意気消沈した和也は自室へと戻る為に重い足を引き摺るようにして歩き出す。交流した時間は短いとは言え、千鶴を気に入っている和の事だ。自分と別れたと知れば落ち込ませるのは明白。一層の事、逃げ出して行方不明にでもなれば有耶無耶にならないだろうか。和也がそんな考えに行き着いた時、彼の部屋の扉が開かれ、中から腕を組んだエミヤが姿を現した。服装は相変わらず和也の購入した物を着込んではいるが、色鮮やかな服とは反対に彼の顔は謹厳さを滲ませている。
「その様子から察するに、きっぱりと断られたようだな。」
「えっ...あ、はい...色々言われました...。」
「...私も彼是と言う気はないが、君の行動は問題を先送りにしているだけだ。今日隠し通せたとしても、後々...後悔するだけだぞ。」
千鶴同様、痛いところを突いてくるエミヤを前に明らかに気分を沈ませる和也。もはや異議を唱える気力すら残っていない、奈落の底に叩き落とされた心境の和也はエミヤに付き添われて部屋へと戻るのだった。それから三十分後。
「おーう、和也。衛宮殿。部屋に上がらせてもらうぞ。」
木ノ下和也の祖母、木ノ下和がついに襲来した。エミヤはその場で軽く会釈をして、和也は青白い顔で下を向いている。無論、孫のそんな様子に気が付かない程、和の視野は狭くない。
「ん?和也、お主顔色が...。」
「ひょえ!?え、あっ...さっき賞味期限切れの食べ物口にしちゃってさぁ!婆ちゃん来る前までトイレに篭ってたんだよねー、ねっ?」
自分に合わせてほしいと視線でエミヤへ合図を送る和也。それを受け、状況的にやむを得ないと判断したエミヤは彼の意図を汲むしかなかった。
結局、彼の協力もあってその場を無事に乗り切った和也だったが、その時間稼ぎは無駄でしかない。千鶴の協力を得られなかった以上、何時間待とうと彼女が訪れる事はないのだから。
「(やべぇ。どうする?考えろ...まだ何か、きっと...。)」
和也が苦渋を味わっている中、時間は着々と過ぎ去る。いつの間にか打ち解けていたエミヤと和は会話に花を咲かせていたが余裕のない和也が輪に加わる事はなかった。
「ところで和也、千鶴姫はいつ頃来れそうじゃ?」
「うぇ?あ、いや...その、どーだろうねぇ。えーと...電話してみるわ。」
そう言い残して、急ぎ足で部屋を出て行く和也。夕日に照らされ、茜色に染った室内に取り残された二人はお互いに顔を見合せ、どちらからともなく苦笑する。
「うちの孫の慌しさときたら......すまんのう。衛宮殿も一緒に暮らしていて大変じゃろ。」
和也が出て行った方向へ顔を向け、彼の忙しなさを詫びる和の眼差しはどこか温かさを帯びており、不意にエミヤは切嗣を連想する。
もはや擦り切れて断片的にしか思い出せない記憶の中でも、
「でもな...儂は彼奴の慌しさは長所でもあると思っておる。考えるより先に行動するタイプの和也は今後も色々な失敗を重ねるじゃろうて、けれどそれに比例して学ぶ回数も増えるはず。
今はあんなでも、最終的には立派な人間に成長する。儂はそう信じておるのじゃ。...どうか今後も、和也と仲良くしてやっておくれ。」
愛の深さ故、孫を語った和に対してエミヤは表情を緩めてゆっくりと頷く。
そして和の訪問から一時間半が経ち、時刻は十九時ちょうど。和也の部屋では不穏な空気が漂い始めており、その場の全員が沈黙を貫いていた。和也は刻々と過ぎ行く時間を気にしながら正座、和は孫の纏う負のオーラに勘付きながらも無言。一触即発とまではいかないものの、部屋を支配する暗雲にエミヤは仲裁に入るべきか後の行動を考える。
「(水原と衛宮さんに言われた事は、全部正しい。やっぱり、覚悟を...決めるしか。)」
一度、祖母の方を見据えて大きく息を吐いた和也は腹を決めて、その口を開いた。
「...その、婆ちゃん。話が、あるんだ。」