鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第五十三話:音柱

「では、鬼は村を囲む山のどこかにいると?」

 

 夕方前になると残りの一般隊士が到着し、一般隊士六人と音柱の計七人で任務にあたることとなった。

 

「鬼の数は三だ」

 

 音柱がそう言って指を立てる。

 

「群れ?」

 

 という質問が隊士から出ると、宇随は首を振った。

 

「いや。どうもそうじゃねーようなんだ。それぞれ別の山に潜んでやがるんだが、どれか一匹を狩ろうと山に入れば、残りの二匹が下りて来て村人を襲う」

「天元様が山に入るのを、あいつら待ってるです。ほんっと嫌い!」

「その時はなんとか私たちが時間を稼いでいる間に、天元様が戻って来てくださったけれど……」

「とはまぁそういうことで、俺ひとりじゃド派手に暴れられねぇ。お前ら三組に分かれて、二組はそれぞれ別々の山に入って鬼の頸を取って来い。残りは村で念のため警備だ」

 

 しかも山と言っても、どのあたりに潜伏しているのかもさっぱり分からない。

 全員で山に入れば、鬼はその隙をついて村に下りてくるだろう。

 だから山に入る者、村に残る者を決めなければならない。

 

「よし、お前とお前、で、お前と──」

 

 音柱はさっそく組み分けをしていく。

 杏寿郎は(ひのと)の隊士と組み、一番険しい山に入ることになった。

 

「俺様は村でどーんっと構えて待っててやるからよ」

「え? 音柱様が居残りなんですか!?」

「マジかよぉ」

 

 隊士から抗議にも似た声が上がる。

 やれやれと言った顔で宇随が口を開こうとしたが、その前に大音量が響いた。

 

「もし俺たちが山に入った後、鬼殺隊がいなくなったのを見計らって鬼どもが村にやって来るかもしれない! そうなれば同時に複数の鬼と対峙することになるのだ!! 村での戦闘では、村人を守りつつ行わなければならない! つまり、それだけ負担は大きくなるのだ!!」

 

 焔の瞳をキラッキラさせ、杏寿郎が力説する。

 

 まだ何か言おうとする彼に向かって、宇随が子供をあやすようにその頭にぽんっと手を置いた。

 

「……分かったから、お前ぇ声デカいって。はぁ……まぁ鬼どもが村に下りてこなきゃそれはそれで、俺が楽っつーか。ま、お前ら、ド派手に山上りしてこいや」

「とはいえ、彼らは到着したばかりですよ天元様」

「少し休ませてやったほうがいいんじゃないですか?」

 

 女房たちがそう言うので、今夜は宇随と杏寿郎の二人が村の巡回をするだけで山には入らないことに。

 

「では俺は、明るいうちに村を一周してこよう!」

「は? お前、昼からこの村何周したんだよ?」

 

 宇随に問われ、杏寿郎は指折り数える。

 

「二十三周だ!」

「いやいや、覚えてんのかよ。ってかなんでそんなに走ってんだ?」

「一つは村周辺の地形を頭に入れるためだな! もう一つは鍛錬にもなるからだ!!」

「……元気だねぇ。にしてもだ……煉獄、お前の呼吸だが」

「む? 呼吸がどうかしたか!?」

 

 宇随はすっくと立ちあがり、杏寿郎を見下ろした。

 

「んー、なんだろうなぁ。常中のようだが、常中ではないような?」

「そうだな! 常中だが、そうではないとも言える!! 俺もまだ上手く分からないのだ。だから説明も出来ない!!」

「あ、そう。晩飯までには戻って来いよ」

「承知した」

 

 民家を出た杏寿郎は、まずは深呼吸をしてから集中する。

 深く、ゆっくり呼吸を整え、自らの心の臓を意識した。

 

 ぐるぐるとうねる炎を纏うように、熱を帯び、体温が上昇していくのを感じる。

 

「よし」

 

 それから駆けた。

 全力を出せば息が持たないのはよく分かっている。

 だから七割の力で走り、全集中、常中の羅刹状態で村を周回。

 

「険しい山とは、あれのことか」

 

 と、山の一角を見つめて呟いた。

 ここから見ても分かるほど、切り立った崖がいくつも見て取れる。

 

