弱小魚の生存戦略   作:カシオミル

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第八話 汽水域を目指して

 以前より速さを増した泳ぎで浅瀬へ進むと、周囲の景色が目まぐるしく後ろへ流れていく。

 それも、のびのびと体を伸ばして泳ぐことで徐々に肉体があるべき形へと変わり、さらなる加速が加わる。

 

 どうやら肉体の変化の結果、無理な体勢となった睡眠が悪影響を及ぼしていたようだ。体の感覚から察するに、恐らく軟骨が変形しかけていたのだろう。

 しかし、適正な姿勢での活動によりそれがだんだん修整され、全身の骨がより機能美的な形状・配置へと移行した。

 

 目の前に大きな岩場が現れたが、自身の運動機能を確かめるためにあえて大きく迂回せず、突っ込んでみる。すると、今までなら減速しなければ衝突していたそれも、滑らかに体を揺らめかせ、速度を落とさず躱せるようになった。

 そうして踊るように泳ぐ最中、視界の端にうねらせた自身の体が映り、新たな情報が脳内に流れ込む。

 


 

種族【ルナスピス・スピクロスス】

 

 頭部から肩にかけて連なった複合装甲を持つ魚類。体長約25cm。スコップに近い形をしており、三日月状の装甲は、防御にも急な方向転換にも用いられる。

 なお、その装甲は一枚の厚い装甲ではなく、キチンやカルシウムの薄く硬い骨板を何枚も重ねたものである。そのため、硬度に比して軽量であり、回遊速度は同系統の他種を上回る。

 そこそこ強い顎の強さを持つため、幼体の甲殻類や軟体類を捕食でき、それらの旨味や栄養素をその身に凝縮させる傾向にある。

 【アランダスピス・レグルッスス】より捕食しづらいが、その分味に深みがあるので狙われやすさはあまり変わらない。

 


 

(おお!お?)

 

 あの死闘を経て、肉体が変化するほど強くなったようで、一瞬喜びかけた。しかし、相も変わらず捕食される定めからは逃れられていないようである。

 

(まあいい。今向かっている浅瀬なら、必然的に大型の海棲生物は少なくなるはずだ。)

 

 【ダンクルオステウス・アシアナメリディエス】や【ノーティラス・エンドセラス・ハスタ】なら座礁してしまうような浅瀬でも、小型でやや扁平な自分は問題なく動ける。懸念として海中カルシウム濃度の低さがあるものの、甲殻類を捕食してカルシウムを蓄えられる体になったおかげで、乗り越えられそうだ。

 

 浅瀬へ近づくにつれ、周囲の環境が大きく様変わりしていく。

 柱のように海へ射し込む陽光が、その数を増して海面全体に広がって世界の彩度を増す。それに伴い、巨石の岩場が徐々に増え、海藻の代わりに苔類が繁茂しているのがはっきりと見え始める。淡水が混ざっているからだろうか。

 新天地はどんな場所になるか少し不安だったが、これなら隠れ家が至る所にあるから生活もしやすいだろう。

 

 さて、この場所にはプランクトン以外にどんな食べ物があるのだろうか。

 欲を言えば、カルシウムと塩分を効率的に摂取できるものがあればいいのだが。

 

 良さそうな隠れ家を探索しつつ、岩の隙間を覗き込んで食べ物がないか見ていると、何やら白い球体が転がっていた。

 


 

種族【グラチアス・マングローブ】の生成物

 

 【グラチアス・マングローブ】は、排塩機能と防衛機能を合成し、生物を誘引する機能へと昇華させた植物の一種である。

 汽水域に生息するために蓄積する塩を、デンプンを出す特殊な根の表面から排出し、その根を波の力で動かすことで、表皮についた海藻を削りとった物とまとめて絡めとる特性がある。

