「はぁ……はぁ」
「ねえ小町ちゃん。……あなたの血潮はそんなものなの?……あなたに流れるブラコンの血は、そんなものなの? 」
小町が膝をつく。息も絶え絶え。満身創痍といったその様子からは、明らかに小町が劣勢であることが見てとれた。
対するは海老名姫菜。彼女は狂気じみた笑みを浮かべ、膝をついて息を整える小町を見つめていた。なんだかどこぞの少年漫画のようなセリフを吐いているが、八幡ちょっと意味がわからないのでこれはスルーをすることにする。
小町vs海老名さんの一戦では、始まってからというもの、小町の劣勢が続いている。防戦一方の小町に対して、余裕綽々といった様子で海老名さんは相手をしていた。
その狂気。まさに性癖の鬼だ。
彼女の特性についてはもう既に知ったところではあったのだが、これは酷い。
今まで見せてきた彼女は仮初の姿であったのだと、そう納得せざるをえないほどに苛烈で、危険で、思わず吐き気を催すほどに濃密な妄想が大爆発している。
「さあ……小町ちゃん。潔く、はやはちワールドに繰り出そう。あなたの兄への一途さ、素養、練り上げられている。……小町ちゃん……さあ、この私の手を取るんだよっ」
海老名さんは邪悪で純真な笑顔を煌めかせ、我が妹をたぶらかす。そして、その右手を、膝をついてしまっている小町に向けたまま、一言。
「小町ちゃん……ううん、小町。……腐女子になりなさい。そして、私と永遠の研鑽を積もうっ!!!!! 」
ああ、そうだよ。彼女はさっきから小町に「はやはち」なるものを使って精神攻撃を加えているんだ。それへの熱い血潮と情熱、妄想と狂信でもって小町を攻め立てている。流れ弾が俺にも当たって相当辛い。
「……うわぁ……」
雪ノ下雪乃が、いつもよりも幼い声で小さく怯えていた。当たり前だと思う。今日の海老名さんはあの氷の女王がちょっとキャラ崩壊してしまうほどに絶好調だから。
「さあっ!! 腐女子になると言うのよっ! 小町ちゃん!! 」
彼女は怪しげに眼鏡を光らせ、叫ぶ。
「っ小町ちゃん!? 」
「小町ちゃん!? 嘘でしょっ!? 」
由比ヶ浜と陽乃さんが叫ぶ。というのも、床に膝をついていた小町の手が動いたからだ。
その手は、ゆっくりではあるが、確実に腐海の女王の差し出す手に向かっていた。こちらからは下を向いたままの小町の顔は見えない。だが、あの纏っている空気からは負のオーラをビンビンに感じてしまう。
……これは、まさか……あいつは本気で腐女子の軍門に降る気なのか!?
焦る由比ヶ浜。陽乃さん。苦しそうに歯を食いしばる雪ノ下。顔が青くなる俺。
ただ、そんな余裕のない俺たちの中で一人だけ、薄く笑った人間がいた。
「っふふ」
一色いろは。
彼女はいつのまにか俺の横に陣取っていて、この闘いを観戦している。そんな彼女が、今思わずと言った調子で笑ったのだ。その笑みからは強がりだとか、嘲笑だとか、負のオーラが全く感じられない。雪ノ下や由比ヶ浜たちには今の一色の笑みが聞こえていないらしく、誰も一色の笑みには気づいていないが……
「せんぱい。もうちょっとお米ちゃんのせんぱいへの愛、信じてあげてもいいんじゃないですか? 」
「ど、どういうことだ……」
自信げな一色に、俺は思わず疑問を口にする。
すると、尚も一色いろはは楽しそうな目をしたまま、俺にこう言ってきた。
「お米ちゃんは、今までわざと反撃をしないで、防戦一方にしていたんですよ」
パァンっ!!!!!!!!!!
