(12/21追記 feline:ネコ科の動物(ネコ・トラ・ライオンなど)
ゴロが悪いので猫ではなく獅子に変換します
本日次話更新します
防寒具を全身を覆うように着込み、全身の輪郭が全く分からなくなったずんぐりむっくりとした巨人が、吹雪のまっただ中で腰かけていた。まるで暖房の温かみが全身に届いているかのような寒さをものともしない自然体で、何かを待つようにじっと吹雪の先を見つめている。
――突如、轟音。 遠く離れたここまでも爆炎が見える。
全身に雷のように轟音の衝撃が響こうとも、巨人はまるでそれが脚本に書かれた予定調和でしかないような様子でじっとしている。
やがて、明らかに人間ではない四足歩行の猟犬の群れが、全速力でソリを曳いて巨人の下へ向かってきていることを視認してから、ようやくその重い腰を上げた。巨人は猟犬の群れの中にいるリーダー犬に向けて言葉を発した。
「――状況は」
「流れ者の言葉を氏族が信じるかよ、予想通り、何もかも吹っ飛んだ」
「……忠告はしたはずなんだがな」
「だからこそ、というのもある。信頼関係を築く時間がなかったのも痛かったが」
「済んだことを嘆くのはよそう。生き残りは?」
「頭首夫妻とその筆頭護衛が、
私たちの体を使って前頭首とその護衛を治してくれと言って息を引き取ったところだ」
「――今からか? もう間に合わんだろう」
「ところがどっこい、なんと生きてる。虫の息だが」
「――ならば行こう。医者の時間だ」
その後、幾ばくかの時間、巨人と猟犬は情報の整合性を取り合い、爆心地に急行した。
――爆心地。 美しく装飾された家具や陶器が散乱し、見るも無残な残骸になり果てている。
爆発の余波は建造物の基礎となる柱や屋根を無差別に破壊し、ふとした衝撃でバランスが崩れれば、建物自体がいつ倒壊してもおかしくないように思える。
そこに、一匹と一人が、その見た目とは裏腹に、慎重にしかし迅速に踏み込む。
爆発の成果を確認しに来た慮外者を、縛り上げてはソリに括り付け。犬たちに所定の場所へ運ばせることをしばし繰り返した後ではあったが。前頭首とその護衛の顔を見知っている猟犬が、鼻を引くつかせ、崩壊した建造物内を巧みに誘導していく。
「この方と、この方だ。間違いない」
「……確かにまだ心臓は動いている、虫の息だが。
頭首夫妻とその護衛の死体はそこか、気候に感謝だな。他の国ではこうはいくまい」
「どうにかなりそうか? ヘリオトロープ」
「そのための私だ、ランタナ」
「……しかしここは場所が悪い、死体を確認しに来た慮外者に邪魔される可能性もある。
ソリが戻り次第、場所を移した方がいいだろう」
「――言っている間に来たようだな、私は緊急救命で暫く手が離せない、行けるか?」
「誰にものを言ってる?」
「……要らない心配だった、頼りにしてるぞ」
「任せろ」
炎と煤が充満する空間で、ヘリオトロープと呼ばれた巨漢は術式にかかる。
何処から取り出したのか、患者を清めるために水を使い、消毒し、簡易手術を行うための空間的余剰を造り上げ、腕を10個に増やした。
「……この特殊個体は全力稼働するときにリソースがかかりすぎるのが難点だな。
頭も、眼も。それだけ必要になる
しかし参った、今回は二人だけか………まぁ、なんとかしよう」
神話の世界の大蜘蛛のような外見になった巨人は、犬の個体もそういえば特殊個体の一つだったなと、複数の脳のリソースの片隅で、くだらないことを言ったと韜晦しながら、全力で、適確に、複腕のすべてを稼働させ始めた。
――数刻後。
最初に目に入ったのはボロボロに倒壊した天井だった。
目が覚めた時には全てが終わっていた。いや、終わらされた、という方が正しいか。
爆発で何もかも吹き飛ばされた空間で、この老いぼれと、その護衛だけが息をしていた。
それぞれの息子と娘は、まるで爆風から庇うかのように覆いかぶさっていたと語られ、一瞬で血が頭に上り、またそのまま倒れた。語ってくれた誰かを確認するほどの体力が回復しておらず、しかしこの老いぼれの護衛の声だけははっきりと聞こえた。
「――あなたが治療を?」
「いかにも、獅子の守り人よ。あなたたちだけ、助かった」
「……まずは感謝を。しかし、我らの子の死体が。
……損壊している理由如何によっては容赦できません」
「願われた」
「――馬鹿な……次代を担う者こそ大事なれと言い聞かせているはずです」
「願われた。それだけで、私に断る理由はなかったのだ。獅子の守り人よ」
「なら……!!! ならなぜ!!!
