鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第二十七話:よもや

 目的の町へ杏寿郎が到着したのは、出立して三日後だった。

 既に町には数名の鬼殺隊士が入っていたようで、杏寿郎も彼らと合流することに。

 

「それで、夜は交代で見回りをしているんだけど、鬼は全然現れなくって」

「俺たちが来て怖気ついたんじゃないか?」

 

 と話す鬼殺隊士だが、杏寿郎はそうは思わなかった。

 果たして鬼殺隊が来たからと言ってご馳走を諦めるだろうか。

 

 鬼がこの町に来たのにも訳があった。

 ここには明治の時代から大きな学び舎がある。全寮制のその学び舎には、地方の富裕層からも子供を預けて勉学を学ばせる家も少なくはない。

 調べによると、ざっと二百人近い十三歳以下の子供がいるとか。

 

「子供ばかりが狙われたのか?」

 

 と杏寿郎が問えば、先に町へと到着していた隊士は頷く。

 

「俺たちがここに到着するまでに、十人消えている。全員子供だ」

「学び舎の子供たちか?」

「いや、限定されてないよ。十人中四人はそうだけどね」

「では範囲を絞り込むことはできないか」

 

 学び舎の子供だけが狙われていれば、鬼はそこにいるかもしれない──と思ったのだが、どうやらどうではないらしい。

 ならば夜な夜な見回りをして、鬼がしびれを切らせて狩りに出たところを見つけるしかない。

 

 その夜、杏寿郎はさっそく見回りに出た。

 もうひとり別の隊士が同行し、二人で夜の町を歩く。

 

「この辺りは電柱だけ立って、線はまだなんだな」

「電気の通っている町は、そう多くはないだろう。俺の生家のある村もまだまだだ」

「俺ん家もそうさ。だけど都会に行くと凄いよな。建物は高いし、夜でも明るいし。人はいっぱいだしで、ちょっと目が回る」

「はははははは。かねがね同意だ」

 

 電気が無ければ、夜の人通りはほとんどない。

 そんな中、二人肩を並べて歩きながら他愛もない会話が続いた。

 

 何時間も練り歩き、杏寿郎と一緒に見回りをしていた隊士が「足が疲れたな」とそう言った時だった。

 

 風に乗ってほのかに血の臭い流れて来た。

 

 杏寿郎は瞬時に判断して駆ける。だがもう一人の方は彼が何故走り出したのか分かっていない。分からないなりに追いかけると、行きついた先はこの町にある学び舎だった。

 

「やはりここなのか!」

「え? え? な、なんのこと?」

「そうか、君には感じないか。この中に鬼がいることを」

 

 感じるわけがない、と隊士は内心そう思う。

 生まれた時から鬼狩りの者となることを定められた煉獄家の者と、普通に生まれ育ち、その過程で家族を失い鬼殺になった自分とでは違い過ぎる。

 煉獄はなるべくしてなった存在だが、自分は出来ることならこうはならずに生きたかったとすら考えた。

 

 しかしその杏寿郎が立ち止まる。

 そして振り返り、仲間の隊士を見た。

 

「直ぐに残りの者を連れて来てくれ」

「え? 俺たちだけじゃダメなのか?」

「……分からん。だが鬼の気配が一つではない気がする」

 

 気配が一つではない。そう言われて隊士は怖気づく。

 複数の鬼が共存することは滅多になく、彼も今まで見た鬼は全て単独であったから。

 

「早く!」

「わ、分かった……き、気を付けろよ、煉獄」

 

 走り去る隊士を見送りはせず、杏寿郎は左手で刀の鞘を掴んで学び舎に潜入する。

 もちろん門は閉まっているため、そこを飛び越えて中へと入った。

 

 大きな中庭に、建物は近代的なもの。

 鬼の気配は奥のほうから感じる。その気配のほうへと向かうと、三階建ての建物があった。

 

(大きいな。ここが寄宿舎だろうか?)

 

 気配はこの中からするが、鬼殺隊である杏寿郎が近くまで来たというのに静かなものだ。

 どこか中に入れる場所はないかと杏寿郎が探していると、二階の窓が一カ所だけ開いているのが見える。

 

(誘っているのか?)

