鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第五十九話:終いにしてくれ!

「君はまったく剣を握ったことがないそうだから、まずは素振り三百回からいこう!」

「はい、師範!」

 

 手渡された竹刀を握り、甘露寺は左右にぶんぶんと振る。

 それを見て杏寿郎と、そして稽古に付き合うことになった千寿郎が首を傾げた。

 

「甘露寺……とりあえず俺と千寿郎がやるのを見ていてくれるか?」

「あ、はい?」

「千寿郎」

「はい、兄上」

 

 千寿郎は苦笑いを浮かべ、直ぐに真剣な眼差しへと切り替えると竹刀を振り始めた。

 もちろん、上段か前から振り下ろす動作だ。

 それを見て甘露寺はぽんっと手を叩く。

 

「素振りって、そうやるんですね」

「そう、こうやるのだ。分かったところで素振り三百回、開始!」

「はい!」

 

 甘露寺は元気よく、そして勢いよくぶんぶんと竹刀を振り回す。

 暫くすると彼女が手にした竹刀は、その手からすぽーんっと抜けて飛んで行った。

 

「甘露寺。元気なことはいいことだが、力任せに振り回せばそうなるから気を付けるように……」

「こっちに飛んでこなくてよかったです……」

「はわわわっ。ご、ごめんなさい」

 

 慌てて駆けて行き、飛んで行った竹刀を掴んで戻って来る。

 その時、甘露寺は廊下を行くひとりの男の姿を目にした。

 

 容姿こそ煉獄兄弟によく似た男は、酒瓶を手にのそりのそりと廊下を歩く。

 

(あの方が師範と千寿郎くんのお父様?)

 

 酒浸りだというのは聞いていた。炎を思わせる髪色もそっくりだ。

 間違いない。そう思って甘露寺は慌てて駆けていく。

 それを見た杏寿郎と千寿郎が、彼女が向かう先を見て慌てた。

 

「ち、父上っ」

「おはようございます、父上」

 

 ピクリと眉を動かし、けだるそうに槇寿郎が振り向いた。

 ちょうど彼の視線の先に甘露寺が入って来る。

 

「おはようございますお父様!」

「……はぁ?」

 

 お父様──と呼ばれたことに一瞬たじろぐが、槇寿郎は何も見なかったと言わんばかりに歩き出す。

 

「あ、あのっ。私、甘露寺蜜璃と申します。昨日からこちらにお世話になっていまして、その……」

「杏寿郎の嫁にでもなった気でいるのか?」

「師範の……嫁? ……きゃっ」

 

 甘露寺は頬を染め、両手でそれを覆い隠すような仕草で身をよじる。

 

「ふんっ。なんの才能もない杏寿郎の、どこがいいんだか」

「え? 師範には才能が、ない?」

「そうだ。才能なんてものはないんだ! どんなに努力をしようと。鍛錬をしようと。煉獄の者に才能などない! 真に才能のある者がいるとすれば、それは……」

 

 そこまで言うと、槇寿郎は我に返ったかのように突然何もしゃべらなくなり、そのまま酒瓶を持って出て行ってしまった。

 

「甘露寺。父上のことは気にするな。確かに俺には父上のいう才能はないのかもしれない!」

「あ、兄上っ。そんなことはありません! 兄上はとても強い鬼殺隊の者ですっ。炎の呼吸だって、父上から習わずとも自力で習得なさったではないですか」

「はははは。ありがとう千寿郎。さ、甘露寺も父上との顔合わせも出来たことだし、鍛錬の続きだ!」

 

 甘露寺の素振り三百回が再開され、それが終われば間髪入れず走り込みが始まる。

 町内をぐるりと十周し、お茶休憩の後は素振り三百回追加だ。

 

 午後からは素振りの姿勢矯正。そして走り込みが続く。

 

「よし! 今日の鍛錬はここまでとしよう。よく頑張ったな甘露寺!!

「ふぁ、ふぁい……」

 

 ふらふらとした足取りで、甘露寺は縁側まで歩いて行く。

 たどり着くとその場で突っ伏してしまった。

 

「み、蜜璃さんっ。大丈夫ですか?」

「ら、らいじょうぶよせんじゅろーくん。ちょ、ちょっと……お腹空いちゃった、だけ」

「え……」

 

 これだけしごかれて倒れたのなら、普通は食うよりも吐くだろう。

 千寿郎は途中、やり過ぎではないだろうかと心配していたのだが。

 

(蜜璃さん。思ったより大丈夫そうだ)

 

 空腹で腹の虫を鳴らしている蜜璃を見て、千寿郎が笑顔を浮かべる。

 

「握り飯を作ってきますね。でも夕餉前なのでひとつだけですよ」

「わぁっ。千寿郎くんが優しいぃ。千寿郎くんがもう少し大人だったら、絶対お婿さんにするのになぁ」

「え!? あ、えと……俺、握り飯作って来ますっ」

「千寿郎っ、兄の分も頼む!!」

 

 ぱたぱたと走っていく千寿郎は、「はい」と返事をして行ってしまった。

 

