知波単学園は、三段甲板時代の航空母艦赤城を模した形の学園艦であり、校風は、生徒は堅実で生真面目かつ「細かい点が抜けている」と評される程度におおらかで、義理人情にも厚い。
読書を好む生徒が特段多く、図書館の蔵書、自費出版本の発行数いずれも数多い。
質素節制を旨としつつも趣味に全力をつぎ込む癖ゆえ、部活動は活発なものとなっている。なかでも歴史的経緯から馬術が盛んであり、学校行事に馬術大会が含まれるほど。かつては馬上薙刀道や流鏑馬も盛行していた。その他、立地からかマリンスポーツにも力を入れている。
そして歴史と伝統を重んじる姿勢が非常に強い。
良くも悪くも。
昼休み
それは学生にとって最大の休み時間である。
「授業疲れた……」
「眠い……」
「いや、あんたら疲れすぎでしょ」
上総が疲れを訴え、愛が睡魔を訴え、沙耶がそれにツッコむ。
中学時代から続くやりとりが教室内でくり広がっていた。
「僕の疲れは聞いてて疲れただけだから本格的に始まれば問題ない」
「私は眠いだけだから問題ない」
「上総には少し同意するけど、愛はダメでしょ」
「インターネットが面白いのがいけない」
「ネットに責任転嫁しない!夜更かしした愛がいけないんでしょ!」
「そうだぞ愛、夜更かしはお肌の敵だからな。しっかり寝ないとかわいい顔が台無しだぞ?」
「……善処はする」
「あ、ダメだこりゃ」
のんびりと会話を楽しみながら、上総は教室を見渡す。
二日目とあってか、まだぎこちないやりとりが続いていた。出来ればこの昼休みで、一気に関係を深めたいと思っている生徒がちらほらと見える。
「良いねぇ、青春だねぇ~」
「急にどうしたのよ?」
「別に、平和で良いなって思っただけだよ」
「その平和を壊さないでよ」
「流石にそんなことしない」
上総の独り言を拾い上げた沙耶に小言と言われたが気にしない。
「あの、お三方」
ふと聞こえた声の方を向くと黒髪和風美少女が立っていた。
「西さん、どうしたの?」
「いえ、よろしければ一緒にお食事でもと思いまして」
「おやそれは嬉しいお誘いですな、ささ!こちらへ」
流れるようなやり取りと慣れた手つきで机をつなぎ合わせ、アッという間に4個の机は合体した!
「どうよ!この速さは!」
「何ドヤ顔してんのよ、西さんコイツのことは適当に流して良いからね」
「ええと……」
「沙耶自己紹介してない。私は伊達崎愛、愛と書いて『めご』と読む。よろしく」
「それは失礼、井河沙耶これからよろしくね」
「お二人ともよろしくお願いします!」
自己紹介もそこそこに四人はそれぞれの昼ご飯を食べ始めた。
が
「お三方……それは一体……?」
まともに弁当を持ってきていたのは西だけだった。
上総はコンビニのおにぎり三つに唐揚げ、愛は菓子パンに牛乳、沙耶に至ってはバナナとゼリー飲料と言うひどい有様であった。
「僕は料理が出来ない」
「料理出来るけど面倒くさい」
「私は時間が無かっただけだから、明日はしっかり弁当持ってくるから!」
沙耶は必死に弁解しているが、他二人はこれが当たり前だと言わんばかりに食事を始めた。
そんな三人を西はなんとも哀れそうな目で見ていた。
西の弁当は三人の物と比べれば遙かに立派な物であった。
重箱である!
「西さんの弁当が一番おかしいと思うぞ」
「えっ?」
西が以外にもお嬢様と言うことがわかった昼休みであった。
午後
それは学生にとって睡魔と格闘を繰り広げる時間である。
しかし今日は違った。
先日入学式を行った体育館に新入生達が体育座りして待機していた。
『ただ今より、在校生による部活動紹介を行います!』
部活動、つまり部活を新入生にお披露目する時間である!
