鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第八十七話──炎柱ノ肆

「血鬼術ではないな」

 

 夢乃の足元にはテープでぐるぐる巻きにされた筒が二本ある。

 その筒からは数本の黒いコードが伸び、先には懐中時計のようなものが繋がっていた。

 

「はて? これはどうすれば爆破を止められるのだ?」

 

 しゃがみこんで爆弾を覗き込むが、夢乃にはさっぱり分からない。

 そもそも彼女が人であった時代に、このような爆弾は存在していなかったのだから仕方ないとも言える。

 

「持ち上げると爆発するかな?」

 

 などと言いつつ、周囲を見渡して人気がないのを確認して躊躇いながらも持ち上げた。

 さすがにこの距離で爆発すれば、腕の一本や二本では済むまい。

 いかに鬼と言えど、自己再生能力のない夢乃では死ぬやもしれないのだ。

 

 が、爆発はしなかった。

 時計の針が止まることもない。

 

「黒いのを切ればいいのだろうか……うぅん……」

 

 首を傾げていると、背後に気配を感じ振り返る。

 この辺りはすっかり人が避難した後で、爆破現場近くに向かってこようとするのは馬鹿か警官か──

 

「隊士か。任せてみよう」

 

 そう言って夢乃はわざと目につくように、爆弾を未知のど真ん中に置いて身を隠す。

 気配を殺し、そしてやって来た隊士がどうするか観察した。

 すると、爆弾を見つけた隊士はそれを慎重に抱え、去っていった。

 後を追えば、隠にそれを渡しているではないか。

 

 爆弾を受け取った隠が慎重に黒いコードから一本を選び、そして切った。

 

「ふぅ。次を探してきてください。でも絶対にそちらの判断でコードを切らないでくださいよ」

「どれでも切っていい訳じゃないのか?」

「当たり前です! 一本が正解、残りは偽物。偽物を切れば、直ぐに爆発しますからねっ」

「ひえっ」

 

 そんな声が聞こえて来た。

 

(なるほど。聞いておいてよかった)

 

 面倒なら全部切ってしまうか──夢乃はそんなことも考えていたのだ。

 

 その場を離れた夢乃は、隊士らと同様に爆弾を探す方に周る。

 見つけては隊士ら近くに、しかも目の付く場所に置き次を探す。

 遠くでは銃声が響き、そのたびに胸が締め付けられた。

 

(煉獄……死ぬな……相手をしっかり見ろ。僅かな動き、視線。それら全てが銃弾の飛ぶ方向を決める。無茶をして、真正面から飛び込むな)

 

 銃声が聞こえる方角に視線を向け、祈るように思いを馳せる。

 その時、銃声のした方角から今度は爆発音が響いた。

 

「煉獄っ!?」

 

 思わず駆け出す。

 考えるよりも早く、夢乃は音のする方向に向かって走り出した。

 

 が、途中で急停止。

 

 道に組み敷かれた薄桃色の髪の娘を見つけ、舌打ちする。

 

(頼まれていたのに、あの娘のことを放置しすぎたっ)

 

 甘露寺蜜璃。彼女の額に銃口を当てているのは、紛れもなく鬼──十二鬼月だった。

 

「惨めだなぁ、お前たち鬼殺隊は。どんなに頑張ろうとも、どんなに命を掛けようとも、その存在は世間に知られてはいない」

 

 政府公認でもなければ、表向きには存在すらしないことになっているのが鬼殺隊である。

 一部の田舎では、鬼を狩る者がいる──と噂される程度だ。

 

「死のうがどうしようが、誰も貴様らを称賛してもくれない。誰にも認められない、ただ惨めに俺たち鬼に喰われる存在なんだよおっ」

「!?」

 

 引き金に力が籠められる。

 夢乃にはその動作が見えていた。

 

 十二鬼月は鬼舞辻無惨の血が濃く、いつその視界が無惨と同調しているか分からない。

 十二鬼月に姿を見られるわけにはいかないが、甘露寺を放っておくことも出来ず。

 

 夢乃が駆け出そうとしたとの時、

 

「炎の呼吸、伍ノ型──炎虎!」

 

 杏寿郎の声が響いた。

 

 炎が勢いづいて鬼の頚へと迫るが、鬼もそれを寸でで回避する。

 

 白かった羽織はあちこち焼け焦げ、煤まみれに。そして全身至る所から出血した煉獄杏寿郎が、甘露寺の前に仁王立ちしていた。

 

「たとえ誰にも認めて貰えずとも、お前たち鬼から人々を守るために俺たちは戦う! それが鬼殺隊であり、それが我らの責務!!」

「っち。煉獄うぅ」

「どんなに惨めであろうと、認められずとも! 俺は俺の責務を全うするっ!!」

 

