ろどすおぺれーたー どくたー10さい!!   作:奈音

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 エイヤフィトラ救済の物語に早く辿り着きたい……。


第9話 6ック!!! クライマーズ!!! その③

《《――なるほど、君の状況はよく分かった、ネモフィラ。

  おそらく君は、何らかの原因で発生した記憶の投影の中に巻き込まれたのだろう。

  いや実体を持った記録というべきか》》

 

 「………記憶の投影? 実体を持った記録? これが現象とでもいうだか?」

 

《《――だが、それ以外に説明がつかないのも確かだ。

  忌々しいことに、私もその手の類には戦場で何度も遭遇している。  

  大きな想念が渦巻く場所で、局所的に発生する現実と比較して明らかに異なる世界。

  我々の間では単に”異界”と呼んでいた、恐ろしい場所だ》》

 

 「………確かに、開発された高級住宅街と言われて来てみれば、

  広がってたのは未開の地のような有様だっただ。

  すでに数えきれないくらい戦闘になって、

  外部となんとか通信をつなぐために逃げ隠れる他なかっただ。

  おらたちは何時からここに囚われていたと思うだ? 抜け出す手段はあるだか?」

 

《《――――――ッ?! 不味い、君が何を言っているの分からない…。

  私の経験談だが、その空間は何もかもが捻じ曲がってると考えた方がいい。

  なにせなんらかの記憶や記録から構成されているような世界だ。

  夢の中で見るような支離滅裂に間違いなく振り回される。

  ………今通信が繋がっているのも奇跡のようなものだ。

  時間の概念がずれ、季節感の狂った状態になる前でよかった》》

 

 「質問に答えて欲しいだ! ジェネラル!!」

 

《《――よく聞け!おそらく今繋がっている通信内容すらおかしくなっている可能性が高い!!

――逃がさない、わたしとあそぶの。あそんでくれなきゃだめ。原因を探せ!――許さない、逃がさない。さもなければ――うるさぁああああああああああああああいぃいいいいいいいいいいいいいいiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiippppppppppppppp》》

 

message”Shutttttttttttdowwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwnnnnnnnn”  

 

――おい! Castle-0!!!

 

message”乗っ取られそうなので自動デバッグ終わるまで持ちこたえてください”

 

 はぁ?! 古代技術の結晶が敗北するとか本気で言ってるのか??  

 

message”気が済むまで遊んであげれば何とかなると思います”

 

 いや意味わかんねーよ! ヘイズもレッドももう限界なんだぞ!!

 どれだけ戦ったと思ってる!! 

 

message”気が済むまで遊んであげれば何とかなると思います”

 

 遊ぶ? 今までのがお遊びだとでも?

 それともそいつと人形遊びでもしてやればいいのか???

 

message”肩の人形を大切に”

 

 は?

 

message””

 

 ――くそっ!!

 

 

 思わず拳を大地にたたきつける。完全な孤立無援。仲間は消耗のし過ぎで完全に意識を失っている。最期の賭けとばかりに、命からがら逃げた先で外部に応援を要請しようとしたが、あっという間に最期の頼みの綱であったCastle-0まで落ちてしまう。外部からの操縦アクセス権を残してくれたのが唯一の救いか、動けなくなってしまった仲間を運ぶ分には全く問題ない。

 

 ならば、一刻も早くここから移動しなければならない。ジェネラルの情報が唯一の頼りだ。おそらく、途中からこちらの声が聞こえてなかったか、なにかが聞こえていたのだ。だからジェネラルは必要な情報だけ伝えてくれたのだろう。

 通信が途切れる前に言っていたこと。支離滅裂な状況に巻き込まれる前にやるべきこと。原因を探すこと。いや原因ってなんだよ。見つけられなかった時、解決できなかった時、さもなければどうなるかなんて考えたくはないが、ジェネラルが”忌々しいことに”なんて表現を使うほどの事態だ。その結末に例外がないだろうことぐらいは容易に想像がつく。あとは何だ?Castle-0は何と言っていた?遊び、誰と何を遊べばいいんだ?気が済むまでということは、この現象の原因は気が済むまで遊べば収まるような存在なのか?あと肩の人形ってなんだ?そんなの最初からいな…………………。

 

「――なんかすげぇぐったりしてる変な人形がいるだぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「――――誰が変な人形だごるぅぅぅぅぅうぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」

 

「シャベッタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「あぁ?!! 当たり前だろうぅぅぅ………が?

