GT-5:合成コール312
GT-6:砥石257
DM-6:中級糖源259
DM-8:中級異鉄256
――とある都市。路地裏、夜が日に日に伸びていった頃。
「――いつまでついてくるつもりなんですか? トカゲ君」
「返事がありませんね、もしかしてご自分は特別な存在だと思っていらっしゃる?
若者にありがちな万能感は今のうちに卒業しておくことをお勧めしますよ」
「目線であなたを確実に追っていることが腑に落ちませんか?
種族特有の身体的特殊技能なのでしょうか。
どうにもそこだけに頼りすぎているように見受けられる」
「――だから見えていますってば、そうやって目の前でまじまじと見つめられても困ります。
と言いますか、隠れる気あります?
視線はバレバレ、物陰に体を隠す気もない、なんでしょうか?
わたくし、バカにされてます?」
「………あんたを、ここ最近のあんたを。ずっと見ていた」
「――ようやく口を利いてくれましたね。熱烈なファンとは。サインはいりますか?」
「………あぁ、あんたが恐ろしすぎて目が離せなくなってね。
――最近ファンになったところさ。
……あんたは何故そうしていられる? あんたはおかしい。狂ってる」
「こんなに奉仕精神にあふれた紳士になんていいようなんでしょう。
寝ずに働いているというのに……」
「そうだな。文字通り寝ずに働いてるな、あんた。
救世主様には悪いが、こんなところで暮らしていると、無償の善意なんてものが、
いつ悪意になって牙をむくんじゃねぇかと気になって仕方がねぇんだ。
悪いとは思ったが、仲間と一緒にあんたのことは見張らせてもらってたぜ」
「――ということは、どうやら。
わたくしの潔白は君の行いによって証明されたようで。安心しました」
「余計に怪しいぜ、あんた。
というか種族は何なんだ? そんな強靭なやつぁ、アビサル以外噂にも聞いたことがねぇ。
あの毒娘を囲っていることも怪しい、これ見よがしにあの夫妻に協力してるのも怪しい。
あとあのおっかねぇ黒猫はなんなんだ。
こんな肥溜めに、あんたらみたいなまっとうな奴らが、何の用で入り込みやがる…!!」
「なるほど、つまり貴方はわたくしと行動を共にしたいのですね? よろしい!」
「はっ? ちがっ――」
「――ちがうのですか?」
「い、いやまぁ、最終的には?
そう言おうと思ってたけどよ……そんな友好的じゃねぇっていうかよ」
「では行きましょう、さぁ行きましょう。いやぁ助かりました。
猫の手も借りたいくらいで。やはり限界があるので。
トカゲ君には前々から目を付けていまして。
仲間になってくれるのなら私の相棒の護衛役をやってほしかったので助かりました」
「待て待て待て待て。仲間になるつもりはねぇし、勝手に仕事やらせようとするんじゃねぇよ」
「――これは異なことを。
わたくしのことを知りたいのでしょう?
ならば、わたくし以外の人物からわたくしのことを聞くべきでは?
わたくしに近しい人物と仲良くなり、わたくしの経歴を聞き出すべきでは?
まずそのために、
トカゲ君はわたくしに近しい人間の信用と信頼を勝ち取らなくてはなりません。
つまり、おうちに招待です。さぁ行きましょう。すぐ行きましょう。
そろそろだと思って食材は買い足してあるのですよ」
「……かっ――」
「蚊?」
「――帰r」
「残念です。わたくしの作る料理は絶品だと、みなから評価を受けておりまして。
特に、ハダカウロコトカゲの後ろ足をキノコと香辛料で味付けして焼いたものが今日の主賓で――」
「……ろうかと思ったが、うん。せっかくの食事のお誘いを蹴るのも失礼だし、
お邪魔させていただこうかなぁ…?」
「おお、これは喜ばしい。では行きましょう、さぁ行きましょう、今すぐ行きましょう」
「――クッソ、絶対化けの皮を剥いでやる……!」
その後。イーサンと名乗ったトカゲ男は、同じくラバテラと名乗る小柄な白衣の男について回って仕事を始めた。そうしてやはり思った。ラバテラはおかしい。いやというかそいつについて行ってる一団全員がなんかおかしいと。
ある日のこと。拠点にしている家屋の庭にて。本日はお休みの日なので、彼女のガス抜きに付き合ってあげる日なのですよ。と食卓の席でなかなか旨い紅茶を淹れながら言うもんだから、適当に相槌を打ちながら何も考えずについて行った。そして後悔した。
「――狡い!ずるいずるいずるいずるいずるい!!!
