鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第三十話:座敷牢

「ここを使ってくれ。ここは煉獄家が所有する山で、今はまぁこの通り荒れ放題なのだが……」

 

 杏寿郎が生家へと戻る途中、駒澤村近くにある山林へと夢乃を案内した。

 ここは代々煉獄家が所有してきた土地で、二百年ほど前は少し分け入った所に小さな屋敷もあったのだが──今はただのあばら家となっている。

 夢乃を連れ訪れたのはそんなあばら家で、座敷牢もあってそこなら日中でも陽は当たらない。

 

「俺も幼少の頃にここに来たのだが、その時は……お化け屋敷かと思ったほどだ!」

「そんなところに私を連れてくるのか、お前は……鬼だな」

「いや! 俺は人間だが!?」

「……掃除が必要そうだ」

「うむ! あとで掃除道具を持って来よう。他になにか必要なものはあるか?」

 

 他にと言われ、とにかく掃除を済ませてからでないとどうにもならないと夢乃は答える。

 

「ふははははは。確かにな! では俺は一度家に戻る。千寿郎が心配しているだろうしな」

「……弟か?」

「うむ! 今年で十になる」

「そう……なら、早く帰ってやれ」

 

 そう言って夢乃はあばらやの戸の立て付けを確認する。

 残念ながらすんなりとは開かないようだ。

 

 はぁっとため息を吐きだすと、杏寿郎が隣に立って戸を外してしまった。

 

「まぁ今はこれで」

「さすがに大工経験はないぞ……」

「むぅ。俺もない!」

「いいから早く帰れ。うるさい」

「むぅ……ではまた来る」

 

 踵を返し帰る杏寿郎を、夢乃は見送る。

 その胸に人であった頃の記憶が蘇った。

 

(十か……龍太郎と同じ歳だな)

 

 夢乃の父と、母、そして弟の三人は鬼に喰われて死んだ。

 末端とはいえ将軍家に仕え、片手間に剣術道場を開いていた父は、剣豪と呼ばれるほどではなかったが決して弱くもなかった。

 その父はあっけなく鬼に殺され、母も、まだ幼かった弟もみな喰われた。

 

 たまたまその日、夢乃は嫌々通わされていた琴の稽古が長引き、帰りが遅かったことで命拾いをした。

 

 杏寿郎の弟が、自分の弟と同じ歳だと知り胸を詰まらせる。

 自身の弟のことを想って。

 

 

 

 

 

「兄上、そんなものを持ってどちらに向かわれるのですか?」

 

 煉獄家の朝は早い。まだ陽が昇り切る前に起きて朝餉の支度をしていた千寿郎は、帰宅した兄の姿を見て喜んだ。

 ──が、その兄は何故か箒や雑巾を手に立っている。

 

「む! ……表の通りを掃除しようと思ってな!」

「ですが兄上、雪が積もっていますので掃除は……」

 

 杏寿郎は帰宅して早々、納屋へと向かい掃除道具を持って出かけようとしていた。

 無事を知らせるために千寿郎に声を掛けたのだが、そのせいで今のこの状況になっている。

 

「ゆ、雪かきをするのだ!」

「え、でもそれ箒ですよね?」

「ぐっ……せ、千寿郎。この不甲斐ない兄を見逃してくれ!」

 

 そう叫んで杏寿郎は走り出した。

 

「あ、兄上!?」

「直ぐに戻って来るっ」

 

 駆けだした杏寿郎は早く、千寿郎は早々に追うことを諦めた。

 門を出て行った兄の足跡は山林に向かっている。

 

(もしやあの古いお屋敷の掃除を?)

 

 その屋敷──今は夢乃がいるあばら家のことを、千寿郎も知っていた。

 杏寿郎は幼い頃に母から教わりひとりで見に行って、お化けでも出そうだと恐ろしくなって引き返し、母亡きあと、つい二年ほど前に千寿郎を連れて訪れたことがある。

 その時も結局外から見ていただけで中には入っていない。なにせ千寿郎が大泣きするから、おぶって帰ったほどだから。

 

 いったい今更、何故あそこを掃除しようなどと思ったのか。

 さすがに千寿郎にも兄の考えが分からなかった。

 

 その兄、杏寿郎は膝下まで積もった雪をもろともせずに疾走している。

 急いで掃除道具を届けて、せめて戸の立て付けだけでもどうにかして帰ろうと考えていたから。

 ほどなくして山林に到着する頃にはすっかり陽も昇り、夢乃の姿は外にはなかった。

 

 あばら家の周りは雑草や木々が散乱しているものの、建物がある分開けてはいるので陽の当たる場所は多い。

 

「夢乃!」

 

 外した戸口から中へ入り、躊躇いながらも草履を脱いで上がると、まずは陽の当らない部屋を探す。

 何度か名を呼ぶと、奥から「うるさい」という返事が返って来た。

 彼女がいたのは太い格子に囲まれた狭い部屋、座敷牢だ。

 壁には明かり取り用の小さな窓があり、今そこは開け放たれている。

 差し込む日差しを避けてか、夢乃は部屋の隅に背を預けていた。

 

