鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第八十四話:炎柱ノ壱──柱合会議

「お館様にお会いするのも、久方ぶりだな」

 

 産屋敷家へとやって来た杏寿郎は、一般隊士であるがゆえに帯刀は許されず、隠に日輪刀を預けることになる。

 

「あら、煉獄さん?」

 

 柔らかな声がして振り向くと、胡蝶しのぶが立っていた。彼女は腰に日輪刀を差したままであり、それが柱である証でもあった。

 

「しのぶ某いや、胡蝶殿か。柱就任、おめでとう!」

「ふふ、ありがとうございます。でも煉獄さんが何故ここへ? もしかして柱合会議に……なんてことはありませんよね」

 

 ふふ──と笑うしのぶに対し、杏寿郎は「出席するためだ!」と元気に答えた。

 その言葉を聞いて「え?」という顔を、しのぶは見せた。

 

「父上の代理だ。それと……俺も腹を括ったのでな」

 

 杏寿郎の言葉に、しのぶは一瞬驚きはしたがすぐに笑みを浮かべる。

 

「そうですか。それは心強いですね」

 

 しのぶの言葉は偽りではない。

 だが同時にしのぶは不安に駆られた。

 

(何も起きなければいいのだけれど)

 

 ──と。

 

 

 

 

 

「それでお館様。先ほどから気になっていたのですが、どうして柱でもない奴がこの場に?」

 

 風柱、不死川実弥がそう言うと、しのぶは(やっぱり)と、先ほどの不安を的中させた。

 

「炎柱、煉獄槇寿郎殿は今日も招集に答えなかったのですか?」

 

 不機嫌極まりない不死川の言葉に、杏寿郎が「父上は」と答えようとした。

 が、それを不死川が再び遮る。

 

「てめーには聞いてねぇんだよォ。それとも何かァ? てめぇに炎柱の代わりが務まるとでも言いてえのかァ?」

 

 ギンっと睨みを利かせ圧を掛けてくる風柱。

 それを杏寿郎は肌で感じ、改めて柱たる者の強さを実感し、そして尊敬の念を抱く。

 

「実弥。あまり杏寿郎をいじめないでやっておくれ。杏寿郎を呼んだのは、わたしなのだから。杏寿郎、君の父上はどうしているんだい?」

「父でございますか?」

「そう。みんなはね、槇寿郎の事を心配しているのだよ。出来れば家での様子を、話してくれると嬉しいのだけどね」

 

 家での様子。

 それは毎日のように酒をあおり、酔っては自分や弟に当たり散らしている──そんな父のことだろうか。

 

 杏寿郎は顔を伏せ、それから小さくため息を吐いた。

 

 下手に隠して話すより、真実を語ったほうがよいのかもしれない。

 そう思って、杏寿郎は覚悟を決めた。

 

「父は、一日のほとんどを酒を飲むか酔っぱらうか、そんな生活を続けております。そうなった原因は──確証がございませんが、母を失ったことに起因することかと思います」

 

 母の瑠火が亡くなってから、父は任務にも酒を持ち歩くようになった。

 任務に支障が出るほどに。

 更には伝令が来ても、鎹鴉を追いかけすようになり──

 

「そして、ここ数年は皆さまご存じの通り、任務に出ることもしておりません」

 

 目を伏せ、杏寿郎はそう言葉を締めくくった。

 

「おいたわしや、槇寿郎殿。わたしが柱になったばかりの頃は、とても聡明で正義感の強い方であったのに。現柱では最古参の槇寿郎殿が、本来であれば我らをまとめる役目を担う立場にあるというのに……南無」

「悲鳴嶼さんの言う通りだぜ。酒浸りの柱なんざ、他の隊士への示しもつかねえ。地味に鬼列隊の士気にも関わる。ここはひとつ、ド派手に引退して貰うほうがスッキリするんじゃねえのか?」

 

 岩柱、悲鳴嶼行冥と音柱、宇随天元が口を開く。

 その宇髄の言葉に、不死川が頷きつつもそうもいかない事情を話した。

 

「だがな宇髄さんよォ、柱が足りねぇーんだァ。今ですら空席になっている柱の数だけ、俺たちにしわ寄せが来てんだよ。……はぁ、とはいえ、酩酊状態では任務をやらせるわけにもいかねえし、どうしたもんか」

 

 不死川の言葉に、一同がしんと静まり返った。

 

