鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第六十七話:ささやかな

「うまい!」

「わぁ、お団子と違って、ふわっとしているんですねぇ」

「うまい!」

「お饅頭とも違いますし」

「うまい!」

 

 杏寿郎は一口食べるごとに「うまい!」と叫び、千寿郎は食感、味を楽しむように感想を漏らす。

 

「どうやって作っているんだろう?」

「うまい!」

「俺でも作れるかなぁ?」

「うまい!」

 

 黙っているのは夢乃ひとり。

 その夢乃は眉尻をぴくぴくさせながら、かすていらを差した串を手にしたまま固まっている。

 座卓の向かい側では幸せそうに杏寿郎がかすていらを口に頬張っている。

 そして──

 

「うまい!」

 

 と声を上げる。

 そんな杏寿郎を見て、夢乃は大きなため息を吐いた。そして諦めたように首を振った。

 

「お前は『うまい』以外言えないのか」

「む? うまい以外……」

 

 杏寿郎は真剣な眼差しでかすていらを見つめる。

 そして、

 

「凄くうまい!」

 

 と声を張り上げた。

 

「いや、そうじゃなくて……うん、もういい。好きにしろ」

「うむ! うまい!!」

 

 そんなやりとりを、千寿郎は笑いを堪えながら見ていた。

 

「あっ。そうだ、兄上。甘露寺さんから頂いたカスタプリン!」

「んっ!? そうだ! カスタプリンだ!! だから千寿郎に夢乃のことを話したのだったな」

「……何故カスタプリンと私が結びつく」

 

 首を傾げる夢乃に、煉獄兄弟は笑みを向けた。

 

「兄上、俺、取って来ます」

「いや、それなら俺が」

「兄上はどうぞゆっくりしていてください」

「しかしっ」

 

 お互い譲り合う兄弟に向かって「だったら二人で行け」と、横から夢乃が言う。

 それでもまだ何か言おうとする兄弟に、更に一言。

 

「その間に私は着替えを済ませたい」

 

 ──と。

 

「「あ」」

 

 顔を赤らめた二人が、食べかけのかすていらを頬張って、それから立ち上がる。

 二人揃って「行ってきます」と言うと、屋敷を出て行った。

 

 残った夢乃がふっと笑みをこぼし、それから身支度を整えるために立ち上がる。

 やかんで沸かしたお湯をたらいに注ぎ、水で温度調節をしたら手拭いを濡らして体を拭く。

 予備の着物に着替えたら、着ていた方を洗濯して干す。

 

 身支度が終わって暫くすると、玄関から煉獄兄弟の声が聞こえて来た。

 

「終わったか!? 上がっても良いだろうか!?」

「ただいま戻りました」

 

 

 

 

 

「ん、美味しい」

「かすていらもカスタプリンも、卵を使ったものなのに。食感が全然違いますね」

「うまい!」

「焼き菓子と……こっちは蒸しているのだろう? その違いだろうな」

「そうですね。兄上とも話してましたが、まるで冷たい茶碗蒸しだと。でも食べてみると、確かに舌触りは茶碗蒸しですが……甘さが全然違います」

「うまい!」

 

 千寿郎と夢乃が、どうやって作っているのか、材料はなんだとか話す横で、杏寿郎は「うまいうまい」と連呼する。

 

「そうか。弟子の娘が里帰りを」

「はい。その時に蜜璃さんのお父上がお土産に持ってきてくださったのです」

「正月明けに戻っていらっしゃいますけど、年末年始はご家族と過ごされるそうで」

「家族がいるのなら、それが当たり前だからな。ということは年末年始の師範業は休みか?」

 

 と、カスタプリンを食べ終わり、しゅんとした顔でガラス瓶を見つめる杏寿郎へと問いかけた。

 問われていることに気づかない杏寿郎は、憂いを帯びた視線をガラス瓶に注いでいる。

 夢乃はそれを呆れ顔で見つめ、それから木箱からちょこれいとを取り出した。

 

 すぅーっと差し出されたちょこれいと入りの箱を見て、杏寿郎の表情がぱぁっと明るくなる。

 その隙に夢乃は空になったガラス瓶を掴んで、杏寿郎の前から下げた。

 それからガラス瓶をまじまじと見つめる。

 

 ただの容器ではなく、花模様のあしらわれたガラスだ。

 

「千寿郎、このガラス……貰ってもいい?」

「え? いいですけど……どうするんですか?」

「うまい!」

「うん。まぁ今は時期的にあれだが、夏場に冷やした茶を注ぐと涼し気でいいなと思って」

「わぁ、いいですねそれ。あ、俺のもあげます。使ってください」

「うまい! ガラスが三つあれば、千寿郎もここに来て茶が飲めるな!」

「はい!」

 

 ここは茶飲み場じゃないんだぞと突っ込もうとしたが、夢乃は言葉を飲み込んだ。

 そもそも居候させて貰っているようなものだから、文句も言えない。

 

「でも夢乃さんは日中、お休みになられているのではないですか?」

「ん?」

「いえ、あの……夜、起きていらっしゃるのでしょう?」

 

 千寿郎は、寝ている夢乃を起こすのは申し訳ないと言う。

 それを聞いて夢乃が笑った。

 

「いや、私は一日中起きているよ。鬼は眠らない、本来はな。ただ、血鬼術を使い過ぎて出血が多くなると、回復のために眠ることはある」

「回復のため……他の鬼もそうなのですか?」

「私だけだ。私は、鬼としては出来損ないみたいなものだからな」

 

 と、夢乃は笑みを浮かべ話した。

 鬼舞辻無惨から与えられた血が少ないせいで、鬼として目覚めたが、鬼が本来持つ能力をほとんど持っていない、と。

 自己再生能力も無ければ、目の色が変化する以外に身体的変貌もない。

 身体能力は元々備わっていたものだし、呼吸法によるものだ。

 

「じゃあ、人とあまり変わらないのですね」

「そうだな。夢乃は人と何も変わらない。その志も、何も変わっていないのだ」

 

 煉獄兄弟にそう言われ、夢乃は嬉しく思い頬を赤らめる。

 

「ガ、ガラスを洗ってくる」

 

 気恥ずかしそうに、そう言って彼女は土間へと向かった。

 千寿郎が手伝おうとして立ち上がったが、その時あることを思い出す。

 

「あぁ! 俺、父上の朝餉の支度、何もしていませんでしたっ」

「……よもや」

「それに買い物も行かなくては」

「そろそろ昼だな。腹も減って来たことだし、俺たちはお暇するか」

 

 その言葉が聞こえたのか、奥から「さんざん食べておいて、まだ食うのかお前は」と呆れたような声が聞こえてくる。

 

「菓子は別腹!」

 

 と答える杏寿郎の隣で、千寿郎が笑っている。

 

「では夢乃。俺たちは帰るとしよう。馳走になった!」

「ご馳走様でした」

「また夜に!」

「みっちりしごいてやるから覚悟しておけ」

 

 そんな声が厨房から帰って来ると、杏寿郎は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

 

 

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