鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第七十二話:落ちた

 陽が昇り、隊士たちは藤の家で休息をとる。

 昼が過ぎると、起きてくる者も何人かいた。

 

「あら、煉獄さん。もう鍛錬ですか?」

 

 二階の客間から下りて来たしのぶは、庭先で日輪刀を振るう杏寿郎を見た。

 刀を振るたびにその回数を口にしているが、既に七百を超えている。

 

「おはよう胡蝶! こんな時間でもないと、ゆっくりすることも出来ないからな!」

「ゆっくりの意味が、少しおかしいような気もしますけど」

 

 にこりと笑みを浮かべながら、しのぶは首を傾げる。

 

「そうか!? ばたばたと慌てて鍛錬するよりも、ゆっくりじっくり鍛錬する方がいいと俺は思うのだがな!」

「それはもちろんそうですけど。普通はゆっくりすると言えば、体を休める意味で使う言葉だと思うんですよ煉獄さん」

「そうか! それで! 君は出かけるようだが!? 801!」

「えぇ。日中に営業をしているお店にも、一応当たってみようと思いまして。あ、ひとりで平気ですよ。昼間ですし」

「うむ! だが気を付けるのだぞ!」

「はい。夕方までには戻ってきますので」

 

 そう言ってしのぶは藤の家を出て行った。

 

 

 

 

 

 昨夜行った店以外に、画材を取り扱う店はやはり少ない。

 大きな百貨店の中にもあったが、閉店時間も早ければ鬼が来るとも思えない。

 

 しのぶは普段の隊服ではなく、藤の家の者から借り受けた着物を着て店を訪れた。

 予想通り、目的の似顔絵師だけでなく、夜の屋台通りで机を出す絵師のことなど知らないようだ。

 

(お高い店ですもんねぇ。流しの絵師のことなんて、気にも留めないのでしょうね)

 

 その後、見つけた画材屋は一軒のみ。

 だがそこでも目的の絵師情報は見つからず、だが夜の花街で営業している何でも屋の話を聞くことが出来た。

 

「何でも屋、ですか?」

「あぁ。なんでもする何でも屋、ではなく、なんでも売ってる何でも屋ですよ」

「へぇ」

 

 花街──花とはつまり女のこと。

 花を売る店が並ぶ通りを、花街という。

 

「営業は夜だけなんでしょうか?」

「花街の店が営業をする時間に合わせて開くからね。だいたい日暮れ前ぐらから開くよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 礼を言って店を出たしのぶは少し困っていた。

 花街へはあまり足を運びたくない。

 そこで働く女性らに嫌悪感は欠片もないが、そこに通う男に対しては嫌悪感しかなく。

 しかも客取りの女でなくても、ひとりで歩いていれば変なのが付きまとうのが花街だ。

 

「はぁ……煉獄さんにお願い……だけど煉獄さんもきっと嫌がるでしょうねぇ。どうしたものかしら」

 

 しのぶは再度ため息を吐き捨てると藤の家へと引き返した。

 

 夕刻。既に辺りは薄暗くなる時刻に、隊士たちは早めの夕食を済ませて行動を開始した。

 

「で、なんで俺と煉獄さんと胡蝶さんなんですか?」

 

 村田は愚痴る。

 花街へと調査に向かうのは、この三人だ。

 

 しのぶが情報共有した時点で、花街への調査を立候補する者は数名いたが、しのぶはそれをことごとく無視してこの人選だ。

 

「嬉々としてこういった場所に来たがる人に、まともな調査は出来ないと思いましたので」

 

 と、しのぶは笑みを浮かべて言う。

 少し遅れて歩く杏寿郎は、出来るだけ視線をあちこちに向けないよう、ただひたすら真っ直ぐ前を見ている。

 通りに並ぶ店に視線を向けると、あられもない姿の女性らが視界に映るからだ。それを避けるために真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐ前を見ていた。

 

「煉獄さんと胡蝶さんだけでもよかったのでは?」

 

