弱小魚の生存戦略   作:カシオミル

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コロナ禍で筆が滞ってしまい、全然進みませんでした・・・


第五話 生態系ピラミッド

よし。どうにか秘策を成功させられた。

 正直なところ、海水を吸い込み続けるのも限界で本当にギリギリだった。

 

【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】は突き刺さった何本もの毒棘で針鼠となり、時折体を大きく引き攣らせている。さしもの巨躯を誇る怪魚も、猛毒に加え、予想外の威力となった物理攻撃は効いたのだろう。

 

 だが、完全に危険が去った訳ではない。【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】はまだ絶命していないのだ。

 

 そう考え、急いでその場を離れようとした瞬間、体が突如発生した力に持っていかれた。それは【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】が死の淵に立つほどの苦痛に悶え、暴れて発生させた乱海流だった。

 

 碌な抵抗もできず発生した海流で吹き飛ばされ、やや離れた場所の岩に強く身を打ち付けた。

 

(っっっ!いてぇぇぇぇぇ!)

 

 打ち付けた部分を中心に体中に激痛が走る。甲殻のある部分に当たったおかげで重要器官に届くほどの傷はできなかったが、衝撃は軽減できず、体全体に広くダメージを受けた。それでもこれだけで済んだのだ、感謝すべきだろう。

 

 毒を吐き出す、あるいは首の装甲の隙間に刺さった棘を抜くために本能的に頭部を必死で振り回したことで、こちらを吹き飛ばす結果になったようだ。もし何かが違って尾部を振り回していたら、こちらに突っ込む推力が発生して即死タックルとなっていたかもしれない。相手の体の一部でもぶつかっていれば、最低でも重傷、当たりどころによっては死んでいた。危ないところだった。

 

 相手の様子を見ると、目に見えるほど弱りつつあるのが分かる。人間で言えば喉や肺に当たる部分に毒棘の散弾が刺さったのだから、当然ではあるが。毒に加えて呼吸阻害、傷による体液の流出と三拍子揃えば、さしもの強靭な巨大魚とはいえ致命的なようだ。

 こちらが衝撃から回復して再び動けるようになった頃には、もはや身動きもままならなくなり、海底に横たわっていた。

 

 (これで一先ず脅威は無くなったか・・・)

 

 知らず知らずの内に張り詰めていた緊張が解かれ、うるさく響く心臓の音が引き潮のようにゆっくりと消えていった。

 

 

 落ち着いて周りを見回すと、命懸けの戦いで一変した景色が目に入ってくる。

深く抉れた幾つもの海底の穴。そこから弾け飛んだ大小様々な岩石。剣山のように突き立つ棘。まるで災害が発生したかのようだ。

 

 この戦いで他の襲撃者の気を引いてしまったかもしれない。そうでなくとも【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】の血液が海中に広がり、他の生物が呼び寄せられるのは時間の問題だ。とりあえず急いで離れよう。

 折角倒したのに何もせず放置するのはもったいないが、どのみち自分の力では喰い千切って食べることもできない。

 

 ひとまず、襲撃者に見つからないようにしてから頭の整理をするべく、少し遠くの小さい岩の下に潜り込んで思考を巡らせる。

 

 さて、これからどうするか。最初に考えなければならないのは、何故夢から醒めないのかということだ。痛みや味覚を錯覚してしまうほど夢に没入しているのかもしれないが、むしろ痛みや味覚といった刺激は夢から醒めるトリガーになるものだ。それでもなお目が覚めないというのはおかしい。

 かなりありえない事だが、現実だというのだろうか。

 

 ・・・僅かにその可能性はあるかもしれない。世の中に「絶対に有り得ない」を証明できる事象は存在しないと聞く。

 とりあえず死なないようにしつつ、夢としか思えない異常事態から抜け出すための手がかりを探ることにしよう。

 

 次は、そう決めたなら、この状況でどうやって生き延びるかということを考えなければならない。

 現状、最大の問題は捕食者への対応だ。体が小さいが故に食料や水は周囲にあるもので賄えるが、だからこそ捕食者への対抗手段の有無が生死を分ける。

 今回は自分の特性を活かした移動方法とウニを利用した攻撃方法を見つけて対処できたが、毎回毎回そう上手くはいかないだろう。

 まずは情報を集めなければ。どんな敵がいるか、どこに何があるか、どう利用できるかを認識し、熟考しなければいけない。そう考えれば【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】を倒せたのは大きい。死体を餌にして色々な生き物を集め、観察できるからだ。