 柱の席は九つある。

 だが今ここに集まった柱は五人。

 炎柱の槇寿郎は、鬼殺隊として在籍しているし、生きてもいる。

 だが任務が出来る状態ではないので、いないのと変わらない。

 

 それぞれ柱は担当する地区を持ち、常に巡回して回る。

 柱の席に穴が開けば、残りの柱でその地区を補うことになるが、現在は柱ひとりで約二倍近くの地区を巡回している。

 先日、胡蝶しのぶが柱になるまでは約ではなく、実際に二倍だったのだ。

 

 誰かがふぅっとため息を吐いた時、「問題ない!」とやたら大きな声が響く。

 

「俺が炎柱となれば、きっと父上も気力を取り戻してくださるだろう!」

 

 杏寿郎だ。

 焔色の真っ直ぐな瞳で高らかに宣言する。

 

 その言葉を聞いて、宇髄はにやりと笑った。

 

(へぇ、ようやくその気になったか。ったく、時間かけすぎなんだよ、お坊ちゃんはよぉ)

 

 だが歓迎していない者もいる。

 

「煉獄杏寿郎……だったか? てめぇはよ、随分と自信があるようだなァ。だがなァ、柱ってのはそうホイホイ簡単になれるもんじゃねえんだよ。分かってんのかァ?」

「勿論! 柱への昇格条件は理解しているし、その資格もちゃんとあります!」

 

 ぐっと拳を握って杏寿郎は答える。

 その目に一片の曇りもなく、それが不死川の癪に障った。

 

「だったらよぉ、テメーの腕前、見せて見ろやァ!」

 

 ざっと立ち上がった不死川の隣で、悲鳴嶼が慌てて止めようと手を伸ばす。

 が、その前に不死川が「止めないでくれ、悲鳴嶼さん」と先手を打った。

 

「お館様、どうかお許しを」

 

 そう言ってから不死川は駆けた。

 その速さたるや、常人のそれではない。

 

 まずは中段蹴り──を杏寿郎は片手で防ぐ。

 顔面を狙った拳は、腕を顔の前で構えて跳ねのけ、蹴りは肘でしのぐ。

 防戦一方だが、不死川の攻撃はどれ一つ決定打にはなっていない。

 

(一撃一撃が重い。流石柱だ!! だが──)

 

 素早さで言えば夢乃のほうが上だろうかと、杏寿郎は冷静に判断する。

 

(もちろん打撃力では彼の足元にも及ぶまいが)

 

「おらおらどうした! 柱の席は空きっぱなしなんだよ。柱になるんだろう?」

 

 反撃してこない杏寿郎に、不死川は更に苛立ちを覚える。

 殴る拳に段々と力が入り、速さも増した。

 

「いつだ、今か? 防戦するだけで、まったく手も出せねぇよおなてめぇーが、柱になれんのかよ。オラァ、どうしたァ。やり返してみろやァ!」

 

 ガードした拳を跳ねのけようと力を込める──が、その腕を杏寿郎が掴んだ。

 

「隊員同士の喧嘩はご法度! やり返す訳がないだろう!!」

 

 不死川はその腕を振りほどこうとするが、杏寿郎もまた力を込め離そうとはしない。

 

(ちっ、馬鹿力がァ)

 

「それにだ! 人を殴ることはよくないことだ! 殴られた者がは体を痛め、殴った者は心を痛めるのだぞ!」

「はァ? 何言ってんだてめぇーはァ」

「俺は君を殴りたくはない! 君はツンケンしてはいるが、実は俺を鼓舞してくれているのだろう!! ありがとう!!」

「……は?」

 

 ぐぐぐっと拳に込めていた力が、へにゃへにゃと抜けていく。

 不死川は目尻をピクつかせ、杏寿郎を睨んだ。

 その目は理解できない生き物を見ているかのような視線であった。

 

「て……てめぇ。どこの世界に自分を殴りかかって来た奴に礼を言う奴がいるんだァ!」

「ははは、ここにいるぞ!!」

「はあぁァァ!?」

 

 完全に不死川は杏寿郎のペースに飲まれてしまった。

 その様子を俯き、飽きれた顔で見つめる胡蝶。

 

(やっぱり……煉獄さんはズレているんですよ。不死川さんとは合わないだろうなぁと思っていたけれど)

 