 なんだとぉ? 聞こえているのかぁ、貴様ぁ?」

 

「ひぃ?!! 漏れてる漏れてる! お腹から臓物っぽいのが漏れてるだ!!」

 

「……おおっとぉ! ちゃんと縫わなかったなぁ、あの小娘めぇえ。

 ジェントルメェェエンの一張羅が台無しだぜぇ……」

 

 粗相を恥じるような所作で、その人形?猫のような縫ぐるみは、ワタをいそいそと体の中に戻していく。ずぞぞぞぞぞぞ、ずぞぞぞぞぞぞぞ、と。生々しいピンク色の管が引きずられながら戻っていく様子は、さながらスプラッターホラーだ。

 現状がホラーそのものなのだが……。そんな状況下で碌でもない姿をした異形が、あからさまに不審者らしく声を掛けしてくるなんて展開は、実にらしいと言える状態だ。この環境の、現実とあまりにも乖離した妙な法則に照らし合せると、ネモフィラとその一行はその何らかの条件を満たしたのだろうか?

 状況を俯瞰できる黒幕でもない彼らにはこの時あずかり知らぬことであったが、たった四人でここまで来れたこと自体が人形が動く切っ掛けになったのだ。人形は、自らの主をこの余りにも終わってしまった世界から解放する為の決断をしたのだ。

 

「……通信内容聞いていたぜぃ?

 まさか現実とつながる場所まで辿り着くとは恐れ入った。

 大した勇気、大した度胸、大した戦力だ………。

 だからよぉ、俺っちの話を少し聞いちゃあくれねぇか?」

 

 ネモフィラは正直、仲間を載せたCastle-0を動かして何処へでも駆け出したい気持ちでいっぱいいっぱいだった。人知を超えた異様な状況に、胡乱な存在が新たな登場人物として出てくる時点で、更なる状況の悪化か、地獄への片道切符を押し付けられてしまったかのような心持ちになってしまうというもの。しかし、既に現状、全員死亡一歩手前というところまで追い詰められていて、何処とも知れない異界へアテもなく自棄になって飛び出すのも躊躇われた。

 己だけの命を背負っていたあの頃とは違う。死ねば悼んでくれる友人がいて、死んだと聞けば悲しいと思える友人がいた。何よりもこの場で、ネモフィラだけが彼女たちの命を背負っていた。仲間の命を軽々しく放り出すわけにはいかないと思える程度には、ネモフィラは彼女たちのことを悪く思っていなかったのだ。だから、本当の本当の本当に誠に遺憾ではあるが、此処を飛び出して目算もなく逃げ惑うよりも、文字通り目前に迫った、選択すべきことがあった。胴体をぐるぐる巻きにされ、眼も口も耳も縫い合わされているのに流暢に喋り倒す怪しげな人形の話を聞く選択を。

 ――――と、ここまで思考を巡らせるまでコンマ01秒。ドクター生来の性能により、素早い状況判断能力として発揮され、結果として、その即断がここまで全員五体満足でやってこれたわけだが、それを知る由もない人形は驚嘆した。

 

”狂ってやがる、最高だ”、と。

 

「――お前の望みを言うだ」

 

「おぉい、おぉい、話が早いのは助かるが、こっちの事情を聴かなくてもいいのかよぉ?」

 

「興味ねぇだ、そんなことより優先することがあるだ。言え、何をすればいいか」

 

「………ふん。端的に言うと、さっきまであんたらがやってたように盛大に。

 記録と記憶を壊して回ってもらい続けて欲しいってことと、あんまりにも不憫な嬢ちゃんを三人、助けてやってほしいってことさ」

 

「……………ジェネラルの経験談の裏取りが取れてしまって、とても残念に思うだ……。

 ――おらたちに重要なのは一点だけ。それでここから出られるか、という一点に尽きるだ」

 