 これは、海藻と余分な塩をデンプンで丸めて放出し、再度【グラチアス・マングローブ】に戻ることがないようにする役割と、塩やデンプンを含んだ生成物を餌に生物を引き寄せ、肥料となる排泄物を落とさせる役割がある。

 

 この生成物はそうした経緯で生じたものであり、塩分とデンプンはもちろんのこと、海藻が含むカルシウムも含んだ優良な食物である。

 これは多くの生物を引き寄せ、それらの捕食行為で生じる死骸も肥料となるため、【グラチアス・マングローブ】にとっては一石三鳥である。

 


 

 じっくり観察するうちに、その対象の情報が頭に流れこむ。

 

 「食べられる」のは良いが、今の自分にとっては天敵となる、他の大型生物も引き寄せるというのはいらなかった。

 さっさと食べて、無くした方がいいだろう。

 

 その球体に口を近づけ、齧り付いてみたところ、もっちりとした食感が口内を満たした。近いものとしては、餃子の皮だろうか。

 さらに食べ進めていくと、濃い目の潮のスープが突如として溢れ出す。塩分を求める体に染み渡って、それに呼応してか体内の血がぎゅんぎゅんと回り始める。

 そうして食欲を叫ぶ体の声の赴くままにスープを飲み込んでいけば、今度は海藻と小さな甲殻類が舌の上へと飛び入り参加し、手を取り合って踊り始める。小さな甲殻類はどこにでもいるので、きっと海藻と一緒に絡め取られてしまったのだろう。

 海藻のシャクシャクした食感に小さなエビが合わさって、野菜たっぷりエビ餃子を食べている気分になる。植物由来の旨味と動物由来の旨味が相乗効果で大爆発を起こし、勝手に舌が揺れ動いて舌鼓を打ってしまう。

 

 これはたまらない。これほどの物は今生で初めてだ。

 夢中でかぶり付いて飲み込むのを繰り返してしまうが、当然の如く、あっと言う間に逸品は無くなってしまった。

 

 足りない。これでは全然足りない。

 どこかにまだ転がってないか、あるいは【グラチアス・マングローブ】自体が生えてないか、目を皿のようにして見回す。

 

 

(ん・・・?あれは・・・)

 

 視界の端に何か動くものがあった気がして、じっくり目を凝らすと、遠くで大きなサソリが我が物顔で浅瀬を闊歩しているのが見えた。大型の魚類が姿を消し、その空白に入り込むように甲殻類に近い種である、ウミサソリ等の鋏角類が捕食者の地位に立っているようだ。

 

 これはまずい。

 こちらから認識できるということは、あちらからも可能ということだ。「深淵を覗く時、深淵もまた覗いている」とは誰が言ったか。

 

 慌てて食べ物が転がっていた岩の下に潜り込んだ。

 


生物詳細

 

種族【ルナスピス・スピクロスス】 

 

 脅威度:2(害は小さい。食用可だが、不用意に手を出せば痛い目に遭いかねないため注意が必要。)

 

 体力        45/45

 

(攻撃力)→咬合力         約5kg [成人の犬歯の約1/2の噛む力]

(防御力)→魚体硬度  モース硬度約3 [方解石並みの硬さ]

(素早さ)→泳力(直線移動時)時速約2.3km [ニシレモンザメ並みの速さ]

 

[種族特性]

  Grade Up「翼甲類型甲殻」〈二〉→「板皮類型装甲」〈三〉[負傷と栄養補給、休養により進化]

  Level Up「吸水用口腔」〈一〉→〈二〉[酷使と栄養補給、休養により発達]

  New 「捕食用甲顎」〈一〉(甲殻の発達とともに生まれた顎。硬く大きくなった甲殻自体とそれを支える筋肉によって形成されている。)

 

[個体特性]

  「考える葦」

 

[獲得技能]

 「高速潜行」〈三〉

 

「超重瀑布(グラビティ・フォール)」〈二〉

 

「流星連弾(フォールン・スターズ)」〈一〉

 

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