鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第四十九話:拾ノ型──生生流転

 冨岡と鬼との間に、地面から巨大な氷柱が現れる。

 鬼の手から勢いよく飛び出した蝗はその柱に閉ざされ、爆発することなく氷漬けにされた。

 

「なっ──げはっ」

 

 突然鬼が悲鳴を上げる。

 その声を冨岡が耳にすると同時に、彼もまた何者かによって突き飛ばされ茂みへと倒れ込んだ。

 

「くっ……お前は」

「無様な戦い方をするな!」

 

 語気を荒げたのは、神輿行列に参加していた冨岡たちを襲った鬼の女──夢乃だった。

 

 彼女は怒っていた。

 目の前の男は煉獄杏寿郎と肩を並べる実力の持ち主であることは、先ほど襲う演技をした際に打ち合って気づいている。下手をすれば自分の頸が飛ぶと思って、全力で逃げたぐらいだ。

 

 だというのにこの男は、まるで自殺志願者かというような戦い方をしている。

 一矢報いようという、そんなものではない。

 自暴自棄な戦い方をするこの男の姿は、見覚えがある。

 

 自分なのだ。

 鬼と化し、失意から何度も何度も自らの日輪刀で頸を撥ねた。

 だが自身の血を吸った日輪刀では、何故か夢乃自身を死に追いやることは出来ず、今もこうして生きながらえている。

 死ぬ場所を求めて彷徨う自分と、今の冨岡は同じように見えて腹立たしい。

 

「鬼殺の者なら、生きて鬼を屠れ! それが──それが生あるものの務めだろう! 死ぬために刀を振るうな!!」

「なっ。き、貴様にそんなこと、言われる筋合いはない!」

 

 もっともな反論だ。まして夢乃こそ、百年の間ずっと死に場所を探し求めているのだから。

 それでも彼女が怒るのは、人として生きている者にそうあって欲しくないと願うからだろう。

 

「それとも、そんなに死にたいのなら私が殺してやろうか?」

 

 そう言って夢乃は、瞳を銀色に輝かせた。

 

「お前も大切な者を失くしたのだろう? その者らの下へ行きたいのだろう? 覚悟もなく、ただ流されて生きているだけなら、いっそ死ね」

「……お前……も?」

 

 夢乃の言葉に違和感を覚え、冨岡が呟く。

 銀色に光る夢乃の瞳を見つめ、その中に浮かぶ悲しみの色を見た。

 

「お前も……そう、なのか。だから鬼になったのか!?」

「……さぁ。どうだろうな?」

「俺はお前とは違う! 俺は人として生き、人として死ぬ!」

「だから殺してやろうと言っているのだろう。死んで、そして大切な者たちの所へ行って詫びるがいい。自分は何も出来ませんでしたとな!!」

 

 二人が同時に刃を振るった。

 火花が散り、刀と刀がぶつかり合う。

 二合──

 三合と打ち合い、そして、

 

「てんめぇークソ女あぁぁっ。人の獲物を横取りすんじゃねぇーぞ!」

 

 ぶぅんっと羽音がして、二人が同時に飛びずさる。

 

「次は雀蜂か。いったい虫を何匹飼っているんだ」

「無限だよ、無限! とりあえず頭は硬ぇーから、頭だけふっ飛ばしてやるわっ」

 

 一直線に飛んでくる数十匹の雀蜂に対して、冨岡は呼吸を整え刃を振るう。

 

「水の呼吸、参ノ型──流流舞い」

 

 流水が雀蜂を捉える。

 瞬間、起爆するものの水に威力を奪われ、また冨岡の人並外れた反射速度によってそれらを回避。

 

(致命傷を避けろ。爆発の威力は水の呼吸で相殺させる!)

 

 雀蜂の動きを読み、冨岡はギリギリのところで爆破を躱す。躱しながら鬼との距離を縮めた。

 

「くそっ。さっきとは動きが──血鬼術──鬼爆葬送!」

 

 再び小型の翅虫が鬼の手から飛び立つ。

 

「水の呼吸、肆ノ型──打ち潮」

 

 翅虫を掻い潜り、斬撃を繋げて甥へと迫る──が、さすがに数が多くて全ては打ち落とせない。

 雀蜂と比べて爆破の威力は低いが、何匹かをまともに喰らってよろめく。

 そこへ後ろから雀蜂の爆破に巻き込まれ、背中に激痛が走る。

 

「くっ──ああぁぁぁあぁぁっ!」

「はっはーっ。死ねよ、死ね死ねええぇぇっ!!」

 

 

 

 

 

 爆ぜる音がする方角に、杏寿郎は駆けた。

 仲間の隊士が合流したことで、怪我をした隊士二人と町の住民を任せて急いで山に登って来たのだ。

 

「冨岡あぁぁーっ!」

 

 その姿を見つけ、助太刀しようと抜刀する。

 が、直前でそれを阻止する者が現れた。

 

「下弦の鬼だ」

「夢乃!? 下弦だと!!」

「どうする? お前があれの頸を取れば柱だぞ?」

「はし──だが助太刀せねばっ」

「取れるだろう。ちゃんと(・・・・)やる気になったようだし」

「ちゃんと?」

 

