姉妹喧嘩   作:shushusf

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番外編.3。葉山隼人の受難/黒幕の微笑

「はぁ……不幸だ」

 

 

 

 

 みんなこんにちは。葉山隼人だ。

 さて、どうして開口一番にこんなネガティブな言葉を呟いたのかというと……

 

 

 

 

「……隼人。なんか言った? 」

 

「いや、何も言ってないよ。陽乃さん。……比企谷から、何か陽乃さんにとって有益な情報をとってくればいいんだろう? 」

 

 

 

 

 

 

 とまあ、今言った通りの命令を下されたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……はぁ……やりたくないなぁ。

 でもやらないと、いつからか比企谷への好意を隠さなくなった陽乃さんによる苛烈極まりない処刑を待つことになる。多分、今のこの人の機嫌が悪くなったら、平気で俺を拉致監禁くらいするのではないだろうか。

 

 

 今の陽乃さんは俺を正座させ、仁王立ちしながら俺を見下ろしている。俺を見るその目に宿る熱意は、割と危ないそれで、今後の比企谷が本気で心配になるレベルだ。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、分かってるならいいわ。雪乃ちゃんをはじめ、八幡君の周りには余計な羽虫が多いから……早いところ、誰が一番彼に相応しいのかを分からせる必要もあるしね。そのためには、やっぱり比企谷君が完膚なきまでに私に惚れる必要がある」

 

 

 

 

 

 

 

 ……多分、あなたが比企谷を『手中に収める』ってほうがしっくりくると思うよ。

 そんなふうに思っている間も、陽乃さんの言葉は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

「もう……八幡くんがカッコ良すぎて最近あんまりお話できてないし……彼に私を意識してもらわなくちゃだし、同時並行で羽虫たちを駆除していかなくちゃだし……きゃっ♡ やることがたくさんっ」

 

 

 

 

 

 

 俺は、本気で呆れながら目の前のポンコツお姉さんを見上げた。すると、そのポンコツは俺を一瞥して

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし役に立たなかったら、隼人のシンボルちょん切るよ? 絶対役に立ってね  」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺に届けられた物凄い凄惨な笑顔と言葉。一々怖いんだよ。この人は。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「と言うわけで、葉山君には私の奴隷になってほしいの。具体的には比企谷君に関する有益な情報を私だけに捧げなさい」

 

 

 

 

 

 さっきの陽乃さんからの勅令から少しして、今度はその妹さんから呼び出しを喰らうと、とんだ命令が飛んできた。全く、この姉妹は人のことを一体なんだと思っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「有益な情報……例えばどんな情報がいいのかな? 雪ノ下さん」

 

 

 

 

 

 

 俺はなるべく刺激しないように言葉と態度を選び、呆れるほど抽象的な命令に具体性を求める。

 

 

 

 

 

 

「そんなもの自分で考えなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 ……この姉妹は本当に……

 思わず左手でこめかみを抑えてしまう。どうしろっていうのだ本当に。俺別に比企谷と親しいってわけじゃないんだぞ? 

 腹の中で様々な愚痴が浮かぶが、そんな俺を華麗にスルーし、雪乃ちゃんは自分の世界に入ったように語り始める。

 

 

 

 

「ハァ全く……もうとっくの昔に比企谷君争奪レースは決着がついているというのに、それでもまだ諦めずに勝者のこの私に歯向かってくるあの人たちは何を考えているのかしらね? まあ? 歯向かうなら何回でも叩き潰してあげるのが私の流儀だから、それでもいいのだけれど。比企谷君の正妻は私であり、側室だなんて認めていないわけだから、徹底的に潰さないといけないわね……そして、私と比企谷君と結衣の三人で、愛に生きるのよ……うふふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 しらんがな。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「きーてますぅ? 葉山先輩! 」

 

 

 

「あ、ああ……比企谷の情報をいろはに流せばいいんだろう? 」

 

 

 

 

 もう分かってくれる人も多いのではないだろうか。

 そう。いろはにも俺はあのポンコツ姉妹と同じようなことを頼まれている。……いや、頼まれているだなんて可愛い表現ではだめだな。命令されているんだ。拒否権なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……これでせんぱいは私の加護の中に……うふふふふ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろはは最近、前々から薄々感じていた中二病っぽさが割とハッキリ現れるようになってきた。あの姉妹も最近結構ぶっ壊れているが、この後輩も同じくぶっ壊れてきている。

 

 

 

 

「葉山先輩! 私の使い魔として絶対有用な情報をえてくるんですよ? 分かりましたか? 」

 

