鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼   作:うにいくら

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第九十話:巡回──壱

「炎柱は何故、みな同じ羽織なんだ?」

 

 柱となった煉獄杏寿郎は、今は代々煉獄家に伝わる羽織を守っている。

 その羽織を、夢乃は遠い昔にも見ていた。

 彼女がまだ人であった頃の、炎柱にして杏寿郎のご先祖なのだが、彼がやはり同じ羽織だった。

 

「何故と聞かれると困るが……代々煉獄の炎柱が纏っていたので、炎柱になるとこれを着用するのが当たり前というか?」

「……じゃあそれ、百年以上前からある羽織なのか?」

「いや、流石に何度か新しく仕立てている。破れることもあるからな。俺のこの羽織は父上が使っていた物を仕立て直して貰ったものだ」

「ふぅーん」

 

 月明かりの下、夜道をふたりが歩いている。

 柱となった杏寿郎は、任務が無くても己の管轄する地区を巡回しなければならない。

 どこかに鬼が隠れてはいないかと気配を探りながら歩くのだが、いくらなんでもそうほいほいといるものでもない。

 

 他愛のない話をしながら、こうして夜は練り歩き、昼間は藤の家紋の家で休む──ただし杏寿郎だけだが──そんな日々が続いていた。

 

「煉獄家の者は派手好きなのか?」

「ん? 何故そう思う?」

「何故って──」

 

 黄色に毛先だけが赤く染まった、焔を思わせる髪。瞳もそうだ。

 そして羽織も同じく焔を思わせる柄。

 

「そんな格好をしていて、地味なんですとか言わないだろう」

「むぅ……むぅ……別に派手好きではないと思うのだが」

 

 杏寿郎は二度唸って、羽織を広げてみせる。

 

「派手か?」

 

 と杏寿郎が尋ねれば、

 

「派手に決まっているだろう」

 

 と夢乃が答える。

 

「まさかお前、派手じゃないと思っているのか!?」

「はで……というより、恰好いいと……お、思っている……のだが」

「……はぁ?」

 

 この男は何を言っているんだ。

 まさにそんな顔で夢乃が杏寿郎を見つめる。

 

「うああぁぁぁ、忘れてくれっ。い、今のは忘れてくれっ。そ、そろそろ夜が明ける頃だろうっ。き、君は日の当たらない場所へ急がねばっ」

「恰好いい、ねぇ……ふぅーん」

「忘れてくれ!」

 

 クスクスと笑いながら、夢乃は道を逸れて山へと入っていく。

 

「その先の町に、以前は藤の家紋の家があった。今はどうだから分からないが」

「家紋の家があろうがなかろうが、あの町で休むつもりだ。夜、陽が暮れたらまた」

「そろそろ実家に帰ったらどうだ? 千寿郎が寂しがっているだろう」

 

 それだけ言うと、夢乃の気配はすぅっと消えた。

 

「千寿郎か……もう二週間、帰っていないものな」

 

 杏寿郎が下弦の弐が倒してから、鬼の出現数が減っている。

 新しい柱の誕生に覚えているのか、下弦の鬼の不在が多いからなのか。

 とにかく鬼の出現が減っているのは確かだ。

 喜ばしいことだが、夢乃曰く──一時的な物──だそうな。

 

「いつまた鬼が出没するか分からんが、一度家に戻っておくか」

 

 今夜は駒澤村へと戻るルートを取ろう。

 そう決めて杏寿郎は町へと向かった。

 

 

 

 

 

 梅雨が明け、本格的に日差しが強くなるこの季節。

 日暮れの時刻は遅くなり、鬼の活動時刻は短くなる。

 それは鬼狩りにとって有難いことなのだが、杏寿郎にとってはいささか有難くはなかった。

 

 日没まで間もなくという時刻に、杏寿郎は今朝がた夢乃と別れた場所で太陽を恨めしそうに見つめていた。

 

「まだか……」

 

 まだ太陽は沈まないのか。

 まるで目の敵にでもするかのように、杏寿郎は太陽を見つめる。

 

 夏のこの時期、太陽が沈んでいる時間が短くなるということは、夢乃との時間も短くなると言う事。

 以前の鍛錬の時には、日付が変わる時刻に「帰れ」と言われ追い返されていた。

 だが柱となって町から町へ巡回するようになってからは、日没後かた日の出近くまでずっと一緒にいる。

 杏寿郎にはそれが嬉しくてたまらなかった。

 

 だが、日没を待つこの時間と、日の出が近づく時間は大嫌いであった。

 

「まだか……」

「急ぐ用事があるなら、先に行け」

 

 そう声がして振り向くと、山の斜面、大きな松の木の根元にちょこんと腰を下ろした夢乃がいた。

 

「来ていたのか!?」

「任務でも入ったのか?」

「いや、ない!」

 

 にこにこと笑顔で杏寿郎が歩いて行く。その手には風呂敷が握られており、それを夢乃に差し出した。

 

「弁当だ! 美味そうだったので買って来た!」

「ふぅーん……お前、夕餉はまだだったのか?」

「いや、食べたが!」

 

 風呂敷の中身は、明らかに『一人分』ではない。

 

「まだ食うのか」

「まだ食べられるぞ!」

「はぁ……。それで、急ぎの用事なんじゃないのか?」

 

 杏寿郎はそう問われ首を傾げる。

 

「いや、なにもないが?」

 

 きょとんとした顔でそう聞き返す。

 

 それを聞いて夢乃はこめかみを押さえた。

 だったら何故焦っていたのか。

 

「まだかまだかと言っていただろう。急いでいたからじゃないのか?」

「特に急いではないな! 早く太陽が沈まぬだろうかと、待っていただけだ」

「太陽?」

「陽が沈まなければ、君は出て来れないだろう」

「はぁ……は?」

 

 つまり夢乃に会うために、太陽が沈むのを待っていた──ということだ。

 

 呆れて物も言えない。

 と同時に、自分のために太陽を目の敵にしているということに気恥ずかしさを覚える。

 

「どうした、夢乃?」

「どうもしない。弁当、食べる」

「うむ! 陽が暮れるまでまだ間がある。今のうちに食べてしまおう」

「しまおうって、お前、夕餉を食べてきたばかりじゃないのか?」

 

 さっさと風呂敷を開いて弁当──五箱取り出す。

 

「お代わりは三杯しかしていない。うむ、美味そうだ。全部違うものを買って来た。君はどれがいい?」

 

 三杯しか──と言い切る。

 普通は三杯「も」なのだが、杏寿郎にとってそれは少ないのだ。

 夢乃も十分理解はしているが、やはり未だに「おかしい」と思わずにはいられない。

 そして夢乃が何も言わなければ、杏寿郎は一口頬張るごとに「うまい!」と声を上げる。

 大きく頷くような仕草も毎度のことだ。

 

 最近夢乃は「五月蠅い」「黙って食え」と言うのを諦めていた。 

 ふぅっと小さくため息を吐くと、夢乃は広げられた弁当に視線を落とす。

 隣では杏寿郎が彼女を見ていた。

 何を選ぶのだろうかと、待っているのだ。

 

 夢乃はもう一度ため息を吐く。

 

「鶏釜飯」

「そうか! 釜飯か!!」

 

 杏寿郎は嬉しそうに弁当を取り出すと、それを彼女に手渡した。

 どうやら「夢乃が好きそうだ!」と予想したものが当たったようだ。

 

 

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