「うち二人は戦力的な意味で必要だろうさ。

 ………もう一人は、元凶だ。辿り着きさえすれば、脱出に重要な協力が得られるだろうさ」

 

「――――む???? ――――ぬ??? ―――なるほど、その娘っ子は何歳になるだ」

 

「おめぇ、マジで最高に逝かれてやがるな」

 

「危険物を手順通りに扱えなくて事故が起きるなんてことは、よく有ることだと思うだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――人  形:不吉な人形(猫?) を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どう?」

 

「後ろ」

 

「……これなら」

 

「右」

 

「……あてずっぽうが、……当たってるだけ!!!」

 

「ずいぶん、器用な真似をするものだと思うだ。

 その大きな尾で体を釣り上げることが出来ていることに驚きを隠せないだ」

 

「~~~~~~ッツ!! 嘘!嘘!嘘!絶対に信じない!

 ……私の声だって、……聞こえてない!

 ……だから、……あなたは、……私の攻撃を避けられない!!」

 

「おらは全盲じゃないんだけんども」

 

「おぉい、俺っちは人形だがなぁ。傷つく心も持っているんだぞぉ?」

 

「心があるなら仕事するだ」

 

「あいよぉ、ボス」

 

message”再起動したらすぐさま酷使とか、貴方たちには情ってものが存在しないんですか???”

 

 生命なき者たちが、心を持つかのように振る舞い、ひどく動揺する蠍を追い詰めていく。

 

 国外へ要人の暗殺任務へ付いていた蠍は、シラクーザの島で繰り広げられていた抗争の渦中に巻き込まれた。国元に嫌気が差していた蠍は、国外派遣される為の信頼を必死の思いで稼ぎ、運よく監視兼同行者が任務中に死亡したことによって逃亡の機会を得た。しかし、蠍の運はそこで尽きてしまう。

 最期の義理とばかりに、指定されていたターゲットを暗殺し、律儀にも通信機で国元へお別れの挨拶をしたところで、まるで神隠しのように荒野に放り出され、奥深い熱帯雨林に放り出され、北方の軍事拠点のような場所に放り出され、ただひたすら戦闘を強いられた。

 季節感も天候も一定せずぐちゃぐちゃで、あれだけ忌避していた暗殺技術を全力で発揮しなければ生存できないことを、蠍は今までの戦場の勘から察してしまっていた。そして、とうとうどれだけ時間が経ったのかも忘れるようになった頃、蠍は記憶と記録に敗北した。

 敗北した者に待っていたのは、この空間に縛り付けられて、空間ごと移動する「それ」に使われ続けることだった。

 

 そして、蠍の、永遠とも思える、戦いの日々が始まった。

 

 最初は、蠍と同様に、この場所に迷い込んだか引き寄せられたかされてしまった多くの異邦人に怯え、ただ反射的に倒していただけであった。だが、いくら倒しても、どれだけ時間が経っても、蠍がそこから解放されることはなかった。

 同じような境遇の人は何度か見た。なんとか接触を図って、この状況を脱しようとした。でも無理だった。伸ばした手はその体を突き破り、声を掛ければ尾っぽの先にぶら下がっていて、なりふり構わず物理的に接触すれば大地から突きあがった針の山の中にその者たちの、物言わぬ躯が積みあがっていくだけだったからだ。

 いくら暗殺向きの、最高峰レベルの戦闘訓練を受けていたといっても、正常な精神を保つにはその状況は余りにも厳しすぎた。蠍もヒトの子であり、そうである以上はどこかで精神と体を休める必要があった。だが、蠍を縛り付ける「それ」は休息を許さず、蠍事態を一つの歯車として組み込んだ。当然、激しく抵抗した。思いつく限り何でもやった。そして諦めざるを得ないほどの時間が経った。いや、どれだけの時間が経ったのかももう定かではない。

 時間が解決するという言葉は、暗い物陰に潜む蠍には適用されなかったのだ。時間が経てば経つほど、解決しない事態、解消しない現実に精神が打ちのめされ、逃げようとしても逃げられず、死のうとしても死ねない。蠍を逃がさないための歯車が、がっちりと噛み合って、そのうちに蠍が何もかもを諦めて、まるで決まった時間に響く鐘楼のように、精神的死を迎え、周りの幻影達と同じ存在に成り果ててしまうのは時間の問題だった。