「甘露寺。千寿郎は微妙なお年頃なのだから、変にからかわないでくれ」

「す、すみません。でも千寿郎くんは本当にいいお婿さんになれると思います」

「うむ! 千寿郎は優しい子だからな。だが結婚後まで家のことを切り盛りするのは、いささかかわいそうではあるが……」

 

 出来れば料理洗濯と、しっかり出来る女性と添い遂げることを兄は願う。

 

「し、師範はどんな女性が好みなのですか?」

「む? 俺か?」

「はいっ」

 

 目を輝かせる甘露寺に、若干引き気味になる杏寿郎。

 

 好み──と聞かれて思い浮かべるのはもちろん鬼の君の姿だが。

 果たして自分が好む女性というのはどんなだろうかと思い浮かべる。

 

「優しく、心の強い女性……包み込んでくれるような……いや、うむ。この話は終いにしよう!」

「えぇー、どうしてですかぁ」

「よく分からん! どのような女性が好みというより、好きになった相手がそうなのだろう!! それでいいではないか!」

「え……じゃあ師範はその、好きな方がいらっしゃるのですか?」

 

 甘露寺の問いに、杏寿郎は冷や汗を流して視線を逸らす。

 

「いるんだーっ」

「終いだ! もうこの話は終いにしてくれっ」

「きゃーっ、照れてるぅ」

 

 千寿郎が戻って来るまでの間、杏寿郎は甘露寺からの質問を避けるために一心不乱に竹刀を振るう。

 その姿を見ながら甘露寺はため息を吐く。

 

(そっかぁ。師範ってば好きな人がいるんだ。残念だわ)

 

「あれ? 兄上どうしたんですか?」

 

 握り飯を持って戻って来た千寿郎が、首を捻りながら一心不乱に素振りを続ける兄を見た。

 それから甘露寺を見る。

 

「あの、えぇーっとね千寿郎くん……お兄さんにどんな女の人が好きですかって聞いたらね」

「あぁ……そうですか。兄上、兄上ぇ。握り飯、持って来ましたよ」

 

 千寿郎の声が届いたのか、杏寿郎は素振りを止めて振り向いた。

 

「そうか!」

「はい。冷める前に召し上がり下さい。時期が時期ですので、痛むのも早いですからね」

「うむ、そうだな! では夕餉前の腹ごしらえだ」

 

 

 

 

 

 夜。この時期は陽が落ちるのも遅く、それに伴って杏寿郎が夢乃の下を尋ねる時刻も遅くなる。

 尋ねる時刻が遅かろうと、鍛錬を終えて帰宅する時刻は遅くはならない。

 日付が変わる時刻には夢乃が必ず「帰れ」と、鍛錬を止めてしまうからだ。

 

 だから走った。

 陽が暮れて、甘露寺が風呂に入っている間に。

 千寿郎にはいつもの走り込みに行くと言って出て来ている。

 その通りに杏寿郎は走った。

 走って、煉獄家所有の別荘までやってくると、

 

「夢乃!」

 

 嬉々とした声を上げた。

 

 だが返事はない。

 自分で開けた穴だらけの屋敷へと入って、奥の座敷牢へと向かったがそこにもいなかった。

 

「出かけたのだろうか?」

 

 だが陽が暮れてそれほどの時間は掛かっていないし、道中ですれ違ってもいない。

 

「水汲みか?」

 

 そう思って杏寿郎は沢へと下りる。

 

 ぽしゃん──と沢の方から音がした。

 

「夢乃か?」

 

 声を開けると今度は反応があった。

 

「煉獄? お、い。来るなっ。今はくるなっ」

「どうした? なにかあったのか!?」

「な、なにもない! なにもないけど来るなっ」

 

 来るなと言われれば行きたくなるのが人の心情というもの。

 沢を駆け下り声の下方角へと急ぐ杏寿郎は、近道をして茂みから飛び出すと水面へと着水した。

 

「夢……の……」

 

 面を上げた杏寿郎の目の前に、慌てた様子の夢乃が立っていた。

 髪が濡れている。

 洗髪中だったのだろう。

 

 そして彼女は着物も、そして杏寿郎が贈ったブラウスも身にまとわず下着だけの姿だった。

 

「来るなと言っただろうっ。馬鹿!!」

「すまんっ」

 

 杏寿郎はその場でぎゅっと目を閉じた。それから一歩も動かず、夢乃が「いい」と言うまで待つ。

 

 パシャパシャと音がして、彼女が移動する気配を感じる。

 暫くして「もういいぞ」と、不機嫌そうな声が聞こえた。

 

 杏寿郎がゆっくりと目を開けると、沢に夢乃の姿は既になく。

 その姿は屋敷へと向かう坂道の遥か遠くにあった。

 

 

 




大正こそこそした話。

この時代の女性は下着を付けていない・・・ということもなく
つけている女性もいたようです。
もちろん上流階級とか、セレブ層だとは思いますが。
ただ着物だと下着付けないでしょうねぇ・・・
とはいえ、全裸はまずいのでつけさせました(笑
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