鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第四話:胸の痛み

 杏寿郎は鬼の女が落とした刀を拾い、そのまま真っ直ぐに産屋敷へと向かった。

 到着したのは陽がすっかり高くなってからの事。

 更に面会を申し入れ、それが叶ったのは夕暮れ刻だった。

 

「杏寿郎、待たせてすまなかったね」

「いえ! お呼びたてしたのは俺のほうですので!!」

「それで、私になにか用なのかい?」

 

 鬼殺隊現当主、産屋敷耀哉は柔らかな笑みを浮かべて杏寿郎に問うた。

 杏寿郎は夜の間に遭遇した鬼の女の報告をするつもりであったのだが、耀哉につられて笑みを浮かべると、まったく別の言葉を口にしていた。

 

「お館様! どうやら俺は恋をしたようです!!」

「……え?」

 

 沈着冷静な耀哉も、突然の杏寿郎の告白に困惑する。

 

「恋……誰かを好きになったということかい?」

「はい!」

「それは……良いことだと思うよ」

「ありがとうございます! お館様!! しかし相手は鬼なのです!!」

「え……」

 

 さすがの耀哉も、今の言葉には聞き捨てならなかった。

 鬼を滅する者が、鬼に恋をしたなどと聞いたことがない。

 

「杏寿郎、それは……」

「お館様! 鬼殺の刀を持つ鬼をご存じでしょうか?」

「鬼殺の……日輪刀を持っていたのかい、その鬼は」

「はい! この刀でございます」

 

 杏寿郎は鬼が落として行った刀を耀哉に差し出した。

 鞘に結ばれた紐も随分とほつれ、年季ものだというのが分かる。

 耀哉は受け取った刀を抜き、その刀身を確かめた。

 

 純白の刀身。

 

 それは日輪刀の中でも珍しい色だった。

 だが耀哉は知っている。

 この珍しい色をした刀を持つ、元鬼殺隊の女の事を。

 

(なるほど……杏寿郎は彼女に会ったのだね)

 

 耀哉は刀を鞘に納めて立ち上がると、杏寿郎にしばし待つよう伝えて奥の部屋へと向かった。

 産屋敷家当主となった者しか立ち入れない開かずの間。

 そこから耀哉は古めかしい文の束を持ち出した。

 

「杏寿郎。これを読んでご覧」

「手紙? これはお館様に宛てられたものですか?」

「そうだよ。だけど読めば分かる。君の質問の答えと、そして今君が知りたいと思っている答えがね」

「はぁ……では拝読させていただきます」

 

 杏寿郎は耀哉から文を一通手渡されると、それを開いて読み始めた。

 

 

 

 お館様。

 長い間、なんの報告もしなかったことをお詫びいたします。

 半年前に下弦の鬼討伐を成功させたものの、直後に現れた上弦の鬼によって、

 なす術もなく倒れてしまいました。

 

 死んだものと思っておりましたが、無惨の血を与えられ

 卑しくも鬼となって生きながらえております。

 悔しいかな、私は奴の顔すら拝むことなく鬼となったようでございます。

 

 ただ沈みゆく意識の中、血の一滴がどうとか言う声は聞きました。

 私に与えられた無惨の血は僅か一滴。

 それでも鬼として蘇るようです。

 

 なんとか自ら滅せられるものかと首を刎ねてはみましたが、

 やはり鬼なのですね。

 胴と首が分断されようと、私は死ぬことが出来ませんでした。

 日輪刀である我が剣でも、死ぬことができないのです。

 おそらくこの刀が私の血を啜ったことで、私自身に対して血の膜を張っているようなのです。

 ためしに他の鬼の首を切り落としましたところ、無事に滅することが出来ました。

 

 そこでお館様。

 満月の夜にうたかさの丘にある一本桜の木の下にて待機しておりますゆえ、

 鬼殺隊の誰かを寄こして私の首を刎ねるようご命令くださいませんでしょうか。

 

 万が一、その時になって私の自我が失われてはいけませんので

 御多忙であろうとは思いますが、柱の誰かを寄こしてください。

 よろしくお願いします。

 

 たかが下弦の鬼一匹葬ることしか出来ず、お役に立てなかったことを深くお詫びいたします。

 家族の墓を立ててくださったこと、本当に感謝のしようもございません。

 可能でありましたら、私の首を刎ねたのちに刀だけでも家族と同じ墓に収めて頂ければ有難く存じます。

 

 最後までご迷惑ばかりお掛けして、申し訳ありません。

 

 氷月 夢乃

 

 

 

「氷月……夢乃。それがあの鬼の名……」

「その文を書いたのはね、この雪のように真っ白な刀の持ち主なんだよ」

「これは……いつの頃のことなのでしょうか? 随分と古い文のようですが」

「うん。かれこれ百年ほど前だろうかね。江戸の後期の頃だよ」

 

 文には首を刎ねてくれという嘆願がなされていた。

 

 耀哉は残りの文を順番に渡して行った。

 

「持って帰って読むといいよ。ただ誰にも知られないように、いいね?」

「は、はい! では、拝借いたします」

 

 杏寿郎は耀哉に深々と頭を下げ、文を懐に入れてから踵を返す。

 だがあることを思い出し、再び耀哉へと向き直った。

 

「お館様。その刀は──」

「うん。随分と刃こぼれがしているからね、刀鍛冶の里に出そうと思うんだ」

「おぉ! それはきっとあの鬼──いや、氷月君も喜ぶでしょう!」

「そうだね。研ぎ終わったら、また杏寿郎に持たせるから、その時は彼女に返してあげて欲しい」

「承知しました!」

 

 杏寿郎は意気揚々と煉獄家に戻った。

 

 鬼の名前が分かった。

 彼女が何故鬼になったのかも分かった。

 彼女が何故日輪刀を持っていることも。

 

 知ってどうするのか。

 彼女は鬼だ。

 

 鬼ならば、この恋が叶うことなどない。

 

(それでも俺は……)

 

 杏寿郎は文を入れた懐に手を添え、僅かに胸の痛みを感じた。

 

 

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