 時間は蠍に味方せず、圧倒的理不尽を押し付ける「それ」の味方だった。「それ」はただいつものように、蠍が諦めてしまうのを待てばよかっただけだった。いつも通りの手順で、歯車という部品が完成するのを眺めるだけの作業でしかない。だから、これは本来ならそれで終わる話だった。歯車としての機能を押し付けられた蠍は、物言わぬ人形一歩手前の状態になっていて、到来する外敵を排除する装置の一部として「それ」からの全面的なバックアップを受け、怪物のようになっていくはずだった。いや、成り掛けていた。バケモノそのものといっていいほどに。

 

 

 だが、人形の持つ不可思議な力で、全快したネモフィラ一行の敵ではなかった。

 

 

 ネモフィラもCastle-0も人形も、痛覚が存在しない。自分の躰が壊れれば嫌がるし、行動に支障をきたすだろうが、それだけだ。戦略も戦術もくそもなく、強引に力押しできてしまえる生来の性能を持っていて、そこに的確な指示と、適正な強さの仲間が揃っていればあっという間に事態は解決するのだ。だから、よってたかってもみくちゃにされた蠍は、あらかじめ決められていた場所へ打ち上げられ――

 

「――ハンティング、始める。」

 

 レッドに急襲され。

 

「――卑怯? そんなのどうでもいいよぉ?

 勝てればいいんだもん。勝てれば~」

 

 レッドをかわした先にいた、ヘイズによるアーツ爆撃をもらい。

 

「――ホーーームラーーーン!!」

 

 気が付いたらCastle-0で寝てた少女のフルスイングにより終わりを迎えた。

 

「――――え?誰? Castle-0はどうしただ?」

 

 尚、少女の存在に気が付いていたのはCastle-0だけだった模様。

 

message”いやぁ、正直私だと出力不足だったので助かりました"

message"……ところで、どこのどなた様で?”

 

「こんにちは!」

 

message”はい、こんにちわ”

 

「おぉう! ようやく見つけたぜぇ! 

 どっからでてくるか、てんで予測がつかなかったんで困ったぜぇ、嬢ちゃんんんん」

 

「………んー? はれ? はれれれれ?

 きみはだれだっけ? はれれ? ここはどーこー? ボクはだーれー???」

 

「――それはこっちが聞きたいだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――研究成果:暗殺訓練全書を手に入れた。

 ―――――――追  憶:孤島の戦争を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 権力闘争により、その一家は陥れられた。

手段は古くから使い古された単純なもので、立場や権威を持つ者ほど入手しやすい危険物を贈答品のように加工した物があればよかった。感染したと同時に、人間として扱われなくなった一家は、高級住宅地と表向き呼ばれる流刑地へ隔離されることに。

 流された流刑地の、割り当てられた豪勢な住居で、突如家族や使用人の体調が悪くなった様子を不審に思った一家の主人が辺り一帯を調べることになった。駆けずり回って住居自体に何も問題ないことを確認した一家の主人は、まさかそんな馬鹿なと己の発想の飛躍にひやりとしつつ、シャベルで家周りの大地を掘り起こした。ガツンと。わずか一掘り、二掘りでその絶望に行き当たった。鉱脈だった。一家の主人は一瞬で目の前が真っ暗になり、ほどなくして怒りで真っ赤になった。

そして崩れ落ちた。ここまでするのか、そうまでして私たちを殺したいのか、そんなに私たちは悪いことをしたのか、と。目から血の雫が流れ落ちていく。

 

 一家の主人は有能であった。だから迂遠な方法で陥れられ、迂遠な方法で殺されようとしていた。陥れた者たちは、その後のことをこそ恐れていたのだ。徹底的に心を、精神を、檻砕かなければ逆撃に遭うことを、その経歴から知っていたから。ただ一つ失敗した点として、陥れた者たちは彼を直接殺すべきだった。そうしていれば、この後に続く地獄を味わうことなく、一生を難なく過ごすことが出来たのだから。

