エミヤさんの異世界転移   作:夕叢白

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エミヤと木ノ下和也

その日、大学生の木ノ下和也は幸せにすると誓った初めての彼女、七海麻美にフラれた。本人曰く、他に好きな人が出来ちゃったらしい。

 

「生まれて初めて出来た彼女だったのに...たった一ヶ月でフラれるなんて...。」

 

手を替え品を替え、彼女との距離を縮めようと努力していた和也は精神的に大打撃を受けていた。関係を修復しようにも、交流手段のSNSは既にブロックされている。現状、和也に打つ手はない。

 

「あぁ〜もうっ、最悪だ。うぅ...くっ...。」

 

半泣きで枕に顔を埋め、一度大きな溜め息を吐いた和也は徐に顔を上げると、何気無く操作していたスマホの画面を見て固まった。

 

「レンタル、彼女?」

 

いつの間にかスマホに表示されていたのは日本最大のレンタル彼女サイト、Diamond(ダイヤモンド)のアプリダウンロード画面。彼自身、この手のコンテンツには少なからず偏見を抱いていた為、今の今まで利用した事はなかった。だが、恋人にフラれた直後である和也の心は無意識下で癒しを求めていたらしく、ほぼ反射的に彼の指はレンタル彼女の申し込みへと進んでいた。

 

「やっちまった、ハ...ハハ...。」

 

気が付けば、画面には申し込み完了の文字。和也の口からは乾いた笑いが零れる。とは言え、取り返しがつかない訳ではない。今なら、キャンセルは可能だろう。和也はサポートの項目から問い合わせフォームを探そうとし、数秒もしない内に指を止める。

 

「でもまっ、好都合じゃん?申し込んだもんは仕方ねぇし...さ。」

 

一度くらいなら─────そう無理矢理に自分自身を納得させ、淋しさの穴埋めにレンタル彼女の利用を決心する。どれだけ惨めであろうと、傷心中の和也には憂さ晴らしが必要だった。

 

「楽しんで......くる、しか......。」

 

己の浅ましさに嫌気が差した彼は力なく立ち上がり、部屋の玄関に無言で近付く。次の瞬間、和也は乱暴に扉を開け放ち、勢いに任せてアパートの階段を駆け下りた。歯を食いしばりながら、宛もなく走り続ける和也は止まらない、止まれない。止まってしまったら、独り取り残されてしまう気がした。

 

「くそ、くそ...くそぉっ!」

 

そして、丁度住宅地の曲がり角に差し掛かった時、和也は足元に置かれていた謎の赤い物体に躓き、盛大に転んだ。通路には鈍い音が響き渡ったが、元々人通りが少ない為か、痛みで蹲る和也を気にかける者は誰一人として存在しない。

 

「痛ってぇ...何なんだよ...。」

 

踏んだり蹴ったりじゃないか、と更に気を落としつつも何とか立ち上がった和也は自分が躓く原因となった物へ視線を移して、驚愕した。見慣れない褐色の肌に白髪、その場には人間が倒れていたのだから無理もない。

 

 

 

 

 

 

 

「答えは得た。大丈夫だよ、遠坂。俺もこれから頑張っていくから。」

 

遠坂凛、今の自分にとって最高のマスターである彼女の顔を忘れぬよう、確と目に焼き付ける。目の前の景色が記録にしか残らなくとも、答えを得たという事実だけで、この身はきっと前進する事ができる。霞む視界の中、最後に見た彼女の姿はとても勇ましかった。

 

世界に引き寄せられ、薄れていく意識、後は座に還り、何時もの場所で出番を待つだけ。私を私たらしめている要素は、もうじき消散する。そう思い、気を緩めてしまったのが一生の不覚であり、全ての始まり。次の瞬間、強い力の濁流に呑まれる感覚に襲われた私の意識は完全に途絶えてしまったのだから。

 

「はぁ...。」

 

斯うして昨日起こった出来事を頭の中で整理してみたが、何が原因でこの世界に転移させられ、受肉したのか、皆目見当もつかない。抑止力としての召喚かとも考えたが、私の意識を奪ったあの力はアラヤとは根本的に性質が異なるようだった。

 

「さて、どうしたものか。」

 

恐らく、鍵を握っているのはあの青年か。転移した際、私の近くにいた大学生であり、私を助けてくれた人間。

 

「木ノ下和也。」

 

現在、携帯らしき物に目を向けて何やら葛藤している様子の青年。特別な力を保有しているようには見えないが、注意しておくに越した事はない。それに、この世界にはまだ色々と不明な点も多い。より一層、気を引き締めるべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

エミヤが気を張る中、彼を救ったこの世界の住人、木ノ下和也は手に持ったスマートフォンの画面を見詰めながら、自らの愚かな行為を悔いていた。一日前、和也は初めて出来た恋人に呆気なくフラれてしまい、ショック状態から自暴自棄になった挙句、心の傷を癒す為にレンタル彼女の利用を申し込んでしまった。無意識下の行動だったとしても、幸せにすると誓った初めての女性を差し置いてレンタル彼女を求めてしまった和也は自分自身の浅ましさに耐えられず、衝動的にアパートを飛び出してしまった。その際に発見したのが、地面に倒れていたエミヤである。顔色も悪く救急車か、警察かと右往左往している内に目を覚ましていたエミヤは和也に向けてこう言った。

 

『悪いのだが、救急や警察には連絡しないでほしい。』

 

何故ですか、と聞く前に再び意識を失ったエミヤを放置する気にもなれず、後の事など考える余裕がなかった和也は彼を背負い帰路に就いた。そんな濃い一日を経た和也は表にこそ出していないが、かなり憔悴している。主な原因はレンタル彼女、次いで衛宮士郎と名乗った白髪の男性、エミヤが部屋への長期滞在を希望した為だった。衛宮士郎の滞在に関しては一応の許可は出しており、詳細は追って相談するという事になっている。

 

警戒するエミヤに憔悴した木ノ下和也、本来は交わる事のない二人の共同生活が幕を開けようとしていた。

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