 村田は別に、調査するのが嫌な訳ではない。

 しのぶが苦手なのだ。

 

 怪我をして蝶屋敷へと行くと、しのぶは今みたいなにこにこ顔で治療をしてくれるが、それが痛いのだ。非常に痛い。

 更にお小言もちくりと刺さるため、年下だというのに完全に苦手意識を持ってしまっている。

 

「村田さん。若い男女二人でこんなところ歩いたりなんかしたら、周りからどんな目で見られるか分かったものではないですよ?」

「それはつまり、煉獄さんと二人っきりになるのが嫌だってことですか?」

「そのつもりで言ったのですが、伝わりませんでしたか?」

 

 にっこり微笑むしのぶは、やはり怖い。

 そう思いながら、村田は諦めたように項垂れる。

 

「……いえ。十分伝わりました」

「はい。では行きましょう」

「うむ! 行こう!! さっさと行って、鬼の所在を聞いて、早くここから出て行こう!!」

 

 そう言って杏寿郎が歩みを少しだけ早める。

 もっとずんずんと進みたいが、これ以上の速さで歩けば小柄なしのぶが付いて来るのに苦労をする。弟の千寿郎と歩くときのように、杏寿郎はゆっくりと歩いた。

 

 陽が沈んで間もないこの時間は、ようやく花を買う客らが通い始めるころ。

 おかげで客引き女性の数も少ないのが、杏寿郎と村田にとっては幸いだっただろう。

 

 だが目的の何でも屋を見つけたのは、花街が賑わう時刻。

 

「まさかこんな裏通りにあるなんて、思いもしませんでした」

「まぁ、こんな怪しいモノばかり売ってる店なら、そうなりますよねぇ」

 

 年齢で言えば村田が最年長なのだが、階級で言えば彼は最下位だ。

 律儀な村田は階級を重視し、しのぶ相手にも敬語を使う。

 

 その村田が言う「こんな怪しいモノ」とは、何に使うのかよく分からない如何わしい道具であったり、風俗画であったり、そして違法であろう粉の数々。

 そうかと思えば干物や米まで売っている。

 本当に何でも屋だ。

 

「ごめんくださーい。あのぉ、少しお聞きしたいことがありましてぇ。実は絵師を探しているのですが」

 

 しのぶが笑みを浮かべて店主に声を掛ける。

 すると店主は目を細め「またか」と返してきた。

 

「また、ですか?」

「あぁ。ついさっきも女がひとり、絵師をしているとかで来てな。えれぇべっぴんだったが、男みてーななりをしていたな。ありゃあイイ女だ」

(夢乃か)

 

 と、杏寿郎は即座に理解する。

 だが夢乃を知らないしのぶと村田は違う反応だ。

 

「似顔絵を依頼しようとしているんですかね?」

「そうかもしれません。早く探さないと、次の犠牲者が出るかもしれませんね。それで、絵師についてなんですけど」

 

 犠牲になるのは絵師の鬼のほうだろうと、杏寿郎は内心で思う。

 

 絵師のことを尋ねたが、店主は黙って手を差し出した。

 情報料、ということだろう。

 にこにこと、だが後ろに立つ村田は気づいていた。

 

(胡蝶……圧がぱねぇ!)

 

 お金を受け取った主人は笑顔でこういう。

 

「町はずれに和紙を作ってる小さい会社があんだが、その近辺じゃないかな。絵具や筆は買っていくのに、紙は買わないんだよ。なんでか聞いたら、近所の和紙職人からタダで貰ってるって。そう言ってたのさ」

「和紙職人さん、ですか? その会社はどこに?」

「南の端のほうだ。あっちは治安があんまり良くないんで、行くなら気を付けな。つっても、男二人従えてんなら、まぁ大丈夫か。さっきのべっぴんはひとりだったし心配ではあるんだが、まぁ……武芸を嗜んでいる風にも見えたし、大丈夫かなぁ」