 そして、一家の主人が島の住人をまとめあげるのに一月と掛からなかった。その隣には妻と、薄暗い目をして人形を抱きしめる娘の姿があった。

 

 島ごと殺処分される島、シラクーザの高級住宅地。その国は、死に行くものに最後の晩餐を与えてやる慈悲を以て、その島を開拓したのだから。だから、そんな状況にふざけるな!と叫ぶ者たちの、起こるべくして起きた戦争が始まった。

 いや、それを戦争と呼べるのかどうか疑わしい。正規軍と民間人での戦闘の優劣など比べる間もなく、一方的な虐殺が続けられていく。狙い通りに。たとえ相手が正規軍であっても、戦争に参加した護るべきものを持つ男たちは、死ぬことを恐れることなく戦い、死んでいく。狙い通りに。

 

  全てが、薄暗い目をして人形を抱きしめる少女の下に。

 ――集まっていく。集まっていく。集まっていく。集まっていく。集まっていく。集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一家の主人は娘に最期の言葉を残した。こういう方法でしかお前を護れなかった私を許すな。

 その主人の妻は娘を最後に抱きしめた。あなたを一人にしてしまう私たちを許してほしい。

 

 そうして、呪われた異界はここに完成した。

島そのものを覆う結解のように、残された子女を護る檻のように、悪意あるものをことごとく滅ぼす悪霊と、害意あるものを灰塵に帰す戦場の記憶と記録を番人として。

 当然のように暴走しながら、国中にその被害を広げていった。広がった被害は、記憶と記録になり、幻影となって走り続ける運命をたどった。そんな悪業を、年端もいかない少女が耐えられるはずもなく、決壊して。

 

「――その感情はもらうぜぇええ?」

 

 それで終わりだった。それだけで決壊は止まった。 

その人形は少女の安全弁だった。狂乱することも、発狂することも、悲嘆にくれて自死を選ぶことも許さないといわんばかりに、少女から次々と奪っていった。親を恋しいと思う郷愁も、大切な人たちを亡くして悲しいと思う悲嘆も、なぜこんなことをし続けなければならないのかという虚無感ですら、少女から奪っていった。

 そうやって日々を過ごすその少女には、世話役が付いた。当然だ。もはや少女こそが最終防衛ラインであり、この島に残った最期の最高戦力なのだから。誰もが少女を疎んだ。愛する夫が、愛する息子が今も少女に使われ続けていることを想うと、死の安らぎすら与えられないことに、憤りを覚えた。誰もが少女に感謝した。後を託された島民が生きているのは、すべて少女のおかげであり、年端もいかない子供たちが明日の世界を生きていけることに感謝した。

 そうやって恩と仇が折り重なり、少女に口汚く罵声を浴びせるものがいなかったわけではない。だからこそ、安全弁は正しく機能しなければならなかった。人形は奪い続けた。少女が死なないように。少女以外からも、奪うことを躊躇わなかった。たとえ、人形に奪われ続ける少女の精神が、少女の魂を、虚ろな人形のようにしていこうとも。

 

 

 少女が、ただ生きているだけの状態を、その少女の家族は望んだわけではなかった。

 しかし、それ以外に方法がなかった。

 

 

 そこには救いはなく、ただすべての破滅だけがあった。

陥れられた家族は使用人と少女を残して死に、島民の男手はほぼ戦死、一家に陥穽を仕掛けた下手人は軒並み非業の死を遂げ、国家には甚大な被害を”神隠し”という形で定期的にもたらした。

 誰かを不幸にしようとして、誰もが不幸になった。そして、暴走しながら機能し続ける異界を維持していた人形にも限界が近づいてきていた。奪い続けた感情を処理しきれず、それらが幻影となって勝手に動き出したのだ。幻影は、全てが少女を標的に見据え、各地で被害を拡大させながら迫っていく。その幻影の殺意は、原因を止めるための良心でもあった。元栓を捻ってガスや水道を止めるようにに、原因の息の根を止めるための。

 これらが少女の体に辿り着いてしまえば、絶望に暮れた少女はその場で舌を噛み切るか、両手で首を掻き切ってしまう。それだけは阻止しなければならない。最悪の事態が、取り返しのつかない事態になってしまう。もはや少女単体に影響するだけの話ではない。間違いなく暴走する結末は、いつだって同じなのだ。

