鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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プロローグに登場していた愈史郎を引っ込めました。
いやぁ、愈史郎って35歳だったんですねorz


第四十話:煉獄の者として

 任務を終え、死人となった村人の埋葬にも協力し、隊士たちが山村を離れたのは昼をとうに過ぎてから。

 

「隠が来ないって、なんなんだよまったくぅ」

「はっはっは。仕方ないさ、そうぼやくな……えぇっと?」

「む・ら・た。村田だ」

「村田か! うむ、覚えた!! 他の地区での任務も重なっていたのだろう。隠の方々もあちこち飛び回って忙しいのだ。ご遺体の埋葬ぐらい、俺たちが手伝ってやれば済むことだったのだから、いいではないか」

「ま、まぁ、今回は遺体の埋葬しかなかったから、確かに俺たちだけで良かったけど……彼を蝶屋敷に連れていかなきゃな」

 

 と、杏寿郎に背負われた負傷の隊士を見る。

 毒抜きのために出血させたのはいいが、貧血と、そして怪我による高熱で今は眠っていた。

 

「杏寿郎。そいつは俺が蝶屋敷に連れていく」

「小芭内が?」

「こいつが油断をしたのは、俺の責任でもある。それに、お前は早く帰ってやれ。待っているだろう、千が」

「むぅ……では、任せていいだろうか?」

 

 伊黒はこくりと頷き、負傷した隊士は──何故か村田が背負った。

 杏寿郎に比べて明らかに小柄な伊黒は、線も細く、他人を担げるような男には見えない。

 と村田は思ったのだろう。

 

「すまない、村田」

「いや、重いけど、まぁいいよ」

 

 村田は照れ笑いを浮かべ、負傷者を背負って歩き出す。

 

「小芭内。彼を蝶屋敷に届けたら、きっと来てくれるな? 千寿郎に話せばきっと喜ぶだろうからな」

「明日には向かえるよう努めよう」

「約束だぞ!」

 

 そう言って杏寿郎は駒澤村へ向かって駆け出した。

 だが既に太陽は西の空に傾き、夕刻も近づく時刻。

 

(帰りつくのは陽が落ちてからだな……)

 

 そんなことを考えながらひた走る。

 やがて太陽が沈み、当たりが暗くなっても杏寿郎は駆けていた。

 

 

 

 

 

 駒澤村。

 陽が暮れてなお、弟の千寿郎は学び舎にいた。

 

「煉獄くん、悪かったねこんな遅い時間まで」

「いいえ、いいんです。それでは先生、僕はこれで」

「うん。気を付けてお帰り」

 

 学び舎の師に頼まれ、隣町まで一緒に書物の買い出しに付き合い、今しがた戻って来たところであった。

 

(もう真っ暗だ。早く帰らなきゃ、兄上が心配なさる)

 

 帰宅して兄が待っている訳でもないのに、千寿郎はそう考えて足早に自宅へと急いだ。

 電気の通らぬ田舎の村では、陽が暮れれば通りは暗い。

 民家の軒先に提灯があるとはいえ、照らし出される範囲は狭く心もとない。

 

 そもそも鬼は、火の光を怖がらないのだからなんの頼りにもならないのだ。

 

(でも、暗くなったからと言ってそこかしこに鬼が出る訳ではないし。大丈夫。大丈夫)

 

 千寿郎は自分にそう言い聞かせながらも、足早に家路へと着く。

 

 学び舎から煉獄家までは遠く、子供の足ではニ十分と掛かる距離。

 その学び舎を出て五分ほどしてからだろうか。

 

「た、助けてくれっ」

 

 どこからかそんな声が聞こえて来た。

 

 この時期は村はずれの桜が満開となり、夜桜を楽しむ村人の姿もちらほら見受けられる。

 千寿郎が進む通りを途中で曲がったずっと先に、その桜並木があった。

 

 酒に酔った村人同士、喧嘩でもしているのだろうか──と思って角をちらりと覗いた千寿郎は、そのまま足を止めた。

 

 どこかで見覚えのある中年の男と、まったく見覚えのない若い男の姿が見えた。

 中年男は蒼白な顔で腕から血を流し、若い方は異様なまでに伸びた爪でもうひとりを引っ掻こうとしている。

 

(鬼だ)

 

 千寿郎は本能的に悟った。

 煉獄家に生まれた者として、本能がそう理解させる。

 

「あ……兄上……」

 

 だがそこに兄、杏寿郎はいない。

 

「ち……」

 

 父を呼ぼうとして、そうしたところで呼びかけに応じてくれないかもしれないと不安がよぎる。

 いない者を、応じない者を呼んでも仕方がない。

 

(僕が……僕が……)

 

 助けなければ──自分は煉獄の者なのだから。

 そう言い聞かせ、千寿郎は足元に落ちる石を拾い上げた。

 

 狙い、

 投げる。

 

 放たれた石は弧を描くことなく真っ直ぐに鬼の頭へと命中した。

 

「んぁ? なんだぁ、今のは」

 

 ぐるりと鬼の頸が回り、目が合う。

 

「ひぐっ」

「あぁん? ガキかぁ」

 

 始めて見る鬼の姿に恐怖を感じ、千寿郎はガタガタと震えだす。

 鬼は今しがた襲おうとした男と千寿郎とを見比べ、そしてにたぁっと笑った。

 

「脂ぎってそうなこのおっさんより、お前ぇの方が美味そうだ。ひぎ、ひぎ、ひぎぎぎぎ」

 

 鬼がのそりと動く。その瞬間、千寿郎は我に返って叫んだ。

 

「逃げてくださいっ。今のうちに逃げて!」

「ひ、ひぃぃ」

 

 だが襲われていた男は立ち上がらない。

 恐怖で腰が抜けたのだろう。

 

(あぁ、ダメだ。あの人は動けない。だったら──)

 

 千寿郎は鬼が自分に向かって来ていることを理解し、踵を返して駆け出した。駆けながら鬼が付いて来ていることを確認する。

 

(兄上、兄上、兄上! 千はどうすればいいですか? このまま鬼を連れて、どこへ逃げればいいですか?)