 そしてニヤニヤと見つめる宇髄。

 

「ぶっは。やっぱド派手だな煉獄はよぉ。不死川の攻撃を全部喰らってんのに、まったく動じちゃいねぇ。こりゃ柱も賑やかにならぁな」

 

 そして見ていないようで見ている冨岡。

 

(煉獄が正しい……)

 

 わーぎゃーと騒ぎ立てる不死川の耳に、産屋敷耀哉の声が届く。

 

「実弥」

 

 ただ一言、耀哉はそう発しただけである。

 穏やかな、どこまでも深い愛情を含んだその声で。

 

 不死川は杏寿郎を掴んでいた腕を離し、そしてひれ伏した。

 

「申し訳ありません、お館様。つい……ムキになってしまいました」

「うん。分かってくれればそれでいいんだよ、実弥」

 

 耀哉の瞳に、実弥の姿はおぼろげにしか映っていない。その瞳を今度は杏寿郎へと向ける。

 

「杏寿郎。柱になるための条件、君ならよく知っていることだろう」

 

 その言葉に杏寿郎は頷き、不死川の隣にさっと腰を下ろして跪く。

 

「実はね最近、帝都付近で十二鬼月かもしれない鬼の目撃情報があってね。数名の子たちが追ってくれたのだけど……」

 

 その者たちは全員、無残な遺体となって戻って来た。

 そう耀哉は伝える。

 杏寿郎にはその鬼の討伐を頼みたい──と。

 

 それを聞いて、不死川が声を上げた。

 

「お、お館様!?」

「実弥──」

 

 柔らかい声が、不死川の反論を許さない。

 

(十二鬼月……先日、胡蝶殿が下弦の鬼を倒した。十二鬼月は席が空けば、直ぐに新しい鬼が補充されるようだな)

 

 先日柱になったばかりのその胡蝶が、遠慮がちに声を上げた。

 

「お館様。相手が十二鬼月であるならば、柱である我々がせめて支援として同行するべきでは?」

 

 しのぶとしては、ただ純粋に杏寿郎の身を案じてのことだろう。隣では冨岡も小さく頷いている。

 だが、耀哉から帰って来た言葉はそれを否定するものだった。

 

「君たちには、未だ空席となっている柱の警備地区も担当して貰わなくてはいけないからね。ひとりでも人手を割く訳にはいかないんだよ。それに──」

 

 耀哉の優し気な眼差しは、既に光をほとんど通してはいない。

 一度目を閉じ、憂いを含んだ眼差しで杏寿郎を見た。

 

「それにね、元々帝都は槇寿郎が担当していた地区なんだよ。杏寿郎。柱足りえるというのであれば、言葉だけではなく、その実力をみなに示さなくてはいけないよ」

 

 そう話す彼の声色はどこまでも優しく、しかし言葉の意味は厳しいものだった。

 

 十二鬼月を自分の力で倒してこい。

 

 それが、産屋敷耀哉の言葉だ。

 

「そうすれば他の柱も、杏寿郎のことを認めてくれるだろう。君の実力を示しておいで」

「はいっ!」

 

 杏寿郎は間髪入れずに応えた。

 焔色の眼に微塵の揺らぎもない。

 すっくと立ちあがり、耀哉と、そして柱一同に会釈をして踵を返す。

 

 その後姿を柱たちが見送った。

 

「お館様。お館様には槇寿郎殿のご子息が、十二鬼月を倒せる実力の持ち主であると──そうお思いですか?」

 

 悲鳴嶼が数珠を鳴らしそう尋ねた。

 彼は一度、杏寿郎と任務を共にしているが、その実力はよく分かっていない。

 合同任務とはいえ、悲鳴嶼と杏寿郎は離れて鬼狩りをしていたためその戦いぶりは知らない。

 

「お館様の勘……ですか?」

 

 悲鳴嶼の問いに、耀哉は首を振る。

 

「行冥。わたしはね、あの子がいつか……いつかこの鬼殺隊の運命すら変えてくれる……そんな子になってくれるんじゃないかと思っているんだ」

「鬼殺隊の……運命……」

 

 誰かが耀哉の言葉を反復した。

 

 そんな会話が成されていようことなど知る由もない杏寿郎は、隠から日輪刀を受け取り、快活な笑みを浮かべて礼を言っているのであった。

 

 




ほぼ外伝そのまんま・・・
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