鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第六話:問いたい

 湯治場──療養を目的として長期間滞在する温泉地である。

 もともと街道から近かったこともあり、江戸時代以前からここは湯治場として親しまれてきた。

 それは大正時代になった今も変わらず、つい数カ月まで間では賑やかな温泉街であったのだが。

 

 賑やかとは無縁となった湯治場を、杏寿郎は真っ直ぐ前を見据えて歩く。

 峠ということもあって、一歩外に出れば木々の生い茂る山。

 

(さて、鬼が潜伏しているのは山か、それとも町の中か)

 

 日中であれば陽の当たる所で鬼は活動できない。

 この時間であれば町は安全だろう。

 そう思って杏寿郎は山を歩くことにした。

 

 特に山道を行くでもなく、適当に茂みを掻き分け入っていく。

 山を切り開いて作られた湯治場だ。その山は巨木が生い茂り、陽の光の届かない場所がいくらでもあった。

 

「この分だと、昼間でも出てきそうだな」

 

 そう言いつつ山の中をどんどん進んでいく。

 暫く歩くと木々の向こうに、白い湯けむりを見つけた。

 

「こんな山奥にも湯場があったのか」

 

 湧き立つ温泉のすぐ脇には小屋があり、どうやらそこが脱衣所になっているようだ。

 杏寿郎は温泉にでも入ろうかというのか、小屋に向かって歩き出す。

 その表情から笑みは既に消えていた。

 

 彼は何かを感じ取ったようだ。

 歩きながら右手は左の腰に差した刀の柄に伸びている。

 そして戸口には僅かに血の跡があり、杏寿郎は確信した。

 

「生きているか!?」

 

 バンっと戸を開き、中にいるであろう者に声を掛ける。

 鬼でないことは気配で既に分かっていたが、生存しているかまでは分からなかった。

 

 開かれた小屋の中には、血まみれで倒れる黒い隊服姿の鬼殺の者がいた。

 杏寿郎の呼びかけに答えることも出来ない隊士はただひとりだけ。

 辛と己の隊士は合わせて五名。残り四人の姿はない。

 

 見れば隊士は腹から血を流していたが、その血はまだ乾ききっていなかった。

 

(襲われて間もない? ならここまで必死にたどり着いたのだろう)

 

 小屋の周辺は僅かに開けており、鬼が襲うには一度陽の当たる場所を通ることになる。

 だから襲って来ないのだろうが、周囲に鬼の気配はすでになかった。

 

 どうせ死ぬだろうからと、放っておかれたのかもしれない。

 杏寿郎は素早く隊士の首元に手を添えた。脈はまだある。

 背負った荷物袋から応急手当用の包帯と手ぬぐいを取り出し、傷口に当てがってぐるぐる巻きにする。

 

「頑張れ! すぐに医者の所へ連れて行ってやるからな!!」

「う……うぅ」

 

 杏寿郎の声が聞こえたのか、隊士は僅かに唸った。

 彼を背負い、杏寿郎が小屋を出る。

 すると、木々の中にある者の気配を感じて動きを止めた。

 

 距離としてはまだ遠い。だから杏寿郎は大きく息を吸い、そして叫んだ。

 

「刀を返すぞ!」

 

 それだけ言うと杏寿郎は歩き出す。

 暫く歩くと前方の巨木の後ろから鬼の女──氷月夢乃が現れた。

 

「右の腰に差してある。今手が離せない故、悪いが引っこ抜いて行ってくれないか」

「……何故返すなどと言っている」

「異なことを言う。これはお前の刀だろう?」

 

 異なことを言っているのはお前だろうと夢乃は思った。

 誰から奪ったのか──そう紙に書いて木に張り付けたのはどこのどいつなのかと。

 ぐぐっと握った拳を何とか押さえ、夢乃はキっと杏寿郎を睨んだ。

 

