弱小魚の生存戦略   作:カシオミル

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十話 生物=環境を改変させる存在

 

 潮だまりが静けさを取り戻し、空気が穏やかに凪いで森の匂いが香り始める。それとともに、この世界で初めての安堵の気持ちが胸の中に広がってくる。

 

 

 (はああぁぁぁぁぁぁ〜っ。)

 

 

 危険な目に遭ったが、探索の甲斐はあった。こうしてかなり安全性の高いシェルターを見つけられた上、巨大な鋏という食料が文字通り転がり込んできたのだ。望外の幸運と言える。

 食料とシェルターの有無は体内エネルギーの保持に深く関わるので、これは非常に大きい。

 

 早速、消耗したエネルギーの回復のために鋏の断面にかぶりついてみる。すると、プリプリのピンク色の肉が歓迎を始めた。柔軟な筋肉であるためか、心地よい噛み応えで口を喜ばせ、噛み切れば柔らかな肉片へとほぐれ舌を楽しませる。

 

 味もまた素晴らしく、蟹の芳醇で膨れ上がるような旨味と海老の芯を持った旨味、サソリの引き締まる旨味が絶妙なバランスでひとつになっている。さらに、その身に塩をじんわりとにじませ、舌の根に染み込んでくるものだからたまらない。

 現在、汽水域であるが故に塩分不足となる自分には、他の栄養と同じくらい塩分に体が歓喜しているようだ。体内の塩分濃度が低いと赤血球が破裂したりすることがあるので、割と死活問題だったのだろう。

 一噛みして飲み込み、一噛みして飲み込む毎に、不足していた養分が流入する。多幸感に包まれながら、可食部がなくなるまで啄ばんだ。

 

 

 そうして体へ必須栄養素を満たし、自身の内面を充実させたところで、今度は外、つまり自分の周囲の環境を整えることにした。

 

 まず、日当たりが良く、砂の柔らかそうな場所の発見という一番大事なことから始める。

 変温動物の自分にとって日中手っ取り早く体温を上げる手段は日光浴しかないので、快適な生活の為には極めて重要なことだ。もう一つの狙いもあるが、それは今は関係ないので、兎も角好条件の場所の探索に取り掛かる。

 

 

 ややもすると、根のシェルター内でそのような場所を見つけるのは難しいと思えるかもしれない。しかし、根のシェルターといえど、網のようになっているのは側面に対してであり、マングローブの木と木がぶつからぬよう間隔を空けている以上、陽光の差す箇所は存在するはずなのだ。

 

 そう考えて見回れば、やはり太陽光が射し込む箱庭のような空間ができており、そこには太古から生存する植物の始祖「シアノバクテリア」が集合して「ストロマトライト」を形成していた。

 

 「ストロマトライト」は岩石に近い植物と表せる物体だ。酸素を供給してくれる他、プランクトンの溜まり場でもあるので、食料にも困りにくくなるだろう。

 さらには、底に穴を掘って隠れ家を作る取っ掛かりにまでなる。例えるなら、ツリーハウスの基礎にできる果樹の大木のようなもので、望外の発見といえる。

 

 

 早速「ストロマトライト」の近くへ行き、その周囲を調査した所、特に大型敵性生物はいないことが判明した。まあ、自分だとて半分水から体を出して滑り込み、ようやく入れたような場所だ。大型生物などそうそう居るものでもないのだろう。

 

 他の特徴として、倒木の如き枝と小石が散らばっているが、それは資材に恵まれていると見ることができる。

 

 中々良い場所を発見できたので、次は整地に取り掛かることにした。最初に枝や石を外側へ円状に寄せておき、ベッドになる場所を確保する。ベッド予定地は、川で削られたのか砂が丸く細やかで、隙間の水がクッションとなるのかかなりふわふわになっている。

 海辺のさらさらした砂に足を踏み入れると優しく包み込まれる感覚がするが、あんな具合である。

 

 今度は、周囲の物体・地盤の安定化に着手する。整地した場所が波でぐちゃぐちゃにされても困るからだ。脇によけた枝を咥えて外縁部や「ストロマトライト」周辺の砂浜に刺し入れ、顎で杭打ちをするかのように叩き込む。

 こうする事で、コンクリートへ鉄筋を打ち込むように土台を安定させられるはずだ。しかも、波に乗ったゴミが入りにくくなるというオマケまで付く。やはり、少しの手間なら惜しむものではないということか。

 

 

 なんということでしょう。

 匠の技によって乱雑だった空間が、大きな深緑の毬藻を中心に白い砂が広がる牧歌的な広場へと変わったではありませんか。

 

 周辺の木の杭は、地盤を安定させる役割を持たせつつ、球形になりがちな外観のアクセントとなっています。

 そして、杭によってゴミから守られた「ストロマトライト」の周りには、さらさらの砂が絨毯の如く鎮座しています。身を任せれば、ふんわりと包み込んでくれることは言うまでもありません。

 

 

 すっかり姿を変えた新居に満足しながら、心地良い疲労とともに柔らかな砂のベッドへ身を横たえた。

 

 

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