衝撃だった。
確かに私はここ最近食べることにうつつを抜かし、運動することを怠けていたのかもしれない。
でも......でもね? 流石にここまで一気に増えると、私的にやっぱり乙女なわけで、この残酷な現実には辛い物を禁じ得ないわけで......
体重計の上で、私、雪ノ下陽乃はきっと顔を白くしていることだろう。
どんな女性でもきっとこんな顔をすると思う。それほどまでに今回の数値の上昇は......残酷だった。
認められない。いえ、こんなの認めてはいけない。とにかく、可及的速やかに元の数値に戻さないと......雪ノ下陽乃ともあろう私が......クッ......これは、私の威厳に関わるわ。
「あら、姉さん......その体重計の数字......」
最悪のタイミングで、最悪の人物が現れてしまった。雪ノ下雪乃、私の可愛い可愛い妹。でも、今だけは、今だけは最も会いたくなかった、体重計とは無縁なスレンダーな子。
「ち、違うの雪乃ちゃんっこれはこの体重計が壊れているだけで」
私は咄嗟に言い訳のようなことを口に出してしまう。大体、この体重計って先週買ったばかりのやつだし。目の前の妹に格好の餌を与えてしまったことに、また私の顔から血の気が引く。
「ふふっ......いいのよそんなに慌てないでも、別に姉さんが少し肥えてしまったことなんて誰にも言わないもの......うふふふふ」
妹が薄く、勝ち誇ったような笑みを浮かべ始めた。そう、獲物を見つけた肉食獣のように獰猛で、また見方によれば面白い玩具を見つけた子どものような顔で。
「まあ、胸にそれだけ無駄な肉がついてしまっているのだし、そのくらいは代償だと思って甘んじて受け入れるしかないのではないかしら? ......うふふふふ......あら? それともお姉様ともあろうお方がまさか自分の体重に動揺していらっしゃるの? 」
雪乃ちゃんは心底楽しそうに私に言う。そして、部屋を出ようと雪乃ちゃんはドアノブに手をかけ、そこで顔だけスッとこちらに向けると......
「姉さん......お可愛いこと」
これが、嘲笑混じりのこの言葉が、私の心に火を付けた。
* * *
あれから、2週間がたった。
もちろん泣き寝入りをしていたわけじゃない。ほら、忘れた頃に仕返しをした方がインパクトも被害も大きいでしょう?
あれだけの屈辱を私に浴びせたんだ。たとえ、最愛の妹といえども絶対に容赦はしない。
と言うわけで。
雪ノ下陽乃、今目の前にあるは夕方の奉仕部部室のドア......さて、怖いもの知らずなあのまな板ペチャ乃に社会の厳しさを教えて上げるため......出陣しますか。
「ひゃっハロー。みんな♪ 」
部室の中を見ると、ターゲットの雪乃ちゃんは当然として、比企谷君をはじめとしガハマちゃんに生徒会長ちゃん、小町ちゃんが呆けたように私を見ていた。突然の異分子の訪問にみんなびっくりしているようだ。
だけど、私はまず比企谷君と目を合わせる。ニヤッと笑みを浮かべることも忘れない。
え? 何でかって? これから起きることを考えたら楽しくなってきちゃったからだよ。
すると何か不穏な空気を感じ取ったのか、比企谷君はぶつぶつ言いながら席を立って逃げ出そうとした。だけど私は逃さない。彼の腕を掴んで強制的に座らせる。もちろんこの私が逃すわけないでしょう? だって彼がいないと......これから始まる雪乃ちゃんへのお仕置きの効果が半減しちゃうんだから......