 

 

 

 いや、使い魔って。

 いろは。一応俺は君に前告白されているわけで、なんなら君は今でも体裁上は俺のことが好きだということになっているんじゃないのか? なんだか俺もこの扱いの変わり方は戸惑うと言うか少し心にくるものがあるんだが……

 

 

 

 

「葉山先輩返事は? 」

 

 

 

 

 

「……ああ。分かったよ」

 

 

 

 

 ドスの効いたいろはの声に、俺は考えることをやめて内心テキトーに返事をしておいた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「お願いね? 隼人君」

 

 

「ああ……比企谷に関しての有用な情報な。分かった分かりましたよ」

 

 

 

 

 

 さて、今度は結衣だ。

 あまりの面倒くささに流石の俺ももう反応がテキトーになっている。早く受験勉強もしなければいけないのに……っていうか、比企谷たちは受験勉強大丈夫なのか? いろはも自分の勉強だったりがあるだろうし、陽乃さんも大学はいいのか? 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「葉山先輩お願いしますね♡ 」

 

「……ああ。分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 さっきの結衣で最後かと思ったら、まさかの比企谷の妹からも同じことを頼まれた。

 

  ……この娘に関して考えるのはやめておこう。小町ちゃんは、今までの中で一番闇が深かった。危ない目をしていた。比企谷と一番近い間柄にあるだけ、やはり何かが拗れたりしているのかもしれない。 

 怖くて彼女に何かを質問する気にもならなかった。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 翌日。朝の体育館裏。

 

 

 

 

「んで? 何なんだよ改まって。奉仕部に関する重大な用って、一体なんなんだ? 」

 

 

 

 

 

 陽乃さん経由で、無理矢理比企谷を朝の体育館裏に呼び出した。まあ、あからさまに比企谷も機嫌が悪いが、奉仕部についてだといえば必ず来るあたり、こいつも彼女たちを愛しているんだな。

 

 俺が比企谷をここに呼び出したのには、彼からあの五人の印象を聞き出すことに目的がある。俺は制服のポケットの中にレコーダーを仕込んでいるし、後でそれぞれにそれぞれの部分だけカットして情報提供という形にすればいいという算段だ。

 実際、物凄い抽象的な要求の答えとしては、これが多分一番楽だ。

 

 

 

 

 

 

「ああ……すまない。本当にすまない……だが、いくつかの質問、いや、5つの質問に答えてくれるだけでいいんだ。頼む。俺を助けてくれ」

 

 

「え、ええ……正座? 何お前どしたの」

 

 

 

 

 

 

 比企谷は俺の挙動に目を丸くして、なんだか拍子抜けしていたみたいだ。少し優しくなった。

 まあ、比企谷からしてみたら意味がわからないだろう。   

 

 ただ、俺だって何らかの成果があがらないと多分無事では済まないんだよ。そりゃ例え比企谷の前だとしても、正座で頼み込むくらい普通にする。なんなら土下座だってわけないんだぜ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まあ……とりあえず言うだけ言ってみろよ。質問に答えればいいんだろ? 」

 

 

「ほ、本当か!? 助かる! 俺は君のことが大好きかもしれないっ!! 」

 

 

「やめろ近づくなクソボケっ!! ここに海老名さんいたらどうしてくれるんだ!? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、危ない危ない。嬉しさのあまりとんでもないことを口走ってしまった。

 

 

 

 

 ……ふう。じゃあ、比企谷の気が変わらないうちに。

 

 

 

 

 

 

「さっそくだが、質問の一つ目だ。……陽乃さんのことを、君はどう思う? 」

 

 

 

 比企谷は、またまた目を丸くした。と同時に、恐らくどうして俺がこんな質問をしたのかを察知したのだろう。俺の顔をまじまじと見て、朝から顔色の悪い俺を、五人から掛けられたあまりのストレスからくるものだと気づいたはずだ。その証拠に「大変だな、お前も……」なんて小声で言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ええー……。とか、彼は嫌そうな顔をして言う。だが、少しして、彼は答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、、、魔王だとかなんとか言う通り、あの人はヤバい人だと思う。怖いし、なんなら怖い。でもな……最近は、それ以上に可愛いところも見えてきて……ほらあれだ。あの人見た目はかなり大人の魅力ある美人だろ? だから、内面の可愛さも見えてきたら……スッゲー意識しちまうってのは、、、正直なところだな 」

 

 

 

 

 

 ……よし。これで陽乃さんから殺されることはなくなったな。オーダーからは少しズレているが、まあこれだけ褒め殺されれば今のあのポンコツならイチコロだろう。

 