知波単学園は歴史と伝統があり、そして規模も大きい学園艦であるため、部活の数も多い。
なかでも歴史的経緯から馬術が盛んであり、学校行事に馬術大会が含まれるほど。かつては馬上薙刀道や流鏑馬も盛行していた。その他、立地からかマリンスポーツにも力を入れている。
さらに文化系の部活動でも読書を好む生徒が多く、図書館の蔵書、自費出版本の発行数も膨大であり、質素節制を旨としつつも趣味に全力をつぎ込む癖ゆえ、図書部や小説部、新聞部、漫画部など紙が関わる部活動は非常に活発なものとなっている。
そんな部活動の中でも戦車道は大きく取り上げられた。
戦車を使用する武道でありスポーツであるため予算も多く与えられている。
まぁ、人気はあれとして……
壇上に立つ一人の少女、その下にメガネを掛けた少女。
『新入生の諸君!こんにちは!私は知波単学園戦車道の隊長を務めている、
そう言うとそそくさと壇上から下り、体育館の明かりが小さくなり、スクリーンに映像が流れ始める。
「……なんか、妙に古くさいな」
「映像資料っていてたから、埃かぶってのを引っ張り出してきたんじゃない?」
「ありえる」
三人がそれぞれ呟いてから数分で映像は終わった。
内容は戦車道とはどうやって生まれたのか?どういう武道なのか?女性にとってどういう存在なのか?そう言う内容だった。
明かりが付きスクリーンが上がっていく中、再び壇上に上がる服部。
『はい!簡単な映像でしたが戦車道とはそう言うものです!そして我が知波単学園戦車道は、長い伝統と先達から受け継いだ誇りが備わっています!総員一丸となって一つのことに取り組み勝利を目指す……素晴らしいものなのです!』
「説明を全部映像にぶん投げたぞ、あの隊長」
「下にいるメガネさんがヒクヒクしてる。面白い」
「いや、どう考えてもキレてるでしょ……あの表情は」
壇上の下に目をやるとメガネを掛けた少女は頬を引きつらせこめかみ辺りを手で押さえていた。
「……真面目なんだよ、あの人は」
「そっか」
「苦労人ね」
服部隊長の熱弁を右から左に受け流しながら、三人はメガネ少女の苦労に冥福を祈った。
『---と言うわけで、私の説明は終わります!なお明日の放課後に公開訓練を開催しますので気になる方は是非見に来て下さい!』
服部は壇上から下り、メガネ少女を引き連れて自分の席へ戻っていった。
その後も各部活や同好会、委員会の説明がなされたが上総の本命は戦車道のみであり、明日の放課後の事を楽しそうに考えていた。
「あー!身体がこったなぁ!」
放課後となった教室で思いっきり身体を伸ばしながら言う上総。
その近くで愛も真似るように身体を伸ばす。
「明日の放課後ねぇ、どんな練習すんのかしら?」
「行進間射撃」
「流石にそれはないんじゃないか?」
「まあ、体験できそうなのは戦車に乗ってちょっと走って、ちょっと撃ってみるぐらいかな?」
「それぐらいでしょうね。いきなり乗って試合しろなんてあるわけ無いし」
三人で喋りながら帰る準備をしていると、西が傍にやって来た。
「お三方は明日の放課後、見学に行くのですか?」
「その予定だよ、西さんも勿論行くんだよね?」
「はい、ですので皆さんがよろしければ一緒に見学に行きませんか?」
西からのお誘いが来た。
「西さんからデートのお誘いされちゃった♡」
「それマジでキモいから止めて」
「いいよ」
身体をくねらせながら言う上総に辛辣な返しをする沙耶。
それを当たり前のようにスルーしながら西のお誘いに返答する愛。
「おお、ありがとうございます!ではまた明日、楽しみにしてます!」
感謝の言葉を述べた後、これまた丁寧にお辞儀し西は別れを告げ教室を出て行った。
それを手を振りながら見送った愛。そして後ろを向く。
「でもお誘いが来たと言うことは実質デートでは?」
「デートじゃないって言ってるでしょ!だいたいデートは男女のペアでするモノなのよ!」
「昨今の情勢は多様性社会を目指しているので女子同士でのデートもありなのでは?」
「女子同士のデートはありでもペアじゃないでしょ!?」
「ん~……沙耶と愛がカップルでダブルデート的な?」
「私はノーマルよ!」
真面目な表情をしながらふざけたことを言う上総に顔を真っ赤にしながらツッコミを入れ続ける沙耶。
教室で繰り広げられているその光景を見て愛は小さく溜息を吐いた。
「早く帰ってネットしたい」
早く家に帰りたいだけだった。
翌日
なにか楽しみにしていることがあれば人は頑張れる。
