身長120と、バスト120 作:肉裂秘剣
「つまり、ティファニアよ。ここはハルケギニアという土地で、わしはその中でも空に浮かぶ奇妙な大陸の、アルビオンという国へお主によって召喚されたということじゃな? 」
「うん、そう……ガイノスとかそういうのはちょっと聞いたことがない、かな。ええと、ユーミル様」
「様はいらん、気楽にユーミルと呼べ」
「でも、わたしのせいでユーミル様はすっごく遠いところから来てしまったのでしょう? なのに……」
「だー、もう。暗い顔をするでない。確かにお主のせいと言えばその通りじゃが、良く考えもせずに触れたわしもわしじゃ。それに、やり方を間違っているわけでもないというのに、魔法自体が普通とは異なる発現をしていたのであろう? 誰も責めようがなかろう」
ユーミルの叫びを受けたティファニアの耳鳴りが収まってから、ふたりは軽く自己紹介をした。解ったのはお互いの常識が全く異なることと、どちらもひどい人間だとは思えない性格をしているということくらいだ。ティファニアは、何度もユーミルに対し申し訳ない気持ちで涙を流し、ユーミルは、召喚に巻き込まれたことを恨まず、王女だと聞いて畏まるティファニアに楽にしろと言い続けている。
「それに、これはこれで良い機会やもしれん。実は最近はじいが婿を取れとうるさくてな? 存外、ここにその相手がおるやもしれんのう。こう考えると、これもまたひとつの運命だったと、そう思わんか?」
過ぎてしまったことを気にしても仕方がないのだと、彼女は言う。そして、どこまでもポジティブなその考えにティファニアは驚かされたものの、月を見たユーミルのと同じ様に、より驚かされたことを先に口にした。
「ゆ、ユーミル様はもう結婚するの?」
どうみてもユーミルの見た目は幼女である。7歳くらいの身長しかない彼女が誰かと結婚するなどと言われれば驚きもするだろう。ティファニアと一緒に暮らしている孤児たちの中にだって、ここまで小さい子は少ない。
「様はいらん」
「で、でも」
「質問に答えてほしければ、いい加減様付けをやめるのじゃ」
そうしなければ口をきかないというユーミルの頑固な態度に、ついにティファニアは折れた。
「ゆ、ユーミルはもう結婚をするの?」
「うむ。別段、ドワーフ同士で結婚する必要もないからのう。この世界ならば既存の概念にとらわれぬ面白い男もおるかもしれん。 正直言うとわしはな、ティファニア……今は鋼鉄山の不安よりわくわくの方がいっぱいなのじゃ」
最初は戸惑った。自分がいない鋼鉄山は内部分裂するのではないかと不安にも駆られた。しかし、少し冷静に考えてみれば、自分がたまに抜け出すせいではあるものの、長らく仕えてきた家臣はその仕事をある程度把握はしている。あれしろこれしろサインしろだと煩い人たちだ。内容だけならば理解しているだろう。では判断やその決定に異を唱えられるのではないかとも考えたものの、別にユーミル自身の血族が、自分ひとりというわけでもない。王族の為政者としては引退し、武器の精錬や製鉄など好き放題やっている親族を引っ張り出せば、しばらくは任せることもできるだろう。何十年もいなくなれば大問題となるが、数年のうちに帰還方法を見つけ、更に婿となるに相応しい者を連れて帰れば問題ない。そうユーミルは考えるようになっていた。
ついでに新しい技術も持って帰ることが出来れば、最高だという野望も生まれ始めている。
「じゃから、そんなに自分を責めるでない。むしろ礼を言わせてもらうぞ?」
「そ、そんなことを言われたらわたし、困っちゃうわ」
「ふむ、まあ確かに帰れなかった時に意見を翻されても困るか……別に儂はそんなことをするつもりはないがの」
「そ、そういうわけではないのだけど……わたしは別に、ユーミルにそうしてあげたくてサモン・サーヴァントをしたわけじゃないのに、お礼を言われるのは、違うと思うの」
「ぬう。お主、随分細かいことを気にするのじゃな」
「こ、細かいかな? そんなこと、無いと思うけれど」
「そうかのう」
「そうだよ。そ、それより……聞きたいのはそう言う事じゃなくって、ユーミルってまだ子供でしょ? それなのに、もう結婚するの?」
話の方向がずれているなと、ティファニアが軌道修正する。この歳で結婚だとかいう話が出てくるドワーフの世界が、彼女には信じられなかった。
「ぬ? わしはもう70じゃぞ。そろそろ結婚は考えんと、あっという間に100の行き遅れになってしまうではないか。確かにエルフと比べれば早いかもしれんが、それ程おかしなことでもあるまい?」
500を超えても独り身な者も少なくないし、千年処女などという異名を持つ者を行き遅れとするエルフならば、確かに70だろうが100だろうが若輩も若輩だろう。しかし、寿命の異なるものを同じ物差しで測ったところでどうなると、そうユーミルは言ったつもりだった。ドワーフで1000ともなればもはや墓の下どころか土に返っている。