 

 早速行動に移すべく、近くに見つけた、身を隠した状態での観察に適した岩石へ移動して身を潜めた。

 

 しばらく観察していると、この環境の生態系が明らかになり始める。

 

 まず、生態系の下層に位置するであろう、グソクムシのような【バシノムス・アーミス】や蛇型大ナマコ【ホロトゥーリオン・シナプタ】が砂の中から現れ、死肉を少しずつ貪っていく。すると、頑強な装甲と高パワーを有する巨大甲殻類【カンセラ・スクイラ】が登場し、横取りして独占する。

 

 そのまま【カンセラ・スクイラ】が獲物を食べ尽くすかと思えば、突如として海底から丸太のような触手が飛び出し、縦横無尽に暴れながら襲いかかる。触手が触れるもの全てに巻きつき、遠くに霞んで見える山のような本体の元へ引っ張り込む。

 

朧げながらも、超巨大生物の姿を確認すると、同時にその正体が頭の中に溢れ始める。

 


種族【ノーティラス・エンドセラス・ハスタ】

 アンモナイトと祖先を同じくする多足生物。高硬度で巨大な円錐形の殻と、広範囲に伸ばせる多くの触腕を持つ。硬く、千切れにくい筋肉で構成された体躯は同種の中でも最大級のサイズであり、海の生態系の頂点に立つ。

 槍の先端のような殻は水の抵抗を受けにくく、水を吐き出しながらの直線移動は高速を誇る。さらに、殻の内側に貯める空気を調整することで、海面へ急速上昇し、まさに槍(ラテン語:ハスタ)となって海面や海上の生物に強襲することもある。

発達したカラストンビで、硬い殻を持つ他生物も容易く捕食し、様々な生物を捕食対象とする関係上、多種多様な生物から多岐に渡る旨味成分を取り込むことになり、その身にも旨味成分が反映される。例えば、【カンセラ・スクイラ】を大量に捕食した場合、元から持つスルメイカを濃くしたような味と海水濃度の体内塩に加えて、カニやエビの味もするようになり、海鮮汁といえるような味となる。


 

頭の中に溢れ出す【ノーティラス・エンドセラス・ハスタ】の情報を確認している間に、死肉も【バシノムス・アーミス】も【カンセラ・スクイラ】も、飛ぶように移動させられ、姿を小さくしていく。このまま【ノーティラス・エンドセラス・ハスタ】に捕食されるのだろう。

 

 どうやらこの海は、超巨大アンモナイトを頂点に、巨大魚、甲殻類、軟体動物や小魚、プランクトンの順で生態系ピラミッドを形成しているようだ。

 

 

(ふぅ・・・)

 

 生きた心地がしなかった。予想以上の情報を集められたのは僥倖だったが、それ以上にこの環境の厳しさという不運に慄いてしまう。まさか【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】を超える化け物までいるなんて考えもしなかった。

 筋肉で形成された、剛柔併せ持つ巨体ももちろん脅威だが、一番恐ろしいのは知覚範囲ギリギリから放たれる、隠匿性の高い致命的な拘束攻撃だろう。気付いた時には回避困難な位置にまで迫って巻きつきを繰り出し、捕まったが最後、獲物は振り解けず喰われるのを待つ状態にされてしまう。

 

 この攻撃にまともな対策なんてできるのだろうか。発見されたら終わりと割り切り、隠れて生活し、視覚や嗅覚で察知されないようにする他ないかもしれない。そう思いながら惨劇の地となった場所を眺めていると、あるものに気付いた。

 

 砂煙が立っていて見えなかったが、蛇型大ナマコ【ホロトゥーリオン・シナプタ】が捕まらずに生き残っていたのだ。まさか、あの攻撃から逃れられたというのか。だとしたら、あの攻撃を攻略するヒントがあるかもしれない。

 

 砂煙が晴れた場所にあるその姿をじっくり見ると、登場した時より遥かに体が細く、短くなっているのが分かった。体をギュッと収縮させ、硬度を上げつつ体積を減らして攻撃を受けにくくする防御形態になっているようだ。

 

