「今年の雪は、これで終いですかね?」
「だとよいのだがなぁ」
などと話しながら、煉獄家の兄弟は朝から雪かきに精を出す。
昨夜から降り続いた雪は十五センチほど積もり、玄関から門まで、更に門の周辺と歩きやすいように除雪していく。
周辺に住む年寄りたちのために、他の家々もこのあと回る予定だ。
「ふぅ。とりあえず我が家はこれでよし!」
「はいっ」
「千寿郎、朝飯にしよう。その後でご近所を回ればよいだろう」
「そうですね。お味噌汁、温めてきます」
二人は屋敷へと入り、千寿郎は台所へ、杏寿郎は居間に置いてある火鉢に炭を追加して部屋を暖める。
やがて千寿郎がお膳を運んでくると、一緒に運ばれてきた母、瑠火のための仏飯を別室にある仏壇へと供えた。
食前にまず仏壇へと手を合わせ、亡き母への挨拶を行う。
「母上、今日は雪がたんと積もりました」
「とても寒いです」
「うむ。寒いです!」
「ぷふっ」
仏壇に手を合わせ、兄弟は噴き出す。
すぐに真顔に戻って目を閉じると、暫くじっとそうする。
「よし。冷めないうちに俺たちも食べてしまおう」
「はい」
仏間から居間へと戻り、二人は横に並んで朝餉を食す。
食後はまずどこどこの家から雪かきをしよう、昼は何を食べよう、夜はなにをしようと話し合う。
「今日雪かきしたところに、また雪が積もったら……」
「むぅ……それは悪夢のようだな!」
「三月になりましたが、今年は少し冷えるような気がします。桜の季節も、遅くなってしまうのでしょうか?」
「まだまだ三月に入ったばかりだ。これから急に暖かくなるやもしれんぞ」
「だといいですねぇ」
家族の食事には、今日も父の姿はなかった。
一応声は掛けたものの「いらん」の一言で片づけられている。
そんな言葉を投げかけられても、兄の杏寿郎は表情を崩さず、弟の千寿郎はぐっと堪え、兄がいてくれることに感謝した。
二人は朝食を終え、片付けまで済ませてからご近所周りを始める。
力任せに雪を放り投げる兄が大まかに雪かきをすると、弟は兄の歩く後ろから残った雪を端に寄せていく。
二人が歩いた後には道が出来、買い物に出かけようとする近隣の者たちがその道を通る。
そうして昼が近づく頃には、煉獄家を中心とした地区だけは歩きやすい道が出来上がっていた。
「ふぅー。よし、帰るか!」
「は、はい」
「千寿郎、大丈夫か? 長時間雪かきをしたが、熱は出てないか?」
「大丈夫です! これぐらい、平気です!」
懇願するような目を兄に向けると、その兄は弟の額に手を乗せる。
それからニっと笑って「うむ! 熱はない!!」と、嬉しそうに報告した。
千寿郎も笑い、二人は揃って帰路へ着く。
途中、近所に住む者たちから感謝されながら、それを笑顔で応えて。
「千寿郎、昼は二人で飯屋にでも行くか?」
「え?」
「今から用意するのは大変だろう」
「……じ、じゃあ、外で」
「うむ! 何を食べようか。寒いから温かいものがいいな!!」
二人は屋敷へ戻ると、まずは着替えて綿入れを着こんで再び外へと出た。
杏寿郎がうどん、蕎麦、鍋と、次々に候補を上げていく中、千寿郎は「兄上が食べたい物で」と答える。
「むぅ。俺が食べたい物か……」
「はい。兄上が今一番食べたいものは、なんですか?」
と聞かれ、杏寿郎はなんの迷いもなく、
「全部だな!」
と答えた。
千寿郎の笑顔が固まり、「やっぱり」と呟く。
「よし! では鶴屋へ行こう! そして鍋すきうどんと蕎麦を注文すれば万時解決だな!!」
「その二つで、兄上足りますか?」
「……足りないな! はははははは」
「で、結局お品書きにあったものを半分ほど注文したのだ!」
「はぁ……」
陽が暮れて、山林のあばら屋では、そう話す杏寿郎の姿があった。
聞かされているのは夢乃で、その表情は呆れているとしか言いようがない。
「今夜は星が出ているな。これなら雪は降らなさそうだ」
「そろそろ雪の季節も終わるだろう」
「うむ! 雪が終われば次は春。そして花見の季節だな!」
どうせ食べることしか考えていないのだろうと、夢乃は内心思った。
「毎年、俺は千寿郎と花見をしている! 今年はどうだ? 一緒に見に行かないか!」
「は? お前、私に塵になれと言っているのか?」
「ち、違うっ。夜桜だ、夜桜!」
慌てて言いかえる杏寿郎に、夢乃は冷ややかに「行かない」と短く答える。
「むぅ……」
「だいたいお前の弟と、なんで一緒に夜桜見物に行かねばならないのだ」
「むぅ……」
「むぅじゃない。弟に私が鬼だと悟られたら、どうするつもりなんだ。自分の兄が鬼と繋がっているなどと勘違いしたら、どうするつもりなんだ?」
「しかしそれは、誤解を解けばよいことで」
