鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第七十話:情報

 杏寿郎は他の隊士と組んで、夜の町へと繰り出した。

 目的は鬼の捜索である。

 

 胡蝶しのぶの話では、ここ数日はまったく鬼は現れていないらしい。

 行方不明者や変死体といったものも出ていない。

 

「君は三日前からこの町で任務に就いていると言った──ん? どこかで会ったか?」

「あぁ、覚えてたんだ。俺、村田。去年ほら、岩柱様との合同任務で一緒だった」

「あぁそうだ! 小芭内と一緒に、負傷した隊士を蝶屋敷へと運んでくれた!」

「そうそう。はぁ、炎柱の息子が一緒でよかったよ。十二鬼月かもしれないんだろ? 煉獄さんが倒してくれるんだろ?」

 

 どことなく頼り無さげな青年は、昨年の合同任務で同席した隊士だった。

 頼りなくも、こうして生きているというのは運だけではないのだろう。

 杏寿郎は感心しつつ、彼からこの三日間の話を伺った。

 

「最初は他の隊士が請け負った任務だったんだ。けど……」

「やられたのか?」

 

 杏寿郎の問いに村田は頷いた。

 その後も二人、三人と隊士が送り込まれたがみな連絡が途絶えている。

 

「切り裂かれて、血に染まった隊服だけが見つかったんだ」

「そうか……それで、鬼が姿をくらましたというのは?」

「俺が到着したのが三日前だけど、その二日前あたりからぱたりと行方不明者や変死体が出なくなった」

「五日前……」

「合同任務に変わって、隊士が集まりだした頃だ。人数が増えたんで、流石に鬼もビビってんのかな」

 

 それはあるだろうと杏寿郎は納得する。

 

 村田も到着したその日から、毎夜、こうして夜の町を練り歩いた。

 手分けして地区ごとに分かれて捜索しているものの、これまで手掛かりは見つかっていない。

 

 村田と二人肩を並べ歩いていると、屋台通りへと出た。

 

「ここの通りは食べ物屋ではないようだな」

「気のせいかな。今さ、なんか腹の虫が聞こえてきたような気がするんだけど」

「気のせいではないな!」

 

 食べ物屋がない。そう分かった瞬間、杏寿郎の腹の虫が鳴った。

 村田は信じられないといった顔で杏寿郎を見つめる。

 

「いやだって。さっき飯を六杯もお代わりしてただろ?」

「うむ。もう一杯お代わりすればよかったと後悔している!」

「うわー、信じらんねぇ」

「はははははは。しかし、占い屋が随分多いようだな」

 

 言われて通りを見ると、手相や人相占い、分厚い本を片手に占いを行う者もいれば、大きなガラス玉を覗いている者まで。

 様々な占い屋がそこには並んでいた。

 

「今都会じゃ流行っているみたいだぜ。まぁ当たるかどうかはおいといてだけどさ」

「どうにも俺には理解できないな。己の人生を占いで決めるなんて」

「ま、それが普通の反応だと思うよ。俺もそうだしさ。にしても、本当に多いなぁ。あ、似顔絵屋なんてのもあるんだな」

 

 そちらには興味があったのか、村田は絵描きの下へと向かった。

 その後ろを杏寿郎が追う。

 二人が絵師の元に付く頃、若い男女が似顔絵を頼むわけでもなく絵師と話し込んでいた。

 

「見かけないんですか?」

「見ないねぇ。ここ五日ほど、やっこさんは来てないよ」

 

 客の言葉に中年の男性絵師が答える。

 

「あぁん、残念だわ。あのお兄さんに描いて欲しかったのにぃ」

「あのねぇお嬢ちゃん。絵師はここにもいるんだぞ? 俺に描かせてくれたっていいだろう」

「えぇ~、だってぇ。あの人の絵、本当に生きてるように綺麗だったんだもの」

「ただ不気味な絵も多かったなぁ。死体の絵とかさ」

「そうそう。でもそれだって赤い血が鮮明で綺麗だったわよ」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 どうやら他の似顔絵師を探しているようだ。

 

(五日前……)

 

 杏寿郎は中年男性絵師が口にした言葉が気にかかった。

 

「少しよいだろうか? その絵師の話なのだが」

「はぁ? またかよ。こっちも商売やってんだけどねぇ」

 

 男性絵師が眉間にしわを寄せるので、杏寿郎は金を支払って似顔絵を描いて貰うことにした。

 

