鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第二十六話:北へ

 二月。

 深々と降り続く雪の中、杏寿郎は怪我をした隊士を担いで蝶屋敷へとやって来た。

 

「怪我人の手当てを頼む!」

 

 持ち前の大音量でそう言えば、直ぐに屋敷の中からひとりの少年が出て来た。

 

「あ、杏寿郎さん!?」

「む? 君は……酒造少年!?」

「え?」

「む、違ったか。正蔵? 俊蔵?」

「愁蔵です杏寿郎さん……」

 

 右に左に頸を傾げていた杏寿郎は、愁蔵の顔だけはしっかり覚えていたようだ。

 

「うむ。頑張っているようだな。感心感心」

「感心じゃなくって、杏寿郎さん。姉ちゃんとは会えたんですか?」

「むっ」

 

 そこで思い出す。

 夢乃に姉の面影を重ねる愁蔵少年に、今度あったら引きずってでも連れてくると約束したことを。

 ただ実際に会わせたところで、夢乃は愁蔵の姉ではない。

 

(この少年は本当に、夢乃を姉だと思っているのだろうか?)

 

 そんな疑問が浮かぶが、もし本当にそう思っていたとしたら、聞けるはずもない。

 だが、意外なことにさきに語ったのは愁蔵のほうだった。

 

「分かってるよ俺。あの人が本当の姉ちゃんじゃないって、分かってるんです。ちょっと似てるだけだってことも」

「愁蔵少年……」

「あ、怪我人預かります。ここってほんと、毎日怪我人くるんだから大変ですよ」

「そうか。だが君のような働き者がいれば、ここの人らも助かるだろう」

「えぇ、助かってますよ」

 

 そう言って朗らかな笑みを浮かべてやってきたのは、胡蝶カナエ。

 鬼殺隊、柱のひとりで花柱だ。

 その隣には常に妹のしのぶが付き添い、カナエに視線を送る男たちを威嚇していた。

 

「こんにちは、煉獄さん」

「や、これは胡蝶殿。愁蔵が世話になっています」

 

 杏寿郎はぺこりと頭を下げ、それからカナエとしのぶの姿に注目する。

 

「任務ですか?」

 

 でなければカナエは蝶の羽を模したような羽織りを纏ってはいない。後ろに立つしのぶもそうだ。

 

「はい。鬼が……」

「怪我人は屋敷の子たちが見てくれますっ。見た所重症でもなさそうですね」

 

 穏やかな口調の姉カナエとは違い、妹のしのぶはハキハキと喋る。おっとりとしている姉に変な虫がつかないかと、常に気を配っているのだ。

 

「どうかお気をつけて」

「はい。煉獄さんも、あまり怪我をしませんように。弟の千寿郎君が心配しますよ」

「や。俺は今回無傷でしたが……」

「ふふ。今回だけでなく、ずっと気を付けてください」

「姉さん! もう行きましょうっ」

 

 相手が誰であろうと、しのぶは姉が男と談話するのを嫌がる。

 お前は敵だと言わんばかりのしのぶに対し、杏寿郎はその頭にぽんと手を置いて「しのぶ殿も気を付けて」と言って笑った。

 

 やや長身な杏寿郎と、小柄なしのぶ。

 はたから見れば幼子の頭を撫でているようにも見える。

 

「子供扱いしないでくださいっ」

「や。これはすまんすまん。丁度千寿郎の高さに似ていたものでつい」

 

 それが子供扱いしているのだと、杏寿郎と一緒に怪我人を運んで来た隠は思った。

 

「い、行きましょう姉さん」

「はいはい。ふふ、では煉獄さん」

 

 こくりと頷き、杏寿郎はもう一度頭を下げた。

 二人が出立するのを見送り、結局杏寿郎が怪我人を中へと運び入れた。

 

「こっちです。こっちのベッドに寝かせてください」

「うむ」

「ねぇ杏寿郎さん。柱ってそんなに凄いんですか?」

「む? そりゃあ鬼殺隊でもその実力は並外れているからな。どうした、急に?」

 

 愁蔵はテキパキと怪我の具合を確かめると、やって来た看護の少女にそれを伝えた。

 