(なかなか、見つけるのに苦労しそうだ)

 

 村を凹型に囲うような山々。こちらから山へ入れば、鬼からはその様子がよく見えるのだろう。

 宇随ひとりの時は、彼が山へ入れば守る者がいなくなって村人も襲い放題だったのだ。

 柱であっても別々の場所にいる鬼を、同時に倒すことは出来ない。

 一匹倒す間に村人が何人も食われたことだろう。

 そうなっていないのは、宇随という男が状況を素早く判断し、そうしなかったからだ。

 

(救援を要請したのは至極当然の判断だな。柱とて万能ではない……ということ。そしてそれを彼は理解している)

 

 なまじ地位のある立場になると、奢り、判断を見誤ることもある。

 だが宇随はそういった気概の男ではないようだ──と、杏寿郎は思う。

 

 そうしてすれ違う村人全員に挨拶をしながら、全集中常中の羅刹状態で十周した杏寿郎が民家へと戻って来たのは夕餉の支度が丁度できた頃だった。

 

「うまい!」

「うまい!」

「うまい!」

 

 一口食べてはいつこのようにうまいを連呼。

 一緒に食事をしていた隊士はもちろん、宇随もその嫁たちもぽかんと口を開けて杏寿郎を見る。

 

「おかわり!」

「え、あ、うん」

「煉獄……お前ぇ、昼もそうだったが……なんなんだそりゃ」

「む? 何とはいったい?」

「いや、そのうまいうまいってのよ」

 

 小首を傾げ、うまいものをうまいと言うことがそれほどおかしいものかと、逆に尋ね返す。

 

「そうねぇ。美味しいなら美味しいって言って貰える方が、作り甲斐も確かにあるかしら」

「ただもうちょっと音量下げてくれるか、一言でいいんだけどねぇ」

「あたしはいいと思うですよ。うまいうまいって、いいと思うのです」

「うむ! うまい、うまい!!」

 

 おかわりを手渡されご満悦な杏寿郎は、再びうまいうまいと連呼して食事を続けた。

 用意されたのはざっと二十人前の夕餉で、ここにいるのは宇随の嫁たちも入れて十人。

 夜食用にもと思って彼女らが多めに用意したのだが、

 

「……なくなっちゃった」

「天元様ぁ、早く鬼を斬ってくださらないと、いろいろ大変なことになりますです」

 

 須磨のそんな言葉を聞いて、杏寿郎がはたと動きを止める。

 しまった──という顔をし、慌てて隊服のポケットから財布を取り出す。

 

「す、すまない。俺は昔から大飯食らいで……食事の代金は俺も出そう」

 

 と、紙幣を取り出し雛鶴に差し出す。

 だがその手を宇随が引かせた。

 

「んなこたぁ気にすんな。こちとら柱なんだぜ? 一般隊士とはこれが違うんだよ、これが」

 

 と、宇随は「金」を示す仕草をして見せた。

 

「しかし! 俺は最低でも五人前は食うし、今までで一番だったのは十五人前だ!」

「いや……食いすぎだろ」

「最近またよく食べるようになったのだ!」

「そりゃあ育ち盛りでいらっしゃる」

 

 宇随は顔を引き攣らせそう言うと席を立つ。

 

「んじゃまぁ、お前らは休んでろ。煉獄、ひとりで十人前食ったんだ。きっちり働きやがれ」

「相分かった! だが十人前ではなく、十一人前だな。はははははははは」

 

 頭を抱える宇随は、杏寿郎に遅れて民家を出た。

 外はすっかり陽が暮れ、星が浮かんでいる。

 

「さぁて、そんじゃま行きますか」

「うむ! 行こうっ」

 

 辺りは真っ暗だというのに、杏寿郎は元気に、そして大音量で返事をする。

 そんな杏寿郎の肩をがしっと鷲掴みし、宇随はにこやかに言う。

 

「ご近所迷惑になるからな。声、音量下げような?」

「う、うむ……」

 

 笑みを浮かべてはいるが、内に秘めた怒りを感じ取って杏寿郎は素直に頷いた。

 

 その夜。

 明け方近くまで二人は村の中を練り歩きまわったが、鬼は出なかった。

 

 

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