「き、貴様が奪っただのなんだのと書いていたのではないか!」

「ん……おお! そうだったそうだった。はっはっは。すまぬすまぬ!! 謝罪しよう!」

「んぐっ……」

 

 なんだこの男は──と夢乃は思った。

 眼をぎょろりと見開き、真っ直ぐ前を見据える姿に悪意はなさそうに見える。

 むしろ表裏の無い表情に、少しドン引きすらした。

 

「どうした? 刀を持って行かぬのか夢乃」

「え? な、何故私の名を」

「うむ! お前が当時のお館様に送った文を、今のお館様から拝見させていただいたのだ! あ、今のは誰にも内密にしてくれ」

 

 何故現当主がこの男に自分が出した文を?

 と思うと同時に、何故文を出した本人が内密にしなければならないのか。そして内密にしなきゃならないことをポロっと言ってしまうのか。

 夢乃は眉間を指先で押さえ、それから考えるのを止めた。

 

 止めたのには理由がある。

 杏寿郎が背負っている鬼殺隊士の出血量が酷いため、その血の匂いがぷんぷんとしているからだ。

 

「死ぬぞ」

「うむ。急いで山を下りねば」

「そこまで持たないだろう」

「それでも行く!」

「途中で鬼が出れば、その男を背負ったまま戦えまい」

「鬼なら既にいるぞ!」

 

 杏寿郎は真っ直ぐ夢乃を見据えてそう言った。

 再び夢乃は眉間を抑えた。

 

 間違ってはいない。自分は鬼なのだから。

 しかしどうにも腑に落ちない言われようだ。

 

「そうだ! 刀は刃こぼれが酷かったのでな、お館様が刀鍛冶の里に出してくださったぞ」

「え? 研いで、くださったのか?」

「うむ! お館様に感謝するのだぞ!!」

 

 今代の当主のことを何も知らない夢乃であったが、きっと自分が知る当主と同じく優しい方なのだろうと思った。

 杏寿郎とすれ違いざまに自身の刀を彼の腰から引き抜き、それから実際に抜刀して出来上がりを確認する。

 

 刃こぼれしているという自覚はあった。だがどうすることも出来ず、夢乃はずっとこの状態で使い続けていた。

 

(これでまたしばらくは鬼を屠れる……私は……どっちを望んでいるのだろう)

 

 死ぬことか、卑しく生き続けて鬼を葬り続けるのか。

 どっちを望んでいるのか、既に彼女自身にも分からなかった。

 

「待て、煉獄。その男、町に行ったところで助からないぞ」

「いや、助ける!」

「ならそこで下ろせ」

「なに?」

 

 夢乃がやってくるのが分かり、杏寿郎は振り向く。

 純白の刀身で自身の手を斬りつける彼女の姿がそこにあった。

 

 真っ白な、雪のように白い日輪刀が、赤い血を滴らせる。

 

「傷口を見せろ」

「何をする?」

「……私の血鬼術は、それを受ける者の寿命を前借して傷を再生させる術だ」

「おお! では頼む!!」

 

 そんな素直に信じていいのかお前は──とでも言いたげに、夢乃は杏寿郎の目をじっと見つめた。

 見つめてこの男が自分を信じ切っていると実感する。

 

 自分の素性を知ったようだが、それで本当に信用していいのか? と問いたい。

 問うたところで「うむ!」とか言うのだろうと、何故か夢乃はそう思った。

 

「じゃあ傷を見せろ」

「分かった!」

 

 杏寿郎は背負った隊士をその場におろすと、自分でぐるぐる巻きにした包帯を取り除き隊服を脱がせ、腹の傷を見せた。

 

「血鬼術──齢譲再生」

 

 夢乃が手を差し出すと、したたり落ちる血が霧となって隊士の傷にまとわりつく。

 それと同時にぱっくりと開いていた腹の傷が、すぅーっと閉じていった。

 

 




*煉獄さんの炎の呼吸。
六から八の型は出て来ていませんよね???
どこかで情報はないものか。それとも伍→玖なのだろうか???
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