一色の声が止んだ後、小町が腐女子の手を力一杯はたいた音が部屋中に響き渡った。
* * *
「……これは……ど、どういうことなの、小町ちゃん」
明らかに籠絡させたと思い込んでいたのだろう。海老名さんは動揺を隠さずに、目を見開いて小町に問う。
「少し……小町は小町を試していたんです。他の信念を持った人の力を敢えて防がずに受けることで、、、小町の信念が、どんなものかを」
小町は、○ンピースのギア・セカ○ドのように片手を床に付けながら、ゆっくりと立ち上がる。それさながら、少年漫画における主人公の復活シーンのようだ。こころなしか周りに湯気のようなものも見える気がする。
俺がそんな小町の姿に感動している最中、隣にいた一色がドヤ顔で解説を始める。
「私がさっきの戦いの後、集団リンチを受けた後のことです……ほぼ雪乃先輩にボコボコにされた満身創痍の体で、私はお米ちゃんを呼び出して話をしたんです」
「え? いろはす? 」
腕を組み、どこぞの強者のような雰囲気を醸し出す一色いろは。……こいつほんと吹っ切れたよな。
「というのも、お米ちゃんは最近何かに怯えているようでした。いえ、自信を無くしていたと言ったほうが正しいですね」
そのまま、一色は俺の方を見ずに、師匠が弟子の成長を見守るような視線を小町に送りながら話し続ける。
「……せんぱいがお米ちゃんのことだけを女として見ていないこと、皆さんの想像以上に気に病んでいました。……まあ、どこからそんな情報が出回ったのかは知りませんが」
……いや、妹だよ? いくら可愛い天使でありエンジェルったってな、実妹だからな?
「半ば、お米ちゃんは腐っていました。そんなあの子に再び炎を灯すのには、流石の私とはいえ苦労しましたよ」
ドヤってるとこ悪いがな、ほのををわざわざ“ほむら“って言うのやめろ。なんかこっちが恥ずかしくなってくるから。
一色は、最後に俺を見て、薄く不敵に笑った。
「知ってますかせんぱい? いいお米をつくるには、いいお水が必要なんですよ」
* * *
「な、なぜ!? あれほどはやはちの魅力をマシンガンのように浴びせたのにも関わらずっ……そんなはずはない、はやはちが響かない人類なんてこの世に存在するはずがないっ」
腐女子は数歩後ろに後退り、取り乱し始めた。
そんな海老名さんに、小町は自信の籠もった目で言い放つ。
「……あなたの業は、もう見切りました」
「う……嘘でしょ」
突っ込んだら負けだ。八幡。
俺は自分にそう言い聞かせる。突っ込んだら負けだ。
ただ小町、技を業っていう感じに発音したよな今絶対。どっかの中二病が移ってるぞ。
「な、なら……奥の手を出すまでよっ」
腐老名さんは眼鏡を白く輝かせ、携帯を取り出す。そしてその画面を、さっきの城廻先輩が使っていたカメラに映しだした。どうやらそれは動画だったらしく、その映像がスクリーンに流れる。
それは、俺が葉山に何故か雪ノ下たち五人への想いを聞かれたときの一幕が映っていた。葉山が俺の手を握り、叫んでいる場面が大音量で流れる。
(番外編.3。葉山隼人の受難/黒幕の微笑 参照)
『ほ、本当か!? 助かる! 俺は君のことが大好きかもしれないっ!! 』
この場は、嫌な静寂に包まれた。
この動画はたったのこのシーンだけで終わっている。
……ただ、逆に俺から見てしまうとそれが説明不足を如実にしてしまっていて……
「なっ……ヒキタニクン」
「ひ、、、ひっきー? 」
「せ、せせせせせんぱい」
「ヒキタニク……ん? 」
「八幡……嘘でしょ」
「比企谷くん……これは私の記録にもなかったよ」
「比企谷、君は……いつのまにそんな生徒に」
雪ノ下がカタコトに、由比ヶ浜が顔を青くして、一色があからさまに驚き、陽乃さんがショートし、留美が軽蔑の視線を突き刺し、城廻先輩が呆然とし、平塚先生が哀しそうな目をしている。
そんな周りに言い聞かせるように、悪どいマスコミの手法を使ってそんな空気を作り出した腐女子は、興奮気味に捲し立てた。
「こっ……これが動かぬ証拠だよ!! 私は確信したんだっ……ついに、ついにはやはちは最終形態に進化して、そして完全無欠の御神体に完成したんだからっ!!! もうあなたたちが比企谷君の気を引こうと何をやっても無駄、だってこれが世界の選択なんだから!! だって私でさえこれが撮れたあの日から、はやはち以外の全てのBLが描けなくなったほどのこの特大のインパクトっ……まさに核爆弾の威力。この世界においてはやはちは至高なんだよぉ!!!!!! 世界に生きとし生けるものは全員がこの尊い世界の選択を崇め、奉り、そして保護していかなければならないっ。それこそが私たち現代に生きるものの努め! 義務! 戦争なんかやっている場合じゃない! だって世界にはこんなにも素晴らしい姿があるのだから、こんなにも守り、語り継ぎ、後世に残していかなければならない史上最高の美が存在するのだからっ! だから私は戦い続ける。この最高の美を1日でも早く世界中に腐教していくために! 世界平和のためなんだよっ! この尊さに抗える人類なんて存在するはずがないっ!!! まさに至高の神の領域! 