それに向かって努力が出来る。
結果、上総は午前午後の授業を寝ること無く切り抜けた。
そして待ちに待った放課後となった。
四人は地図を見ながら歩みを進める。目指すは戦車道の専用格納庫。
「意外に教室から遠いいな」
「そうね、あと『遠いい』じゃなくて『遠い』でしょ」
「仕方がないじゃないか、田舎育ちで地元言葉が出ちゃうんだよ」
「地方出身は舐められるから直しなさい」
「地方出身が舐められる……いつの時代?」
上総の方言に細かい指導をする沙耶。それを聞いていた愛は若干呆れる。
それを聞いていた西は当然な質問をした。
「お三方はどちらの出身なのですか?」
「僕たちは北海道だよ」
「北海道ですか!食べ物がとても美味しいと聞いています!」
「うん、美味しいよ米もお水も肉も魚も何でも美味しい所だよ」
楽しそうに会話する上総と西を見ながら愛は沙耶に言う。
「舐められてるようには見えないけど?」
「ま、まあ……舐められてないなら良いわよ……」
愛に目を合わさないように顔を横にしながら口を尖らせる。
若干呆れながらも顔を赤らめている沙耶を見てこれ以上は言わないでおこうと思いながら上総と西の会話の続きを聞く。
「西さんの出身はどこなの?」
「私は、東京の港区です!」
「やっぱり金持ちのお嬢様じゃないのよぉぉぉ!?」
沙耶の魂の叫びが木霊した。
悲しきかな西絹代と言う学友は、東京都港区に家を構えるごりごりのお嬢様だった。
まあ、沙耶だけが過剰反応しているだけで上総は何にも気にすることなく西と話をしている。
そんな沙耶に呆れかえる愛だった。
そして目的地に到着した。
戦車たちが綺麗に並べられその前に新入生たちが集まっていた。
そこに二人の生徒がやって来る。
「おお、結構集まってるな!片手で数えるぐらいと覚悟していたが」
「隊長、本当にそうだったら我が校の戦車道は終わりです」
隊長と呼ばれた生徒は、ヒョイッと身軽な身のこなしで近場の戦車に登り砲塔上に立つ。
「諸君!集まってくれて感謝します!私が知波単戦車道隊長の服部英子です!まあ昨日会いましたよね?では早速皆さんに質問です!」
唐突な質問に困惑する新入生たちだったが服部は気にすること無く進めていく。
「戦車に乗ったことある人は手を上げてください!」
そう服部が言うと新入生たちからぽつぽつと手が上がっていき、最終的には半分ほどが手を上げた。
「だいたい半分ですね!分かりました!ではーーー」
服部は笑いながら言った。
「みんなで戦車に乗って動かしましょう!乗る戦車はここに並んでるモノを選んでください!はいっ!早い者勝ちです!急いで選んでください!」
そう言うと服部が砲塔から飛び降り綺麗に着地する。
大半が困惑する新入生たちに服部はキメ顔になりながら
「自分の愛車を決めて走り回りたいだろぅぅ?」
そんなことを言っていた。
それを横目に上総たちはさっさと戦車を選んで乗り込んでいた。
選んだ戦車は九七式中戦車チハ、それの新砲塔である。
「さて、誰が何やる?」
「やるとは?」
上総の言葉に西が疑問を呈する。
「西さんは戦車が何人で動かしてるか分かる?だいたいでいいよ」
「何人?ん~……運転する人、大砲を撃つ人、あとは指揮をする人でしょうか?」
「そうだね、その三人がいれば戦車は動かせる。さらにそこに砲弾を込める装填手、通信を行う通信手を加えての5人が主流だね。まあ、人がいなかったり、車体の大きさで入らなかったら減るけど」
狭い車内の中でグイッと西に近づきながら言う。
「西さんは何の役がやりたい?」
「そうですね…………では、大砲を撃ってみたいです」
「オーケー!じゃあ西さんが砲手で!」
「よろしいんですか?」
「良いよ、良いよ僕は何千回も撃ってるし今日は西さんが初めてだしね!」
そう上総が言うと、当たり前のように愛は操縦席へ沙耶は通信席へ身体を滑らせ座る。
そしてテキパキと確認作業をしていく。
「愛が操縦手、沙耶が通信手、西さんが砲手で僕が装填手兼車長で決まりだね。じゃあ愛!準備は良い?」
「出来てる」
「沙耶は?」
「いつでも」
「じゃあ最後に西さん!」
「よく分かりませんが大丈夫です!」
一人一人顔を見て確認した上総。
ゆっくりと息を吸って、声を大にする。
「戦車前進!」
西とっての初めての戦車道。
上総たちにとっての知波単での初めての戦車道。
長い付き合いになる彼女達の戦車道はこうして始まった。
良ければ感想など頂けたら幸いです。