弱小魚の生存戦略   作:カシオミル

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第七話 超回復

 じわじわと全身を暖める光が、月下の海で冷め切った体を優しく包み込み、円滑な活動が可能になるまで体温を引き上げていく。

 それと同時に、肉体が目覚めのシグナルを脳内に送り込み、瞼を徐々に開かせる。

 

 寝覚めの眼で外界に焦点を合わせると、海は柔らかな朝の日差しをカーテンのように揺らめかせ、目に映る海中の生物全てを緩やかな海流でゆらりゆらりと左右に揺すっていた。

 

 まさに生命の揺り籠といえる様相に何故だか胸が熱くなり、突然謎の状況に放り込まれ、僅かに心で育った孤独感が和らいでいくのを感じる。

 

(よし・・・、今日も頑張るか!)

 

 このまま何も分からず、振り回されるだけでは終われない。どうにもならないかもしれないが、兎に角何は無くとも生きて足掻いてみせる。

 

 そう思って体を動かそうとすると、入り込んでいた岩の隙間にガッと体が引っ掛かった。

 

 幸先悪いなと思いつつ、体を捻って抜け出そうとするが、なかなかうまくいかない。

 一体何が引っ掛かっているのか。疑問に思って目を動かしたり、体を動かせる範囲で動かして敢えて岩にぶつけ、その触感を感じたりして自分の体を調べてみると、思いがけない変貌を遂げていた。

 体がより長く、尾鰭がより大きく、甲殻がより鋭利になっており、それら変化した体の部位が岩に引っ掛かっていたのだ。

 

 恐らく栄養摂取と超回復によるものだが、逃げるのに酷使した胴体と尾鰭が長大さを増し、特に胴体に至っては、内に秘める筋肉の増加によってさらなる太さを得ていた。

 また、甲殻については、打ち付けられ破損した部分がプランクトンから得たキチンやカルシウムで修復されると同時に、海流による緩やかな研磨がされたのか鋭角の流線型となっていた。

 

 (おお・・・)

 

 驚き、感歎にふけるも、それもそこそこにして、力強さを増した全身の筋肉と、硬さ・滑らかさの向上した甲殻で強引に岩の間から抜け出す。

 自由になった体で岩の外へ体を踊らせると、肉体の変化をまざまざと実感させられた。

 

 まず、泳ぐ速度が以前と比べ物にならないのだ。尾のひと掻きであっと言う間に前進できてしまう。体感で2倍近くの速度になっており、今度【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】から逃げる時には、もう少し余裕をもって逃げられそうだ。

 

 次に、肺活量ともいうべきか、水を吸い込む力がより強まっていた。起きて早々空腹を感じたので、軽い朝食としてプランクトンを吸い込んだのだが、4倍近い量を吸い込めるようになっていた。体が大きくなったせいか、プランクトン一匹一匹に対する満足度が物足りなくなってきたので、これはありがたいところだ。

 

 さらには、口の力も強くなっていた。当初、プランクトンを主食とするためか、口の機能は貧弱極まりなかったもが、今ではより力強く噛めるようになった。逃げるために必死に水を吸い込む中で、口を大きく広げたり狭めたりしたからか、顎が少し発達したようだ。

 

 おかげで、吸い込んでも吐き出すしかなかったアンモナイトの幼生も、味わって食べられるようになった。今も食べてるが本当においしいので、この変化が一番嬉しいと思っている。

 未発達でも貧弱な顎では噛みきれなかった殻は、鳥軟骨のような「コリッ」とした食感の食べ物に変わり、内側の栄養袋から溢れるタコの旨味を詰め込んだエキスまでも味わえるようになった。

 他のプランクトンより筋肉質で固かった身も、噛むたびに旨味のある甘さとしょっぱさを内包した肉汁を出す極上の肉となったので、変化させてくれたものには感謝してもしきれない。

 

 このような状況に放り込まれ、色々と悩ましい所もあるが、悪いことばかりではないみたいだ。楽しめることはしっかり楽しんで、未知のこの世界をもっと知っていこう。

 ひとまず、巨大生物などの危険が少なそうな浅瀬から調べるべく、尾を力強く振って泳ぎ始めた。

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