 他の捕まった生物は体高が高かったり、体の横幅が大きかったりして攻撃を受けやすい形状だったように思う。もしかして触れられた生物のみ捕獲され、接触しなかった生物は無視されたということなのだろうか?ならば、触れられないように対処できれば、脅威ではなくなるのではないか。

 触手に目玉が付いているわけでもないようだったし、本体の視覚が届かず、触覚頼りで攻撃していた可能性は高い。これは回避手段を考案する価値があるだろう。

 

(となると・・・自然の力をどれだけ活用できるかが鍵だな。)

 

 自分の貧弱な身体能力能力だけでは回避できないのは明らかだ。だから、どうにかして身の回りにある力を味方につけなければいけない。

 【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】との戦いでもそうしたから生き残れたのだ。

 

 先の戦いで感じたが、巨体を持つ相手は、移動時や攻撃時に逆方向の海流が体表を流れている。当たり前のことだが、この事象を利用できないだろうか。

 

 触手攻撃が来た際に発生する海流を予測し、そこに飛び込んで身を任せれば、水中の柳の葉の如く攻撃を躱せるかもしれない。感覚は実戦で掴むしかないが、身に付けられれば当たり前のことを利用するが故に、どんな相手に対しても役立つはずだ。

 

 


生物詳細

 

種族【アランダスピス・レグルッスス】 

 

 脅威度:1(害が極めて小さい。食料に利用することが推奨される。)

 

 体力        2/10 (負傷で体力減少。)

 

(攻撃力)→咬合力         約5g [人間の3歳児の約1/3の噛む力]

(防御力)→魚体硬度  モース硬度約1 [チョーク並みの硬さ]

(素早さ)→泳力(直線移動時)時速約1km [小型の川魚並みの速さ]

 

[種族特性]

  「翼甲類型甲殻」〈二〉

  「吸水用口腔」〈一〉

 

[個体特性]

  「考える葦」

 

[獲得技能]

 Level Up「高速潜行」〈二〉→〈三〉

 

     [「高速潜行」の習熟度・理解度の向上に伴い、「超重瀑布(グラビティ・フォール)」を内包する技能へ進化]

 

「超重瀑布(グラビティ・フォール)」〈二〉

    (「高速潜行」の派生技能。「高速潜行」の習熟度・理解度の向上により獲得。重力を利用した滝の如き海流であり、格上にも通用する威力と拘束力を誇る。)

 

     [「超重瀑布(グラビティ・フォール)」をレベル〈二〉で獲得したことにより派生技能「流星連弾(フォールン・スターズ))」を獲得]

 

「流星連弾(フォールン・スターズ)」〈一〉

    (「超重瀑布」の派生技能。「超重瀑布(グラビティ・フォール)」を高理解度で得たことにより獲得。創り出した海流に複数の鋭利な物体を乗せることで、流星群の如き弾丸を打ち込む技。厚い装甲も貫く威力を有する。)

 

 

種族【ノーティラス・エンドセラス・ハスタ】

 

 脅威度6(高い攻撃力と防御力、即死攻撃を有し、数多くの生物を捕食対象とするため、極めて危険。)

 

 体力        14753/14753

 

(攻撃力)→咬合力         約798525kg/m² [ブチハイエナは約702000kg/m² ライオンの約2倍]

〈ブチハイエナのPSI(ポンド平方インチ)≒1000 1インチ=0.0254m 1ポンド=0.453kgより、650×0.453/0.0254²=702000〉

 

(防御力)→生体硬度   ショア硬度 約A50   [弾性の硬さ 人体の最硬物質である歯でも噛みちぎることは困難]

(素早さ)→泳力(直線移動時) 時速 約3km [ジンベエザメ並みの速さ]

 

[種族特性]

  「多空室甲殻」〈五〉(内部に幾つもの空洞な部屋のある甲殻。内部の空気量を調整できるようになっており、上下方向の機動性を高める働きがある。)

   「頭足類型多重強筋」〈六〉(密集した大量の筋肉。パワーとスタミナが向上する。さらに、頭足類特有の靭性に優れた筋肉で構成されることで、防御力も底上げされる。)

 

[技能]

 

「海神の槍(トライデント)」(六)

(海底から海面へ向けて行われる、鋭い螺旋の殻での突撃。その速度は、急上昇する浮力+水のジェット噴射+強大な筋肉によって生み出される推力が合わさり、時速40kmにも及ぶ。)

 

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