 

 

 

 

 

「次、雪乃ちゃ……雪ノ下さんのことは、どう思う? 」

 

 

 

 

 

 

 今雪乃ちゃんと言いかけた瞬間、比企谷からものすごい量の霊圧を感じた。途中で止めてよかった。

 

 

 

 

 

「あいつは……なんつーか、、、俺が今まで関わってきたなかで……一番、、、好きだって、素直に思えた奴だな。正直いくらでも言葉はこねくり回せるんだが……好きだなんて一言で収まるものではないが……それでも敢えて言うなら、、俺はあいつが好きなんだ」

 

 

 

 

 

 

 よし。これで雪乃ちゃんからの粛正もなくなった。ナイスだ比企谷。聞いているこっちまで恥ずかしいくらいだった。

 

 

 

 

 

「次はいろはだな」

 

 

 

 

 

 「……あいつは、俺の唯一の後輩だって点を差し引いても、可愛い女子だって思う。実際あのあざとい仕草は分かっていても威力はヤバいし……守ってあげたくもなる。それに、なんとなくほっとけないというか……な。そばにいてやりたいとも思う」

 

 

 

 

 

 

 

 よし、恐らくいろはからのお咎めもないだろう。途中で比企谷が恥ずかしがったが、もう十分なはずだ。

 

 

 

 

 

 

「次は、結衣だ」

 

 

 

 

「由比ヶ浜は、本当に可愛いやつだと思う。実際あんなに可愛くて性格もいい女子が、、どうして俺なんかのことを……って何度も思うし、あの笑顔は何回見ても癒される。……めちゃくちゃ、いい女だし、スッゲー可愛いと思う。アホだけど」

 

 

 

 

 

 

 よし、結衣もこれで問題ないだろう。最後の一言は減点材料かもしれないが、まあ結衣だから大丈夫なはずだ。アホだからな。

 

 

 

 

 

「最後……小町さんだ」

 

 

 

 

 

 

「…………小町は、可愛い妹だ。あんなに可愛い奴いないと思う。……だから、誰にも渡したくない。……だが、小町は、俺の可愛い可愛い、、、妹だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 比企谷は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 それから、俺は比企谷のボイスをそれぞれに提供した。

 え? その後、彼女たちがどうなったかって?

 

 

 

 

 

「あら♡ はやと  今日もいい天気だねっ! 今度お姉さんが何か奢ってあげちゃうぞっ」

 

「あら、、葉山君……おはよう。今日もとても素晴らしい日ね。今朝私は思わず鼻歌を歌ってしまったの……うふふ」

 

「えへへぇ〜やっぱり私の加護の中にあったんですねぇせんぱい……えへへ…………あ葉山先輩おはようでーす」

 

「隼人君おはよっ! ……へへ……あ、そうだ隼人君。今日の私も、ちゃんと笑顔出来てるかな? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな感じだ。

 四人はもうご機嫌すぎて逆に怖い。気持ち悪いというのが正直なところだが、まあ俺に被害がこないだけまだいいはうなのだろう。

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 やはり問題なのは、小町さんの方だ。

 いい噂を聞かない。小町さんに例の録音を送った後も、他の四人とは違って一人だけ返事がなかった。

 ……風の噂で聞くに、とんでもなく黒いオーラを放っていたみたいだが……

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、俺の仕事はここで終了だ。

 

 

 

 

 

 

 

 前に比企谷と話した体育館裏にて、ブラックコーヒーを俺は一気に飲み切る。そして、いつの間にか横にいた人間に、恨みを込めて言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

「……これで、いいのかい? 」

 

 

 

 

 

 

「うん……さすがだね。うまく八幡や、まわりの人たちの言葉を引き出してくれたよ……」

 

 

 

 

 

 俺は横にいる人物の顔を見ない。

 どうしてかって?

 

 

 

 怖いからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふふっとにかくご苦労様」

 

 

 

 

 

 その声がした後、足音がたち、そして離れていった。

 その足音が完全に聞こえなくなったと同時に、俺はため息と同時に、恨み言がついに漏れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なにが彩ちゃんだ……あれじゃあ、災ちゃんじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 最近、彼は誰かを集めて何かをしているみたいだ。それが何なのかは想像したくもないが、きっと碌でもないことなのだろう。

 俺が陽乃さんから勅命を受けることを見越して、事前に接触して来たその強かさ、本気で身震いする。あれは狩る者の目だった。

 

 

 

 

 

 

 呟いた言葉は、空に吸い込まれていった。

 

 

 

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