「な、70歳!? 7歳じゃないの!?」
ところが、ティファニアの驚きはそういう話ですらない。自身が子供とみられていたことにユーミルはよろめいた。
「たわけ、そんなガキが結婚など考えるか!」
「ご、ごめんなさい。わたしはてっきり、そのくらいなのかと……」
「お主、さっきまで一体わしをどういう目で見とったんじゃ……こんな口調で話すガキなどおるまい」
「せ、背伸びしたい年頃なのかなって……」
「威厳が足りんかったか……」
がっくりとユーミルは肩を落とした。この問題は結構深刻なもので、人間たちとの商談の時も良くそう見られるのだ。小さくとも髭が立派になっていく男のドワーフならばともかく、幼女のような体のまま、髪に磨きがかかる女性のドワーフが可愛らしさではなく、威厳を身に着けるのは難しい。
「はあ、確かに外見は人間やエルフの子供と同じくらいかもしれんがの? それはドワーフと話すときに失礼じゃから、今後は気を付けるのじゃぞ」
「う、うん……もし別のドワーフさんに合うようなことがあればだけど、その時は気を付けるね」
「男なら髭があるからまあ、間違えることは無いと思うんじゃがのー」
「そうなの? ドワーフってエルフとは本当に違う種族なのね」
「そうじゃなあ。お主らエルフが速さやしなやかさに優れているとすれば、わしらは剛健さや力強さが武器じゃからのう」
「……剛健?」
幼女にしか見えないユーミルの体つきに、彼女が語ったドワーフの特徴がみられないような気がして、ティファニアが首をかしげる。
「ぬー! なんじゃその目は――!! お主だって、エルフとは思えんほど乳がでかいではないか! 肩幅や胸の筋肉があるならともかく、それどうなっとるんじゃ!」
「え、ええっ!? わ、わたしの胸ってそんな変かしら?」
「変じゃ」
ティファニアの胸は大きい。なのにその体はエルフ相応に細く、筋肉質でもない。どうして垂れないのかと常識が変わる、いうなれば胸の革命だ。そこまで大きいものが細い体躯に付いているというのは、エルフ以前に生き物として不思議な姿であり、今度はそれを指摘されてティファニアの顔が赤くなった。
「乳お化けとは、こういうものを言うのかのう……」
「ゆ、ユーミルだって花嫁衣裳を普段から来てるなんて……へ、変だよ!」
何度か軽口をたたきあう。すると、いつの間にか二人は笑っていた。
「ふふ、お主は面白いやつじゃのうティファニア、わしは気に入ったぞ」
「ユーミルの方こそ、全然お姫様らしくないし面白いよ」
「まだ言うかこいつは―!」
「ふふふ……あ、あれ?」
ひとしきり騒ぎあった後で、ティファニアが突然涙を流し、ユーミルはそれに驚かされた。ドワーフが怪力とはいえ鍛冶に長ける種族なのは、均一の力で鉄を叩き続けて炭素を散らしたり、繊細な細工を施すための微細な加減ができるからだ。我を忘れて猫を撫で繰り回したりせず、この様なじゃれあいの範囲で。誰かを痛めつけるような力をこめてしまうことは無い。何より、直接彼女を小突いたわけでもない。その涙の理由がわからずユーミルは狼狽えた。
「な、何じゃ、どうしたのじゃ! どこか病気か?」
「ううん、違うの。こんなふうに人と話したのって初めてだから、嬉しくって……」
はっとして、ユーミルはティファニアの境遇や、この土地の話を思い出した。この世界ではエルフどころか、人間は人間という種族以外の人型の生物……人間から見て分類するのであればだが、亜人にあたる生き物と仲が悪いのだという。混血であるティファニアは迫害される対象であり、ひっそりと森で生きているのだとか。
為政者であるからこそ、あまり他国や他種族の文化に口を出そうとは思わないものの、目の前の少女の境遇にユーミルは歯噛みした。
「……お主も来るか?」
「……えっ?」
「お主も、わしが帰る時は共にガイノスへ来ぬかと聞いておる。いや、違うのう……」
ユーミルが、ガントレットのつけていない左手を差し出して笑う。
「わしと一緒に、ガイノスへ行く道を探さぬか? エルフに合うかはわからぬが、鋼鉄山でよければわしの友として、歓迎するぞ」
「友達、わたしが? ユーミルの?」
「うむ、互いに笑いあう事が出来たのじゃ。わしとティファニアがはきっともう、友達じゃ!」
そんなティファニアをどうにかしてあげたいと思うユーミルの気持ちこそ、ティファニアがサモン・サーヴァントで求めた友情と呼べるものではないだろうか。
友達という言葉がティファニアの胸の奥に染み渡ると、彼女はより大粒の涙を流してその手を取る。
「わたしのことは、テファって呼んで?」
利き手である右手をティファニアが伸ばしたせいで、友情の握手はすごくぎこちなかった。
髭ではなく髪を気にするという設定はクイブレのツイッターの言うようにとてもいいドワーフ改変だと思います