第三話 私と地学と生物分布
ひとまず距離を空けられたが、それは急加速ができたことと相手の意表を突けたことが大きい。いずれ追いつかれてしまうだろう。しかも、急加速は下方向しか行えず、海底に着けば使えなくなる。スタミナの限界が近いことも考慮すれば、速攻でケリをつけなければいけない。
だから、勢いを殺さないようにして、より深く潜る。
海底のアレを利用するしか打開策がないからだ。
必死で潜り続ける中、周りの環境までも牙を剥き始める。
体を押し包む水圧はその力を増して体力を奪い、周囲の水は暗さを強めて視界を狭めていく。
だんだん視界が霞んでいき、限界がすぐ近くまで来ているのがわかる。
それでも、ぼやける目がすぐそばの目的地を捉えた。何とかたどり着けたのだ。
視界に映るのは、岩石と生物が作り上げた天然の要塞。生半可な生物では近くことすらままならない領域。多数の毒ウニ【ヴェネーヌム・エキーヌス】が岩の下に集結して作り上げた、防御陣地だ。
種族【ヴェネーヌム・エキーヌス】
50cm前後の毒の棘と硬い殻を有するウニである。体色は黒で、本体の直径は約15cm。並の生物の攻撃をはね除けられる殻と、タンパク質製の出血毒と麻痺毒を流し込む強靭な棘を持ち、防御力が高い。
ただし、硬い甲殻を有する生物による大質量攻撃や、棘を下から跳ね上げられ、裏返されてからの腹部への攻撃で倒され、捕食されることもままある。殻の中には濃厚でクリーミーな身がたっぷりと詰まっており、味をしめた天敵に狙われることもしばしば。
そのため、日中は岩場の下に集まって身を固め、敵の少ない夜間に活動する。
逃げ切れないと悟った時から、初めて目を覚ました時にちらりと視界に入ったこれを利用しようと考えていた。
棘の前で闘牛士のように回避すれば、追いかけようとドリフトした【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】は自ら装甲の無い腹部へ棘を刺すことになる、という寸法だ。
あちこち動き回っても執拗に追いかけられているが、それは逆を言えば自分に視線と意識を誘導できたということに他ならない。そんな視野が狭まっている中で、岩陰から伸びる細く黒い毒の棘に気付くことはできないだろう。
だから、あとはうまく針山地獄におびき寄せるだけ。
荒い呼吸を整え、体力を回復させながら、斜め上から迫ってくる相手を見据える。
あと3m。弱々しく泳いでもう少しで捕食できそうに見せかけ、より視線を集中させる。
あと2m。小柄な体を活かして細い棘の間に入り込み、棘など無いかのように泳いで誤認しやすくさせる。
あと1m。実際には入れないが、奧に入ろうとする動きを見せて、このままでは逃がしてしまうと焦らせる。
相手は逃すまいと考えたのか、スピードを上げて瞬く間に海底に近づいてきた。しかし、罠に気付いた動きは無い。
(ここまでは狙い通り。勝負だ、ダンクルオステウス!)
生物詳細
種族【ヴェネーヌム・エキーヌス】
脅威度2(攻撃性は低く、手を出さなければ基本的に被害を受けることはない。ただし、抜け落ちたりした棘が刺さると中々取れないので注意。)
体力 67/67
(攻撃力)→咬合力 約25g [海藻を咀嚼する程度の強さ]
(防御力)→生体硬度 モース硬度 約8 [エメラルド並みの硬さ]
(素早さ)→走力(直線移動時) 時速 約4m [ウニ中トップクラスの速さ]
[種族特性]
[劇毒刺棘]〈六〉(強力な複数の毒を内包した棘。襲撃者への強烈なカウンターとなる。)
[棘皮門甲殻]〈五〉(ウニ類特有のヤスリでも傷一つつかない甲殻。)
種族【アランダスピス・レグルッスス】
脅威度:1(害が極めて小さい。食料に利用することが推奨される。)
体力 6/10 (継続的な全力の遊泳と技能使用で、体力減少。)
(攻撃力)→咬合力 約5g [人間の3歳児の約1/3の噛む力]
(防御力)→生体硬度 モース硬度約1 [チョーク並みの硬さ]
(素早さ)→泳力(直線移動時)時速約1km [小型の川魚並みの速さ]
[種族特性]
「翼甲類型甲殻」〈二〉
「吸水用口腔」〈一〉
[個体特性]
「考える葦」
[獲得技能]
Level Up「高速潜行」〈一〉→〈二〉