ラバテラって全身武器みたいなもんじゃん!」
「己の肉体を十全に扱えないものが、
わたくしに物申すなど10年は早いですね、生まれ治してきては?」
「くっっそ!!! ぜっっっったいに、吠え面掻かせてやる!!!!!」
「――はーっはっはっはっはっは!鈍い鈍い!亀より鈍い!
御伽噺のように己の肉体的ポテンシャルにばかり頼ってるからそうなる!
怠ける! 慢心する!
恵まれた肉体で可能性を探求しましたか? なに? していない?!
これはいけませんねぇ、今回もわたくしに負けたら”出来るまで映画の刑”です」
「いっ……いやだ! それだけはいや!
ラバテラじゃないんだから、出来るまで頑張るとか正気じゃないよ!
っていうかストーリー部分も見せてよ!
延々とアクションシーンばっかりだと死にそうになるのよ!」
「――と言いつつ、前回見て覚えていただいた動きは全部できているようですね!!
……しかぁぁああああっしっ! 足元が疎か! 視界が狭い!
センスに頼りすぎて努力を怠る功夫! 甘い甘い甘い!!!」
「いっ……いやぁあああああああああああああああああああああああ!!! いや!いやよ!!
もう薄暗い部屋に毎日ご飯を持ってきてもらう日々は嫌なの!!! お外に出たい!!
意識が朦朧としている時にブルーケーキを口に突っ込まれると全身に怖気が走るのよ!!
――おいしいけど!!! 」
「彼女の作る料理は成分表上は何も問題ないとしっかりと、
確認してある栄養素豊富な食事ですので!!
ここで負けたら勿論ケーキも食べてもらいます!!!」
「ひっ」
「隙あり」
「あっ」
「一本ですね、さぁでは部屋に」
「……さんぼんしょうぶ!!!」
「ふむ」
「まだいっぽんめだから! これさんぼんしょうぶだから!!!!
一本でも取れたらわたしの勝ちでいいんでしょ!!
まだわたしの意気はくじけていないわよっ…!!!」
「――はっはっはっはっは。
肉の躰さえ十全に扱えない赤ん坊が?
ハイハイを始めて褒めてくれるのは、親御さんだけなんですよ?」
「――殺すわ」
「出来たことがありましたか?」
街中に出ればそれなりに声を掛けられるような美少女を、いい大人が言葉と拳でボッコボコにしていた。ていうかラバテラだった。ドン引きどころじゃなかった。ちょっと同じ家に住んでる人だと思われたくなくて、一通りの寸劇が終わったところで、家の中に引き返した。
ちょっと落ち着いて淹れてもらった紅茶でも飲もう、と思いキッチンの方に向かうと人の気配。いやな予感がしたので、気配も姿も消して紅茶の方に向かうと、いやな予感の原因が、案の定いた。
「いえ、分かるんです、わたくしは物分かりのいい女でしてよ。
ええ、ええ。見捨てないことを信条とするお人の掌は限られていて、
わたくしと同じように、困っている方を見過ごせないというのは承知しています。
――承知していますとも。
でもでも、釣り上げた魚に餌を与えないというか。
植物に水やりや肥料を与えるのを忘れがちというか。
期待させておいてプレゼント箱の中身がクマの縫いぐるみだったというか。
――いえ、クマちゃんはとても嬉しかったので大事に飾ってあるのです。
しかしですね…………」
その特徴的なピンク髪を隠すようにフードを被った少女の、嘆きの語りが止まらない。
そしてそれに付き合わされている、この家の家主の娘である少女は、完全に眼が死んでいた。
庭から聞こえる騒音が、拳が肉を殴りつける鈍い音から、金属同士が競り合う硬質なものに変わったことを確認するとイーサンは巻き込まれないようにそそくさとその場を後にしようとして、家主の娘に腕を掴まれた。
「――逃がさないわよ……っ!!」
「くっ……! ラバテラに習った隠形は完璧だったはず?!」
「その横着な性格を直した方がいいって言われたのをお忘れかしら?