 

 だとしても他に入る場所がないのならば入るしかない。

 それにもたついていれば犠牲者が増えるだけなのだから。

 

 都合よく空いた窓の横には一本の桜の木がある。杏寿郎は軽々とそこまで登ると、枝から窓へと飛び移った。

 みしり──と僅かに音がしたが、建物内に動くものはない。

 そこは長い廊下。

 壁には西洋ランタンが飾られ、今も蝋燭に火が灯されていて明るい。

 

(鬼の気配は三階か)

 

 出来れば今すぐ大声で、ここで眠る子供たちを避難させたいと思う。

 だが騒げば鬼が逃げ惑う子供たちを喰らうかもしれない。

 

(誰一人、これ以上の犠牲は出さないっ)

 

 左手は鞘に置いたまま杏寿郎は歩き出す。登り階段を見つけ、一歩一歩上がっていくと──

 

「こんばんは」

 

 階段上からそう挨拶する子供の声が聞こえた。

 ふと顔を上げると、階段上には歳の頃十歳ほどの少年が立っていた。

 

「夜更けに起きていては先生に叱られるぞ」

「ふふ、大丈夫。ここには大人はいないから。それよりお兄さんこそ、勝手に入って来ちゃダメだよ」

「むぅ。確かに……許せ少年。だが俺にはやらねばならぬことがある。そこを通して貰おうか」

 

 少年の気配は人だ。

 だが臭いがする。

 鬼の臭いが少年の体から僅かに漂ってくる。

 そして少年はまるで杏寿郎をこの先に行かせまいと、階段の上に立っていた。

 

「通してあげてもいいけど、その腰の刀は預からせて欲しいな」

「断る。これは鬼を滅するためのもの。子供に持たせる玩具ではない」

「鬼? ふふ、ふははは。何言ってるのお兄さん。鬼なんて、そんなの夢物語じゃないか」

「ならば帯刀したままでも問題なかろう」

 

 押し通そうとする杏寿郎に、少年の顔がみるみる変貌していく。

 

「それを持ったままじゃあ、通さないって言ってるんだよお」

「何故人の身で鬼を匿う」

「いいでしょお、そんなのお。お兄さんに関係あるの?」

「ある! 俺は鬼殺隊隊士だからな!!」

 

 一気に駆け上がる。

 少年は驚いたように後ずさり、だが直ぐに階段手摺の壁に隠してあった斧を手にした。

 

 階段上から斧を振り下ろすが、それは杏寿郎に当たることはない。

 上り切ったところで少年の斧を持つ手に手刀を叩き込む。

 

「うっ」

「子供が、こんな物騒な物を持つものではない」

「ぎいぃ!」

 

 今度は手を振り周り、その爪で杏寿郎を引っ掻こうとする。

 

「これではまるで鬼だな。だが──」

 

 鬼ではない。この少年は人間だ。

 それ故斬る訳にもいかず、杏寿郎は少年の爪を躱すに留める。

 

 鬼の気配は少年の向こう側にあったが、やや上の方だ。

 

(屋根裏部屋でもあるのか?)

 

 などと思っていると、杏寿郎の背後にある部屋の扉が開いた。

 

(む。眠っていた子供たちを起こしてしまったか)

 

 と思ったがそうではないらしい。

 部屋から出て来た子供たちは、手に斧や鉈を持って出てきたのだ。

 

「よもや他にも鬼の手先がいようとはな」

 

 ふらり、ふらりと出てくる子供たちの目は、どこか遠くを見ているようで表情が読みづらい。

 それが杏寿郎を見るなり怒りに震えだす。

 

「邪魔しないでよっ」

「僕たちの邪魔をするな!」

「鬼様は私たちのために、邪魔な子を食べてくれているんだから!」

「邪魔な子? ではお前たちが犠牲になった子らを鬼の下へ!?」

 

 血鬼術だろうか。これだけ大きな声を出そうと、下の階では誰も起き出してこようとはしない。

 眠らされているのか、それとも音が消されているのか。

 

 一瞬の判断で杏寿郎は鬼の気配のするほうへと駆け出す。

 少年が行く手を塞ぐが、壁を蹴り、少年の頭上を飛んだ。

 

「あっ」

「すまぬな、少年。君たちと鬼ごっこをしている余裕はないのだよ」

 

 杏寿郎がそう言うと、突き当りまで一気に駆けた。

 だが屋根裏へと上がる場所が見つからない。

 

「むぅ……これでは鬼の下まで普通(・・)には上がれぬな」

 

 出来ればあまり建物を壊したくはないし、大きな音も立てたくはない。

 といっても今更である。

 

 杏寿郎は刀を構え、それから腰を落として──舞う。

 跳躍した彼は天井を斬り、そのまま上に上った。

 

 屋根裏は暗く、明り取りの窓から月光が僅かに差し込むのみ。

 その月光に影が浮かびあがる。

 

「ったく、使えねぇガキどもだ。ひとりぐらい喰っとくか」

 

 浮かび上がった影には腕が四本あった。

 

「異形の鬼……か」

 

 杏寿郎は刀を構えると、呼吸を整えた。

 

 

 

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