鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第八十一話:おかえり

「では師範、行ってまいります」

「うむ! 君なら大丈夫だ!!」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 三月に入ってすぐ、煉獄家の門に杏寿郎、千寿郎、そして甘露寺蜜璃の姿があった。

 この翌日、藤襲山で鬼殺隊入隊に必要な最終選抜が行われる。

 甘露寺はその最終選抜に参加するため、これから藤襲山へと向かう。

 

 生家から煉獄家に戻って来ていた甘露寺は、ここ数日、ずっと鍛錬に励んでいた。

 

「甘露寺。君には類まれなる才能がある。だが君はまだ鬼を知らない。いいか、決して油断をするな」

「は、はいっ」

 

 いつになく神妙な面持ちである杏寿郎を見て、甘露寺もさすがに緊張する。

 

「いいか。鬼を倒すことを考えるな。選抜は最後まで生き残れば合格だ。鬼を一匹も倒さずとも合格できる。いかに生き延びるか、それが試される場だ」

「そ、そうなんですね。じゃあ、逃げることだけ考えますっ」

 

 精一杯の虚勢を張って見せた甘露寺だったが、その言葉に杏寿郎はいつもの快活な笑みを浮かべて応えた。

 

「その通りだ甘露寺! 生きていればいい。生きてさえいれば、必ず次に繋がる」

「蜜璃さん。きっと無事に戻ってきてくださいね。新しい大福の作り方、甘味屋さんから教えて貰ったんです」

「まぁ! どんな大福かしら。楽しみだわぁ」

 

 甘露寺は頬を高揚させ、既に頭の事は大福でいっぱいである。

 

 見送りは門の所までと、甘露寺自身がそう言った。

 二人もその気持ちを汲み、ここで別れる。

 

「必ず帰って来い、甘露寺」

「待ってます、ずっと」

 

 短い言葉なれど、二人の気持ちが十分に伝わった。

 だからこそ甘露寺の目頭は思わず熱くなる。

 それを悟られまいと、彼女はくるりと背を向けた。

 

 そして──

 

「行ってきます!」

 

 元気よくそう返事をしてから、彼女は歩き出す。

 それから一度も振り返ることなく、甘露寺蜜璃は藤襲山へと向かった。

 

 

 

 

 

「……鬱陶しい。そんなに心配なら見に行けばどうだ」

「で、出来るわけないだろう! それは禁止されていることなのだからっ」

 

 夜、日が暮れると杏寿郎は夢乃の下へと早めにやって来た。

 家にいてもまったく落ち着かないのだ。

 

 あばら家に来て、まずは庭先をうろうろと徘徊。

 そして腕立て伏せに腹筋、柱を掴んで懸垂を始めている。

 しかも数回やってはうろうろ。また数回やってはうろうろの繰り返しだ。

 思わず夢乃が愚痴りたくなるのも致し方ない。

 

「馬鹿な気は起こさず、逃げること、生き残ることだけを考えたら……お前が面倒を見たのだ、大丈夫なのだろう」

「それは、そうなのだが……」

 

 朝、甘露寺を見送った時とは裏腹に、今は心配と不安しかない。

 いかんせん甘露寺蜜璃は鬼を知らないのだから。

 

 鬼の身体能力は人のそれにはあらず。

 日輪刀以外では倒せないし、たとえ日輪刀であっても頚以外を斬っても死にはしない。

 恐ろしい存在だ。

 

 杏寿郎は何度もそう説明したが、実際に見て見なければその恐ろしさは伝わらないだろう。

 

 その初めてとなる対面が、生きるか死ぬかになってしまう。

 その時に冷静でいられるか。しっかり逃げることができるか。そこが肝心だ。

 

「だったら信じて待て。それしか出来ないだろう」

「むぅ……分かっているのだが……分かって……」

 

 しょぼんと顔を伏せ、杏寿郎の動きが止まった。

 そこへ夢乃がどんっと足を踏み鳴らし、それから竹刀を投げて来た。

 

「あぁ、鬱陶しい! 気を紛らわしてやるから、持て!」

「……いつも思うのだが、君の優しさは独特だな」

「!? や、優しさでやってるわけじゃない! お前が鬱陶しいだけだっ」

 

 顔を真っ赤にしても、あまり説得力がない。

 杏寿郎はふっと笑みを浮かべて、それから竹刀を握った。

 

 甘露寺が心配で、自分はしっかり教えられただろうかという不安に駆られる杏寿郎と、そんな彼を気遣っていることがバレて恥ずかしい夢乃と。

 お互い精神的な不安定さから太刀筋が定まらず、なかなか勝負も付かなかった。

 

 結果この日の打ち合い稽古は、互いに五勝五敗。

 日付を過ぎてようやくのことだった。

 

 

 

 

 

 九日後──

 

「た、たらいま……もど……」

 

 かすかな声が、煉獄家の昼餉時に聞こえて来た。

 

 耳を澄ませていなければ聞こえないような音量であったが、杏寿郎と千寿郎は慌てて門扉へと駆けだした。

 

「甘露寺!?」

「蜜璃さんっ」

 

 門の下では桃色の髪の少女が倒れていた。

 九日前、ここを出立する際に来ていた稽古着は泥まみれでかなり汚れている。

 だが血痕などはなく、外傷もなさそうに見えた。

 

「甘露寺?」

 

 杏寿郎が呼べば僅かに反応があり、ぴくりと動いた指先で地面に文字を書き始めた。

 そこには『お腹空きました』という文字が。

 

「だそうだ、千寿郎」

「はいっ。直ぐに蜜璃さんの分も用意しますっ」

 

 千寿郎は嬉しそうに駆けだした。

 弟の姿が家に消えると、杏寿郎は倒れている甘露寺を抱えて踵を返した。

 そして玄関まで来ると、

 

「甘露寺、おかえり」

 

 そう言って、ほっとしたような笑顔を浮かべた。

 

 

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