紅茶の入ったカップが宙空に浮いてるのよっ……っ!!」
定期的にピンク髪少女が狂いだすのは、そもそもの原因として、その保護者であるラバテラという男が、最近知り合った感染者治療を志す一家と懇意になり、あっという間に意気投合してしまって、一家の父親と一緒にスラムに突撃するように出かけるようになってしまったことにある。寝床も食べ物も必要な二人はふらりと帰っては来るのだが、死んだように寝て、一言二言言葉を交わしたかと思うと、頭をなでなでしてから出かけてしまう。
そうしてそうなると、どうなるのか。全部被害がその一家の娘である私にくるのだ。
嘆いているのかのろけているのか。その境界線がもはや分からないこの頭の中まで総ピンク色天然色になっている、最近友人になってしまった(友人になってしまった!!)この子は定期的に発作のようにこうなる。「良ければこの子と仲良くしてやってくれ」「仲良くして待ってるんだぞ」と言い含められていたから頑張って頑張って頑張った結果、何とか仲良くなったが、重い、重すぎるのよ…。
これならまだ庭で棒切れを振り回している狂暴黒猫のほうが…いや駄目だ、あの子もあの子で光り輝くように狂ってる。「感染者の権利は、感染者自身の手で取り戻す!」と宗教の開祖のようなことを血に染まった棒きれを持ちながら言うのは止めて欲しい。いや分かる、分かるのよ。その棒切れに付いた血が私たちを暴徒から守るために仕方なく付いたものなのは分かる。私も母も父も何度も助けてもらってる。わかる、分かるんだけどさぁ…。こうなんていうか頭での理解は追いついてるんだけれども、心が追い付かないっていうか、冷静に考えてわたしと大して歳の変わらない子がムービースターも真っ青の活劇を繰り広げるのに現実味が持てないというか。お願いだからこれ以上私の常識を壊すのを止めて欲しい。
――極めつけはあの小柄な白衣の気狂いだ。
なんで、あの人、私たちの命の恩人なんだろう……。過去のことに思いを馳せ始めると、瞳から生気が抜けていくのが手に取るように分かってしまう。いや過去どころか、もう現在進行形で頭を抱えたい気分にすらなる。なんで。どうして。わたくし電波受信してます、みたいな人が私たちのリーダーなの…? いやこれは比喩でもなんでもなく本人が事あるごとに呟くことで、隠そうともしないのだ。いや、結果的に、その謎の行動や言動に意味はあって、実際その時になってみるとあぁそういうことかと納得できるものばかりではあるのだけれども、慣れてる連中と違って私は毎回毎回気が気でない。脳味噌ピンク色も凶暴黒猫もあぁいつものことかみたいな納得した顔してないでちょっとは突っ込んでほしい。
よって。あなたは違うわ!違うわよね!と完全に常識人突込み枠に収まってしまった娘の嘆きは、スプラッターホラーに出てくる、新たな同胞(犠牲者)を求める屍人のように力強く、イーサンの腕をつかんで決して放そうとしない。
「いっ、いやだ! どうせ、こいつの作るケーキよりも泥甘な話を10回以上は聞かされるんだ!
おっ、俺はもう嫌だ! こんなところにいられるか!! 部屋に帰らせてもらう!」
「逃がさないといったでしょう……っ! はいお注射」
「ちょっ」
「ピンク髪とラバテラ監修の特別性よ。
本来は無力化だけの為に造られたものらしいんだけれども、知ったことじゃないわね。
さぁ、荒ぶる神を鎮めるのを手伝いなさい。今晩のご飯をマーブル模様にしたくなければね」
「い、いやだっ、あの話を聞くと全身が痒くなるんだっ……!
