って来れたな」

「兄上、どうしたんですか?」

「や……その……山で冷え込んだからな。要には屋内で暖を取らせ休めさせていたのだが」

「まさか置いて帰って来たと?」

 

 杏寿郎は弟のように眉尻を下げて頷いた。

 

「人デナシー!」

「いや、お前は人ではなく鴉であろう」

「……鴉デナシー!」

「悪かった。悪かったからそんなに叫ぶな」

 

 そんなに叫べば──

 

「うるさい!! 鴉を黙らせろっ。耳障りだ!!」

 

 奥の部屋から父、槇寿郎の声がした。

 その声にビクリと体を震わせ、思わず千寿郎は兄の影に隠れる。

 

 父は姿を現さなかった。

 そのことに千寿郎は、そして杏寿郎までがほっとする。

 

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