弱小魚の生存戦略   作:カシオミル

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第九話 時として生態系の隙間に巨大生物が生じる(例:ティラノサウルス)

(何故こんな浅瀬にも巨大生物が!?)

 

 普通、活動の難しさや酸素濃度の低さに加え、巨体を意地するに足る食糧の少なさによって巨大生物は生息できない。

 だからこそ、拠点に最適と思われる「浅瀬」を目指して来たのだ。

 

 一体どういうことなのか。情報を集めなくてはならない。

 波が発生させる泡沫で視認はしづらいが、それは相手も同じはず。そう思い、顔を僅かに出すと、思い掛けない光景が目に入ってきた。

 

 なんと、迷いのない足取りで巨大サソリが迫っているのだ。無数の脚をせわしなく動かし、こちらへ一直線に近づいている。

 それに驚き、混乱すると同時に、相手の情報が脳内に流れ込み始めた。

 


 種族【プテリゴートゥス・ピルゥム】

 ダイオウウミサソリの最大種であり、体長は約3mに及ぶ。腹部に何層ものエラを持ち、酸素濃度の低い水域でも効率的に酸素を吸収できる。加えて、パイルバンカーのような脚部を持つため、波の激しい沿岸部でも安定して活動可能。

 

 他の巨大生物にはない最大の特徴として、2対の大きな腕を巧みに使いこなし、食料の少ない環境にも適応する点が挙げられる。

 外側にある剣山のような棘を持つ一対の腕で、どのような環境にも一定数生息する小型の獲物を捕えるのは勿論のこと、内側のもう一対の肉厚な腕で、ウニ、貝などの鈍重な生物の硬い殻をかち割るのもお手の物である。

 また、ウミサソリ類の例に漏れず高性能な複眼をも有しているため、獲物を見つけても見逃してしまうことはない。

 


 

 頭の中に溢れ出す情報を受け止めて精査するも、弱点などの喜べる内容は一つもなかった。

 分かったのは予想通り強大な捕食生物である事実だけで、【プテリゴートゥス・ピルゥム】の絶殺攻撃圏に入ってしまえば死は免れないということくらいだ。

 

 こうなったら三十六計逃げるに如かず。とにかく逃げなくては。

 体を岩の下から水中に踊らせ相手を見据えると、すでに長大な腕がすぐ近くまで迫っていた。あともう少しでその先端から伸びた棘が届こうとしている。

 

 (もうこんな近くまで!? ・・・っ間に合え!)

 

 その棘がこちらを捕らえる直前、己の体が陸地に向かって飛ぶように移動した。

 瞬く間に彼我の距離が開き、巨体であるはずの相手の体が豆粒のように小さくなっていく。

 

 

 相手からすれば、何が起こったかわからないだろう。

 実は水中に体を投げ出した時、スコップ状の肉体の腹部を沖に向け、波を最大限受け止められるようにしていたのだ。自分は背中が尖っており、現状横から見れば三角形のようになっている。そのため、長辺で波の力を大きく受け止めつつ角で水を割く形を生み、一方向への高速移動が可能になっていた。

 

 (巨大アンモナイトとの遭遇の後、練習しておいて良かった・・・!)

 

 あの時からずっと、この波の激しい浅瀬に着いてなお、泳ぐついでに水と同化する動きを体に馴染ませていた。それがここへきて実を結んだようだ。

 

 とはいえ、そのままにしていては波が沖へ帰る時に元の場所まで戻されかねない。慣性を残しつつ体を起こして力強く水を蹴り、とある確信を持って波打ち際へ逃げ込む。そうして海岸線を抱く陸地を見上げれば、マングローブ林の根が絡み合い、木の岩礁と化して海と陸地に鎮座していた。

 

 やはりこうなっていたか。【グラチアス・マングローブ】の根塊とも言うべき球が浅瀬とはいえ遠方にまで転がっていたから、相当繁茂しているとは思っていた。これならば完全に振り切れるはずだ。マングローブの根の表面を舐めるように往復する波に乗って、根の間にできた潮だまりに飛び込み、ようやく心の底から一息つく。この自然のシェルターに避難できたからには、もうダイオウウミサソリとて怖くはない。