 その気迫が鬼を後退させる。

 その隙に杏寿郎は甘露寺に新たな支持を出した。

 

 市中に仕掛けられた爆弾を見つけ、回収し、起爆を解除しろというものだった。

 

「奴は俺が必ず倒す。だから君は市民を守ることに集中しろ」

「は、はいっ」

 

 甘露寺は涙を拭い、そして踵を返して駆け出した。

 

「俺を、必ず倒すだあぁ?」

 

 鬼の言葉を無視して、杏寿郎はちらりと視線を逸らす。

 その先には不安げに見つめる夢乃の姿があった。

 

 すぐにでも駆け出して治癒を施したい。

 その衝動に駆られながらも、視線の先で頷く杏寿郎の意図を汲む。

 

(甘露寺を頼む、夢乃)

 

 甘露寺が駆けた方角に走り去る夢乃を見て安堵した杏寿郎は、再び鬼と対峙した。

 

「俺はお前のことなど知らないが、それでも煉獄の名に恨みがあるのなら……来い! 俺がお前の怨恨を、ここで断ち切る!!」

 

 

 

 

 

 駆けだした甘露寺は、鎹鴉の指示に従って爆弾の解除を試そうとしていた。

 黒く塗られたコードのうち、一本だけが根元に白いラインがうっすら入っている。それを切ればよいのだが──

 

 ズズ、ズズっと、彼女の足元から黒い犬が生まれ出た。

 

「やだやだ、なにこのワンちゃん!? か、可愛くないわっ」

 

 黒い犬には目と、そして口がある。

 当たり前だが、当たり前でないのはその数だ。

 ほとんど全身にそれらがあり、その全てが甘露寺を見つめ、口を開いていた。

 

 襲い掛かって来た犬を剣で受け止めても、別の口が彼女のむき出しになった太ももに喰らい付く。

 

「きゃっ」

 

 そのまま押し倒され、更に傷が深まる。

 

(私……私……ここで死んじゃうの? 煉獄さん、助け──)

 

 その時、甘露寺の耳に女の悲鳴が届く。どこか耳に残る甲高い声は、先ほど彼女に暴言を吐いた女の声だ。

 視線を向ければ、女の傍らには幼い少年の姿もある。

 

「うわぁぁぁっ。お母さん、お母さん立ってよ!」

「ぼ、坊。お前だけでも、逃げ、逃げるのよっ」

 

 母親は恐怖のあまり、腰を抜かして動けないようだ。

 

「嫌だっ。嫌だよ! 誰か助けてっ。誰か!!」

 

 泣き叫ぶ少年にはもう、杏寿郎に肩車されて笑みを浮かべたあの表情はどこにもない。

 

 甘露寺は唇を噛む。

 そして──

 

 跳んだ。

 

(私──跳んでる!?)

 

 自分でも予想だにしていなかった身軽さに、甘露寺自身が驚いた。

 そして無我夢中で──いや、本能のまま刀を振るう。

 

「ギャインッ」

(き、斬れたわ! 考えるよりも先に体が動いて、自然と──とても自然に体が動く!)

 

 だが自分がどうやって黒い犬を撥ねたのかよく分かっていない。

 それに、手にした日輪刀が随分と違和感の塊のように思えた。

 

 これじゃない──

 

 そう彼女自身が思えるほどに。

 

 だが考えている余裕はない。

 新しく数頭が加わると、一斉に咆哮を上げる。

 

「いけないっ。これ以上仲間を呼ばれたら守れないわっ」

 

 急いで全て倒してしまわないと──そう思った時には甘露寺の体が動いていた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

「これぐらい片付けてやれば、あとはひとりでもなんとかなるだろう?」

 

 誰に聞かせる訳でもなく、夢乃はひとりそう呟いて表通りに視線を向けた。

 彼女の足元にはさきほどの咆哮を聞きつけて集まった黒い犬の屍がいくつも横たわる。

 犬がすぐに灰となって夜空へと舞い上がった。

 

「あの娘……まるで軽業師だな」

 

 甘露寺の戦いぶりを見て、夢乃はそう感じた。

 同時に刀ではダメだとも。

 

「もっとしなやかな武器がいいだろうな」

 

 そんな感想を漏らしつつ、夢乃は杏寿郎と下弦の鬼との死闘が繰り広げられる辺りに視線を向けた。

 

「勝て……煉獄」

 

 それだけを呟くと、夢乃は闇を駆けた。

 犬の群れを打倒し安堵している彼女に向かって、更に追加で犬の群れが襲ってこようとしているのだ。

 その群れを音もなく、甘露寺に気取られることなく夢乃は一瞬にして屠る。

 

 すぐにその場を離れ、距離を取ってから辺りに気を配る。

 

 やがて、彼女に向かって駆けてくる黒い犬が──消えた。

 

 

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