我らの子らに……輪郭以外残っていないのか答えろぉおおお!!!!」
「願われた、そして私にはそれを出来るだけの技術があった。だからそうした。
あなたたちの体の中に、あなたたちの子らの息遣いを感じるはずだ。
たまたま血液型が同じでよかった。全て使う羽目になるとは思っていなかったが」
「そんな……そんな……。今は、……今は。此処をすぐにでも離れるべきです。
我らには必ず成し遂げなければならないことが出来た。お付き合い願えますか?」
「医者には患者の怪我の経過を見守る義務があるのだ、獅子の守り人よ。
加えて、深い心の外傷を癒すのにも時間がかかる。それまでは、付き合おう――」
そうして、白い雪が何もかも覆いつくす銀世界を。溶かし尽くすほどの血が流れる、復讐劇が始まった。仇の首を、娘息子――我が子らの墓前に供えるまで、魂から流れ続ける流血を止めるために。我らの魂を慰めるために――。
――二日後。某所。
次に目が覚めたのは、いざという時のために確保しておいたセーフハウスの一室だった。
ふと隣を見ると、ずんぐりむっくりがいた。いや怖いわ。何で室内で防寒着厚めに着込んでるんだ…?しかもすぐ視線に気が付いたのか体調を確認された。
てきぱきと診察が終わり「ではこれを」と水と錠剤を渡され、助けておいて殺されることもないだろうとあっさり飲む。そしていろいろな話をした。いろいろだ。もちろん気を失う前の話も問い詰めた。だが、儂はそれほど腹は立たなかった。
これをしでかした下手人共をどのような目に遭わせてやろうかということで目の前が真っ赤に染まったからだ。今度は意識を失うことがなかった。ずんぐりむっくりによると、そうなると思ったから抑制剤を飲ませたのだと言われる。用意のいい奴だ。
一息ついたところで、三人で車座になって話し合った。気絶した後の話を聞いた。
儂は気絶していて、その護衛は儂を抱えて逃げるのにいっぱいいっぱい。
現場検証やら、周囲の状況やら、下手人の手がかりやら、たまに襲い掛かってくる慮外者への対処やらを全部このずんぐりむっくりとそいつの飼ってる猟犬が対処したのだという。そして、トカゲのしっぽまではつかむことが出来たのだという。
それを聞いて勢い込む儂に――
「すでに、隣の部屋にズタ袋をかぶせている状態だ。偉大なる銀色の獅子よ」
「なにぃ…?」
「さぁ、あなたも治療の時間だ。
ズタ袋共の外傷を癒すための道具は揃えている、私は患者を治療しよう。
――あなたの心が癒されるまで。
なにせ、生きている間は私の患者だ」
「ぇ、こいつこっわ。おい儂の元筆頭護衛、こわいこわいこいつこわいって」
「――すでに拷問は何時間かしたのですが。
この方すぐに治してしまって、幾らでも拷問が出来てしまいまして……。
すでに情報は洗いざらい聞いているのですが、せっかくですから殺しますか?」
「おっ、そうだなっ!」
折角だから殺した。ていうか儂らのほうが普段から怖いことしてることを一瞬忘れるほどずんぐりむっくりは迫力があった。本人は医者だと名乗っているが、間違いなく嘘だとわかる。今までの経緯やら、屋敷にあった謎の投書文のことを聞かされて得心の行く部分もあった。しかし、どこかちぐはぐだ。まるで隠しきれていない。
普通に考えて、諜報ができて、戦闘が出来て、医療技術が卓越していて、鉄火場の検証から犯人を吊し上げるまでこなせるって、どこのぞ国の特殊諜報員ですよと宣言しているようなものだ。よほど戦の臭いの強い師の下で鍛えられたのだろう。その割にわきが甘いが。
素性に深入りするのは避けた方がいいのかと思ったが、あっさりと「ヘリオトロープという」名乗った「医者だ」だから絶対嘘だろ。