史上最高の神からもたらされた愛なんだよっ!!! まず間違いなくこの祝福に感謝して我々人類は生きていかなければならないのは当然だし、この地上に降り立った新たなるアダムとイブに歓喜と祈りをもって答えなければいけないの。それほどまでに美しい地球、いや宇宙からの贈り物なのだから! だからみんなはこんな醜い争いは早く辞めて腐女子になろうっ!! もはやそれは絶対的な救いとも言える、いや、有史以来これ以上の奇跡はないのだから!! そんな奇跡を目の当たりにできる今この瞬間に生きていられるこの幸福に感謝しないといけない!!!! 噛み締めないといけない!! そして私とともに腐教していくのだよ! 早く重い悩みに苦しんでいる人々、刺激に飢えている哀れな人、権力に溺れているど畜生にも見せてあげよう! 新しい世界の秩序を私とともに知らせていくの! だってはやはちこそが世界の秩序だから! はやはちこそが、世界を救うのだからっ!!! もちろん後悔なんてさせないよ? いや、出来るわけがないと言ったほうが正しいだろうね。だってこんなの幸せに決まっているのだから!! あなたがこの世に生を受けた以上、この尊さに満足出来ないわけがないっ!! それこそが私がはやはちがこの世界から戦争をはじめとする悲劇を十分無くせるという根拠でもあり、真理だよっ……さあ、さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあ……一刻も早くこの素晴らしさを世界に広めなければいけない、正義にしなければいけない、そうすれば、涙を流して悦ぶであろう全世界にいる未来の同士たちが可哀想だよっ!!!!!! こんな素晴らしいものを共有できないだなんてあり得ない! いえ! あってはならないの!! だから私は勤勉に腐教し続ける!! そう、それはもはや救いとも言えるね! 間違いない、この道で正しいんだから、人類はやっと進んでいくべき道を見つけたんだよ! だから比企谷君と隼人君の誕生日は当然全世界の祝日だし、一日中祈りを捧げる日にしないといけないね!! 考えてみてよ、きっと壮観だよ!? この世のみんなの意識が一つとなり、同じものを愛でる時代、私はそんな日が来ることを夢見て日々励んでいるの、この動画を見たあなたたちはもう迷えない。だって世界の真理をしってしまったのだから。だってもはやこれ以上に素晴らしく尊いことなんて起きようがないのだからっ!! 嗚呼、神はこのような奇跡を私たちに与えてくれた! いや、もはやはやはちの二人が神なんだよ!! でなければこの尊さは説明できない! だから私はあなたたちがはやはちの信徒になり、共にこの世界を変える英傑に、英雄に、伝道師になることを望むよっ!!!!!!!!!!!!!!!! 世界を変えよう! 救おう! 全ては、はやはちの下に!! 私とともにくるんだよ!!!!!! 」
みなさんこんにちは、比企谷八幡です。
果たして今の腐ったやつの言葉を全部聞いていた人がどれだけいたのでしょうか? ただ、俺が一つだけ言えることがあるとすればそれは……
つらいです。
俺や雪ノ下をはじめ、ここにいる人間はみな圧倒されていた。言葉がない。まさしく圧倒的だった。もう何を言っていいのかがわからない。
ただそんな中で、一人だけ……尋常ではない精神力で、その攻撃を受け切った偉人が、言葉を発した。
「海老名先輩、小町は、あなたとともには行きません……だって、お兄ちゃんは……シスコンで、あるべきなんですから」
穏やかな笑顔だった。後光が差しているようにも見えた。それでいて、自分の意思を微塵も疑っていないような、短い言葉に込められた強烈な魂があった。
穏やかに
腐の住人は、浄化されるように、力を使い果たしたように、ゆっくりと体から力を抜いていき……
「……ぐふっ……わたしも……まだまだ……か」
最後に立っていたのは、晴々とした表情の小町だった。
* * *
「ふふっ……海老名さんがやられたみたいだね」
「まあ、僕にとっては一番邪魔だったし厄介だったから、嬉しいな♪ 」
「……次は……平塚先生かな? 多分雪ノ下さんのお姉ちゃんの陽乃さんとか……さあ、どうなるかな? 」
どこかの場所で、可愛い声の少年一人が、可愛く笑っていた。
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スキルまとめ
雪ノ下雪乃
・乙女ポエム
・ガチ百合
・ぷよぷよ
雪ノ下陽乃
・ド変態
・乙女
・ぷよぷよ
由比ヶ浜結衣
・悪魔的ドM
・聖母の力
一色いろは
・中二病
比企谷小町
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川崎沙希
・ヤンデレ(不完全)
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比企谷八幡
・⁇
鶴見留美
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・⁇
城廻めぐり
・ストーカー
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