「姉さん、あなた何をしに来たのかしら」
雪乃ちゃんは少し余裕を持った口ぶりでそう言う。ない胸を張ってドヤるのはいつもは可愛いと思えるのかもしれないが、今は正直イラッとした。ええ、腹立たしいことにこの妹はあのことがあってから私を少し舐めているの。
......待っていなさい。今からあなたは哀れに狼狽しながら悲痛な叫びを上げることになるのよ。
と、その前に。
「ねえ比企谷君。雪乃ちゃんが動かないように体を押さえておいてくれないかな? 」
「......嫌ですよ。何で俺がそんなことしなくちゃいけないんですかね」
比企谷君はそう言って警戒する。まあそんなことは想定済み。だから当然私はカードを用意している。
「比企谷君、最近ね? うちの父があなたとゆっくり2人でお食事したいって言って聞かないんだよね。このままだとお母さんに伝わって強制的にそんなことが起こっちゃうかもなんだけど......今なら私の意見によってはとりあえず白紙にすることもできるけど......」
「雪ノ下......許せ」
「ちょっ比企谷君!? 」
ふふ、うまくいった。彼氏に抱きつかれて顔を赤くしてちょっと嬉しそうにしてる雪乃ちゃんはムカつくけど、まあこれで準備完了だ。
もしもの時のために今朝お父さんにはちゃんとおねだりしておいたんだけど、まあこれでスペアプランの必要性はなさそうね。
さあ、仕返しを始めるとしましょうか......恨むのなら自分の過去の業を恨んでね......雪乃ちゃん。
「皆さん、この1冊のノートをご覧ください。今からこれに綴られている内容を音読したいと思うので、しっかりと! 聞いてね」
私は、もう半年前から雪乃ちゃんが綴っているノートを出した。雪乃ちゃんは誰にもバレていないと思っているみたいだけど、私をはじめもうお母さんもお父さんもその内容をバッチリ知ってしまっているそのノート。雪乃ちゃん以外のみんなは、そのノートを不思議そうに眺めていた。
ただ雪乃ちゃんだけは、さっきまでのムカつく余裕を消して、一気に顔面から血の気が引いている。
「まっ......待って、お願いします待ってくださいお姉様」
雪乃ちゃんはようやく自分の置かれた状況を正しく理解したのか、悲壮な表情で私に許しを乞うてくる。暴れても、比企谷君が抑えているからもうどうにもできない。
ふっもう今更遅いよ。......乙女の体重を揶揄うなんていう、自分がしてしまった業の深さに飲み込まれるがいいわ。
私は息を吐いて、そのノートに綴られていた......雪ノ下雪乃による、比企谷君への熱い想いを朗読した。
『好き、あなたが好きよ比企谷君......どうしてあなたはこんなに私の心を掴んで離さないの? まあ、私の全てはもうあなたのものだけど......ね? 』
『はちまん、はちまん、はちまん、はちまん......たったこれだけの、たったの4文字が言えないの。どうしたら言えるんだろう』
『比企谷君は多分麻薬なの。だって、彼を見るたび、私は痺れて動けなくなっちゃうんだもの』
『あなたのことを思うとそれだけで......会っていようと離れていようと、火が燃え盛るように、私の心も燃えているようです』
『比企谷君、ああ比企谷君、比企谷君、八幡大好き、もう離さない』
『もしあなたに会わなかったのなら、私はこんなに苦しむこともなかったのかしら......いいえ、あなたのくれた痛みなら、私はどんな痛みも喜んで受け入れますよ』
『夢を見た、あなたと8人の子供たちに囲まれて、幸せな生活を送るの......叶えたいと思うのは、私だけかしら? 』
『愛してる、あなたのことを、愛してる、愛して愛して、私も愛して』
『どうしてあなたはそんなにカッコいいの? あなたを見るたび、私はもう蕩けてしまいそうです』
『あなたに欲情されたい』
『雪ノ下雪乃は、比企谷八幡を、愛しています』
『My love ...... forever.Hachiman』
まだまだ全体の10分の1にも満たない。このノートには、本にしたら結構なページ数を使うくらい膨大な雪ノ下雪乃の重い想いが詰まっている。実際重すぎて私もお母さんもお父さんも結構引いた。
「えっと......雪乃さん」
小町ちゃんの微妙に遠慮した声。
「っぷ......」
我慢しきれず吹き出した生徒会長ちゃん。
「」
完全に固まってしまったガハマちゃん
「うぅ......うぉぉ」
呻き声を上げる比企谷君
「ああ......あああああ......ああ......」
そんな代物を大公開された雪乃ちゃんは、声にならない叫びをあげる。
そして部室の中の視線を独占し......体から、完全に力が抜けてしまう。もう表情もない。
「いっそ......一思いにやって......」
それがこの日、雪乃ちゃんが発した最後の言葉だった。
Mission complete
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スキルまとめ
雪ノ下雪乃
・乙女ポエム←new
雪ノ下陽乃
・ぷよぷよ←new
由比ヶ浜結衣
・⁇
一色いろは
・⁇
比企谷小町
・⁇
川崎沙希
・⁇
比企谷八幡
・⁇