「お前……草履は?」

「脱いだが?」

 

 尋ねた夢乃は草履を履いたままだった。

 畳の隙間からはぺんぺん草が生え、そもそも腐ってまともに歩けもしない。

 だから草履を履いたまま夢乃は上がって来たのだが、この屋敷の持ち主である煉獄家の者が脱いでいたのではバツが悪い。

 なんとなくその場で草履を脱ごうとして、杏寿郎が止める。

 

「そのままで! 正直俺もどうかと思った。思ったがもし君が草履を履いていないとするなら、失礼かもと思って脱いだまでだ。今から履いて来る!!」

 

 と声を上げ引き返して行った。

 戻って来た時にはしっかり草履を履き、それから改めて掃除道具一式を床に置く。

 

「むぅ。畳の張替えも必要か」

「必要ない。どうせ使うのはここだけなんだ、戸口からここまで、歩きやすいように板でも敷いておけばそれでいい」

「そうか。ならこの中だけでも綺麗にしないとな」

 

 そう言って箒を掴んだ杏寿郎だが、夢乃が手を上げ止めさせた。

 

「お前は帰れ。弟が待っているのだろう」

「しかし」

「いい。どうせ日中は外にも出れず暇なのだから、ここの掃除ぐらいひとりでやれる」

「むぅ……暇つぶしを横取りしてはいけないな。分かった、俺は帰ろう。またあとで来る!」

 

 どこか寂しそうに、だが直ぐに楽しそうに杏寿郎は笑って草履のまま畳の上を歩いた。

 時々腐った部分に足を突っ込み穴を開けていたが、次来るときには足場用の板を持ってこようと誓う。

 

 ひとりになったところで夢乃は箒を片手に掃除を始めた。

 

(煉獄家の屋敷だというが、なんで座敷牢なんかが?)

 

 わざわざ本宅から離れて、こんな山林に別宅を建てた理由はなんだろうと考える。

 座敷牢──とは言ったものの、床は土で固めただけで畳ではない。

 今回はそのほうがよかったとも言える状況だが、これでは完全に奉行所での罪人を入れておく牢とまったく同じだ。

 

 なんのための屋敷なのか。

 

 それは次に杏寿郎がやって来た時に分かった。

 

 陽の沈むのが早いこの季節、夕刻とはいえ外はもう暗い。

 ひょっこり現れた杏寿郎は、長い板を手に家の中へ。さっそく足場用の板を持って来たのだが、枚数が足りない。

 

「むぅ。まだまだいるな」

「もう持って来たのか……それより煉獄。この屋敷はいったいなんの為にこんなところに建てられたんだ?」

「む、話していなかったな。ここは我がご先祖が、同じ鬼狩りの仲間たちに提供していた屋敷だ」

 

 で、この座敷牢なのだが──

 

「俺も分からん。母上からはただ、昔は鬼殺隊隊士の宿泊施設として使われていたとだけ聞いていたのでな」

「……各所にそういう屋敷は点々としていたが、ここもそうだったのか」

 

 ただ夢乃が知るかぎり、座敷牢のある建物は見たことがなかった。

 

(もしかすると、捕まえた鬼を閉じ込めておくため?)

 

 弱い鬼はわざと捕獲し、藤襲山の藤に囲まれた場所で解き放つ。鬼殺隊に入隊するための、最終選別のためにだ。

 

(ま、だとしても鬼を閉じ込める目的の場所なら、日光の心配もしなくて済む。こいつも知らずに案内したのだろうけど、わざわざ教えてやる必要もないな)

 

 あらかた終わった掃除も、あとは室内の換気をして終わる。

 もっとも掃除をしたのは座敷牢とその周りだけだ。

 

「休むときはこれを使うといい。明日、掛け布団を持ってこよう」

 

 杏寿郎は背負っていたござと布団を降ろし、更に自分が着ていた綿入れの着物を脱ぐ。

 座敷牢にござを敷き、その上に布団を乗せた。

 

「そんな大きな荷物、よく持ち出せたな」

「うむ! 千寿郎に見つからないよう出てくるのに、苦労したな。はははははは」

「分かったから帰れ。そろそろ夕餉の時刻だろう。心配するぞ」

「そうだな、そうするとしよう。あぁ、あと蝋燭も持って来た。置いて行く」

 

 杏寿郎は提灯を手に屋敷を出て行った。

 窓からその灯りを見届けたあと、

 

「蝋燭……火打石もないのにどうやって火を点けろと?」

 

 と、夢乃は首を捻った。

 

 




現在執筆しているのは、蜜璃ちゃんが煉獄さんのところに弟子入りするところ。
もうすぐ外伝が出るので、どういう経緯で炎柱になったのかようやく分かる。
外伝を踏まえて、あまり改変せずにゆんのを加えたぐらいでうまく書けるといいなぁ。
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