それは昼下がりのこと
「うーん?」
スピットファイアは本に目を向けたまま首を傾げた。
「?、どうなされた?スピットファイア殿」
隣で同じく本を読んでいた零戦が顔を上げる。
「ああ、ジーク、実は分からない言葉が出てきてしまって・・・」
「ほう?どれ、見せてみよ・・・」
ずい、と零戦がスピットファイアの持つ本に顔を寄せた。
少し顔を動かせば、互いの鼻がぶつかる程の距離に零戦の顔がある。
「あ、ジーク、近い・・・です」
「ん?ああ、すまない。それでどの言葉が分からないのだ?」
「えっと、この字なんですが・・・」
サッと身を少し引いた零戦に、スピットファイアは指差しで分からない言葉を示した。
そこには「蒼穹」と書かれていた。
そして零戦は答えることを躊躇った。
空、というワードを今のスピットファイアに出して良いものだろうか?という疑問が頭をよぎったからだ。
「?、どうしたのジーク?」
「ああ、いや何でもない。この字はそうきゅうと読むのだ」
「蒼穹・・・どういう意味なの?」
答えに詰まる。
しかし嘘は言えない、零式艦上戦闘機というDOLLSはそういう女だった。
「これはなスピットファイア殿、青く晴れ渡った空を意味する言葉だ、美しい表現だと拙者は思う。言葉だけで、蒼天が目に浮かぶような、そんな言葉だ」
「蒼穹・・・空・・・いつか戦線に戻れば、また見られるでしょうか?」
少し曇った顔でスピットファイアはそう呟いた。
「それは違うぞ、蒼穹と呼ぶべき空は、いつも見ているあの空の色とは違うのだ」
「違う?」
「そうだ、まるで海の色のような空・・・拙者は本物の海など知らないが、それはそれは深く青い空だという」
「深く、青い空・・・・・・」
スピットファイアは妄想する。
自分が蒼穹の中を飛び回る様を。
「きっと、素晴らしいと思います。いつか、蒼穹に辿り着きたいですね」
「なら、拙者と約束だ。いつか、戦いが終わったら、蒼穹の中で思う存分飛ぼう。拙者と共に」
塞ぎ込んでいた彼女は、今は本に書いてあった言葉に夢中だ。おだやかな時間がゆっくりと流れていく。
「ねぇ、ジーク。海って言葉を聞いたけど、ジークは海を見た事があるの?」
「あ、ああ、前に任務でな。海と呼ぶものかは分からないが、空のように広大で、青く、気持ちのいいものだった」
「まぁ!羨ましいなぁ、ジークは海を知ってるんだ。海、私も見てみたいなぁ」
柔らかな微笑みを浮かべるスピットファイアに、零戦はどきっとした。
「う、うむ・・・また海を見つけたら、一緒に行こう」
「あら?どうしたのジーク、顔が赤いわ」
「な、ななな何でもないぞ!拙者は元気だ!これは、その、そう!少し暑いと思ったのだ、換気も兼ねて少し窓を開けるぞ!」
いそいそと立ち上がり、零戦は窓を開け始める。
(微笑む姿が愛らしいなどと・・・それに、顔を赤くしていたのか、拙者は)
ちら、とスピットファイアを見る。
(美しい金髪に、彼女の大好きな空のように青い瞳、柔らかそうな唇・・・拙者が男子なら、恋をしたであろうな・・・ってぇ!?そうではないでござる!確かにスピットファイア殿は美しい、物腰も柔らかく、動作も上品、あんなにも良い女子は他にいな・・・じゃない・・・あー・・・取り敢えず窓を全て開けるとするか)
何やら物思いにふけりながら、零戦は部屋の窓を全て開けた。
「冷えるか?」
「いいえ、涼しいわ」
スピットファイアは読書しながらそう答えた。
さわさわと風が吹き、彼女の髪を揺らす。
それには構わずになおも本を読む。
その姿に零戦は見入りかけては、ブンブンと頭を振って煩悩をかき消した。
「せ、拙者も本の続きを・・・うわっ!!」
本とともに置かれていたファイルの中身が、風で舞い上がった。
「まるで雪みたいね」
「紙吹雪というのだ・・・さて、片付けるか」
舞い上がったのは命令書だった、それを一つ一つ集めていく。
そのひとつがスピットファイアの手に収まる。
「?、誰かの命令書?」
監視任務をするにあたり守ること
絶対に対象から目を離さない
以上!それだけ守れれば何してもいいぞ!!イチャイチャするも良し、デートもOK!でも絶対に戦場には戻すな。何時復帰させるかはこちらのタイミングで決める。
まぁ安心してくれ、何時までも閉じ込めるつもりは無いからさ
命令書?は零戦宛のものだったらしい。
えらく砕けた感じで記述されている。なんともあの代理人らしい、とスピットファイアは苦笑した。
「はい、ジーク、飛んできたわ」
「おお、すまないな」
飛んできた命令書を零戦に返すと、何故か彼女の顔は赤く染まっているように見えた。
そこで、スピットファイアは一つ、イタズラをしようと考えた。
「デート、したいですか?」
その言葉に零戦は顔を真っ赤にした。
「な、ななな何を申すでござるか!?ほ、本当に読んでないのだろうな?書簡も、拙者の心も!」
「あら?命令書はともかく心なんて読んでないけど・・・」
「わー!わー!なんでもないでござるぅぅぅ!」
二人の静養は、時に騒がしくも穏やかに過ぎていく
思いついた話をただ流しているので、それほど面白くは無いかもしれませんね