「カナエさん、強そうには見えないんですよね」

「人を見た目で判断するものじゃないな。あの方は柱となるために、十二鬼月を倒したのだから」

「じゅうにきづき? なんですか、それ」

「うむ。鬼の中でも特に力を持った奴らの事だ」

 

 だからこそ、その鬼を倒す実力を持つ者たちだけが、柱となる資格を持つ。

 杏寿郎はそう説明した。

 

「カナエさん、優しくってぽわぁっとしてるから、そんな凄い鬼が倒せるようには見えないなぁ」

「はっはっはっは。だから人は見た目で判断してはならないと言うのだぞ少年」

「杏寿郎さんはどうなの? 柱になれそうなの?」

「俺か? ふぅーむ、どうかな?」

 

 柱になりたいとは思う。ならなくてはならないとも。

 だが今それが出来るかと言えば、少し不安だ。

 何せここ数回の任務では、夢乃の助力が無ければ死んでいたかもしれない案件もあったのだから。

 

 その時、窓の外に一羽の鴉が下りて来た。

 

「カァー」

「任務か?」

 

 現れたのは杏寿郎の鎹鴉。

 

「北ダ! 北ノ町デ子供バカリガ消エル事件ガ発生!」

「また帰れそうにないな。要、千寿郎への言付けを頼む。すまないが新しい任務が入って、兄は帰れないと」

「カァーッ」

 

 ばさばさと舞い上がり、鎹鴉が飛び立つ。

 その様子を見ながら愁蔵は「大変ですね」と呟くように言う。

 その愁蔵の頭を撫で、杏寿郎は笑みを浮かべた。

 

「これが俺の責務だからな。大変だとは思わぬさ」

「杏寿郎さん……あ、姉ちゃんのことお願いしますね」

「はっ!? や、やはり連れて来なければならないか?」

 

 忘れかけていたことを再び思い出させられて、杏寿郎は少し動揺した。

 

「いや、連れて来なくてもいいんだけど……あの、お礼を言ってください。俺の代わりに」

「礼?」

「はい……俺の姉ちゃんの死を悼んでくれて、ありがとうって」

 

 俯き、涙を堪えるその姿を、杏寿郎は愛おしいと思った。

 弟の千寿郎より少し年長だが、決して大人ではない。

 そんな子が家族の死を受け入れ、乗り越えようとしている。

 

 その健気さが、実に愛おしいと感じた。

 

「分かった。必ず伝えよう」

 

 杏寿郎はもう一度愁蔵の頭を撫でてから、鎹鴉の案内で北へと向かった。

 

 

 

 

 

 一方その頃夢乃は──

 珠世の下で定期的に行う検査を終え、町から町へと移動をしていた。

 その途中、休憩がてらに立ち寄った屋台である噂を耳にする。

 

「なんでも人足の話だと、北の町では子供が次々と神隠しにあってるって話だ」

「神隠しねぇ。今どきまぁだそんなの信じてる奴がいるのかよ」

「いやいや、子供が行方不明になってるのは本当らしいぜ」

「人攫いかなにかだろ? まぁそれだって物騒な話だけどよ」

 

 蕎麦をすすりながら夢乃はその話に耳を傾けた。

 確かに単純な人攫いというのもあるだろう。だが違う可能性もある。

 

(鬼か)

 

 鬼の中には偏食家も少なくはない。

 生娘だけを食べ続ける鬼や、赤子を孕んだ女だけを喰う、それから幼い子供だけなど。

 そう言った偏食鬼が人里に下りてくると、このような噂が出始めるのだ。

 たいていは噂にならない程度で他所へ移り、鬼殺隊の追跡を逃れようとするのだが……。

 

(我慢できなかったか)

 

 何人かの子供を喰い、味をしめ食欲が抑えられなくなるとこうなる。

 だが喰えば喰っただけ力を増すのが鬼なため、こうなるとある意味厄介でもあるのだ。

 

 夢乃はすっくと立ちあがり、屋台の台の上に銭を置いてから立ち去る。

 その足は北に向かって歩き始めた。

 

 

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