「そうですか。私たちもすぐに向かいますから、何かあればお助けしますよ」

 

 としのぶは言ったが、後ろの杏寿郎は(必要ないな)と心の中で呟く。

 

 それから三人は店を出て町の南へと向かう。

 道中、鎹鴉に他隊士の招集を任せ、それらしい地区へと到着する。

 

 確かに治安は良くないようだ。

 路地に目をやれば、腹を空かせて座り込む子供たちの姿と、その近くで行為に及ぶ男女の姿も見える。

 しのぶは視線を逸らし、杏寿郎と村田も顔を真っ赤にして慌てて明後日の方角に向き直った。

 

「わ、和紙作りをしている会社と言うのは、ど、どこだろうな!」

「ど、どこかなー。会社ってぐらいだし、大きな建物じゃないかなー」

「そう思うか、村田殿! 俺もそう思う!」

「私は違うと思います。たぶん個人で営んでいる、本当に小さな、それこそ一軒家ぐらいではないでしょうか?」

 

 しのぶはそう言って、路地で蹲る少年に声を掛けた。

 

「もしもーし。少しいいですか?」

 

 生気の感じられない子供は、ゆっくり顔を上げてしのぶを見つめる。

 傷があり、しのぶは懐から軟膏を取り出して塗ってやった。

 

「これを一日に二度、痛い所に塗ってください。なるべく傷はお水で綺麗にしてね」

「……くれるの?」

「はい。食べ物じゃありませんから、口に入れないように。それと、教えて欲しいことがあるんです」

 

 そう言って今度は小銭を取り出す。

 何でも屋にしたように、情報料と言う訳だ。

 

「この近くで和紙を作っているお家はありませんか?」

「あ、あるよ! 知ってる。でもあの辺……最近は聞こえないけど、少し前には悲鳴がよく聞こえてて、怖いところなんだ」

「案内は必要ありません。場所だけ教えてくれますか?」

 

 笑顔のしのぶに向かって、少年は何度も大きく頷いた。

 

 

 

 

 

「ここで合ってるようですね」

 

 三人が訪れたのはとある長屋。

 戸口には「紙」と書かれた看板がぶら下がっていた。

 

「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいますかぁ?」

 

 と声を掛けてみるが、返事はない。

 しのぶは躊躇することなく戸に手を掛けると、あっさり開けてしまった。

 

「人はいない様ですね。なのに戸締りをしていないなんて、物騒ですねぇ」

「なんか変な臭いしませんか?」

「紙の匂いですので、腐臭とかではないですし大丈夫ですよ村田さん」

 

 見透かしたようにしのぶが言うと、村田は頬を染めて後ずさる。

 

 長屋の中には誰もいないようだが、今日も製紙作業をしていたようで、乾燥中の紙がそこかしこに散らばっていた。

 しのぶは腰を下ろし、その一枚に手を伸ばす。

 

 その時だ。

 

 しのぶと杏寿郎の二人は、鬼の気配を察知する。

 

「それに触れるな!!」

 

 鬼は鬼でも、その正体は夢乃だ。

 

「え?」

 

 だが遅かった。

 しのぶは既に紙に触れており、とたんにそれは大きな風呂敷のように広がった。

 

「しのぶ殿!?」

「う、うわぁぁっ」

 

 村田は驚いて後ずさり、杏寿郎はしのぶを助けようと手を伸ばす。

 ──が、彼の体が後ろに引かれ、入れ替わるように鬼の夢乃がしのぶへと手を伸ばす。

 

 そうして二人は、広がった紙に包まれると、そのまま姿を消した。

 




はぁはぁ
昨夜はフィーバでした。

ご存じの方もいることでしょう。

はい!

遊郭編、アニメ化決定!!!
まだご存じでない方は、鬼滅の刃 遊郭編でググってみてください!!

はぁぁぁぁぁっ

でも・・・

煉獄さん・・・( ノД`)シクシク…
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