「それよりも、そこのズタ袋が持っていたデータの中にこんな画像があった。
偉大なる銀色の獅子よ、心当たりは?」
そうして見せられた情報媒体の画像の中には、銀色獅子の血統の子供たちが映っていた。
――数時間後。廃ビル屋上。
「……おまえさぁ、ほんとおまえらさぁ。なんなの?」
「医者だ、偉大なる銀色の獅子よ」
「お前のような医者がいてたまるか」
「……寡聞にして聞いたことがありませんね」
復讐者一行は、首尾よく孫たちが閉じ込められている高層ビルを拝める位置まで来ていた。
こそこそと隠れ潜みながら、三人は高層ビル内の音声と映像データをハッキングしていた。
そこまでの機材の用意はこのヘリオなんとかという巨人のものだが、それを所定箇所に設置したのは猟犬の方だ。この猟犬も何かおかしい。碌に吼えないのもそうだが、聞き分けがよすぎる上に人語を解している素振りを隠そうともしない。動物特有の筋肉のしなやかさで、あそこまで音も立てずに曲芸師も真っ青の動きを一流の諜報員のようにこなす。
この一人と一匹はいろいろとおかしい。お陰で助かってはいるのだが。
「偉大なる銀色の獅子よ」
「……いや待て待て待て、その偉大なる銀色の獅子ってのはなんなんだ。
聞き返すのも面倒で突っ込みもしなかったけどよ、いい加減名前で呼んでくれや」
「――ヴィクトリアで、貴方の論文を読んだ。私はそれにとても感銘を受けたのだ。
そんな方法があったのかと」
「……ま、待て待て待て待てまてぇぃいい。おまっ、いつの話を…。
この老いぼれの若気の至り黒歴史をほじくり返すとか、お前俺を殺す気か…?」
「――元気な上に、まだまだ若いではないですか」
「その精神年齢低いですねみたいな煽り止めろぶち殺すぞ元筆頭」
「それが出来るならどんなにいいだろう、そう思って。この論文を書いた人間に一目会いたくて、
私はここまで来たのだ。
――まさか治療中にそれその人だと、気が付くとは一生の不覚…!!
だから。だから、私は。私はとても怒っているのだ。偉大なる銀色の獅子よ。
このような偉大な思想を持つ血統が、滅ぼされようとしていることが、我慢ならない…!!」
感情の熱を込めた発言をしたかと思えば、解析が終わった。と、そう冷静に続けると、銀色獅子の血統が閉じ込められているフロアの詳細な地図と、見張りの配置が画面上に記される。
「偉大なる銀色の獅子よ。
――貴方の着想は、間違いなくこの世界から流れる血をなくすために向かっているものだ」
「……儂の孫が頭首になって、ようやくスタートラインに立てるって言ってもか?」
「遠大な計画に、時間だけは味方だ」
「……元筆頭」
「――よろしいので?」
「よろしいもなにも、幹部は軒並み吹き飛んだ。儂もお前も死んでなきゃおかしい……。
明らかにおかしな状況を、まともにしてくれた奴が一番儂に狂ってやがる。
こいつを逃がすのは、ねぇだろうよ」
「ではそのように」
雪に覆われた高層ビルの中身が血に染まるまで、いくばくの時間もかからなかった。
――数日後。三氏族会議を控えたカランド貿易 本邸。
「――私は今深刻な悩みを抱えている、偉大なる銀色の獅子よ」
「…あぁ?」
「――おかしい、おかしくないか? 私の本職は医者なのだ、医者とは患者を見るものだ。
偉大なる銀色の獅子よ。それに当てはめると貴方はもはや患者ではない。
つまり私の仕事は終わりだ。
要するに帰っていいか? 偉大なる銀色の獅子よ」
「イタタタタッタタタタッタタタァアアアアア!!!
あー腹の傷が開いたぁ! あー痛いなー、動き回ったらまた傷口が開くだろうしなー!!
