鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第八十六話:炎柱ノ参

「では手筈通り、それぞれの持ち場に向かってくれっ。もし鬼を発見したら、直ぐに鎹鴉を使って報告するように。すぐに駆け付ける!」

 

 杏寿郎が帝都へと入ったのは、陽が昇る目前であった。

 到着していた隊士は僅か数名で、その日は藤の家紋を掲げる家で休息をし、昼を過ぎて暫くしてから集まった隊士らを二人一組の班分けをした。

 それぞれの担当持ち場を決め、鬼との直接交戦は杏寿郎が担当する。

 十二鬼月であれば、甲……せめて乙の階級の者でなければ挑むのは無謀というもの。

 

 集まった隊士は、甘露寺を除けば全員が上から三番目と四番目の階級、丙丁だ。

 だが誰もが理解しているはずだ。自身に十二鬼月と渡り合えるほどの実力がないことを。

 ただ、十二鬼月を放っておくことも出来ない。

 鬼の恐ろしさを知っているからこそ、人命救助の大切さも理解している。

 それ故に、

 

「人命が第一だ! 君たちは市民の避難を最優先にしてくれっ」

 

 という杏寿郎の言葉に素直に頷いた。

 

「帝都の平和が俺たちが守るのだ!」

「「はいっ!」」

 

 鼓舞するように杏寿郎が声を上げると、それに応える隊士らの顔にも緊張感が走る。

 が、そうでもない隊士がひとりいた。

 

(みんなを指揮している煉獄さんも、ステキだわぁ)

 

 顔を緩め、頬を赤く染める甘露寺は少し浮いていた。

 だがそれに気づく隊士もいない。

 

 階級は癸。

 初任務というのもあって、甘露寺は杏寿郎と共に帝都を巡回することになる。

 

「初任務だな甘露寺!」

「はい!」

「そう緊張するな。俺がついている」

(キャー。俺がついているですって。煉獄さん、ステキっ)

「ひゃ、ひゃい」

 

 思わず噛んでしまった甘露寺を、杏寿郎はきょとんとした顔で見つめる。

 

「どうした? 元気がないようだが、そう気負うことはないぞ」

「え、あ……はいっ」

 

 そう返事をしたところで、甘露寺は幼い少年とぶつかった。

 少年はころんだ拍子に膝をすりむき、血は出ていないが泣き始める。

 するとその母親がやって来て、凄い剣幕で甘露寺を捲し立てた。

 

「なんなのあんたたち! 妙な髪をして、しかも帯刀ですって!? うちの子を攫おうっていうのね、警察に──」

「失礼ご婦人」

 

 そう言って杏寿郎は少年を抱き上げた。

 その肩に少年を乗せてやると、

 

「うむ! 男の子がこけたぐらいで泣くものではないぞ! ご婦人、こちらの不注意でご子息を転倒させてしまった。不甲斐ない!」

 

 と、少年を肩に乗せ、頭だけをぺこりと下げた。

 

 黄色い髪にその毛先だけが赤いという異様ないで立ちだが、杏寿郎は端正な顔立ちをした美男子である。

 そんな男が快活に笑えば、たとえ人妻だろうと頬を染めるだろう。

 

「え、あ……そ、そうなの? あらやだ、私ったら早とちりしちゃって。ほほほ」

 

 母親の方はコロっと絆され、担ぎ上げられた息子は杏寿郎の紙をひと房掴んで「変な髪」と呟く。

 それを母親が蒼白した顔になって、慌てて息子を杏寿郎から下ろそうとした。

 

「ははは。よく言われる! だが俺の家の男児は代々みなこうだ! 聞くところによると、ご先祖様がたいそう海老天が好きだったようでな!!」

「海老天?」

「あぁそうだ。海老天を食べ過ぎて、それでこのような髪の色になったのだとか!」

「えぇ~、変なのぉ~。あはは」

 

 それは隣に立つ甘露寺のソレと同じであった。

 桜餅を食べ過ぎて髪が染まったという、彼女の理由と。

 もちろん杏寿郎のそれは全く別の理由がある。

 だがここでは敢えて嘘を伝えた。それは甘露寺をおもんばかってのことなのだろう。

 

 母子と別れたあと、ふさぎ込んだ甘露寺の背中を杏寿郎が叩く。

 

「見た目など些細なことだ。気に病むな甘露寺。人の価値基準は、外見で決まるものではない。心だ!」

「……そう、ですね。そうですよね、煉獄さん!」

「うむ!」

 

 元気よく答える甘露寺に安堵し、杏寿郎も拳を握って応えた。

 だが杏寿郎にも一つ、心配なことがある。

 

 帝都目前で駆けた夢乃は、無事に到着しているのかどうかまだ分かっていない。

 

(夢乃……陽が昇る前に到着しているはずだが、無事に陽光が避けられる場所を見つけただろうか?)

 

 もし出来ていなければ──そう考えると身震いする。

 

(なぜ急に走り出した。俺はなにかマズいことでも言っただろうか?)

 

 そう考えても答えは出ない。出ないものは仕方ないので、次に会った時に確認をしようとそう決めて今は十二鬼月に集中することにした。

 

 

 

 

 

(何が海老天だ)

 

 杏寿郎と甘露寺の姿を、雑居ビルの屋上から夢乃が見下ろしていた。

 陽が暮れたのを見計らって、夢乃は既に気配を消して鬼殺隊士らの動きを確認していた。

 

「隠も随分来ているようだな」

 

 一般人に紛れている者も複数いるようだが、その動きは市民のそれとはまったく違う。

 隊士になれなかった者がほとんどだという隠も、一般人に比べるとその身体能力は高い。

 

「被害が大きくなることを想定して……か。──ん?」

 

 その時、夢乃は妙な気配を察した。

 と思った刹那の瞬間──

 

 ドォンっと爆音が轟く。

 

「なっ!? 建物ごと吹き飛ばすのか!?」

 

 杏寿郎と甘露寺の進行方向にあった建物が突然吹き飛んだ。

 その爆風は夢乃の所まで届き、慌てて羽織の裾で顔を覆う。

 

「発破か?」

 

 その次の瞬間には、二つ目の爆音が轟いた。

 今度は遠く離れた場所で、やはり建物が爆破されたようだ。

 ビルの屋上に立つ夢乃からは、その位置もよく見えている。

 

「血鬼術か? いや……本物の火薬なのか」

 

 先ほど感じた気配とは、まったく別の所で爆発は起きている。

 血鬼術であれば爆発現場からも気配があってもいいはず。

 

 眼下では杏寿郎の元弟子、甘露寺が駆け出すところだった。

 それを引き留めようと杏寿郎の腕が伸び、そして同時に銃声。

 

「……煉獄……私は、手を出さないぞ。お前の力で、お前だけの力で勝て」

 

 そう呟くと、夢乃は二度目の爆発のあった方角へと駆けた。

 

 

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