 大きくなり過ぎた感情の幻影が、国中の人間の感情を無理やり上書きして、国家を巻き込んだ壮大な自殺に繋がることは明白だった。

 

 

「――そしてぇぇえ、戦争は、まだ続いている」

 

「………………………………」

 

「だが、このまま終わっちゃあ、全てが台無しだ。

 誰もがなんのために戦ったのか分からないまま、御仕舞になる」

 

「………………………………」

 

「――集まった。お前らの協力で全部集めきれた。

 残っている幻影は、いまや俺っちだけになった……」

 

「………………………………」

 

「記憶と記録は、今全て俺っちのはらぁああン中にある。

 あとはこれを使って、全て有耶無耶になるように書き換えてやるだけでいい」

 

「………………………………」

 

「ここは高級住宅地だった。戦争なんてなかった。

 源石鉱脈の直上に誰かを陥れる目的で、意図的に建てられた屋敷なんてなかった。

 莫大な金を使って仕組まれた、国家の膿を吐き出すような事件は起きなかった。

 開発の目的は、あくまでも金儲けの為さ。と、そういうことになる」

 

「………………………………」

 

「人死や失踪は、狂言にしか思えねぇような尾ひれ羽ひれが付く。

 いわゆる、都市伝説ってやつだな

 低俗なゴシップ誌あたりで取り上げられて、さぞかし有名になるだろうよ」

 

「………………………………」

 

「いま、おめぇが抱きかかえてる嬢ちゃんは、この島で最も、忌み嫌われる存在になる。

 誰もが知ってる、公然の秘密。都市伝説の原因ってやつだな。

 もともとそういう流れでこの戦争は成立してたんだからよぉ、不自然さは生まれねぇだろうさ」

 

「………………………………」

 

「あと、使用人の娘っ子たちも連れて行ってやってくれ…。

 決死の覚悟で最期まで仕えてくれてた、義理堅い、いい娘っ子たちだ」

 

「………………………………」

 

「そんなよぉおおお顔、するんじゃねぇええええよ。

 俺っちは消えるわけじゃねぇんだ、嬢ちゃんに抱きしめられてるそいつが、俺っちさ」

 

 ネモフィラに表情はない。顔はない。表現可能なものではない。

顕すことが出来るのは言葉だけだ。だから、言葉を尽くしてくれという、そういう話なのだ。

 

「………………………………」

 

 だが、ネモフィラは何も言えなかった。何を言えばいいのか分からなかった。

人の形をしていないものが、人の魂を持つかのように振る舞い、大切な人を護るために心を尽くした結果を見て、何も言えなかった。

 

 ネモフィラは、その腕の中で眠る幼い少女を見る。ここに結果がある。

 恐らくは少女は何もかもを忘れていくのだろう。

 

 そして、目の前でうっすらと消えかけていく人形を見る。何もかも忘れ去られることを選んだ、儚い人の形を。目を覆い、耳を綴じ、口を塞いで。それでも尚、その体を、精神を傷つけ過ぎて、バラバラになりそうだった胴体全体をベルトでグルグル巻きにして、幼い少女の心を護り抜いた愛の形を。

 ネモフィラはなんとかなにかを言おうとした。主の為に心を尽くした人形に最期の言葉を贈ろうと懸命に頭を捻った。しかし、こんなにもあり方の違う己の言葉が一体何の意味があるのか、論理的結論を探り当てることが出来ず、何が違えば私はそうなれたのだという想いばかりがぐるぐると頭を巡るばかりで。今、目の前にある結果を見つめることしかできなかった。

 

  少女に抱きしめられている物言わぬ人形と、目の前で愉快そうに踊っている人形の違いを。

 

 

「………あ、嬢ちゃんに事情説明すんの面倒くせぇからよぉ、おめぇ今日からお兄ちゃんな?」

 

「――――は?????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――人  形:モルテを手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

ネモフィラの帰還を待っていた面々に初対面の少女は、とても安心した表情で当たり前のように、お兄ちゃんに問いかけた。

 

「……お兄ちゃん??」

 

「ちょ」

 

「――わぁ、かわいい娘だね!」

 

「………………ご主人、正直に言うよぉ? ――――ドン引きだよ」

 

message”要救助者を連れ帰ったと思ったら、お兄ちゃん呼び強制とかあなたマジなんですか?”