 首を傾げる杏寿郎だったが、思いのほかこの夢乃が落ち着き払っているのでどうしたものかと考えた。

 視線を戦場に向ければ、冨岡はあちこち傷だらけになっているのが見える。

 致命傷はただの一つもない。

 あれだけの爆破を起こしていながら、全ては軽傷止まりだった。

 

「俺は……今はまだ柱になるつもりはない。下弦の鬼すら倒せる君から、五本に三本は取れるようにならねばその域に行けるとは思えない」

「五本に三本ねぇ。いい心がけといいたいが、そこは五本全てぐらい言えないのか?」

「むぅ。では五本に四本にしよう」

「一本増やしただけか……ま、どちらにしろ、まだまだだなぁ」

「うむ。まだまだだ。だから俺はここで見届けよう」

 

 話す間にも、杏寿郎の視線はずっと冨岡を追っていた。

 そして彼も確信した。

 

 勝つのは冨岡である──と。

 

「水の呼吸、拾ノ型──生生流転!」

 

 それが鬼殺隊冨岡義勇が、甲の隊士として最後に繰り出した技となった。

 

「冨岡! 君が十二鬼月を倒したこと、この煉獄杏寿郎がしかと見届けた!!」

「れんご──」

 

 声に気づいて振り向いた冨岡は、刹那──日輪刀を構え地を蹴った。

 

「しまった、夢──」

 

 杏寿郎の傍に立っていた夢乃に向かって、冨岡は日輪刀を振りかざす。

 その夢乃は小柄のようなものを十二鬼月へと投げ、それから杏寿郎を見る。

 

「氷の呼吸、弐ノ型──」

 

 夢乃は杏寿郎に目配せをして、刀を構える。その刃の先を杏寿郎に向けて。

 

「あれか!? 炎の呼吸、壱ノ型──不知火!」

「──冷蒼蓮華」

 

 炎と氷がぶつかり合い、溶かされた氷が水蒸気となって辺りに立ち込めた。

 

「煉獄!?」

「大事ない、冨岡。だが不甲斐ないことに、鬼の女を逃がしてしまったらしい」

 

 冨岡は声を頼りに駆け付けた。

 が、その足はもつれ、逆に杏寿郎から支えられることになる。

 

「十二鬼月と戦ったばかりだ。君は限界であろうし、ひとまず山を下りよう」

「すまない……すま……」

 

 ふいに冨岡の体から力が抜け、彼は気を失ってしまった。

 

「君も容赦なく手刀を打ち込むな」

「お前と違って、私はこいつの仲間じゃないからな」

 

 悪びれた様子もなく、夢乃が右手を振る。

 蒸気で視界が塞がれたのは杏寿郎と冨岡だけ。鬼の目を持つ夢乃にはしっかりと見えていた。

 

「致命傷はないが、ま、少しだけ治療をしてやっておくか。血鬼術──治癒再生」

「君は本当に優しいな!」

「はぁ? いや別に優しくはないし」

「君は優しい!」

「うるさい。黙れ。この男が目を覚ますだろう」

 

 そこで杏寿郎は口を閉ざし、冨岡が治療される間ずっと体を支えてやった。

 完全には治療せず、傷は少し残しておく。

 

 終われば冨岡を杏寿郎に任せ、夢乃は十二鬼月がいた辺りへと向かった。

 

「君はさっき、鬼に向かって何かを投げていたようだが」

「ん、これだ」

 

 地面に転がるのは、針のついた細長い筒状のもの。中には赤い液体が入っているように見える。

 

「それは?」

「血だ。さっきの奴のな」

「血? 鬼の血なんぞ集める趣味でもあったのか?」

 

 そう問われ、思わる夢乃は杏寿郎を見た。

 

「そんな変質者のような趣味はない! これはある人の所に届けて……あぁとにかく。そうだ、私は暫く駒澤には戻れないから」

「し、暫く? 戻れないとはいったい?」

「これを届けるためだ。無惨を倒すための……まぁ研究みたいなものだ」

「鬼の血を使って研究?」

 

 夢乃は頷き、届ける相手は定期的に住処を変えるので、まずは探すことから始めないとならないからそれに時間が掛かると説明した。

 

「帝都付近の町なのは間違いないんだ。まぁ遅くとも一月以内には見つかると思う」

「どこに住んでいるのかも分からない相手に届け物とは、なかなか大変だ……一月!? そ、それでは……」

 

 突然焦りだす杏寿郎に、夢乃は首を傾げる。

 

「半月……いや、二週間以内に戻ってはこれないものだろうか?」

「二週間? 何かあるのか」

 

 何か──と問われれば、杏寿郎にとって大事なことがある。

 己が生まれた日が近いのだ。

 

 祝って欲しいとは思うが、それ以上に傍にいて欲しいと願う。

 

 それを言ってしまえば、鼻で笑われてしまうのではと思って口に出来ないでいると、

 

「う……うぅ」

「と、冨岡!?」

 

 支えていた冨岡の意識が戻ろうとしていた。

 

「二週間ねぇ……直ぐに見つかれば戻れるかも」

 

 そう言って夢乃は夜の闇へと消えた。

 

 

 




夢乃が冨岡さんとまったり語る時が訪れたとしたら・・・

きっと夢乃は拳骨を握ってピキピキさせるんだろうなぁ。
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