 

 問うても答えてくれる者はいない。

 兄はいない。鬼を斬ってくれる者はここにはいない。

 父は……鬼殺の道から離れてしまっている。鬼を見て、刃を振るえるか分からない。

 

(でも、父上の日輪刀が家にはある! 日輪刀があれば、僕にだって──)

 

 鬼の頸が斬れる。

 

 そう思って千寿郎は駆けた。

 鬼に追いつかれぬよう、全力で。

 

「ひぎひひひひぃ。鬼ごっこかぁ? 鬼と鬼ごっこするのかぁ。いいさ、いいさ。頑張って逃げろ。悲鳴を上げて逃げろ。その悲鳴が心地いい」

 

 まるでもてあそぶかのように、鬼はつきつ離れずの距離で追いかけて来る。

 

 走って、走って。

 あと角を三つ曲がれば我が家というところで、夜桜見物にでもいくのか、若い女が二人歩いているのが見えた。

 

(いけないっ。すれ違えば鬼があの人たちの方に──)

 

 千寿郎は咄嗟に脇道へと入った。自宅から遠ざかる方向に向かってだ。

 鬼もその後を追ってやって来る。

 

(どこに逃げればいい? どこに──)

 

 ぐるりと通りを迂回して、それから父の日輪刀を取りに戻ろう。そう思って人通りのない道を選び、必死に逃げる。

 だが夜桜見物のために出歩く人がいて、思うように自宅へと近づけない。

 そして遂には──

 

「きゃっ」

「わっ」

 

 角を曲がった先で人とぶつかり、こけてしまう。

 

「いったぁい」

「大丈夫かい、綾女さん。おいこら坊主、危ないだ、ろ……」

 

 ぶつかった相手は女で、傍らには恋人らしき男もいた。

 その男が千寿郎に対して声を荒げたが、その勢いは一瞬にして衰える。

 

 千寿郎を追ってきた鬼の姿を視界に捉え、男の顔が蒼白に変わる。

 

「う、うわあぁぁぁっ」

 

 叫んで、男はそのまま逃げた。

 

「や、安二郎さん!?」

 

 男は女を置いて、ひとりで逃げてしまったのだ。

 

「げひひひひ。ガキと女だ。今日はいい日だなぁ。人間どもは外をうろついてやがるし、襲いやすいじゃねえかよ」

「ひっ」

「はや、早く逃げてっ」

 

 千寿郎が必死に叫ぶ。

 自らは立ち上がり、鬼と対峙するためにくるりと振り返った。

 

 その目の前に、

 鬼が立っていた。

 

「ぁ……兄……上……」

「怖いよなぁ? 鬼は怖いんだよなぁ?」

 

 怖い。

 だがそれを口には出さず、千寿郎は恐怖で震えながらも立ち向かった。

 

「うああぁぁぁっ」

 

 体ごと鬼に向かって突進し、少しでも女が逃げる時間を稼ぐ。

 

「早くっ、早く遠くへ!!」

「ひっ──」

 

 言われて女は走り出した。

 

「あっ、クソ逃がしやがったな」

 

 ばんっと鬼は千寿郎を突き飛ばす。その際、長く伸びた爪が千寿郎の額を裂き、血が舞う。

 

「うっ──こ、このおぉっ」

 

 再び千寿郎は鬼に掴みかかり、女を追おうとするのを防いだ。

 

「このガキ! ご馳走が逃げるだろうがくそがぁぁっ!!」

「離すものかっ。絶対に離すものかっ!」

 

 必死に喰らい付きながら、千寿郎はどこかで覚悟を決めていた。

 

 自分はここで死ぬ。

 

 だけど最後は、煉獄の者として立派に人を守って死ねる。

 

 それだけを誇りに、亡き母の下へ行こう。

 

「母上、きっと褒めてくださいますよね?」

「あぁ? 何言ってんだ、このクソガキ!」

 

 ザシュ──と、布と、そして肉とが断たれる音がした。

 千寿郎は腹に熱を感じ、そして見た。

 

 着物が裂け、その下にある腹も裂け、血が流れ出ているのを。

 

「ぁ……あぁぁ……」

「ひゃっはっはっは。痛いだろう? 苦しいだろう? 絶望しかないよなぁ。苦しみもがき、もう死ぬしかないよなぁ」

 

 痛い──

「痛く、なんか……ない」

 苦しい──

「苦しく、なんか……」

「あぁ? 強がりはよくねぇーぜ、坊主」

 

 鬼はその腕を伸ばし、千寿郎の頸を掴もうとした。

 千寿郎は目を閉じることなく、その焔の瞳で鬼を睨む。

 

「お前の頸はきっと、兄上が斬ってくださる!」

 

 目をカッと見開き、自信に満ちた眼差しを鬼に向けた。

 

「くっ」

 

 その瞳に気圧され、一瞬鬼がたじろぐ。

 が、その表情はすぐに狂気に満ち、爪を振り上げた。

 

 最後まで鬼を睨み続けようと見開いた焔の瞳に、振り下ろされるべき腕が宙を舞うのが映る。

 そして──

 

 季節外れの雪が舞い散るのも。

 

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