 

「……ドクター。……いや、なんでもない。……でも、ダメだと思う。」

 

「今までにない速度でおらの風評被害が高まってるのを感じるだ」

 

 誰しも常に幻影と戦っている。

それは過去の記憶であったり、隣にいないライバルであったり、追いかけている憧れだったりする。しかし、ネモフィラが今戦わなければならないのは、周囲から貼られたレッテルという名の幻影であった。

 

「……さっきまで、……死闘を繰り広げていた相手から、……お兄ちゃん呼びされてる。

 ……すごい。

 ……私と同じだ。……戦いの中で、……信頼関係って、……築けるんだ。

 ……やっぱり、……ドクターはすごい。」

 

 ただし、歪んだ信頼関係を築き上げてしまった相手からの幻影は、なかなか気が付けないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――悪  夢:”童女の孤独な戦争”を開放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやってバカなやり取りを終えた一行が、取り敢えずこの国を出ようという話になり、不可思議な空間からも無事脱出に成功し、そこから記憶がなく。ネモフィラが次に主観的に己の状態に気が付いたのは、Castle-0の操縦席で荒野を走っていて、急いで仲間の無事を確認を行い、そこに突如、通信が繋がったところからであった。

 

「………………なん? なんて言っただ? おらがそう答えただか……?」

 

『――あぁ、確かに通信相手はネモフィラ、君だったよ。

 隣でケルシーも聞いていたし、アーミヤも怒っていたぞ。僕もさすがに止めた、君を』

 

「……おま、おまんはそれで納得しただか?」

 

『納得も何も、僕は再三止めた、それこそしつこいくらいにな。

 だが君は言うことを全く聞いちゃあいなかったじゃないか。

 会話をしてるようで全く会話になっていなかった。

 無駄な浪費は嫌いなんだ。むざむざ火山に突っ込ませるような話を許可しなかった、本来なら』

 

「………おらが、強硬的に決断したと言うだか?」

 

『――――気でも変わったのか?

 そちらでも確認できていると思うが、君たちネモフィラ一行は無事に……やはりな。

 目的地付近まで辿り着いてるじゃないか?』

 

 ――――Castle-0!!!!!!!!!!!!

 

message”はいはい確認いたしますよ…………ううん、参りましたね。”

message”私のログには何も残ってないのですが……”

message”いつの間にか正式な出国をしたことになってる書類が出てきましたよ?”

message”ネモフィラのサインもばっちり。これは言い逃れのしようもなく我々の動いた結果です。”

 

――――じゃ、じゃあここはどこなんだ……?

 

message”火山が見えるので検索を掛けます……なるほど、燃料の減りも確かにそれくらいです。”

 

『――では、ネモフィラ。今回ばかりは心にもないことを言うのは止めておく。

 火山の頂上付近にある、古代遺跡を巡る抗争に進んで参加しに行くなんて狂気を、

 まさか君が獲得するとは思ってなかったからね。

 ………………幸運を祈る。』

 

 …………こいつのこんなに心のこもった言葉を聞いたのは初めてだ。

 それで、Castle-0、ここは、どこだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

message”――リターニア王国です”




 次回から、火山編開始。
絶対に完結させようという意思で書いていますが、小説って書くの難しい。面白い話を日間で投稿できるほど書き貯められる人は凄いよぉ…。





■今回増えた面子について
・サソリ娘
wikiによると”他国の武装集団の特殊構成員を暗殺させている”とあったので、
じゃあ、他国に居てもおかしくないよな、という着想で合流。

・ホーーームラーーーン!!
経歴が完全に場外ホームラン。
突如ロドスの甲板に現われて記憶喪失とかいう、今まで神隠しに遭ってたかのような存在。
雑に使えるので採用。

・童女
今回の主題。
経歴が不自然過ぎてカバーストーリーにしか見えないので、ラスボス化。
捏造が過ぎるのでは…?
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