「れ、煉獄さん?」

「五日前から姿を見せないと言う絵師だが」

「あぁ。それまではほとんど毎日のようにこの通りで似顔絵を描く仕事をしてたんだけどな。あんた、面白い髪をしてんなぁ。染めてんのかい?」

「よく言われるが地毛だ! 俺の家の男児はみなこの色をしている!!」

「へ、へぇ……」

 

 そんな馬鹿なという顔の絵師は、それでもすらすらと筆を滑らせる。

 横から覗き見た村田は、ほぉっと感嘆な声を上げた。

 

「その絵師はいつからこの町に?」

「さぁ、そこまで俺も詳しくないさ。そうだな……あぁ、そうだ。町で変死体が見つかった、あの頃にはもういたっけか」

「そうそう。その頃にはもうあの絵師さんがいたわね」

「それこそ、あの絵師が飾ってた絵なんて変死体みたいだったよなぁ」

 

 と、先ほどの男女も描かれる絵を見ながら答える。

 

 変死体が発見されたころから町に現れた絵師。

 まるで生きているような絵もあれば、変死体のような不気味な絵も描く。

 いや──

 

「だけど飾っている絵は、売りもんじゃねーってんだ」

「売らないのに飾ってるのか?」

 

 村田の質問に絵師が頷く。

 客寄せ用だと言ったそうだが、絵を手にしようとすれば凄い剣幕で怒鳴り散らすそうな。

 

「その絵師、どこに住んでいるのだろうか? 昼間もここにいるのだろうか?」

「さぁ、どこに住んでんのかねぇ。そこまでお互いのことを知ってる訳じゃねーんでね、俺らも。ただやっこさんは昼間は見ないな」

「つまり夜にしか見ない、と」

「あぁ。日中出歩いているのを見たことはないな。俺は昼間、表通りで絵を描いているが奴を見たことは無いぇ。さて、出来上がった。どうだ? 色男になっただろう?」

 

 絵師は完成した絵を杏寿郎へと手渡した。

 意外なほどよく描けている絵に、横で見ていた女の方が「あらほんと」と、本人と絵を見比べた。

 

「彼女がいるなら、渡してやんな。きっと喜ぶだろうよ」

「うむ! そうしよう!!」

「え? れ、煉獄さん。あんた恋人いるのかよ?」

「聞かないでくれ! この話はお終いにしよう。主人、いい絵をありがとう」

 

 絵を抱えて杏寿郎が歩き出す。

 その後ろを村田が慌てて追った。

 

「さっきの絵師の話だけどさ。もしかして怪しいと?」

「うむ。噂の絵師が現れた時期、姿を見せなくなった時期。そして絵の内容。さらに昼間は姿を見せないとなれば、十中八九そうだろう」

「はぁ……思わぬところで情報が聞けたなぁ」

「そうだな! こればかりは運が良かっただけに過ぎない。とにかく藤の家に戻って、他の隊士と話し合おう」

 

 その為にはまずは出払っている隊士を連れ戻さなくてはならない。

 杏寿郎と村田の鎹鴉を使って、鬼の捜査をしている隊士たちを呼び戻し、全員が集合したのは一時間後。

 全員に絵師から聞いた内容を話し、そして精査する。

 

「確かに怪しいですね。躍動感あふれる絵があるかと思えば、変死体のような絵……その絵は、誰にも触れさせていなかったのでしょう?」

「そう聞いた。しのぶ殿、俺はその絵のモデルとなった者たちが、鬼の被害者ではないかと思っている」

「そうですね。状況から判断すると、被害者──もしくは犠牲者が描かれているのかもしれません。あくまで噂の絵師が鬼だった場合、ですが」

 

 確かに絵師が鬼と決まった訳ではない。

 そして決まったとして、どうやって絵師を探すかだ。

 

 結局は足で探すしかない。

 

 町の地図を見ながら隊士たちが捜索した箇所に印をつけていく。

 

 ふと鴉の声がし、杏寿郎は窓の外を見た。

 建物の二階。ここからなら通りもわずかだが見える。

 その見える場所、街灯で明るく照らされたそこに、見知った人影を見つけた。

 

「少し所用で出かけてくる」

「煉獄さん? おひとりでいいんですか?」

「うむ。直ぐに戻って来る故」

 

 足早に出て行き、先ほど見えた場所へと向かう。

 目的の場所にそれはいた。

 

「十二鬼月だったか?」

 

 凛っとした佇まいで、夢乃はそう尋ねた。

 

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