杏寿郎の言葉を、夢乃は
「面倒くさい」
と、そう切り捨てた。
一言で片づけられてしまった杏寿郎は、唇を尖らせすんと拗ねる。
「千寿郎はいい子だぞ。兄の俺が言うのもなんだが……君はひとりっ子だったか?」
杏寿郎がそう尋ねると、夢乃は空を見上げて答えた。
「弟がいた」
「よもや! そうだったか。弟が──」
そこまで言ってから、杏寿郎はしまったと口を押える。
鬼殺隊に入るものの多くは、家族を鬼に殺されていることが多い。その復讐のために、鬼殺隊に入隊するのだ。
もちろんそうでない者もいる。杏寿郎もそんなひとりだ。
だが身内を殺された者が多いのも事実。
そして夢乃は元鬼殺隊隊士。
もし、彼女が身内を鬼に殺されていないのだとしても、鬼と化した者が人間と同じ時を生きられる訳もなく。
「すまんっ」
「え?」
杏寿郎は突然声を上げ、夢乃に対して頭を下げた。
「すまんっ。無神経なことを尋ねた」
そう言って頭を下げる杏寿郎を、夢乃は目を丸くして見ていた。
「お前のことも考えず、俺はぺらぺらと千寿郎の話ばかり聞かせていた。すまん」
「……百年以上も前のことだ。生きていなくて当然だろう」
それでもと、杏寿郎はもう一度頭を下げた。
夢乃はそっと、杏寿郎の頭に手を添える。
結った髪をもさもさと触れ、それから一撫でする。
「別に……お前の弟の話を聞いたからといって、悲しいとか、辛いとか……まったくないと言えば嘘になるかもしれないが、だからと言って聞きたくないとも思わない」
「夢乃……」
撫でられた髪を抑え、杏寿郎は面を上げた。
穏やかな笑みを浮かべる夢乃の言葉に嘘はないと、杏寿郎には分かる。
「君がもし……もしも家族のことを誰かに話したくなったら、その時は俺が聞こう」
「は?」
「もし君が可愛い弟君のことを誰かに話したくなったら、俺がいくらでも聞こう!」
「いや頼んでないから」
「俺が聞く!」
堂々巡りになるのが目に見えているだけに、夢乃はそれ以上つっこむのを止めにする。
家族のこと、弟のことを誰かに話すなど、何十年としていない。
鬼になった当初は、珠世や愈史郎に語ることは何度かあったが。
「……龍太郎という。四つ下の弟だった」
「龍太郎か! よい名だ」
それだけだった。
夢乃が語ったのはそれだけであったが、杏寿郎はそれでも嬉しく思った。
今後登場する蜜璃ちゃんについて。
外伝を読んで、改めて時系列の矛盾を感じて悩んでおります。
1:外伝で煉獄さんが柱合会議に出席したのは桜の季節。同時に蜜璃ちゃんは鬼殺隊に入隊できた直後ぐらい。
2:蜜璃ちゃんは鬼殺隊最終選抜前から煉獄さんに指南を受けている。
3:原作14巻でお見合い破断は17歳ということになっている。
以上の点を踏まえると、時系列に狂いが生じます。
どこがどうなのかというと、煉獄さんと蜜璃ちゃんは1歳差です。
煉獄さん5月生まれ、蜜璃ちゃん6月生まれ。
桜の季節に柱合会議だと、一カ月後には誕生日ですね(煉獄さん)
その頃に柱になったと思いますので(怪我の完治をまったとしても6~7月の間)
18歳になってすぐ柱になったとして、その頃同時に蜜璃ちゃんが17歳の誕生日を迎えることになります。
あれ? 原作では17歳でお見合い破断→鬼殺隊に入ることを決めるとなっていますし、恐らくこの辺りで煉獄家に剣の指南を受けに来ているはずなんです。
でも……そうなると煉獄さん既に柱になってる時期じゃね?
外伝では一般隊士の頃に蜜璃ちゃんを鍛えてやって、最終選抜クリア後に久しぶりに指南してやって(本当は相談事にきていた)いますので、時系列崩壊です。
だからといって煉獄さん19歳で柱というのも無理があるんです。
炭治郎が本部に呼び出された時期が柱になって1年足らずになってしまいます。
更に煉獄さんより後に柱になった伊黒さんや蜜璃ちゃん、無一郎くんの三人が、怒涛の勢いで柱にならなきゃいけなくなります。
時期としては18歳になったタイミングがリミットといってもいいぐらいなんですよ。
例えば蜜璃ちゃんと煉獄さんが実は同じ歳であれば解決は出来ます。
炭治郎が呼び出された柱合会議が5月だとして、煉獄さんは既に二十歳。翌月になったら蜜璃ちゃんも二十歳であればなんとかなります。
ただそうなると14巻の回想シーンで矛盾が出てきます。
2年前の17歳で~という解説があるので。
さてさて、どうしたものか。
どこをどう弄っても原作と外伝との矛盾は埋められません。
ですので蜜璃ちゃんの「お見合い破断」の年齢を17歳→16歳に改変させていただこうかと思います。
なるべく原作に沿わせたかったのですが、矛盾を埋めるには設定をいじるしかないのでorz