 

 海中の根と根の隙間から外を見やれば【プテリゴートゥス・ピルゥム】がこちらを見逃さず執拗に追ってきているが、警戒する必要もないだろう。

 なにせあの巨体なのだ。こちらに近づこうとすれば、水中から浮力のない海上へと体を出さざるを得ない。ほら、海中に伸びた根の先に足を乗せて海面から体を出した途端、突如襲いかかる重力によって体が震えている。浮力ありきで実現したその巨体は、海から出ればその巨大さが己に牙をむくのだ。

 

 重力により、体全体のみならず内臓まで大地に向かって押さえつけられ、もはや退くも進むもままならない状態に陥っている。それでも無理に進もうとしているようだが・・・

 

(やっぱりそうなるよなぁ!!)

 

 とうとうその重みに耐えかね、最も重く最も脆い部分、つまり肉厚の鋏が付いた細い腕の関節が砕ける。その鋏は、他生物の甲殻をも破壊する筋肉と硬度を備えているため、相応の質量がある。そんな物を、海中ならともかく海上という浮力のない状況において、貧弱な腕一本で支えようというのだ。いつ関節が壊れてもおかしくはなかった。

 

 【プテリゴートゥス・ピルゥム】はあまりの痛みに脚の力が抜け、重力とともに自ら体を足元の固い根に叩きつけてしまう。それは仕方のないことだったのだろうが、自壊を助長する行為でもあり、とうとう内側の一対の鋏が千切れ落ちる。

 自分も相手も潮だまりに転がり落ちていく鋏に視線を奪われ、しばらく動きを止めていた。そして、水中へ姿を消した鋏からそれが付いていた場所に目を移すと、青い血液が腕の断面からどくどくと流れ出ているのが見える。

 しかし、鋏が千切れたおかげで体が軽くなったことに気づいたのか。【プテリゴートゥス・ピルゥム】は踵をかえし、どうにか這々の体で海へ逃げ込んでいった。

 

 


生物詳細

 

種族【プテリゴートゥス・ピルゥム】 

 

 脅威度4(そのエリアにおいて、通常有り得ないほど攻・防・走が飛び抜けている生物。格下の生物にとっては遭遇は死を示す。)

 

 体力        225/225

 

(攻撃力)→挟力         約450kg [大抵の貝、甲冑魚の殻を砕く力]

(防御力)→生体硬度  モース硬度約8 [象牙を超す硬度]

(素早さ)→走力(直線移動時)時速約2.5km [イタチザメ並みの速さ]

 

[種族特性](各種生物の保有する特性)

 

  「多層硬質甲殻」〈七〉

  (関節部までも複層式の殻で守る甲殻。防御力と柔軟性を両立している。)

 

  「破砕鋏」〈八〉

  (硬い貝殻も砕いてしまう強力な鋏。外敵への牽制にも使われる。)

 

 

 

種族【ルナスピス・スピクロスス】 

 

 脅威度:2(害は小さい。食用可だが、不用意に手を出せば痛い目に遭いかねないため注意が必要。)

 

 体力        45/45

 

(攻撃力)→咬合力         約5kg

(防御力)→魚体硬度  モース硬度約3

(素早さ)→泳力(直線移動時)時速約2.3km

 

[種族特性]

  「板皮類型装甲」〈三〉

  「吸水用口腔」〈二〉

  「捕食用甲顎」〈一〉

 

[個体特性]

  「考える葦」

 

[獲得技能]

 「高速潜行」〈三〉

 

   「超重瀑布(グラビティ・フォール)」〈二〉

 

   「流星連弾(フォールン・スターズ)」〈一〉

 

New「虚水舞踏・笹舟」〈一〉(海流への理解度の向上により獲得。海流を利用した移動術であり、短時間のみ瞬間移動速度を跳ね上げる。)

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