誰か助けてくんねぇかなぁあああ!!!!」
「――そうやって、私をいつまで付き合わせるつもりだ。偉大なる銀色の獅子よ」
「……有能さを示されたのが、運の尽きかと思われますが」
「――おお。私の患者2号の獅子の守り人よ、私は嘆かわしい。
私はちょっと他人より耳がよくて、手が広く、武勇もそれなりにこなせて、
医療技術に長けているだけの……そう。ただの医者なのに」
「お前のような医者がいてたまるか」
「……寡聞にして聞いたことがありませんね」
「――嘆かわしい。私はとても嘆かわしい……これだから北方地方の引篭もり室内猫共は。
冷たい大気と乾いた吹雪に脳髄の芯まで凍らされて、家から出れなくなってしまったのだな」
「はぁああああぁ?! 出れるっつーの!!
ケガしなかったらあいつらぶっ飛ばして出る予定だったんですぅぅぅううううーーー!
はいろんぱぁ!!!!!」
「――獅子の守り人よ。仕える主、間違えてないか?」
「……違うんです、死んだと思ってたら復讐できる機会が手に入ってしまって。
テンションが壊れているだけなんです…。いつもは雄大で静謐な主なんです……」
「――矮小で騒音そのものにしか見えないのだが、獅子の守り人よ。
先見の明がありすぎて、暗殺を実行されたあたり、
やはりこれが偉大なる銀色の獅子の本性なのではないのかと私は思うのだ、獅子の守り人よ」
「………(サッ――――)」
「先祖代々、
ウチの家系の護衛やってる一族の元筆頭が眼ェ逸らすの止めろよなぁああああああ!!!!」
年齢不詳のその男は、ヘリオトロープと名乗った。
全身を分厚い防寒具で包み、一見、巨漢にも見える体のそのほとんどは医療物資で占められていて、どこまでが体なのか不明だ。ずんぐりむっくりとした見た目。見るからに鈍重そうな、深く足跡を残すその体重。しかし、彼は誰よりも機敏だ。そして彼と常にともにある、猟犬とそれに率いられる群れは、吹雪の中でこそ、恐ろしい脅威を発揮する。
「しかしよぉ、ヘリオ。あそこまでする必要あったか?」
「だが効果的だ、偉大なる銀色の獅子よ」
「――我々はギャングではないのですが……」
だからこそ。敵対したと確信が取れなかった2氏族の屋敷にも、誰にも気づかれずに忍び込める。わざわざ綺麗にしてやった首なし死体を置いてくることも容易で。今頃大通りは、カランドの国教の象徴ともいえる存在に突き刺さったオブジェに騒然としていることだろう。
「――ま。息子や娘は残念だったが、しばらくこれで時間稼ぎができるだろう」
「……暫くの間。犯人捜しで国境も封鎖されるでしょうし。
後継者たちを育てる時間ができましたね」
「何? 待て。国境線が封鎖? どういうことだ? 偉大なる銀色の獅子よ」
「――余所者のお前が真っ先に断頭台に連れていかれるから、
バレないようになかよくしようなぁぁあああああああ、ってことだ間抜けぇええええ?!!」
「くっ……獅子の守り人よ。嵌めたな?」
「なんのことでしょうか?
私はただ、貴方たちほど隠密に長けているのなら2氏族の屋敷に忍び込むのも容易でしょうねと
世間話を振ったり、あの巨大な象徴にバレないように細工をするなんて、
まさか貴方たちでも不可能ですよね、と他愛もない話をしただけじゃありませんか?」
老獪な氏族の手練手管に、戦慄で身を震わせる、室内であるのにもかかわらず防寒具を厚く着込んだ巨人、ヘリオトロープの横で、一匹の猟犬は「だから止めとけって言ったのになぁ」と言わんばかりのあきれた表情でくぅわわわわおおおん、と大きなあくびをした。
カランド貿易強化フラグ及び、
兄妹仲をましにしようぜフラグを建てました。
これでシルバーアッシュとどくたーは め い ゆ う! やな!
新章ネタバレ少し見ました。
各キャラwikiと6章までのストーリーのインプットが完全でないので
そこまで手が回らない、GT-5の合成コールで忙しい!
あと一番重要なんですが、感想と評価ください(乞食)
第5話はwiki読み込んで、読者の評価がよければ書けるはず…。