いつも通りなんとかしてやれよっ!」
「人間には限界があるのよイーサン。
どうせ今日は庭の騒音で誰も彼も怖がって何もできやしないんだから、
暇つぶしだと思ってあきらめて頂戴」
「………というか、おまえさんはなんで大人しく椅子に座ってるんだ?」
「………実験ってね、必要なのよ」
「ん?」
「試薬が出来たから、
効果時間が何時間ほどなのか試してみましょうそうしましょうって話になってね。
――私、気付いたらこうなってたわ」
「嵌められてんじゃねぇか!!!!」
「うるさいわね、これから貴方も同じ目に遭うのよ」
「俺、関係なくねぇ……?」
____________________________________________
「――どんなことがあろうと決して見捨てない。それを信条としています。
だから、きみがもしよければ、わたくしの手をとっていただけないでしょうか…?」
白衣を血に染めた小柄な男は、そう言って手を差し伸べた。
それが、どんなに嬉しいことか。どんなに難しいことか知った私は。
亡者が天から差し出されたか細い糸に、安易に触れるような真似は出来なかった。
「……わっ、わたくしの手を取る。その意味が、貴方にはわかっていまして?」
「えぇ、えぇ。わたくし、研究には自信がありまして。分かっていますとも」
「沢山の人に追い回されますわ」
「駆けっこは得意なんです」
「それは知っています……。その、その……っ!」
たまらなくなって、わたくしはその手を力いっぱい握りしめた。
「――はっ、離せなくなっても、しりませんわよ!」
____________________________________________
数時間後、眼をハートマークに輝かせて物語を語るピンク髪の少女の横で二名の犠牲者が死んだ眼をしている姿を、ラバテラは気絶した凶暴黒猫を、部屋で寝かせるために肩に担ぎつつ確認した。
その眠りの中で彼女は回想する。
文字通り、決死で戦った男の背中を。
腕も足も撃ち抜かれて、動けなくなったはずの男が、全身から雷電を奔らせ、無理やり駆動させる化外の雄姿を。背中にはさきほど患者を助けるために使った、蘇生術式で使ったAEDをいくつも背負い、神経系を雷電としていた。
「――これは本当の本当の緊急手段でして。えぇ、えぇ。私が燃え尽きるまで間もない」
「ですがわたくしは心打たれたのです。
たとえ無力でも、己の魂の自由を、なお叫ぶことのできる貴女に」
「やはりわたくしは世界をもっと知らなければならない。
貴女のような、予想もできないセカイにめぐり合うために…っ!」
――閃光。稲光。いなづま。雷電。
夢の中だからか、想像上のものだからか、その時意識を失ってしまって、気が付いた時には背負われていた私にはその時のことが分からないはずなのに、はっきりと見えた。雷電を完全に制御して、敵対するものたちを両の鉄腕で薙ぎ払う、私が目指すべき極致が――。
「――我ながら、使い捨てとは分かっていても、意外と長持ちするものです」
なにか、聞き捨てならない言葉を、発達した聴覚が拾い、一瞬で脳髄が覚醒する。
「………活動資金も最近増えたことですし、おそらく間に合うでしょう。
――わたくしの活動限界が来る前に、辿り着かなくては」
「……………………………………………………。」
その後、すんだもんだ遭った末に、辿り着いて、
最終的に覚悟を決めてお別れの挨拶まで考えていた狂暴黒猫が、ネタを明かされて本人に殴り掛かったのは言うまでもない。
ロドスアイランド所属の割にプロフ読んでると闇が深すぎて絡ませにくいキャラが多すぎたので無理やり繋げました。
オペレーターゲットだぜの巻。
貿易商の幹部になってお金が増えたから、ようやく金銭関係の呪縛から解き放たれて無茶苦茶(問答無用の感染者治療)できるようになった回で、このどくたーを火山に行かせる合理的な理由を作るための準備回です。
しかしまだ火山に行くにはフラグが弱い…。いつになったらエイヤを出せるのか…。