大丈夫と平気という言葉を使う人間は、大抵の場合大丈夫などではない。
そう言い聞かせなければ最早1歩も動けないほどに心が摩耗しているのだ。
その先に待っているのは往々にして精神的破滅と、時には人間関係の破綻。
言葉とは、その人の心を表すものだ、疲れていれば悪態をつくし、喜べば言葉の限りその素晴らしさを語る。
彼女は大丈夫、平気と繰り返し、そして墜ちていった。
そして今、彼女はこの廃屋じみた屋敷に、銀髪の美しい少女と共に収容されている。
「・・・・・・」
沈黙の漂う部屋には、金と銀の髪の女。
金色はベッドに、銀色は傍らの椅子に座ってじっと金色を見ている。
「ジーク?目付け役は何も四六時中監視対象を見る仕事ではないのよ?」
「そうは言っても、拙者にはすることが無いのでござるよ」
この古風な言葉遣いの女は、さっきからずっと金色を見ている。
もう二時間は凝視されている、飽きないのだろうか。
「そんなにやることがないのなら、自室に戻って本のひとつでも持ってきた方が良いのではなくて?」
「それはダメだ。もし拙者がここを離れたら、其方はここを抜け出して前線に出向こうとするであろ?」
「随分と信用がないのね・・・・・・」
「ここに入るまでも随分抵抗したというではないか、スピットファイア殿。それで信用がどうのと言われても、拙者は納得しかねるな。まぁ、代理人殿を脅しつけたところで、其方に下された命令は覆らないだろうがな」
スピットファイアと呼ばれた金色は肩を落とした。
実際、自分は彼女がいなくなった隙にここを出ようと思っていた。
そして出たところでここに戻ることになるのは分かり切っていた。
分かり切っていたのにそうしようとするのは馬鹿らしい、と思うかもしれないが、スピットファイアはそれを行動に移すか、指摘されるまで気付けない程に消耗し尽くしていた。
そして今、無力感に苛まれている。
「そう落ち込むでない、代理人殿も何時までもここに其方を押し込んでおく気は毛頭ない。今は静養するのだ。何かするなりして、気分を晴らそう」
「そんな事言われても、私には空が全てなの。空に行けない、守れない私が地上で何をすればいいというの?このまま毎日ただじっと私を見つめるだけの貴女と腐っていろと?」
「それは・・・うーむ」
それきりジークは考え込んで唸り続けた。
このジーク、零式艦上戦闘機は私の目付け役として配置された。
何故この娘なのかは全く不明だ、たまたま近くにいて、王立白薔薇学連のDOLLSではなかったから、大方そんな理由だろう。
「そうさな・・・・・・ぬうぅ」
「もういいです。別に気遣ってくれなくていいですから」
「いいや、ダメだ。拙者は其方に良くなって欲しい、代理人殿もそれを望んでおられる」
そう言ってまた考え込む。
あーでもない、こーでもないと悩んで悩んで悩み続けている。
「空、空かぁ・・・ARMSは現在凍結されてしまっているし、拙者がだ、抱いて飛ぶというのはスピットファイア殿は嫌だろうし・・・うーん」
「・・・」
「お茶会でも・・・・・・困った、拙者は紅茶の淹れ方が分からぬ・・・」
「・・・・・・」
「手合わせ?いや、スピットファイア殿は病床の身、あまり激しい運動は良くない・・・・・・あぁ!頭が痛いでござる!!」
椅子に座りながら悶絶する零戦。
頭を抱えてゆらゆら揺れる。
それが何だか可笑しくて、スピットファイアは少し笑った。
「?、どうかしたでござるか?」
「ああ、ごめんなさいね。私の事をこんなにも考えて悩んでくれる人なんていなかったものですから。後、悩む時の動きが可笑しくて」
「そ、そうでござるか。じゃあ拙者、もっと悩むでござる!そうすればスピットファイア殿は笑っていられるでござる!」
そしてまた頭を抱えて七転八倒しながら悩み始める零戦。
「その理屈はおかしいわ、ジーク!良いの!良いんだってば!!あっ、えっと、本!私本が読みたいわ!だからそんな貴女が辛くなるような事をしないで!!」
二人の療養はまだ始まったばかり
それでは次回にまた会いましょう。